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「ティール組織」「ホラクラシー組織」をはじめとして広がる、新しい組織のかたち。2つの組織体系の傾向にあるのは、情報のオープン化と組織階層のフラット化です。しかし、マネジメントなくして成果は本当に出るのか?また、給与情報など全てをオープンにすることは可能なのか?といった疑問も、同時に浮上してきます。
このような問いに答えるイベント「実践企業5社の経営陣が語る | “新しい組織”のリアル」が2019年2月12日、自然経営研究会によって開催されました。(当日は4社参加)
後編である今回は、「事業の成長と新しい組織の両立」をテーマとしたトークディスカッションの模様をレポートします。司会を務めるのは自然経営研究会の代表理事・山田裕嗣さん、登壇者は株式会社ソニックガーデンの代表取締役社長・倉貫義人さん、ダイヤモンドメディア株式会社の代表取締役・武井浩三さんです。
倉貫氏:私たちの会社は全社員がリモートワークです。多くが地方に住んで自宅で仕事をしていて、社員は36人にもかかわらず16都道府県にまたがっている(笑)。一番遠い社員はオーストラリアにいますね。この組織体系の秘密は、「納品のない受託開発」というビジネススタイルにあります。いわゆるシステム開発ではあるのですが、プロジェクト請負ではなく、顧問エンジニアとして企業と月契約を結んでいるんです。「全員リモートワークでバラバラの場所で働くと管理が大変でしょう」と言われるのですが、僕らは「管理のない会社経営」を行っています。管理職はいない、経費も勝手に使って良い、評価も売上目標もノルマもない。社員の管理はほとんどしていません。
今日のディスカッションテーマでもありますが、組織運営で何が一番大事なのかというと、「成果が出るかどうか」だと思います。ただ自由にするだけだと、ただの無責任ですから。成果を出すからこそ自由にできると僕らは考えています。
武井氏:弊社も人を管理していません。働く時間、場所、休みは社員それぞれが決めていい仕組みをとっています。私たちの会社は今12期目になるのですが、創業当初からずっと変わっていない思いは、「権力で物事を決めたくない」ということ。だから私たちは肩書きを自由にしました。また、社員間で情報の格差があると、物事を決める上で正しい判断ができず、スピードも遅くなります。だから業務委託のメンバーを含め、全てのメンバーが社内の情報にアクセスできるようにしています。給料さえも全てオープンで話し合って決めていますね。
倉貫氏:結論から言うと、事業の成果は上がりやすくなると思います。理由は大きく二つになるかなと。
まず一つは、無駄なコストが減るからです。コストを下げれば利益は増える。無駄なコストの一つには管理コストがあります。セルフマネジメントをすれば管理コストが下がる。そして全員がプレイヤーになれば全員が稼げるので、会社としても成果が出やすくなるのです。
もう一つは、クリエイティビティが上がるからですね。「再現性が少ない仕事」がいわゆるクリエイティブな仕事だと思います。たとえばライティング、デザイン、マーケティング、PRなどは基本的に今日やった仕事を明日もすることはない。おそらく、みなさんの関わる仕事のほとんどがクリエイティブな仕事ですよね。
では、クリエイティブな仕事は上司から命令をされて、管理をされて生産性が上がるのか?飴と鞭は効果的なのか?と考えると違うと思っていて。最も効果的にクリエイティブな仕事の生産性を上げる方法は、「楽しいな」という内発的動機で仕事をすることだと思います。となると、飴と鞭を振るう管理者は必要ない。むしろその人達がいなくなることで、クリエイティブな人たちが生産性を発揮できるのだと思います。
武井氏:事業がたくさん生まれることですね。私たちは従業員数30数名で、不動産・人材に関する事業を4つ展開しています。新しい事業が生まれる背景には、業界や世の中に対する疑問、そして「もっとこうなれば良いのに」という気づきがあります。僕らの会社のように情報を透明にして、フラットな組織運営をしていると、社会の不合理や歪みに違和感を感じやすくなるのかもしれません。「これはおかしくないか」と。それが自然と新規事業の発生につながります。
僕らのお客様である不動産業界は、情報の非対称性が高ければ高いほど収益が上がる構造なんです。人材エージェントも同じで、企業と求職者のミスマッチが起こるほど儲かります。このように利益相反が構造の前提にある業界は、結構あるんです。
その構造自体を変えたいなというのが、今までの事業の共通点。社員を企業同士でシェアリングするサービス「Tonashiba」も、その一つです。
しかし事業が成長するかは、ビジネスモデルにもよると思います。たとえば商品をたくさん売るというシンプルなビジネスモデルの場合、管理を徹底した方がうまくいくことも多いと思います。一方で複雑なビジネスモデルの場合、組織体系が柔軟であるティール型が適していることは、間違いないと思いますね。
武井氏:少し語弊があるかもしれませんが、「人にフォーカスしない」ということが一つあるのかなと。昔、私たちの会社で起こったことを話します。従業員数が10人ぐらいの時には、全員で合意に至るまで話し合うことを結構やっていました。でも人が増えて時間がだんだん取れなくなると状況が変わって。話し合いが永遠に平行線になることもありました。
また給料においても、人にフォーカスすると「俺は給料を上げたい」っていう人に「頑張るんだったら上げても良いんじゃないか」と許容する流れになりやすい。その結果、会社は赤字なのに給料はどんどん上がって。人を大切にしようとし過ぎると、結果として会社やお客さまに良くないことが起きます。そこで弊社は、給料を決めるガイドラインを考えることにしました。
社員一人ひとりという“人”はもちろん大事にしているのですが、それが偏ると「この人を好待遇にするとあの人は損をする」というように、歪みが生じる。自分の家族もパートナー企業も社会にも良い経営でなければいけません。そのバランスの難しさはいまだに感じています。
倉貫氏:僕らはどちらかというと、「人にフォーカスをする」組織経営です。僕が昔働いていたシステム開発の会社では「人月(1人が1カ月で行える作業量を表す単位)」単位でプロジェクトを進めていたんですね。1人が1カ月働いたら「1人月」です。なので10人10カ月のプロジェクトを進めたら「100人月」。中には「1000人月」のプロジェクトマネージャーもいます。
「人月」単位で評価していると、「この人は1人月でコストがこれだけかかって、進捗はこれだけなのか」と、エクセルだけを見て人を管理するようになるんですよね。それにはっと気づいたとき「怖いな」と思いました。一人ひとりの人生が1カ月1カ月に存在するのに、「1人月」とまとめている。このように人を数字で見るマネジメントはよくありません。自分がそう見られたら、モチベーションも上がるわけがないよなと思ったんです。
これは理想論だし綺麗事だと思うんですけれども、「誰一人不幸にならないような経営」をしたいなと思っています。そのためには確率論で経営をしてはいけません。
倉貫氏:通勤がない、管理がない、評価をしないことが大事なわけではありません。成果出すことが一番大事で、成果を出すためにはセルフマネジメントをした方が絶対良い。たとえ管理職がいたとしてもセルフマネジメントもできたら、成果がさらに上がるわけです。セルフマネジメントは、どの組織にも必要なことです。
マネジメントの本来の役割は、管理をすることではなく成果を上げること。「管理の裏側にある本質ってなんだろうか?」と突き詰めていくのが大事。そうすれば成果も上がっていくと僕らは考えています。
日本人は真面目なので、事業の成長というと、足し算をしてしまう。働く時間や制度、仕組みを増やすことばかり考えてしまうのですが、今の時代は引き算こそが大切です。制度や仕組みを減らしていって、楽に成果を上げていくにはどうすれば良いかを考えるのが重要なのではと。それが事業の成長にもつながっていくのではないかと思います。
武井氏:僕が常々思っていることは、結局人間同士コミュニケーションをとって対話しないことには、お互いの理解が深まらない。そして情報が透明化されていないと、対話が健全に保たれないということ。
僕らのような組織は世の中にどんどん増えていくと思いますが、僕は「情報の透明性」の重要性を一番に言いたいです。それが会社の中で整ってないと、フェアなコミュニケーションが取れません。情報に偏りがある状態で「言いたいことを言え」って、社員にとってはリスクでしかありませんよね。それがない状態をつくった上で、対話してみんなで会社と向き合っていく、それしかないのかなと思っています。
本イベントに登壇したティール組織、ホラクラシー組織の代表企業の共通点は、「“新しい組織”を目指していなかった」ということ。つまりどの企業も、本質を求めてたどり着いた、組織形態の「結果」にしかすぎないということです。意思決定のスピードを早くするため、成果を出すため、あるいは対話をする環境を整えるために。
組織運営に携わる人々がするべきことは、成功している組織の「側」を真似することではありません。自社のビジョンや現状と真剣に向き合い、そこから生まれる課題を解決した結果、理想の組織がつくりあげられるのではないでしょうか。
(文/田中 一成、撮影/二條 七海、編集/檜垣 優香(プレスラボ)、担当/齋藤 裕美子)
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d's JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】