求人倍率の高いIT エンジニア職。転職希望者の心に響く、求人広告の訴求ポイントとは

パーソルキャリア株式会社

佐古雅成(さこ・まさなり)

プロフィール
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  • ITエンジニアは自身の保有スキルが転職先で活かせるかを知りたいため、求人広告には開発環境を正確に記載する
  • 企業のメリットをベネフィットに昇華させれば、転職後の良い体験を想起できる
  • 「事実に基づいた情報」を提供する際には、ネガティブな情報をポジティブに感じさせるような工夫が必要

日本全体の労働人口が2030年までに600万人以上不足すると試算されています。中でも、テクノロジー領域におけるITエンジニアの採用難は、現在の企業にとって深刻な問題となっており、業界全体で厳しい状況に直面しています。各企業は引き続きハイレベルなITエンジニアを求めていますが、現在の状況を考慮して業界未経験者も積極的に採用する必要が出てきているのです。

では、経験者・未経験者も含めて、転職希望者の心に響く求人広告はどのようにして作成すれば良いのか。IT企業を中心とした求人広告の制作に長年携わってきた佐古氏に、押さえるべきポイントを聞きました。

テクノロジーの細分化に従って、より専門性の高いITエンジニア募集が増加

——IT エンジニアの採用について、dodaにおけるここ数年の求人数・登録者数の変化についてお聞かせください。

佐古氏:dodaが提供している転職求人倍率レポートでは、職種別の転職求人倍率を見ると、「エンジニア(IT・通信)」が10倍を超える水準となっています(※)。特に昨今では、サイバーセキュリティやデータサイエンス領域にも注目が集まるようになり、テクノロジー関連の業務は日々細分化されています。そうした状況を受けて、専門性の高い人材、主に経験者がより多く求められていますね。
(※)出典:転職求人倍率レポート(2024年3月)

——細分化というと、使われる技術に関しても新しいものが次々と出てきている印象があります。

佐古氏: IT業界は日進月歩で次々と新しい技術が出てきますから、トレンドを常に追いかけることが求められます。開発環境や言語など、最新だと思っていた技術はわずか数年で時代遅れになるなんてことも珍しくありません。開発言語に関して言えば、一つ覚えてしまえば応用が利くものとは思いますが、日ごろからアンテナを張り巡らせ最新技術をキャッチアップする習慣を身に付けておくことが最重要と言えるでしょう。

 

——AIが仕事を奪ってしまうといった話も聞きますが…。

佐古氏:たとえばプログラミングに関してはAIの得意領域ですので、任せられることも増えていくでしょう。ただし、要件定義など上流工程に関してはやはり人間の判断が必要な領域です。AIに奪われる、というより人間の担う役割が徐々に変化していくと考えていますので、需要が極端に減ることはないと思います。

「メリットをベネフィットに昇華させる」手法で応募者を引きつける

——ITエンジニアの採用活動をする上で、まず押さえておくべき要件についてお聞かせください。

佐古氏:二段階あります。一段階目として大切なのは「開発環境を正確に記載すること」。ITエンジニアがどのように転職活動をするかというと、個人的な経験からしても、まずは開発環境や開発言語の検索から入ることが多いです。ですから、最低限の情報としてアプリ開発であれば開発言語やOS、データベース、フレームワークを。インフラ領域ではサーバの種類や機器情報を正確に押さえるようにしましょう。さらに、プロジェクト概要・業界や期間、関わる人数を明確化することで、ITエンジニアが安心して応募できる環境が整うはずです。

<開発環境の記載例>
・アプリ
■大規模●●系システムの開発(アプリ開発)
∟WindowsServer2012、Java、Apache Struts、OracleDB

・インフラ
■大手●●のサーバ構築、サーバ運用(インフラ)
∟WindowsServer、Linux、VMWare、Hyper-V

その上で二段階目、「自社の立ち位置を理解して、他社と差別化して伝える」といったことが重要になってきます。

——二段階目の手法について、具体的にお聞かせください。

佐古氏:一言で言うと、「メリットをベネフィットに昇華させること」です。企業・プロダクトの知名度や会社規模によって訴求すべき情報は変わってきます。たとえば、中小企業が「育休取得率70パーセント」「年間休日125日」という情報を出したとしても、その数値が多いと感じる人もいれば、少ないと感じる人もいます。この段階ではまだメリットを提示しただけの状態であるため、他社との差別化にはつながりません。

これをベネフィットに昇華させると、たとえば「育休を取得できたことで、夫婦関係が円満になった」「有給を使って趣味の釣りを楽しむことができている」といった体験談になります。私はこの個人的な体験談こそが、転職希望者の応募への熱意を左右するベネフィットになると考えています。中小企業にとっては特に、数字だけではわからないリアルな情報をいかに打ち出していくかが重要になってくるでしょう。

求人広告でもっとも大切なのは「事実に基づいた情報」であること

——特に経験者に向けて訴求すべき項目についてお聞かせください。

佐古氏:先ほどお伝えした通り、必要スキルや要件を漏れなく記載することが重要です。ITエンジニアは企業に対する情報感度が高い上に、経験者であればあるほど、自分の経験がどれほどの評価につながるかを入念に見ています。ですから、開発環境を基本とするスキルの有用性や評価制度については、子細に記入することが求められるでしょう。そしてなにより、「事実に基づいた情報を伝えること」が最も重要だと私は思っています。

——どのようなことでしょうか。

佐古氏:世の中の求人を見ていると、「システムエンジニアの募集」と記載されているにもかかわらず、実際の職種はプログラマや保守・運用だったという事例などが少なくありません。これでは、要件定義などの上流工程の設計に携わりたいと応募した転職希望者を失望させることになってしまいます。ITエンジニアの離職につながるのはこうした齟齬が起こっているからと考えられます。業務内容を適切に理解し、誠実な求人広告をつくることを心がけるべきでしょう。

 

——次に未経験者に向けた訴求について伺いますが、そもそも未経験からITエンジニアに応募する人材にはどのような傾向がありますか。

佐古氏:前職が販売・サービス関係の方からの応募が多い印象ですね。「手に職を付けたい」という理由から、ITの仕事に魅力を感じるケースが多いようです。接客に慣れていることもあり、将来的には高いコミュニケーションスキルを活かして活躍するといった事例もよく聞きます。未経験でもチャレンジできるポジションから育成していくことが前提にはなりますが、そういった意味で、貴重な人材となる可能性を秘めています。

——では未経験者に向けて訴求するポイントについてお聞かせください。

佐古氏:やはり「専門性を身に付けられる」「手に職が付けられる」といったワードは必須でしょう。その上で、研修制度や教育制度については明確に記載することで安心感を与えられます。

未経験者はとにかく不安を抱えています。IT エンジニアと普段触れる機会もあまりないでしょうし、もしかするとドラマで見るようなかっこよくてスマートな仕事に見えている可能性もあります。しかし実際にはPC操作だけでなく、クライアントや社内の関係者との会議や各種調整など、泥くさいことも多い仕事です。その中では、やはり「事実を伝える」ことはとても大切です。

——どうすれば転職希望者に敬遠されることなく真実を伝えることができるのでしょうか。

佐古氏:一見ネガティブに思える情報は、ポジティブに変換させる工夫が必要だと思います。たとえば、「現在システムエンジニア1名在籍中、追加で1名募集します」といった情報を見ると、2人で案件をこなさなくてはならないのかと不安を感じさせる可能性があります。しかしそれを逆手に取り、「いま入社することで即重要ポジションに就ける」「早期にキャリアアップが可能」といった情報を届けることで、ポジティブな要素を訴求することが可能になるというイメージです。

中堅・中小企業の求人広告で効果のあったユニークな訴求内容

 

——採用に苦戦する中堅・中小企業が求人広告を制作する上で、重要なポイントを教えてください。

佐古氏:給与や待遇面などの条件面で他社と差別化するのが難しいため、会社の特色を魅力として前面に打ち出していく必要があります。たとえば、従業員の少ない企業では共に働く仲間との関わりが重要になってきますから、社内の横のつながりや絆が深めやすい点や、上長とコミュニケーションが取りやすい風通しの良さ、仲間と一緒に組織や会社の諸制度をつくっていける点などを訴求していくと良いでしょう。また有名プロダクトがないのであれば、ビジネスの成長をどのように見据え、どう未来を描いていくのか、採用に当たりどういった人物を求めているのかを具体的に記載することが重要です。

——中堅・中小企業の求人広告で、効果が発揮できた事例があれば具体的に教えてください。

佐古氏:A社は未経験者を募集していたため、先述したポイントに加えて転職希望者がIT業界に飛び込む際に抱える不安に寄り添った施策を打ち出しました。具体的には、求人広告に複数の面接官の自己紹介文を掲載し、転職希望者が同じ趣味や考えを持った面接官を選べるようにしたのです。このコンテンツがあることで、「面接官と話が盛り上がった」「自分の気持ちに寄り添ってもらえた」と感じてもらうことに成功し、採用までつながった事例になります。

また、企業に常駐するSES系のB社では、月に2日ある帰社日に社員全員で鍋パーティをするという習慣がありました。その情報を前面に打ち出し、「技術の話を深めながらみんなで鍋をつつけるアットホームな企業」として仲間意識を訴求し、好評を博すことができました。

——最後に、ITエンジニアの選考フローや面接において効果的な施策があればお聞かせください。

佐古氏:ITエンジニアは細かい要件が気になる人が多いです。その気持ちに寄り添うためには、選考プロセスの詳細を丁寧に記載する必要があるでしょう。具体的には、「面接はオンラインか対面か」「交通費の支給があるのか」「応募から採用決定までどのくらいの日数がかかるのか」「合否の連絡はどのくらいの期間でどんな手段で来るのか」などです。

面接で押さえておきたいのが、技術に関して知見のある社員を1人以上同席させること。なぜなら、ITエンジニアは面接時に技術に関する話を聞きたいと思っているからです。これらのポイントを押さえることで、ITエンジニアを目指す人材に安心感を持って選考に臨んでもらえるのではないでしょうか。

取材後記

佐古さんのお話を通して、ITエンジニアを志す人材が他業種に比べて繊細であり、情報に対する正確性にとても敏感であることがわかりました。そうした傾向に対し、求人広告では、転職希望者が求めている情報の不足やあいまいな表記がなされているケースもあると聞き、応募を躊躇してしまっている状況があるのかもしれないと感じました。開発環境など、ITエンジニアが必ず確認する情報について事実に基づいた訴求をすること。その上で「捉え方によってはデメリットと感じられる情報を適切にポジティブに置き換える」といった工夫が求められそうです。

企画・編集/白水衛・森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/波多野友子

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