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1985年大学卒業。文化放送ブレーンで大手から中小まで幅広い企業の採用コンサルティングを行う。ソフトバンクヒューマンキャピタル、文化放送キャリアパートナーズで転職・就職サイトの企画・運営に携った後、2009年より現職。各種調査の企画・分析を担当し、「東洋経済オンライン」「WEB労政時報」に連載中。
2011年、パーソルキャリア株式会社(旧:株式会社インテリジェンス)に新卒入社。入社後、人材紹介・転職メディア事業において、一名~数百名規模の採用など数々のプロジェクトを担当。採用競争力を科学した提案に強みを持ち、大手から中小、ベンチャー企業までの採用支援を行う。最年少でマネジャーに就任し、現在に至る。また、社外にも活動の範囲を広げ、その経験をもとに「社内ダブルジョブ」制度を企画・提案。勢力的な活動を行っている。
採用活動に「売り手市場」という言葉を耳にしている人事・採用担当者は多いのではないでしょうか。実際、厚生労働省の発表にもあった通り求人倍率は引き続き上昇をたどり、転職市場において活況が続いている現状です。それは、人事・採用担当者にとってはさらなる苦戦を強いられるということも意味しています。そこで今回のセミナーでは、「転職求人倍率からみる、現状の採用市場」についてパーソルキャリア株式会社油谷大希が、そして「最新調査結果にみるキャリア採用の課題と傾向」についてProfuture株式会社/HR総研の松岡仁氏が講演し、依然厳しい採用市場においてどのような戦略をとっていけばいいのかディスカッションしました。
“有効求人倍率”とは、有効求職者数に対する有効求人数の割合のことを示しており、雇用動向を示す重要指標です。なお、厚生労働省が発表している求人倍率は、公共職業安定所(ハローワーク)における求人数や求職者数・就職者数で算出していますので、注意が必要です。
パーソルキャリア株式会社では、中途採用に特化した求人倍率を算出し「doda転職求人倍率」を毎月発表しています。「doda転職求人倍率」の定義は、dodaエージェントサービスの登録者数1名に対して、中途採用の求人数が何件あるかを算出した数値になります。つまり、倍率数値が1.00よりも上であれば転職希望者(登録者)1人あたりに対して求人数が多く、求職者は複数の企業から選べる状態。一方、1.00よりも低ければ、転職希望者(登録者)1人あたりに対して求人数が足りておらず、転職希望者にとって転職活動が厳しい状態と言えるのです。
2017年12月のdoda転職求人倍率(2018年1月31日当時)は2.87倍と、前月比+0.41ptとなっており、10月から3カ月上昇を続けています。企業の人材不足による採用熱度は引き続き高い状態にあり、求人数も増加の一途をたどっていることが分かります。これは首都圏だけの話ではなく、中部や関西なども同様の数値となっており、全国的に正社員の増員を図っていることが特徴でした。既存部門の欠員補充だけではなく、需要の見込めるエリアへの新規開拓や新規部門設立など、売上戦略を見越したポジティブな増員補強を行っている模様です。
一方、求職者数側の状況をお伝えします。年末の退職を見据えて転職活動をスタートする人は多く、10月頃dodaへの会員登録が一気に増えました。もちろん12月はシーズナリティの影響もあり求職者数が減少する傾向にありますが、1月を過ぎると今度は年度末の退職、4月の入社を目指して転職活動を行う人が増加していく傾向にあります。今年度中の採用を検討している企業はこの求職者の動きを捉え早めに求人募集を開始しなければなりません。選考スピードを早めていくことが採用成功のカギとなります。また、選考会や選考フローの短縮、ターゲットの見直しも有効な手段です。1Day面談会といった1日で内定まで出す選考会を実施したり、退職交渉期間が不要な離職者限定にした採用を行ったり。採用競合よりも先に内定を出すことを心がけることも重要です。
最近では「働き方改革」への関心が集まっていることもあり、求職者は「何をするのか(=仕事内容)」だけではなく、「どう働くのか(=働き方)」まで考慮して、求人を探す傾向も強いです。残業時間や福利厚生、定着率などを重視している求職者が増えている。つまり、仕事内容を具体的に伝えていくのはもちろん、就業環境の魅力を随時伝えていく必要があると言えるでしょう。また、募集を呼びかける際、求人広告やダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング・スカウトメール)の文面は、スマートフォン表示を意識して訴求していく必要があります。パソコンばかり意識していると、求職者は「読みづらい」「見にくい」と思った瞬間に離脱してしまうことも。ついパソコンの画面でチェックしてしまいがちですが「スマートフォンではどのように見えているのか」、自らスマートフォンからも確認しておくとよいのではないでしょうか。
HR総研では、昨年11月末に中途採用に関する調査を行いました。回答いただいた企業は、1001名以上の大手企業、301名~1000名の中堅企業、300名以下の中小企業と分けており、それぞれ20%、30%、50%の割合となっています。
前年度以上の中途採用を計画している企業は、企業規模に関わらず約8割にも上っており、例年以上に「積極採用」の方向性であるようです。しかしながら、依然として、中途採用計画数の達成に苦戦している企業が多いのが現状のようです。
では、企業はどのようなことに課題を感じているのでしょうか。「母集団形成」に課題を感じているのはどの企業も一緒ですが、同じ「母集団形成」と言っても企業規模ごとに課題感は異なるようです。
このように、大手企業と呼ばれる会社群では、応募数は多いものの「求めるスキルの人材ではない」「スキルのミスマッチが多発」など、『ターゲット層からの応募者を集めたい(55%)』と考えている企業が多いことがわかります。一方、中堅・中小と言われる企業群では、『そもそもの応募数が集まらない(40%)』と母集団形成そのものに課題を感じている企業が多いようです。また、中小企業は採用予算も限られていることから『採用予算をできる限り抑えたい』と回答する企業が26%と突出していることがわかりました。
「母集団形成に苦戦しており、手法が分からない」「必要以上に採用コストをかけたくない」という声も多く、依然人材紹介を利用している企業は多いようです。しかしながら、この売り手市場の中“攻めの採用”と言われているように、企業規模に関わらず、「求職者と直接コミュニケーションをとりたい」という企業ニーズが増えてきました。中でも、リファラル採用(社員紹介)とダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)に期待が高まっている傾向にあります。特に大手企業群では「より多くの人と接点を持ちたい」と、転職活動に意欲的な層が集まる転職フェア、そして、ダイレクト・ソーシングやSNS、リファラル採用に取り組みはじめたという企業も少なくありません。
これらから分かるように、今までのような「いかに多くの応募者を集め、そこから吟味をする」という採用手法では通用せず、「いかに余計な工数をかけずダイレクトに優秀人材にアプローチするか」という手法にシフトしていることが分かりました。また、この売り手市場の中では、従来の人材サービスだけでは採用予定数には達さないと、壁にぶつかっている企業も少なくありません。つまり、新たな採用チャネルに挑戦していかなければならない状態になってきているということです。人材サービス各社と上手く付き合っていきつつ、人事・採用担当者自らも採用トレンドを積極的に収集していく必要があります。待ちの姿勢からの脱却こそ、採用成功のポイントでしょう。
2018年、2019年と今後も引き続き転職市場は活況となる見込みです。攻めの採用と言われて久しいですが、それは何も採用手法だけにとどまりません。人事・採用担当者の採用に対する意識自体も、「攻め」に転じる必要があるのではないでしょうか。いかに企業の求める人材と出会い、その方に自社の魅力を伝えることができるのか、それを人事・採用担当者が担っているのです。
「人材紹介会社に依頼して候補者となる人材の推薦を待つ」「求人広告を出して応募者を待つ」…といった、待っているだけの採用のままでは難しくなってきた現在、既存の採用チャネルの活用度合いを上げながらも、ダイレクト・ソーシングやリファラルなど新しいチャネルの検討も進めていく時だと考えられます。もちろん、すぐにダイレクト型採用を実践できるかといえば、そうではありません。今までの手法を組み合わせながら、きちんと効果を振り返り、少しずつ新しい手法を取り入れていく。同時に、採用が激化であることを経営層や現場に伝え、協力を仰ぐことも必須。自ら積極的に動くことで採用成功の一歩に近づけるのではないでしょうか。
(文・編集/齋藤 裕美子、撮影/石山 慎治)
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d's JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】