年間100名以上採用で新会社の船出を支援。27歳プロリクルーターが得た事業目線

2018.09.10
KDDIコマースフォワード株式会社

経営管理部 人材開発グループ グループリーダー 
笹内 健吾

2014年、メガバンク系信託銀行に新卒で入行。資産運用・信託系サービス提案などの個人向け営業を経験した後、2016年8月に株式会社ディー・エヌ・エーに転職し、EC事業の営業職に従事。2016年12月、DeNA のEC事業がKDDIグループへ譲渡され設立されたKDDIコマースフォワード株式会社の立ち上げに参画。営業職から人事職へのキャリアチェンジを自ら希望し、現在は中途採用戦略の企画・立案に加え、組織開発など同社のさまざまな人事業務を手掛けている。

「100名採用を必ずやりきる」。当初は営業マインドが支えに
事業目線を持つきっかけは、ダイレクト・ソーシングだった
事業推進のためなら、社長に対しても意見する

昨今、人材マーケットが劇的に変化する中で採用の重要性と難易度は高まり続けています。特に創業フェーズの新会社であれば言わずもがな。そうした中、設立1年目にして100名以上の採用を実現し、事業発展を「人」の面から支えたリクルーターがいます。それが、KDDIコマースフォワード株式会社・人材開発グループの笹内健吾氏。その取り組みは、ビズリーチ社による「プロ・リクルーターアワード2018」においても表彰されました。

同社はディー・エヌ・エーグループが運営していた「DeNAショッピング」「auショッピングモール」といったEC事業を承継し、2016年12月に創業。2017年1月には新たな総合ショッピングモール「Wowma!」を立ち上げ、群雄割拠の業界でも注目の成長株となっています。

2018年9月現在27歳の笹内氏、実は営業出身で人事は未経験だったと言います。そんな彼が大規模採用を実現できた理由はなんだったのか?お話を伺うと、そこには「目標にコミットする営業マインド」「事業目線と採用目線のバランス」「経営層との密な連携」といったキーワードが浮かび上がってきました。

「100名採用を必ずやりきる」。当初は営業マインドが支えに

「100名採用を必ずやりきる」。当初は営業マインドが支えに

笹内さんは、もともと人事未経験だったと伺っています。まずは簡単にこれまでのキャリアを伺えますか?

笹内氏:キャリアのスタートは、信託銀行での個人向け営業でした。2年半ほど経験を積んだ後、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に転職したのですが、実は銀行で働くことや営業職にはまったく不満はなかったんですね。むしろ、今も自分自身が一番輝けるポジションは営業だなと考えている位なんです。

となると、なぜ転職をし、さらに人事へとジョブチェンジまでされたのでしょうか?

笹内氏:理由はいくつかあるのですが、ひとつの領域の中だけでキャリア・スキルを磨くことに漠然とした不安を感じていたのが大きいですね。これまでとは異なるフィールド、異なるカルチャーを持った環境で、新しいチャレンジをしていきたいという想いがありました。

実際、DeNAに惹かれた理由は個のキャリアやスキルを尊重する文化であり、上下関係や社歴に関係なく意見・アイデアを発信してほしいという自由度の高い環境でした。また、KDDIコマースフォワードの設立に伴う転籍と人事への挑戦も、「創業フェーズを経験できる滅多にないチャンス」「企業成長を左右するのは“人”。人事の活躍は重要に違いない」と考え、現在当社の代表を務める八津川に直談判したのがきっかけでした。

新会社設立に合わせて人事に転身されたわけですが、最初のミッションはなんだったのでしょうか?

笹内氏:まず経営陣が事業目標を立て、その達成に向けて人員計画を立案した結果、約20のポジションで合計100名以上の人材獲得が必須だと判明しました。なので、まずこの数字をいかにやりきるかが私の役目でしたね。

人事デビューでいきなり100名規模の採用目標というのは、かなり大変な印象ですが…。

笹内氏:今振り返るとその通りですね(笑)。でも、当時は採用マーケットに関する固定概念もなく、この数字の大きさが分かっていなかったんですよね。転籍までの準備期間として、DeNAの人事部で約2カ月OJT研修を受けていたのですが、先輩方に業務を学びながら新会社の採用活動に取り組み、2カ月で20名程度、採用することができました。

その体験から、「100名採用も頑張れば実現できる数字だ」と捉え、あとはもうやりきるしかないなと(笑)。この数字にコミットする意識は、言ってしまえば営業マインドそのものでしたが、それが正解だったと今になって思います。2名体制で採用活動をスタートし、1年後には採用要件に妥協することなく100名以上の採用が実現できましたからね。

事業目線を持つきっかけは、ダイレクト・ソーシングだった

事業目線を持つきっかけは、ダイレクト・ソーシングだった

大きな採用目標を達成するにあたり、笹内さんはどのようなアクションを取っていったのでしょうか?

笹内氏:まずは「高速でPDCAを回す」ことですね。たとえば、まずは大手の採用メディアで一定母数がいると想定できる職種の求人を掲載してみたものの、上手くエントリーが集まらない…と。すぐに成果を振り返りました。すると、いくらKDDIという冠がついていたとしても、弊社は立ち上げたばかりの会社。認知度は違うわけです。
そこで、競合が多数並ぶ中で候補者に選んでいただくよりも、こちらから声をかけられるダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)の方が、母数は減ったとしても当社への意向を高めた上でエントリーに繋げられるのではないか――と。職種ごとにそうした仮説を立て、新たな採用手法を試すことで、少しずつ成果が改善していきました。

ひとつの手法に捉われることなく、柔軟に変化を繰り返してきたわけですね。

笹内氏:こうした手法の特性を把握してバランスよく使い分ける動きや、結果を逐一振り返り、次のアクションに繋げていく意識は営業時代に通じるものがありましたね。また、ダイレクト・ソーシングに取り組むようになったことで、「事業目線」を意識せざるを得なくなったことも、目標達成へのターニングポイントになったと思います。

ダイレクト・ソーシングが事業目線を培うきっかけに?

笹内氏:候補者の方へのスカウトや面談をするにあたって、その部門がどのようなミッションを持っているのか、入社後に具体的にどのような業務をするのか。採用担当である自分自身がきめ細かく把握していないとメリット・デメリットを明確にお伝えできませんし、信用を得ることも叶いません。つまり、自分自身も事業全体を理解する必要があると気づいたのです。

ですから、必然的に各部門とコミュニケーションをとる機会が増えましたし、副次的効果として各人材紹介会社の担当者さんにお伝えできる情報も具体性が高まりました。結果、社内外に関係なく採用に関わってくれる方が増え、「チームKCF(KDDI Commerce Forward)」が誕生。チーム一丸となって採用活動を行えています。 また社内でのリレーションが高まったことで、複雑なポジションの場合には、部門長もエージェントとの打ち合わせに参加して直接話してもらう、といった場づくりも可能になりましたね。

事業目線が深まったことで、ご自身のミッションやアクションに変化はありましたか?

笹内氏:各部門長と採用要件のすり合わせを行う中で、似たようなポジションの募集が同時に出てくることがあります。これは創業フェーズならではの課題と言いますか、部門間で担当すべきミッションがきれいにすみ分けしきれておらず、現場サイドも整合性が取れていないことに気づけない。でも、それは至極当然のことです。

こうした場合、会社の中央に位置している私たち人事がそれに気づき、改善すべきです。必要があれば社長も交えたミーティングを実施。そして、最適な業務分担を話し合った上で、「では、このポジションは▲▲部門で採用を進めましょう」と、フォローしていく。人事は事業内容を推進できるわけではありません。しかし、事業毎の状況や立ち位置を経営視点で捉えることはできると思ってますし、そう意識していますね。立ち上げ期だからこそスピードが早い。それを正確に把握することは、“人事”だからできることだと思っています。今はこうした部門間の調整というのも積極的に取り組むべきミッションだと考えるようになりました。

事業推進のためなら、社長に対しても意見する

事業推進のためなら、社長に対しても意見する

お話の中にもありましたが、事業戦略を理解しサポートしていくには経営層とのコミュニケーションも重要になりますよね。

笹内氏:おっしゃる通りです。やはり立ち上げフェーズですので、たとえば事業戦略の軌道修正など変化はあります。こうした場合も、社長と事業部門とで認識のズレがないか、採用の優先順位をどう変更すればいいかなど、交通整理を迅速に行う必要があります。

ただ当社の場合は、経営陣をはじめ社長自身が常々採用の重要性を説いていて、実際に毎週1時間は社長を交えた採用ミーティングの時間をもらっています。時には私たちから意見することもあり、DeNAの「社員の声を重視するカルチャー」は当社にも継承されていますし、何より距離感が近いですからね。同じゴールを目指すために、伝えるべきことは臆することなく必ず伝えています。

今後の課題などもすでに見えてきているのでしょうか?

笹内氏:昨年1年はまず「同じ船に乗ってくれる仲間を集める」をテーマに、年間100名を超える採用にリソースを割き続けることで事業成長を支援してきました。次のフェーズでは入社してくれた立ち上げメンバーに対して、当社ならではのカルチャーをどう浸透させていくかですね。

カルチャーフィットと社員の定着。

笹内氏:結局、一番大事なのは入社してもらうことではなく、入社後どれだけ成果を出しているか、本人の幸せが会社の成果につながっているかだと思うんですね。現在はグループメンバーも8名規模に拡大し、私はリーダーとしてそうした組織開発に注力できるようになりましたので、グループの役割として、フィロソフィの定着に向けた勉強会の企画や人事制度・福利厚生の見直しなどにも取り組んでいきたいです。

それに、当初から「KDDIグループではあっても、当社はあくまでベンチャー企業」と考え、チャレンジ精神や自走力を持った方を積極的に迎えるなどカルチャーフィットは意識していました。しかし、ここまで多様な人材が一気に増えると、採用だけではなくその先の定着・活躍・成長という軸で捉えることが求められます。その上で、採用基準に関してはより一層明確にしていく必要があるなと。

取り組むべきポイントはさまざまありそうですね。

笹内氏:本当に毎日新しい課題が出てきますし、日々勉強という感じです(笑)。実際、人材サービス会社や他社の人事担当者との情報交換も積極的に行っています。
ベンチャー企業である以上、臨機応変な対応は重要だと思っていますし、たとえ無理難題が発生したとしても、その問題をしっかり受け取り、どう改善すべきなのか、ひとつずつ打ち返していく。その結果は自分自身の成長に直結すると思いますし、会社に貢献することにもつながると信じています。

【取材後記】

HR領域では「戦略人事」に対する注目が高まっていますが、笹内氏の取り組みはまさに事業戦略を人事として支えるものでした。年間100名採用という数値目標の達成を目指すだけではなく、組織を俯瞰するファシリテーターとなって、部門間の調整や経営陣と現場の橋渡しなどにも取り組み、会社の発展をサポートしていく。これからの時代には、笹内氏のように「人事の仕事とは」という固定概念に縛られず、フィールドを超えた活躍を目指す人事こそが求められていくのかもしれません。

(取材・文/太田 将吾、撮影/西村 法正、編集/齋藤 裕美子)