人材紹介の採用比率を0%にした、日本オラクルの採用戦略

日本オラクル株式会社

人事本部 採用企画部 
Principal Talent Advisor 大園 輝海

プロフィール

進捗率が高く、辞退率が低い新しい採用手法として注目を集めている「ダイレクト・ソーシング」。
転職希望者を大量に集めてふるいにかけるのではなく、求める人材だけに絞ってアクションを起こすためマッチング度や入社後の定着率が高く、また、人事・採用担当者にとっても、無駄な活動が極めて少ないのが特徴です。

今回のセミナーには、人材紹介会社に依存しないリクルーティングで「第3回 日本HRチャレンジ大賞(※)」の「採用部門優秀賞」を授賞した日本オラクルにてリクルーターを努める大園輝海氏が登壇。人材紹介採用の割合をなくし、ダイレクト・ソーシングを活用してキャリア採用を成功させる秘訣をお話しいただきました。

※人材領域で優れた新しい取り組みを積極的に行っている企業を表彰する「日本HRチャレンジ大賞」(主催:日本HRチャレンジ大賞実行委員会/後援:株式会社東洋経済新報社、株式会社ビジネスパブリッシング、HRプロ株式会社)

人材紹介経由での採用をやめ、ダイレクト・ソーシングへ移行という決断

人材紹介経由での採用をやめ、ダイレクト・ソーシングへ移行という決断

はじめに、当社がこの10年でどう変わったかを簡単に説明させていただきます。2005年から2010年ぐらいまでは、開発強化のために積極的に増員と買収を行っていました。さまざまなカルチャーが交わり会社が大きく変化していた時期です。
その後、2014年からクラウドビジネスに衆力する方針が掲げられ、クラウド人材200名を採用が決定しました。以前は、どこの業界でどこの会社にいたか、どんなスキルを保有しているのか、という詳細な募集要件が必要でしたが、このままの条件で200名を採用となると無理な話です。そのため、ポテンシャル層も見越した採用もはじまりました。

当社がキャリア採用をダイレクト・ソーシングモデルに移行したのは2009年のことです。それまでは人材紹介サービスをメインに採用活動を行っていました。
この時すでにオラクル・コーポレーション全体での採用活動は9割以上がダイレクト・ソーシングを活用していたんですが、残りの僅か数%は日本の「人材紹介」が占めていたんですね。世界から見ると極めて低い数値ですが、日本ではその手法が当たり前だったし、コストをかけないと優秀な人材が採用できないと思っていたわけです。
結果、本国から採用コストの見直しが入り「ダイレクト・ソーシングに切り替える方針」が決定しました。一般的に、従来の採用手法を変えるには少しずつ移行していく企業が多いかと思いますが、当社はドラスティックにダイレクト・ソーシングの体制に変更することになったのです。

余談ではありますが、私たちのKPIは数値化されており、評価軸はあくまでも「候補者が入社したかどうか」。どんなにソーシングを頑張ったとしても採用できなければ評価されませんので、ダイレクト・ソーシングに移行した後どの程度業務が増えるか不安を感じましたね。
2017年には、フランク・オーバーマイヤーがCEOに就任し、採用に求められるスピード感がさらにアップ。これまで採用計画は年間で行っていましたが、四半期で行うオペレーションになりつつあります。
今後は、クラウド向けの営業部門の立ち上げ、地方の増員を積極的に行う予定のため、幅広く採用していかないとならない状況です。

ダイレクト・ソーシングの決定数は7倍へ

ダイレクト・ソーシングで得られたもの

ダイレクト・ソーシングで得られたもの

今までは、人材紹介会社からの推薦を待つ、紹介された候補者を選定する、良い人材は積極的に口説く…というのが、私たちリクルーターの仕事でした。いわゆる待ちの姿勢ですね。ダイレクト・ソーシングがメインの手法になってからも、プロセスは変わっていません。
しかし、前述の業務に加え、「候補者となる人材を自ら探し、オラクル社の選考に参加してもらえるように口説く」というソーシング業務が増えることになりました。
そのため、リクルーターを2倍に増やしましたが、その人件費を加味しても結果的に、大幅なコストダウンを実現しています。
また、オファー辞退の減少、社員定着率も飛躍的に向上しました。直接話ができるため、選考前にお話するタイミングで「この人はうちでやっていけるか」「この人は当社で活躍できるだろうか」がわかってくるんですよね。その感覚は正しいのが入社後のギャップも少ないようで、後から「聞いていた話と違う」という問題が発生することもほとんどなくなりました。

もうひとつ、採用スピードの向上も見逃せないメリットのひとつです。
採用後にフィーが発生する人材紹介に対して、ソーシングに費用がかかるダイレクト・ソーシングでは事前に投資する必要があります。会社として効果が表れないものには投資できませんから、私たちリクルーターは自ずと必死になって取り組んでいます。ダイレクト・ソーシング経由の返信は必ずあるとは限りません。反応が悪い時だって大いにある。
でも、そこは「こういうものだ」と割り切って、オファーを出したら次の方へと積極的に活動するように意識しています。そういう意味では、“待ちの採用から攻めの採用”に変わりリクルーターのスピードが一気に増しました。

取り組み内容は実にシンプルな内容です。やり方はリクルーターによってさまざまですが、基本的には「1to1」のコミュニケーションを意識しています。一人ひとりの経歴を拝見し、オラクル社でのキャリアをイメージして声をかけるようにしています。
ただ、経歴によってはあえてポジションを提示しない場合もありますね。「幅広く話を聞いてみませんか?」と。その人の志向性や希望を踏まえて、オラクル社でのキャリアをどう設計するのか一緒に考えていくのです。「オラクル社のこの部門で働きませんか?」とオファーしても魅力に感じてくれない方は多いですから。

ダイレクト・ソーシングの決定割合は5%→35%へ

一方で、自分たちでサーチ、候補者とのやりとり、クロージングまで行うため、業務量は以前よりも増えたことも事実です。候補者は在職中の方がほとんどですから、夜や土日に活動することもあります。そこは覚悟する必要がありますね。
ただし、その分業務が圧迫されているわけではないんです。当社では働き方改革の流れもあり、「必ず会社で働かなくてはならない」「必ず候補者とは会わないといけない」という既存の考え方はありません。候補者とは毎回会うのではなく電話やメールの回数を増やす、週2~3日はリモートワークにするなどのフレキシブルな対応を行っています。

日本オラクルにおける、ダイレクト・ソーシング

採用チャネルの内訳をご紹介します。2009年以前は人材紹介での決定が半分以上で、それに次いで社員紹介と続き、スカウトは僅かでした。当時は大型採用を行っていなかったため、求人広告などの露出媒体などはほとんど活用していませんでしたね。対して2016年度は、社員紹介が半分弱で、スカウト、媒体と続き、人材紹介0%と、大きな変化を遂げております(下記図参照)。

メインの採用手法は、2009年以前から変わらず社員紹介です。ある程度社名に知名度がある当社は、求人広告でも十分なのではと思われる方もいるかもしれません。
しかし、私たちの求める人材はそもそもオラクル社に興味がない人材も多数いらっしゃいます。そのため、入社の可能性がある方に向けて当社の魅力をしっかり伝えるためには、やはり社員紹介やダイレクト・ソーシングの方が断然効果的ではあります。

日本オラクルにおける、ダイレクト・ソーシング

ダイレクト・ソーシングの肝となるスカウトツール、「doda ダイレクト」や「ビズリーチ」など外部データベースを活用しています。最近注目されている「LinkedIn」については、グローバル水準で言えばスタンダードですが当社ではまだこれからといったところでしょうか。その分、潜在層に期待できるツールだとも言えます。
割合は増えてはいるものの「何が何でもダイレクト・ソーシング経由なのか」、と言うわけではありません。ハイスキル人材の採用ではスカウトメール(オファーメール)を、ポテンシャル採用では求人広告を、というように戦略的に使い分けています。今後はSNSも有効に活用したいと考えておりますが、今のところ目立った実績はありません。個人的には、社員紹介のツールのひとつとしてSNSを使用するのが効果的ではないかと考えていますが、まだまだ模索中の段階です。

なお、採用のITプラットフォームとしては、自社製品の「Oracle Talent Management Cloud (オラクル・タレント・マネージメント・クラウド)」を使用し、応募から入社まで一括で管理しています。

求められるリクルーターの素質は「営業力」と「社内調整力」

求められるリクルーターの素質は「営業力」と「社内調整力」

最後に、リクルーターはどういった人が向いているのか、という点についてお話します。あくまで当社においてですが、リクルーターには2種類の異なる分野のスキルが必要だと考えています。
まずは、転職マーケットに精通し、候補者側に近い考え方ができるヘッドハンターとしてのスキル。候補者から入社の意思を勝ち取らなければならないため、候補者との信頼関係を構築するための営業力は特に重要です。
そしてもうひとつは、社内に精通している、人事としてのスキルです。現場では必要以上にハイスペックな人材を求めがち。そこをしっかり軌道修正するための人事としての社内調整力も欠かせません。現場で採用プロセスが止まっていたら、こちらからプッシュするなどの主導権を握ることも大切です。

当社のリクルーターはさまざまな経歴を持っていますが、どちらが優位というわけでもありません。社員紹介にしろ、ダイレクト・ソーシングにしろ、私たちは外部から候補者を集め、社内協力を仰ぎ、決定者を増やしていくことがミッションですから、営業(ヘッドハンター)スキル・人事スキル、それぞれバランスよく求められています。いずれの出身にしろ、自分の今までの経験やスキルを活かしつつ、足りない部分はきちんと補っていく向上心は必要だと思います。

【まとめ】

「自分が集めた人たちってかわいくなってくるんです」。これは、ダイレクト・ソーシングを導入する前と後の違いの話のなかにあった大園氏の言葉。エージェント任せの人材紹介に対して、候補者一人ひとりに向き合い、キャリアをアドバイスしながら採用に導いていくダイレクト・ソーシングは、選考過程で候補者との信頼関係が生まれるそう。
例えば、その時は入社に至らなかったとしても、関係性をつなぐことで人材をプールすることもできる。これはダイレクト・ソーシングならではだと語ってくれました。こうした候補者と直接的に関わっていくことが、進捗率の高さ、辞退率の低さにつながっていると言えるでしょう。
また、ソーシングの面で業務量が増えるものの、リクルーターを増員してもそのコストをペイできていることも注目したいところです。

パネルディスカッション
※本セミナーでは、日本オラクル株式会社人事本部 採用企画部Principal Talent Advisor 大園氏とProFuture株式会社の松岡仁氏、パーソルキャリア株式会社油谷大希によるパネルディスカッション、来場者からの質疑応答も行われました。

(文/ササキ チヒロ、撮影/シナト・ビジュアルクリエーション、編集/齋藤 裕美子)