社内外の同期が「集団の英知」をもたらす。スタートアップ合同入社式開催の真意とは

株式会社YOUTRUST

代表取締役 岩崎 由夏

プロフィール
株式会社HERP

代表取締役CEO 庄田 一郎

プロフィール

2019年4月2日、TECH PLAY SHIBUYA(東京都渋谷区)にて、『START-UP 2019 新卒合同入社式』が開催されました。当日はスタートアップ28社と、その新卒入社者50名が参加。参加理由について、各企業の担当者からは「スタートアップでの仕事は険しい道のり。乗り越えていかなければいけないことも多い中、周りの仲間と気持ちを共有できるのは良いことだと思う」(医療系スタートアップ代表)「自社の新卒に『みんなそれぞれに意志があってスタートアップを選んでいること』を知ってほしい」(人材系スタートアップ代表)といった声が寄せられました。

【スタートアップに入社する新卒社員は同期が少ない】という課題に着目し、同イベントを開催した株式会社HERPの庄田氏と、株式会社YOUTRUSTの岩崎氏。実は2人が新卒入社したのは、いずれも大手企業でした。多くの同期とのつながりを持っていた彼らに、今回のイベントを行った背景、そして彼らが考える「同期」という存在の強みについて話を伺いました。

合同入社式開催のきっかけはインターン生の入社だった

あらためて「スタートアップ合同入社式」開催の経緯を教えてください。

合同入社式開催のきっかけはインターン生の入社だった

岩崎氏:弊社の新入社員である堀内について、ブログを書いたことがきっかけでした。YOUTRUSTの新卒入社第1号であり、もともとはインターン生として働いてくれていたんです。彼女は自分の脳みそで考えて動ける、とても優秀なメンバー。「YOUTRUSTに入社してほしい」と思いながらも私から彼女を誘っていなかったのは、同期がいないからでした。

同期というのは本当にかけがえのない存在なんですよね。実はYOUTRUSTの共同創業者は、私が新卒で入社したDeNAの同期でもあります。同期のように、「定期的に会ってベタベタとつるむ訳ではないけれど、いざというときに助けてくれる仲間」はとても貴重です。だから堀内には「同期がいる会社に入ってつながりをつくってほしい」という想いがありました。

そんなある日、彼女が内定していた大企業を辞退して「アルバイトでもいいからYOUTRUSTで働かせてほしい!」という話をしてくれたんです。そのことが本当に嬉しくて、正社員として採用しました。私も覚悟を決めたというか。そして「堀内が入社してくれるなら、何としてでも仲間をつくってあげたい」と強く思いました。そこで彼女を紹介して、みなさんに彼女と仲間になってほしいという想いをまとめたブログを書いたんです。

何としてでも仲間をつくってあげたい

堀内さんの決意と岩崎さんの愛が伝わるとても良い記事でした…。

岩崎氏:ありがたいことに多くの反響がありました。その中で、仲良くさせていただいていたお客さまが「じゃあ一緒に入社式をやりませんか?」とお声がけくださって。ちょうどそのとき連絡を取り合っていた、学生時代からの友人でもあるHERPの庄田さんに「一緒にやる?」と誘ったんですよ。

そのとき、HERP社の新卒社員にも同期はいなかったのでしょうか?

庄田氏:弊社では2019年卒の新卒社員として3名が入社しました。新卒採用そのものは2017年の1期目から行っています。

すでに同期がいらっしゃる中で、今回の合同入社式に参加された理由を教えてください。

組織としても、学びがあると思ったから

庄田氏:合同入社式に参加することで、組織としても、学びがあると思ったからです。1社目がスタートアップというキャリアを突き進んでいくには、強い責任感が求められます。社内を見てもそれぞれのポジションが1〜2名ずつくらいしかいませんし、今の仕組みがベストプラクティス(最善の方法)なのかもわからない。そこで他のスタートアップの人たちがどのような仕組みで組織を運営しているのか、合同入社式の交流を通じて知ることができる今回の機会は、とても貴重な場だと思いました。

貴重な場

(スタートアップ合同入社式当日の様子)

そしてやはり、同期という存在が自分自身のまわりに大勢いることの価値を新卒メンバーにも体感してほしかったんです。僕が新卒で入社したリクルートでは同期が180人いて、その間で仕事にまつわる情報交換が活発に行われていました。新卒は体力的にももっとも活発に働ける時期だと思います。社内外問わず、さまざまな思考を持つ仲間とつながって、いろんな角度から刺激を受けた方が良い。

さまざまな思考を持つ仲間

(スタートアップ合同入社式当日の様子)

YOUTRUST社と同様、HERPも以前の同期に支えられている面が非常に大きいんですよね。ですから、新卒社員として入社してくるメンバーにもそのような関係をより多くつくってあげたいと考えました。

ちなみにお2人は新卒社員にどのような期待を持っていますか?スタートアップでは即戦力を求めて中途採用に注力するケースが一般的に多いと思いますが…。

庄田氏:新卒メンバーも組織にとって十分に即戦力なんです。これは僕が日頃から感じていることでもあります。「一から全て教育しなければいけない」という心配はあまりしていません。むしろ彼らは「今何をするべきか?」と自ら考えて行動に移してくれます。その上で、僕が新卒に求めるものは一人ひとり違います。スタートアップでは社員一人の持つ影響力が大きいので、「あの子にはぜひこんな風に頑張ってほしい」という個々への想いがあります。そして、共通して言えるのは「会社をつくるというプロセスで、一緒に頑張ってほしい」という期待を持っていることですね。

会社をつくるというプロセスで、一緒に頑張ってほしい

(スタートアップ合同入社式当日の様子)

岩崎氏:私も新卒は即戦力だと思っています。一人前の社員としてバリバリ仕事をしてもらっていますし、スキルも十分足りている。では、なぜ中途ではなく新卒を採るのか?それは、新卒の子たちが「知らない」という強さを持っているからです。スタートアップはそれまで誰も踏み込んだことのない領域を攻めるので、必ずしも過去の経験がポジティブに働くとは限りません。「過去にこのような施策を打って失敗したので、やめましょう」と行動の足枷になったり、思考を固めたり、思い込みの壁をつくったりする場合があります。だからこそ「知らない」「新しいものに対して抵抗がない」というのは大きな強みなんですよ。そのような新卒の子たちがつながっただけでも、今回の合同入社式の価値はあったのではないかと思います。

知らないという強さ

(スタートアップ合同入社式当日の様子)

同期という関係性は最高の“腐れ縁”

当日参加した新卒社員の方々からは「異業種・異職種の話を聞くことができた」「将来一緒に仕事をしたい人たちと出会えた」という声もありました。スタートアップ合同入社式の今後の動きを教えてください。

岩崎氏:会社側が介入し過ぎないように気をつけながら、勉強会などを開催できたらと思っています。けれども、同期全員とすぐに仲良くなる必要もなくて、みんなとの「腐れ縁」ができたことが、何よりも意味のあることだったと考えています。たとえば、10年後に「スタートアップ合同入社式の同期だったよね」と言える関係性の人がこの世に何人かいることって、実はとても大切で。後々の人生にボディブローのように効いてくるんですよね。同期はいつまでもつながることができる存在だと思います。

同期が100人以上いた大企業に新卒で入社したお2人にとって、同期はどのような存在でしたか?

庄田氏:新卒のころの僕はちょっと尖っていて(笑)。同期は全員、僕にとって絶対に負けてはいけない存在でした。中途採用の場合、入社する時期はそれぞれ異なることがほとんどですが、新卒の同期は入社のタイミングが同じで、基本的にスキルも条件もイーブン。「よーいドン!」で一斉に始まる感覚がありました。リクルートでの180人の同期の中で、「新人賞を必ず取って、絶対に1位にならないといけない」と血気盛んでしたね。間違いなく同期は、単なるライバルというよりも、自分自身がより大きく成長するためのドライバー的な存在でした。なので、「同期と必要以上に仲良くするのはダサい」と当時は思っていて。「目的がない会話は一切しない」と割り切って、距離感を保つように意識していましたね…(笑)。

同期という関係性は最高の“腐れ縁”

岩崎氏:私は庄田さんと真逆で(笑)、同期が大好きでした。もともと関西の大学から上京していて、インターネット業界のつながりもなかったので、同期しか友達がいなかったんですよ。だから仕事が終わればほぼ毎日同期と飲んで、土日も一緒に遊んでいました。同期は良き仲間でしたね。

お二人は新卒の会社から転職・起業をされています。会社を離れてから、同期との関係性に変化はありましたか?

庄田氏:大きく変化しました。今となっては非常にありがたい存在だと思っています。 先に起業をしている同期が何人もいたので、起業の仕方を教えてもらったり、僕が起業したら副業メンバーとして会社にジョインしてくれたり、「もっとさまざまな業界で ATSを導入いただけるようにしたい」と今後の展望を話すと一緒に市場リサーチをしてくれたり。「そこまで手伝ってくれるの!?」というレベルで助けてくれるんですよね。

非常にありがたい存在

岩崎氏:私も起業するときに、同期にはたくさん助けられました。たとえば「どうやってお金を借りたの?」「借金って怖くない?」というような話を、先に起業している同期にざっくばらんに聞けて。こういうリアルな泥臭い話って、同期だからこそ聞けるんですよね。

いろいろ聞くことができる

YOUTRUSTの共同創業者、副業で手伝ってくれているメンバーもDeNA時代の同期です。けれども、DeNA在籍当時は特別親しい間柄ではなかったんですよ。でも、庄田さんのように尖っていた同期も、みんなの輪に入っていなかった一匹オオカミ的な同期も、今はYOUTRUSTの仕事を手伝ってくれています。それってひとえに、「同期」という良い”腐れ縁”のおかげなんですよね。

「集団の英知」に向かう組織と、「集団の狂気」に陥る組織

組織における同期の重要性を教えてください。その前にまず、「組織力」という言葉をどう捉えていますか?

岩崎氏:私は、「集団の英知」と「集団の狂気」の違いに、組織力が表れると思っています。これは、組織の人数が増えたからこそ素敵なアウトプットができるようになった組織と、組織の人数が増えてしまったが故に間違った方向にいく組織のことです。クローズドな世界の中にいるあまり、間違った方向に進んでしまう…。こういった事例がまさしく「集団の狂気」だと思います。一方で、「集団の英知」として挙げられるのがGoogleです。彼らのように、全世界から多くの優秀な人を集めて、長い間良いサービスをつくり続けている組織もある。この両者の違いが、すなわち組織力の差なのだと思います。

ではなぜ「集団の狂気」に陥ってしまうのか?いろんな要素がありますが、大きな原因の一つは「組織の同質化」にあります。周囲からの情報を統制・制限し、限定された組織・集団の中で生活していると、それが世界の全てになってしまう。「上の人に気に入られたい」「集団内の人と上手くやりたい」という想いが高まり、個人のパワーがどんどん内向きになる傾向になるんです。

それでは、組織が「集団の英知」に向かうにはどうすればいいのでしょうか?

岩崎氏:外部とのコミュニケーションを活発にすることです。「集団の英知」を体現している組織は、個々人が複数のコミュニティを持っていて、それを今のコミュニティに還元している場合が多い。外と内のコミュニティの価値観の差を、よく理解できているんです。

庄田氏:情報をオープンにするか、クローズドにするかで組織力は大きく変わります。特にスタートアップの領域は前例がないことばかりで、創業期であればメンバーも数名しかいない。この人数の知見や価値観ってとても狭いものですよね。

集団の英知

だからこそ、外との関わりを積極的に持つべきなんです。定期的に勉強会を実施したり、「開発の優先順位の付け方はどうしているのか?」というような経験知をライトに聞けたりする関係性が外にあることは、組織の力を高めてくれるのだと思います。

岩崎氏:たとえば弊社の人間であっても、YOUTRUSTに閉じこもらず、HERPの価値観を少しでも知ろうとすること。そういったスタンスを自然に持って、活発な情報交換をするためにも、同期の存在は大切です。DeNAの同期が転職したり起業したりすることで、違う世界で頑張っている彼らからいろんな情報が入るようになりました。起業のリアルな実情や、大企業の文化や、他の会社との価値観の違いなど。会社を離れてそれぞれが散っていっても、同期なら気軽に連絡を取りやすい。合同入社式でつながったスタートアップの同期達がそんな存在になってくれたら、それは何よりも嬉しいことですね。

まとめ

【取材後記】

会社に入ることで出会う、同期という存在。気軽に悩みを相談できる精神的な支えでもあり、切磋琢磨できるライバルでもあり、会社を離れても生の情報交換ができる同志でもあります。

このような唯一無二の関係性が築かれ、同年代の結束力が高まることは、組織力を高めたい企業に好影響をもたらしてくれるはずです。さらにその同期の輪を社外に広げることにより、情報が循環し、「集団の英知」を体現するような組織になれるのではないでしょうか。

あなたにとって同期とはどのような存在ですか?そんな問いを持って臨んだ今回の取材。「偶然同じタイミングで入社した、社員の中の1人」以上の価値が同期にはあると、お2人の話から強く感じました。

(取材・文/田中 一成、撮影/西村 法正・黒羽 政士、編集/檜垣 優香(プレスラボ)、企画・ディレクション/齋藤 裕美子)