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北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。いしかわUIターン応援団長として、地方自治体の採用力強化にも携わる。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。近書には『働き方改革の不都合な真実』(共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)がある。
有効求人倍率が右肩上がりを続け、企業間の採用競争が激化する中どの企業人事からも「売り手市場のため欲しい人が来ない、出会えない」という声が聞こえてきます。こうした状況に警笛を鳴らすのが、働き方をテーマに執筆、講演を行う常見 陽平氏。常見氏が「採用氷河期」と表現する、現在の人材マーケットにおいて、人事・採用担当者はどのように考え、行動すれば良いのか――。
そこで人事・採用担当者向けに【キャリア採用氷河期に立ち向かう今、変えるべきこと、変えてはいけないこと】をテーマにしたセミナーを開催。採用から働き方まで、企業や社会に一石投じる常見氏を招き、「採用氷河期」への立ち向かい方を語っていただきました。
現在の人材マーケットでは、多くの企業が採用に苦戦しています。もはや「売り手市場」ではなく、「採用氷河期」と言えるほどの状態です。しかし、人事・採用担当者と話していると、そもそも採用に対する認識が甘いと感じることがよくあります。「売り手市場だから採用に苦戦している」「今年は採れなかった」と愚痴を言っているだけの企業に先はありません。
私は大学教員をしているのですが、この世界では「2018年問題」(※)が非常に話題になっています。このことについてあまりご存知の方がいらっしゃらないようですが、少子化によって大学経営に大打撃を与えると話題になっているんです。同様に人材マーケットにおいても若年層の労働人口は減少しています。一方で、総人口は当初予測していたほど減少していません。医療の進歩により長生きする人が増えたためです。よく「高齢化社会」と言われますが、実はすでに「高齢社会」を迎えており、65歳以上の人口比率が増加し、年代別構成比も大きく変化しています。つまり、人材マーケットの構造自体が、ガラリと変化しているのです。
そうした中で、企業の人事・採用担当者に求められるのは何か?それが、「戦略」と「戦闘」です。人事・採用担当者にこの話をすると「うちは戦略を考えている」と言われることがよくあります。しかし、具体的に聞いてみると「求人広告に、いくら使って、何名採用する」といった内容が多い。これって「戦術」の話なんですよね。「戦略」とはもっと大きな方針のこと。内定を出しても採用できなかった、人材紹介会社経由でも逃げられてしまう――そうした事実を真正面から受け、何が敗因なのかをしっかりと把握し、「戦略」を立て、「戦闘」に臨まなければなりません。そのために大事なのは、常識にとらわれすぎないことです。
常識にとらわれないという観点で、私の体験をお話しします。私が20年前に新卒でリクルートに入社した際、実は応募していないのに、内定が出ました。なぜか?——常識的に考えると内定は応募者に出すものですよね。しかし、当時のリクルートは応募有無にかかわらず、採用したい人材がいれば、「うちでバイトしないか?」と声をかけて取り込んでいたんです。採用候補となる学生を探し出したり、サークルに所属する学生に聞き込みをしたりと、さまざまな創意工夫を行っていた。それが当時のリクルート独自の採用手法の一つだったのです。
言ってみれば、リクルートの採用は「狩り」なんです。転職メディアや人材紹介を通じて応募している人にアプローチするだけが採用ではない。潜在層に直接アプローチすることも、採用の仕方なのです。
さらに大事なのは「母集団形成」という信仰から決別し、「分母」獲得から「分子」獲得へと意識を変化する必要があります。たくさん応募があっても、採用できないと意味がない。先ほどリクルートの例でお話ししたとおり、「応募ありき」ではなく、採用につながりそうな人材を企業自ら「狩り」にいく姿勢が重要なのです。キャリア採用において前述したリクルートのような手法は難しいかもしれませんが、本来こうした“攻め”の採用手法も多様にあるんですよね。
例えば、FacebookやLinkedinの登録情報から人事が直接アプローチするといったダイレクト・ソーシングもその一つです。リファラル(社員紹介)採用を駆使し、人材獲得できれば20万円ものインセンティブを支給している会社もあります。
さまざまな採用手法を駆使することで、転職を考えていない潜在層・優秀層へとアプローチすることもでき、なおかつコスト削減や生産性向上も実現できる。自分の周囲にある常識的なことを実践しているだけでは「採用氷河期」の今、欲しい人材の獲得は難しい。業界動向や採用手法のトレンドを常にチェックしておく必要があります。
みなさんは、求職者の心理をきちんととらえることができていますか?例えば、若手人材の志向性について、「自己中心的で働く意欲が低い」と一般論で考えてしまいがちです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「2017年度 新入社員意識調査アンケート」に記載されていますが、今の若手人材は「自分ファースト」志向が高まっているものの、「目標を与えられ、達成に向けて頑張りたい」という人は実に8割超。一般論で考えているものとは逆で、若手人材の労働意欲は「高い」ということが分かります。この背景としては、今の社会情勢が影響しています。国防も経済も不安で先が見えない、せめて雇用だけでも安定させたいという心理が働いているのです。
これは一つの例ですが、若手人材は労働意欲が低いという常識や一般論にとらわれていると、自らターゲットを狭めてしまい、ターゲットの心理にハマる施策を打つことができなくなります。常識ではなく、現実に目を向け、マーケットの変化をとらえ、採用したいターゲットを再設定し続けていくことが大切なのです。またターゲットにハマる施策を打つためには、メディアに対しても積極的にアンテナを伸ばすことが必要不可欠です。
当然のことながら、多くの人々はPCでインターネットを見ていません。担当している連載のデータでいうと、閲覧されているデバイスの80%がスマートフォン。残り15%がPCで、5%がタブレットとなっています。このことからも分かるように、求人情報はスマートフォンで見やすくないと意味がない。横断型検索サイトが立ち上がっている中、自社の採用HPを強化する場合でもメディア選択がポイントになっています。
そのほか情報収集の観点から言えば「東洋経済オンライン」や「現代ビジネス」といったWebメディアは転職系のネタも豊富でオススメです。ぜひチェックしてみてください。
採用できない理由の一つとして、「知名度が低い」という声を耳にします。しかし、知名度が高い企業なんて一握りです。大手企業で一般的に認知度が高かろうと業務内容まではなかなか知られていません。ですから、「自分の会社の知名度が低い」という前提に立った上で採用活動に取り組んでください。「企業ブランド」と「採用ブランド」とは違うんです。
求職者が魅力に感じるセールスポイントがないのであれば、「売り」を作る、つまり自ら「旗」を立てる必要があります。「うちの会社は、こんな会社だ!」と、他社にはない「旗」を立てるのです。
では、どのようにして「旗」を立てればいいのか?一つは「ビジョン」を作ることです。企業として何を目指しているのか、どんな社会を作りたいのかを発信することが「旗」を立てることにつながります。また上場していること、勤務地、職場環境なども「旗」となります。誰にとっても魅力的なものにする必要はありません。先ほどお話ししたように、「分母」ではなく「分子」(=再設定したターゲット)に向けて、魅力となる「旗」を立ててください。自社を見つめ、マーケットの動きやターゲットのニーズをしっかりと捉えれば、必ず自社ならではの「旗」が見つかるはずです。ニーズの押し付けではなく、相手の琴線に触れるかを考え、旗を立て、「戦闘」に臨みましょう。それが、貴重な経営資源である人材獲得に結びつくはずです。
「常識にとらわれず、現実に目を向ける」常見さんのお話しの中で、特に印象的な言葉です。実際に日々の業務を進めていく中で、どうしても過去の慣習や常識にとらわれてしまうことが多いという方もいらっしゃるのではないでしょうか。少子高齢化が現実のものとなり、ますます採用が難しくなるなか、「とりあえず過去の手法を継続して、母集団を獲得しよう」という発想のままで思考停止していれば、人材の獲得はとても難しくなります。採用トレンドや業界変動、ターゲットの心理を意識的に追求しながら、規制概念にとらわれない「戦略」を立て「戦闘」を繰り返すことが、「採用氷河期」を乗り越えるポイントとなるでしょう。
(文/眞田 幸剛、撮影/シナト・ビジュアルクリエーション、編集/岩田 巧・齋藤裕美子)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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