【5分でわかる】育児休業制度とは?延長の場合や給付金など、企業が対応すべき申請6つ

Eight months old baby girl using a laptop on the couch at home.
大江戸綜合法律事務所

代表弁護士 下地 麻貴【監修】

プロフィール

近年、人材が不足している中で、企業では出産・育児による離職防止の施策が進んでいます。その一つが、社員の育児休業取得促進や復帰に対する支援です。社員からの申し出を受けてから実際に休業に入るまでのほんの数カ月という短い期間で、社会保険料の免除や給付金の申請など、たくさんの手続きを行わなければいけません。そのため、いざという時に慌てないように事前に把握しておくことが大切です。ここでは、社員が育児休業を取得する際に人事担当者が対応すべきことを、育児休業に関する基本情報と併せて、具体的に解説します。

育児休業とは?育児休暇との違い

育児休業とは、社員が子どもの養育のために取得する休業のこと。1991年に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」で定められました。育児休業の取得は義務ではありませんが、社員が希望する場合に、企業は断ることができません。
厚生労働省の『平成29年度雇用均等基本調査(P18-19)』によると、出産した女性社員の80%以上が育児休業に入っており、ここ数年では男性の育児休業も増えています。

育児休業の対象となる社員の条件

1歳未満の子どもを持つ社員は、男女共に対象となります。しかし、日雇い労働者は育児休業の対象にはなりません。また、雇用の期間が決まっている労働者について①同一の事業主に継続して雇用された期間が1年未満の場合 ②休業終了後(子が1歳6カ月(2歳までの休業の場合は2歳)を経過する日まで)、引き続き雇用される見込みがない場合には、適用対象外となります。また、有期・無期を問わず③継続雇用1年未満の労働者、休業申出から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定を結んだ場合に対象外となります。
(参考:厚生労働省『育児・介護休業法のあらまし(P15)』)

1歳未満の子どもを持つ男女の適用

同一の事業主に引き続き雇用された期間が
1年未満の有期契約労働者
適用除外
休業終了後、引き続き雇用される
見込みがない有期契約労働者
適用除外
左記以外 適用(※)
無期雇用 適用(※)
日雇い労働者 適用除外
※ただし、労使協定がある場合、上記③は対象外となる。

育児休暇との違い

一般的に「育休」と呼ばれる「育児休業」ですが、似た言葉として「育児休暇」があります。

法律で基準が定められている「育児休業」とは違い、「育児休暇」は各企業が独自に定められます。そのため、育児休業を取得できない雇用期間が短い労働者に対して休暇制度をつくったり、社員の希望や状況に合わせて独自で期間を延ばしたりできます。企業が独自にこれらに取り組むことにより、人材の確保につながります。まずは「育児休業」の内容をしっかりと理解した上で、自社に合った「育児休暇」の導入を検討してみましょう。

 種類 主体 特徴
育児休業 育児・介護休業法により定められる 国が定める一定の条件が当てはまる場合に、
育児休業を取得した社員に「育児休業給付金」が支給
育児休暇 企業が独自に設定 育児休業を取得できない労働者(雇用期間が1年未満など)に対しても、制度を設けることができる
(例:育児休暇期間を最大3年間取得できるなど)

育児休業に関して就業規則への記載が必要

企業が育児休業制度を実施するとき、育児休業制度に関する規定を就業規則に記載する必要があります。

育児休業に関して就業規則に記載する項目(労働基準法より)
●付与要件(対象となる労働者の範囲等)
●取得に必要な手続
●期間
●育児休業期間の賃金の支払の有無・内容

自社の就業規則を見直し、育児休業に関する記載に漏れがないか・内容が法にのっとっているかなどを、今一度確認してみましょう。なお、常時10人以上の労働者を雇用している企業は、就業規則を作成・変更した場合に、労働基準監督署への届け出が必要となります。
(参考:厚生労働省『就業規則への記載はもうお済みですか ―育児・介護休業等に関する規則の規定例-』)

育児休業が取得できる期間と延長のケース

育児休業の期間は、性別で異なります。ここでは、取得できる期間について性別に分けて説明します。これまでは育児休業を取るのは女性がメインでしたが、近年では「働き方改革」の一環として、女性・男性両方の育児休業を促す動きが活発になってきました。そこで国が特例として打ち出した、男性が育児休業を2回取得できる「パパ休暇」、両親で育児休業を取ることで期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」についても、併せてご紹介します。

女性は産前産後休暇(産休)終了日翌日:延長の場合は子供の2歳の誕生日まで

女性は一般的に出産直後の産休から続けて育児休業を取得します。そのため、産休終了日の翌日が育児休業の開始日となります。

育児休業終了日は、原則として子どもの1歳の誕生日の前日までとされています。しかし、保育園に入園できない場合には1歳6カ月まで延長でき、さらに待機児童問題により、1歳6カ月時点でも入園できなかった場合には、申し出により最長2年まで延長可能となりました。

産前産後休業から育児休業までの期間

産前産後休業から育児休業までの期間
出産予定日が2020年10月15日の場合、産前産後休業から育児休業終了までの期間は次のように計算できます。

産前休業:2020年9月4日~2020年10月15日(6週間)
産後休業:出産日の翌日2020年10月16日~ 2020年12月10日(8週間)
育児休業:産後休業終了日の翌日2020年12月11日~2021年10月14日(1歳の誕生日の前日)

上記のように、産前休業+産後休業+育児休業で合計「1年と6週間」となります。

男性は出産直後まで:延長の場合は子どもの2歳の誕生日まで

男性は、配偶者の出産日当日を育児休業の開始日とすることができます。
終了日は女性と同様の考え方で、子どもの1歳の誕生日の前日までとされています。女性と同様に保育園に入園できない場合には1歳6カ月、さらに入園できなかった場合には、申し出により最長2年まで延長できます。

男性が2回育児休業を取得できる「パパ休暇」

パパ休暇とは、配偶者の「産後休業期間中(出産後8週間以内)」に男性が育児休業を取得した場合に、再度期間を空けて育児休業を取得できる制度です。2回に分けることで、配偶者の「産後のケア」と「職場復帰」のために、それぞれの側面からサポートをすることができます。
男性が2回育児休業を取得できる「パパ休暇」
(参照:厚生労働省『パパ休暇』)

両親が共に育児休業を取る場合に、期間が延長される「パパ・ママ育休プラス」

パパ・ママ育休プラスとは、両親共に育児休業を取得して以下の要件の全てに該当する場合、子どもが1歳2カ月になるまで期間が延長される制度です。

●子どもが1歳に達するまでの間に、配偶者が育児休業を取得している
●子どもの1歳に達する前に、本人が育児休業の開始を予定している
●配偶者の育児休業初日以降に、本人が育児休業の開始を予定している

「男性と女性が交代で育休を取りたい」「男性と女性が2人一緒に、かつできるだけ長く育休を取りたい」といった子育てや職場復帰の計画に合わせて、育児休業の期間を調整することができます。

パパ・ママ育休プラス
(参考:厚生労働省『両親で育児休業を取得しましょう!』パパ・ママ育休プラスより)

産休・育休のときに企業が行うお金まわりの4つの申請

社員は産休・育休に入るとき、保険料の支払い免除や手当・給付金の支給などお金まわりのサポートを受けることができます。企業が取りまとめて申請するものも多く、それぞれ申請時期や申請先が異なりますので確認しておきましょう。

対象 申請者 申請先 申請時期
社会保険料免除 本人・企業 企業 年金事務所 産休開始時/育休開始時
出産手当金 本人 本人または企業 健康保険組合 産休を開始した翌日から2年以内
出産育児一時金・
家族出産育児一時金
本人 本人または医療機関 健康保険協会 出産予定日前の2カ月以内
育児休業給付金 本人 企業 ハローワーク 初回は育児休業開始から4カ月以内
(以降2カ月に1回、申請書を提出)

社会保険料の免除手続き

社会保険料の免除手続き産休・育休で就業していない期間中、本人・企業共に社会保険料の支払いが免除されます。産休と育休の両方を取得する場合は、それぞれ申請が必要となります。

<産前産後休業中の免除>
●対象:健康保険に加入する労働者で産前産後休業を取得した本人と企業
●免除期間:産前産後休業の開始日を含む月から、終了日翌日を含む月の前月までの期間
●申請者:企業
●申請先:年金事務所
●申請時期:産前産後休業の申し出を受けたとき(産前産後休業期間中)
●申請書:「産前産後休業取得者申請書

(参考:日本年金機構『産前産後休業保険料免除制度』)

<育児休業中の免除>
●対象:健康保険に加入する労働者で「1歳未満の子どもを養育するための育児休業」「保育所待機等の特別な事情がある場合の1歳から1歳6カ月に達するまでの子どもを養育するための育児休業」「保育所待機等の特別な事情がある場合の1歳6カ月から2歳に達するまでの子どもを養育するための育児休業」「1歳から3歳に達するまでの子どもを養育するための育児休業に準ずる休業」のいずれかを取得した本人と企業
●免除期間:育児休業等の開始日を含む月から、終了日翌日を含む月の前月までの期間
●申請者:企業
●申請先:年金事務所
●申請時期:育児休業の申し出を受けたとき(育休期間中)
●申請内容:「育児休業等取得者申請書

(参考:日本年金機構『育児休業を取得したときの手続き』)

出産手当金の申請

出産手当金とは、健康保険に加入している労働者を対象に、産前産後休業期間中に賃金の3分の2相当額が支給されるものです。申請書には、本人と企業だけでなく、医師・助産師が記入する欄もあります。

●対象:健康保険に加入する労働者で、妊娠4カ月(85日)以降に出産し、出産のために休業して事業主から給与の支払いを受けていない本人
●支給期間:出産予定日の42日(多胎妊娠の場合は98日)前から出産後56日目までの98日間の範囲内で、会社を休み給与の支払いが無かった期間
●1日あたりの支給額:
【支給開始日以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額】(※)÷30日×(2/3)
●申請者:本人または企業(医師・助産師の記入欄あり)
●申請先:健康保険協会
●申請時期:産前産後休業を開始した翌日から2年以内
●申請内容:「健康保険出産手当金支給申請書

(参考:全国健康保険協会『出産手当金』)

出産育児一時金・家族出産育児一時金に関する情報共有

出産育児一時金とは、健康保険に加入している労働者が出産したときに申請すると、1児につき42万円支給されるものです。一般的に出産を行う医療機関もしくは本人が申請するため、企業では特に手続きを必要としませんが、社員が安心して出産を迎えられるよう案内するとよいでしょう。

●対象:健康保険に加入する労働者またはその家族(被扶養者)で、妊娠4カ月(85日)以降に出産した本人
●申請者:医療機関(直接支払制度)または本人(受取代理制度)
●申請先:健康保険組合
●申請時期:出産予定日の2カ月前以降(受取代理制度の場合)

(参考:全国健康保険協会『出産育児一時金、家族出産育児一時金』)

育児休業給付金の申請

育児休業給付金とは、一定の基準を満たす労働者が育児休業中に申請することで支給される給付金のことです。条件や申請方法がやや複雑なので、しっかりと確認して申請を進めましょう。

●対象:雇用保険に加入する労働者で、1歳(パパ・ママ育休プラスを利用する場合は1歳2カ月、支給対象期間の延長に該当する場合は1歳6カ月または2歳)の子どもを養育するための育児休業を取得した本人
●条件:
・休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数11日以上ある完全月が12カ月以上ある
・育児休業期間中1カ月ごとに、休業開始前の1カ月当たりの賃金の80%以上が支払われていない
・育児休業期間中、就業している日数が1カ月当たり10日以下である
●1カ月当たりの支給額:
【育児休業開始時賃金日額】×【支給日数】×0.67(6か月経過後は0.5)
●申請者:企業
●申請先:ハローワーク(公共職業安定所)
●申請時期:初回は育児休業開始日から4カ月を経過する日の属する月末

(参考:厚生労働省職業安定局『育児休業給付について』)

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育児休業給付金の計算方法

育児休業給付金は、2カ月ごとに決められた金額が支給されます。受給者によって金額は異なり、支給額には上限・下限があります。1カ月当たりの支給額は、以下の計算式で算出できます。

育児休業開始時賃金日額×支給日数×0.67(6カ月経過後は0.5)

(参考:厚生労働省『育児休業給付金の内容及び支給申請手続について』

育児休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6カ月間の賃金を180で割った金額です。ここでいう賃金とは、手取り金額ではなく、残業手当や通勤手当、住宅手当などを含む給与額面を指します。
例として、休業開始直前の6カ月間で180万円(1カ月30万円)の賃金だった場合の支給額を計算してみましょう。

休業開始時賃金日額:1,800,000円÷180=10,000円
1カ月の支給額(育児休業開始から180日):10,000円×30日×0.67=201,000円
       (育児休業開始から181日):10,000円×30日×0.50=150,000円

育児休業に伴って企業が受け取れるお金 

育児休業の取得を促すための取り組みにより実績を出した企業に対して、政府は助成金を支給しています。どのような場合に支給されるのかを確認し、自社での導入を検討してみましょう。

両立支援等助成金(育児休業等支援コース)

社員が円滑に育児休業を取得・職場復帰するための計画を立て、一定の実績が出た場合に、助成金を受け取れます。助成金の内容は以下の4種類に分かれています。

①育休取得時 育休復帰支援プランに基づいて育児休業を取得した場合
②職場復帰時 育休復帰支援プランに基づいて育児休業から復帰した場合
②(職場支援加算) 育児休業期間中に、職場支援の取り組みをした場合
③代替要員確保時 育児休業取得者の代替要員を確保した場合
④職場復帰後支援 育児休業から復帰後の労働者を支援する取り組みをした場合

両立支援等助成金(出生時両立支援コース)

男性労働者が育児休業を促すための取り組みを企業が行い、一定の条件をクリアした場合に、助成金を受け取れます。助成金の内容は以下の2種類に分かれています。

①男性労働者の育児休業 男性労働者が育児休業を取得した場合
②育児目的休暇 育児目的休暇制度を導入し、男性労働者が利用した場合

育児休業から復帰する際に企業が行う2つの申請

社員が育児休業から復帰するときにも、企業が行わなければならない手続きがあります。

社会保険料免除の終了手続き

育児休業に入るとき、社会保険料免除のため「育児休業等取得者申請書」を提出しました。そこに記入した育児休業終了予定日よりも前に社員が育児休業を終えた場合、企業は「育児休業等取得者終了届」を提出する必要があります。育児休業終了予定の前日までに提出することで、育児休業期間の終了日翌日を含む月の前月まで保険料が免除されます。
ただし、以下の場合は、終了届を提出する必要がありません。

●「育児休業等取得者申請書」に記載した育児休業終了予定日通り、育児休業を終えた場合
●育児休業中に次の子どもを妊娠し、続けて産休を開始(休業取得者申出書を提出)した場合

(参考:日本年金機構『育児休業等終了予定日前に育児休業等を終了したとき』)

社会保険料の変更手続き

育児休業から復帰して小さな子どもを育てながら働くと、勤務時間が短くなったり休みがちになったりと、休業前のように働くことが難しくなります。また育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを持つ社員について、短時間勤務などの対応を取ることを企業に義務付けています。
(参考:『【弁護士監修】短時間勤務制度を育児や介護、通院等で正しく運用するための基礎知識』)

労働時間の短縮などにより、ほとんどの場合は給料が下がるため、それに応じて控除される社会保険料を変更する必要があります。復帰後3カ月間に支払った給与の平均額を基に「育児休業終了時報酬月額変更届」を作成し、年金事務所に提出しましょう。
(参考:日本年金機構『育児休業等終了時報酬月額変更届の提出』)

産休・育休から復帰までの社員のメンタルケア・フォローも忘れずに

社員が産休・育休に入る際、「子どもが生まれてからも仕事ができるのか」「上司や同僚、後輩に迷惑を掛けてしまうのではないか」と不安を抱えている可能性があります。実際に、妊娠中に不安を感じて出産を機に退職したり、せっかく育休から復帰しても仕事と家庭を両立できずに退職したりするケースも少なくありません。企業は、社員に育児休業制度の周知を行うとともに、対象者には面談を行うなどのメンタル面のフォローも必要です。面談は対象者と、その上司を含めて次のように行うと良いでしょう。
(参考:厚生労働省『育休復帰支援プラン策定のご案内(P67-70)』)

①妊娠報告・休業申し出面談

出産予定日、産休・育休期間の確認、休業までの取り組み(業務の引き継ぎなど)の確認を行います。女性の場合、妊娠中は体調を崩しがちですので、「現在担当している業務が身体に負荷の掛かるものでないか」「休業前の業務内容や就業時間で調整が必要な点はないか」についても確認しましょう。

②休業前面談(休業2カ月前が目安)

前回の「妊娠報告面談」の内容から変化がないかを確認します。また、復職後に「どれくらいの時間働きたいか」「どのような仕事内容を希望するか」などのイメージも事前に擦り合わせておくことをお勧めします。また、休業中に連絡を取る必要も出てきますので、メールや電話など連絡先の確認もしておきましょう。

③復職前面談(復職1~2カ月前が目安)

子どもの入園に関する状況を聞き、復帰予定日についても変更がないかを確認します。また、復帰する上で不安に感じていることをヒアリングし、安心して復帰できるように復帰後の働き方を擦り合わせましょう。

④復職後面談(復帰2カ月後が目安)

実際に復帰してみて、困っていることがないかどうか、状況を確認します。業務面だけでなく、体調面や育児状況についても気に掛け、無理なく安心して仕事ができるようにサポートしましょう。

【まとめ】

社員が育児休業に入る際に、企業が対応すべき内容についてご説明しました。やることはたくさんありますが、一つ一つを丁寧に行うことで、社員は休業を経ても安心して働き続けることができます。自社の育児休業制度の強化により、社員の家庭と仕事の両立を後押しして、働きやすい環境づくりを進めていきましょう。

育児休業フォーマット一式(申出書、承認書、取扱通知書)

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