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採用現場にも押し寄せる、多様化の波。人材紹介サービスや求人広告(求人媒体)を介して候補者と出会う、というこれまでの採用のスタンダードに変化の兆しが見られます。
その中で近年大きな注目を集めているのが、社員全員で採用に取り組む「スクラム採用」。たとえばリファラルリクルーティングを戦略的に行ったり、イベントを開催して参加者をリクルーティングしたりなど、現場の社員が主役となる採用が広まりつつあるのです。
4月23日、スクラム採用成功の秘訣を探るイベント「Scrum Recruiting LABO #2」が都内で開催。司会を株式会社HERP代表の庄田一郎氏と株式会社YOUTRUST代表の岩崎由夏氏が務め、株式会社SmartHR代表の宮田昇始氏と株式会社ミラティブ代表の赤川隼一氏が登壇しました。
庄田氏はスクラム採用の基本的な考え方として、「採用担当者は採用プロジェクトのマネジメントに注力し、その成果を最大化するべき」と話します。そんなスクラム採用を実践している各社に、「どうすれば社員が積極的に採用へコミットするのか?」「採用は評価基準に入れているのか?」というリアルな採用事情に迫ったイベントの模様をお届けします。
※スクラム採用とは、株式会社HERPが提唱している考え方となります。
イベント前半ではスクラム採用の効果について、司会の一人、YOUTRUST岩崎氏が自身の経験も交えて説明しました。
岩崎氏:私が前職(株式会社ディー・エヌ・エー)の採用担当者だったときは、徹底的なKPI採用を行っていました。毎日数値を分析して追跡し、エントリーからクロージングまで全て自分で取り組んでいました。すると、リファラルリクルーティングがほぼ皆無に等しくなって。さらに現場からは「面接を入れられ過ぎて困る」といった不満も出たんです。
(参照:『1人応募1人採用の世界を-元DeNA人事が副業・転職マッチングSNSを作った理由』)
当時の一番の問題は、現場から「チームづくりという最も面白い仕事」を奪っていたことではないかと思うんです。これに対しスクラム採用は、「チームづくりという面白い仕事を奪わない」採用手法だと捉えています。
スクラム採用における採用担当者のミッションは「採用を成功させるために、採用プロジェクトを推進すること」。だから採用活動自体はミッションではない、むしろやるべきではないとさえ思います。
同社を退職後、フリーランスとしてクライアント企業の採用業務を手伝っていたときに、この考えを実践に移しました。採用担当者として行った仕事は2つ、「全社の採用文化づくり」と「採用の進捗管理」です。面接や面談、候補者との会食などは全て現場に任せました。
その結果はというと、リファラルでの採用率が90パーセントを超えました。社員数は半年間で20名から約60名に。また、自分達と一緒に働く人を自分たちで選べることがモチベーションにつながったのか、現場のコミットも上がりましたね。
今回登壇したSmartHRとミラティブの採用には、常に多くの注目が集まっています。
ミラティブが公開した44ページにも及ぶ『採用候補者様への手紙』は、プロダクトやサービスをロジカルに説明するだけではなく、代表の想いも注ぎ込まれたエモーショナルな採用資料でした。その結果、SNSを中心にシェアが広がり、数日で数万PVを突破。一方、SmartHRは、Webで公開した面接資料が話題に。福利厚生や企業文化の紹介にとどまらず、社員の給与テーブル・昇給実績というリアルな情報を載せた資料のPVは41万を超え、面接総数は5.3倍に増えたといいます。
イベント後半となるQ&A形式のトークセッションでは、採用活動を成功させているこの2社のリアルな採用事情に迫りました。
赤川氏:積極的ですね。その根本理由は、メンバー自身が会社や仲間のことを好きだからだと思っています。僕が強く思うのは「順番」を間違えてはいけないということ。「自慢したくなる状態をつくるから自慢が起きる」のですね。たまに社内で勉強会をすると、外部来場者の方から「社員さんが自社のことをすごく好きなんですね」と言われることがあって。そういう状況をつくるから、社員が採用にも積極的になりますし、話すときの言葉が強くなって、醸し出す雰囲気が変わるんです。
宮田氏:弊社の社員も積極的だと思います。と言っても、会社側から採用へのコミットを直接的に促すことはありません。SmartHRのコンセプトの1つに「命令が少ない組織をつくろう」というものがあるからです。命令ってされるのは嫌ですし、逆に命令するのも嫌なもの。「水は低きに流れ、人は易きに流れる」という言葉もあります。あくまで、みんなが自然と採用に協力してくれるように「この採用活動は自分にとって得があるぞ」と思ってもらう工夫をしています。
その一つが、リファラルリクルーティングを支援する報酬制度。『リファラルご飯』は、元同僚や知人と食事に行くとその費用を会社が負担するものです。すると「会社の負担で食事ができて嬉しいし、採用につながればラッキーだ」という気軽な心持ちで元同僚や知人を食事に誘えるようになります。さらに、実際に採用が決まると30万円を支給するので、クロージングにも協力してもらいやすくなる。弊社のメンバーのうち、約3割はリファラルリクルーティングでの入社です。
もちろん、そもそも報酬制度よりも「この会社を良くしたい」「この会社に長くいたい」「一緒に働いて楽しい人を、この会社に入れたい」と思ってもらうことが大切ですけどね。
宮田氏:必ずしも、常に必須とは言えませんね。社長は会社を存続させること、事業を成長させることにコミットするものです。もちろん採用は重要な機能ですから、コミットするのは当たり前だと思います。しかし、社長の業務の中で採用に最もコミットするかどうかは場合によります。たとえば事業がとても順調だけど採用がボトルネックなら、採用に一番時間を使います。一方で採用が順調なら、その他のボトルネックを追求するのが社長の役割だと思います。
赤川氏:僕は必須かなと思います。今の時代、企業は「これをやろうぜ!」というミッションを旗として立てて、ミッションドリブンで事業を行っていくことがより重要になっている。その旗に集まってくる人たちを探すのが採用だとすると、社長がその旗から離れた場所にいるのは違和感がありますね。
岩崎氏:ちなみに何割ぐらいの時間を採用活動に使われていますか?
赤川氏:単純には言えない感覚があります。僕はあらゆる場面のコミュニケーションが採用につながり得ると思っていて。誰かの記憶に残っていれば後々何かにつながるかもしれません。「人に会う瞬間の一つひとつが、もしかしたら結局は、事業につながるかもしれない」という考えで動いていると、あらゆる行動が採用活動になるんです。
人によって採用の得意不得意があるので、得意な人事・採用担当者に一任する選択もあります。でも「社長にしかできない採用」があるとも思っていて。僕が好きなのは、株式会社ペロリの創業者・中川綾太郎さんから入社のオファーをうけた女性の話です。中川さんは彼女に「やっと〇〇さんの人生を背負う覚悟ができたよ」と言ったといいます。その言葉に感激して、彼女は入社を決めたと聞きました。最終的には、結局信用してもらえるかどうかが大事。社長によるコミットは、最後の一押しとしても必要だと思います。
宮田氏:弊社では入れていません。理由としては、本業を正しく評価しようと考えているからです。人事・採用担当者以外の社員に求める成果は、採用ではありません。もちろん採用に貢献してくれたメンバーに何も与えないわけではなく、リファラルリクルーティングをしてくれた場合は報酬を支払っています。
一方、採用イベントなどを通した採用の場合は、定性評価に入れています。「会社の価値観にマッチした行動をとっているか?」という定性評価の項目に「自律駆動」があって、これは会社の状況を見て自分で考えて動こうとする価値観のこと。採用活動は、例えばここに該当したりします。
リアクションがまったくないと、採用に取り組む意欲がなくなると思います。だから何かしらの報酬を与えたい。でも報酬は目に見えるお金だけに限りません。たとえば誰かの紹介で採用が決まったとき、人事・採用担当者がSlack(編集部注:コミュニケーションツール)に10行ぐらいの文章を投稿してくれるんです。「新しくAさんの採用が決定しました!Aさんは○○チームのBさんが紹介してくれて、他のチームのCさんとDさんも会食に協力してくれた結果、入社を決めてくれました!」といった形ですね。
Slackの投稿には社員が絵文字をたくさん付けて賞賛してくれるので、紹介した人は嬉しくなって「また人を紹介しよう」と思ってくれるかもしれません。このような感情報酬も意識しています。
赤川氏:宮田さんと同様に、弊社も採用活動は評価軸に入れていません。ミラティブではOKR(目標と主要な成果)に採用項目を置いていますが、評価にはひもづけません。理由は、数を目的にしてほしくないから。たとえばエンジニアチームが、自発的に人を採用してくれることはとても誇らしいです。でもそこに評価制度を置いたとして、仮に「3人採用するって言ったのに採れてないじゃないか!」と理詰めをする文化になると、それまで純粋だった思いがゆがんでいってしまう。
採用で何より大事だと思うことが、大好きな本『How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント』に書いてあります。「質を犠牲にしてまでやるべき採用なんてない」と。会社と候補者がお互いに尊敬できるような採用の連続が、また採用競争力につながると思っています。
宮田氏:入社前の期待値コントロールが重要だと思います。弊社の場合は面接の場で「うちの会社はこれら6つの価値観に沿って活動しています。この価値観に合っている人は給料は上がりやすい、合っていない人は給料が上がりにくいので入社しない方がいいですよ」と、明確に伝えています。
岩崎氏:会場から「採用において大切にしていることは何ですか?」という質問もあるので、ぜひ教えてください。
宮田氏:新卒で入社した会社の上司との話をさせてください。ある日、上司から「会社の一番のお客さまは誰だと思う?」と聞かれました。「わかりません。〇〇社でしょうか?」と答えたら「違う、社員だよ」と言われたんですね。「お客さまは数十万円、数百万円のお金を払っているだけ。さらにそれは、自分のお金ではなく会社のお金。対して、社員は人生で一番貴重な数年間を会社に渡すんだ。会社の一番のお客さまは社員であるし、彼らが数年間払ってくれた対価に報いることを会社はしなくてはならない」と話していて、深く納得しました。その考え方は今もベースにあります。事業で一番面白いのは採用だと思いますし、採用活動は、自社にとって一番のお客さまをつかまえに行っている感覚です。
赤川氏:常々思っているのは、“みんなにとって良い会社”は存在しないということです。僕の大好きな「THE BLUE HEARTS」の甲本ヒロト氏(編集部注:現在はザ・クロマニヨンズのボーカリスト)は「売れているものが良いものなら、世界一のラーメンはカップラーメンだ」と言っていて。これを会社の話に置き換えると、みんなが褒めているから良い会社、というわけではないんです。インターネット以降の情報革命の本質的な素晴らしさは、自分にとって良いものを探せるようになったこと。採用においても、企業と候補者の双方が納得できるマッチングが大切です。そのためにはお互い傲慢にならず、採用と真摯に向き合うしかないと思っています。
事業部メンバーの協力が不可欠となる「スクラム採用」。その実践における重要なことについて当イベントではさまざまなお話がありましたが、特に宮田さん・赤川さんのお二人が大前提として強調していたのは「社員が会社を自慢したくなる状況をつくること」でした。
全社員が会社を好きになることで、候補者に語る話にも熱がこもり、表情が生き生きとします。採用成功の鍵は、変化の激しい採用市場を分析するよりも前に、同じ環境で苦楽を共にする社員を幸せにすることなのかもしれません。
(取材・文/田中 一成、撮影/黒羽 政士、編集/檜垣 優香(プレスラボ)、編集・企画/齋藤 裕美子)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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