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ベンチャー企業時、HRテック関連サービスの新規事業立ち上げとグロースを経験。人事・HR業務経験を活かし、フリーランスへ転身。。ダイヤモンドメディアとの協業経験があり、構想段階にあった「Tonashiba」の理念に共感し、業務委託契約で「Tonashiba」の事業化に参画。さまざまな企業とのリレーション、高いプレゼンテーション能力を活かして「Tonashiba」を広めるエバンジェリスト的ポジションで活躍。36歳。
ベンチャー企業で新規事業開発や採用業務を経験。人事系企業での業務経験を経て、約2年前からフリーランスで活躍。会社員時代のビジネスコンテストでダイヤモンドメディア代表である武井氏と知り合いランニング仲間に。武井氏と会社組織や既存の人材紹介サービスの抱える問題点を議論するうちに「Tonashiba」の構想が生まれ、五十嵐氏や山田氏と共に業務委託契約で「Tonashiba」の事業化に参画。35歳。
大手SNSプラットフォーマーの採用チームやHR領域のコンサルタント、ベンチャー企業の共同代表や顧問などを経て、1年前からフリーランスに。ダイヤモンドメディア代表の武井氏とは、以前からホラクラシー経営・自然経営(非管理型経営)に関して議論を交わす機会があり、その延長線上で武井氏が構想していた新たな人事系サービスである「Tonashiba」の存在を知り、業務委託契約で「Tonashiba」の事業化に参画。35歳。
2018年1月に正式リリースされたダイヤモンドメディア株式会社の「Tonashiba(トナシバ)」は、企業間で人材をシェアする人材ネットワークサービスです。サービス名の由来となっている「隣の芝生は青い」という言葉通り、加盟企業間では社員が企業の壁を超えて他社の会議や研修、プロジェクトに参加できるほか、他社への中長期的な社外留学、社員と企業間の合意の上での完全移籍(転職)という選択肢も用意されており、働き方改革の流れとあわせて、これまでの企業と個人の関係性を大きく変えていく可能性を秘めています。今回は、業務委託契約という形でサービスの立ち上げや拡大に携っている五十嵐氏、松井氏、山田氏の御三方に、「Tonashiba」のコンセプトや事業化の背景、社員シェアリングの実例、「Tonashiba」によって実現したい「企業と人の新たな関係性」についてお伺いしました。
松井氏:私とダイヤモンドメディア代表の武井さんは一緒にランニングをする仲間だったのですが、ランニングが終わった後にカフェで人材採用に関して議論したことがあり、「どうして社員が会社を辞めることはいまだに“悪”なのか、この考え方を変えられたら面白いんじゃないか」という話になったんです。後に本腰を入れてサービス化しようという話になり、五十嵐さんや山田さんも含めてチャットでグループを作って議論を始めたのが最初でした。それが2017年9月ぐらいの話です。ダイヤモンドメディアではメンバーが他の企業に出向してそのまま移籍する、という実績を複数回重ねており、「その人の能力を一番活用できる場で働く」ことが最も大事だという文化がありました。そういった背景からも、もっと柔軟性のある働き方の形を世の中に提供できたら、という想いが一致して、そこに共感するメンバーが集まって事業が生まれた、という感じですね。
そして、なぜか居酒屋でキックオフをして(笑)、最終的に大喜利で「Tonashiba」というサービス名称が決まったんですよ。「まだ見ぬトナリのシバフを体験してみよう」という意味です。
山田氏:昨年末に紹介免許を取得して、正式にサービスをリリースしたのは今年の1月です。それ以前は加盟企業のみなさんと集まってサービスに関する議論を重ねていました。
山田氏:構想段階では「個人が一つの会社でしか仕事ができない状況をなんとかしたい」「転職が後ろめたい行為であるという考え方を変えたい」という思いがあったので、そうした考え方やコンセプトを伝え、共感・賛同してくれる企業を集めていました。サービス化に関しても最初から私たちだけでガチっとしたプランを作成していたというわけではなく、賛同いただいた企業の皆さんと相談しながら、どうすればお互いの企業で人を行き来させられるかということを一緒に考えていったイメージです。
松井氏:まずは企業同士が社員を交換して力の貸し借りをしてみましょうということで、「誰が最初に行くんだ?」という話になったのですが、第一号でトライアル移籍が実現したのはダイヤモンドメディアの武井さんと株式会社キャスターの石倉さんという、経営者同士のシェアリングでした。週一で相手の会社に行き、組織作りが得意な武井さんはキャスターの人事組織の設計を行い、採用に強みを持っていた石倉さんがダイヤモンドメディアの採用スキームを構築するという形で、お互いの異なる強みを活かし、相手の会社に貢献することで大きなバリューが生まれました。
五十嵐氏:狙った以上の効果が生まれましたよね。
松井氏:実のところ最初はあまり活性化していなかったんです。それでどうしようかという時に、加盟企業さんから「忙しい社員が週に一日、丸っと別の企業に行くのは難しいので、まずは他社の会議やミーティングに参加してみてはどうか」というアイデアをいただきました。他社の会議に参加していろいろと話してくるだけでも、自社にはない知見が得られるし、受け入れる側の会社にとっても社外の人が会議に参加することでちょっとした緊張感が得られるだろうということで実際に試してみたところ、かなり評判が良かったんです。文化が異なる会社同士なので会議に参加する側、参加される側、双方刺激が得られたようで、「社外から参加してくれたあの人のブレストのやり方はいいね、取り入れてみよう」といった形でのノウハウ共有なども進んだようです。
五十嵐氏:「Tonashiba」のサービスの軸は、先ほどのプロジェクトや会議に参加する「トライアル」に加え、企業合同で研修を行う「トレーニング」、シェアリングしてお互いが合意したら就業や転職する「リクルート」があります。
山田氏:加盟企業にはベンチャーが多いのですが、ベンチャーの場合、新卒でも同期入社の社員が少なかったりしますよね。そこで「Tonashiba」加盟企業の新卒2年目の程度の社員を集め、合同研修を行いました。10社合計で35人ぐらいは集まっていましたね。
五十嵐氏:「社外にも同期を持とう。同期もシェアしよう」というコンセプトです。
松井氏:新卒社員の場合、自社のカルチャーしか知らないので、「自分の会社ってどうなんだろう」という疑問を抱きがちです。小さい会社であれば尚更。しかし、まだ社会との関わりが少ないのでなかなか外部の交流が持てない。そこで、他社の同期とつながることで、他社と比べたときの自社の良さも理解できるし、自分の成長度合いもわかるんです。今後は新人同士だけでなく、例えば新任のマネージャー同士をつなぐプラットフォームなども作っていきたいと考えています。自社内だけでは情報量も限られますが、他社のマネージャーの仕事内容やマネジメント手法がわかれば刺激になるし、自分の仕事にも取り入れやすいですからね。
五十嵐氏:「井の中の蛙」にならなくて済むというのは大きいですよね。
松井氏:自社の総務スタッフを鍛えたいということで、総務体制の整った会社に2カ月程度一時移籍させ、オフィスの移転プロジェクトに必要な経験を積んできてもらうといった事案も進みそうです。また、ある加盟企業の採用で「すごく良い人だけど今はこの人を採用できるポジションがないから、他の会社で採用できないか」という打診があったのですが、その人と会ってみたいという会社がいたんですね。面接した結果、素晴らしい人材だということでそのままその会社に採用されたということもありました。これは人材のシェアというよりも、人事機能のシェア事例ですね。
五十嵐氏:ある加盟企業さんの話になりますが、新卒で入社して2年目を迎えるタイミングで会社を辞めようとしている社員さんがいたんです。その社員さんは「僕はこの会社しか知らないから…」というのが口癖だったので、それなら「隣の芝生を見てきたら」ということで社長さんがその社員さんに「Tonashiba」を進め、別の加盟企業さんと面談をしたんです。結局、いろいろあって彼は現在も元の会社で働いているのですが、社員個人にとっても「会社を辞めるor我慢して働く」という二択ではなく、その間に「Tonashibaする」という選択肢が生まれることの意味は大きいと思います。隣の芝生である他社の環境を経験することで、「やっぱりウチの会社のほうが恵まれている」と感じて自社に留まるという選択もできるし、企業間と本人の合意があれば、その会社へそのまま移籍(転職)することもできますからね。
山田氏:新たな加盟企業が増えればシェアリングの選択肢も広がるので、増やして行く方針ではあります。実は大手企業の人事部長や役員など、興味を持っていただいている企業は増えているのは事実です。ただし、現時点では無理やり数を増やすことよりも、コミュニティの質を担保することが重要であると考えています。企業のコミュニティといっても、最終的には中の人と人同士のつながりです。経営者と経営者、人事と人事、新人と新人、あるいはマネージャーと新人、メンターと新人など、縦・横・斜め、さまざまなレイヤーでつながってきちんとネットワーク化できている状態で価値を提供していくことが大事だと思っています。
松井氏:私たちはみんなフリーで活動していますが、実際に企業をまたいで働くというのは、まだまだそんなに簡単なことではないと思っています。「Tonashiba」が、今の日本の雇用慣習にフィットしているかというとまったくそんなことはありませんからね。その他、法律の部分に関しては「別の会社で働いている場合、労災の適用はどうなるのか」といった問題なども残っています。さまざまな課題があることは事実ですが、だからこそチャレンジする価値があるとも考えています。
山田氏:一人が一社に完全に雇用され、個人と企業が密接につながり合っているという現在の標準的な雇用は必ずしも悪いものではありませんし、企業と個人の関係性の中の一つの選択肢としてはあっていいと思っています。ただ、今は一つの企業で働くか、せいぜい副業(兼業)ができるかできないか。それ以外はフリーランスで、という状況なので、もっと多様な選択肢があっていいし、もっとあいまいな形で混ざりあっていてもいいと思います。世の中全体としては確実にそうした流れに移行しつつありますし、私たちとしては「Tonashiba」で個人が企業のコミュニティの中を行き交うということが、もっと自由にできる環境を作っていきたいと考えています。辞めるとか、辞めさせるという話ではなく、社外に行く人に対しても会社側が気持ちよく送り出してあげられるような、そんな世界が実現できたらいいなと思っています。
五十嵐氏:その方が絶対面白いですよ。企業主体でなく、個人主体になりつつある世の中なので、一人ひとりが輝ける場所、活躍できる場所をできるだけ自由に探せる環境を作っていきたいですね。企業という壁を壊していきたい。
山田氏:まずは研修参加からがわかりやすいかもしれませんね。また、ダイヤモンドメディアがホラクラシー経営・自然経営(非管理型経営)でメディアなどから注目されていることもあり、経営思想から興味を持っていただける企業も増えています。自然経営の具体的な手段としての「Tonashiba」という側面もあるので。
松井氏:「Tonashiba」はあくまでもプラットフォームなので、どう使っていただくかは企業次第です。実務上で使っていただいている企業だけでなく、飲み会やミートアップだけに来る方もいらっしゃいます。
五十嵐氏:まずは情報交換という感覚で一歩を踏み出すとよいのではないでしょうか。「Tonashiba」は「こうあるべき」「こんな企業にあっている」というものではありません。それぞれの企業にあわせて活用できると思っています。
松井氏:その通り。それから私たちは「Tonashiba」に関するミーティングを定期的にやっているので、興味のある方は、ぜひ一度参加していただければと思います。こんな風な世の中にしたいというブレストを日々行っていますから。
五十嵐氏:考えるよりも感じていただくほうが早いかもしれませんね(笑)。
人材不足が深刻化し、これまで常識的に考えられてきた「企業が一個人の労働力を完全に抱え込む」という雇用のあり方が難しくなっていく状況の中、企業間で人材をシェアするという「Tonashiba」のサービスコンセプトは、変わり始めている企業と個人の関係性を大きく先取りしており、これまでの雇用慣習や法制度を超えて成長していくポテンシャルがあると感じました。また、「求職者をトライアル的に受け入れることでミスマッチを防ぎ、マッチング精度の向上を図る」「転職マーケットでの獲得が難しい人材にリーチできる」という利点もあるため、新たな採用手法の一つとして検討することもできそうです。
(取材・文/佐藤直己、撮影/石山慎治、編集/齋藤裕美子)
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d's JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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