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人事、経営企画を経て、サイバーセキュリティ戦略本部へ異動。定例的・定型的な人事業務を担当しないHRBPとして先端技術者の新しい採用、育成、配置モデルを構築。現在、AI、セキュリティ、生体認証などを統括する企画部門にてシニアマネージャー(企画部長職)を務める。
カナダのマギル大学卒業後日本に移住、アクセス・テクノロジー(株)でインフラ・IT 部門を統括し、2009年、インジニアムグループ(株)テクノロジー部門へヴァイスプレジデントとして入社。バイリンガル・バイカルチュラル・ヘッドハンターとして、国内でのベンチャーや大手IT企業のクライアントに対し、エグゼクティブ・サーチを手がける。2013年4月に日本オラクル株式会社へ入社。現在、採用企画部でコーポレート・リクルーティング・チームのディレクターを担う。
2014年6月よりfreee に参画。3年間で営業社員0から150名規模のセールス組織を作りあげた後、2017年7月より現職のCPO(Chif People Officer)として人事・採用面から経営に携わる。
時代の変化に合わせて、人事・採用担当者の業務範囲は圧倒的に広がっています。そのため、人事・採用担当部門の努力だけでは採用成功が難しくなり、いかに現場や経営者の協力を得て、周囲を巻き込んでいくかが鍵になっています。しかし、本来の業務に差し障るなどの理由から、と協力を依頼しづらい人事・採用担当者の方も多いのではないでしょうか。採用がうまくいっている企業に共通して言えるのは「周囲を巻き込むことに成功している」ということ。全員人事やスクラム採用という言葉に表れているように、人事・採用担当者がプロジェクトオーナーとしてまとめつつ、全社員で採用していく時代になっていると言えるでしょう。
そこで、日本電気株式会社 峯岸 誠氏、日本オラクル株式会社 鈴木 デービット氏、freee株式会社 野澤 俊通氏による講演を実施。モデレーターに、株式会社メルカリ 執行役員 VP of People & Culture 唐澤俊輔 氏を迎え、今回のテーマ「採用×巻き込み」についてはもちろん、採用戦略やこれからの在り方までディスカッションされました。その内容をお届けします。
峯岸氏:こんにちは。峯岸と申します。私は最初人事を担当していたんですけれど、その後は経営企画部門やサイバーセキュリティ部門、そして今はデジタルビジネスプラットフォーム企画本部で企画部長を務めております。
NECではサイバーセキュリティ事業を注力領域としています。例えば、世界中からのサイバー攻撃をセキュリティ技術者が監視、解析し、問題対処しているのですが、私はこういうチームの採用も担っています。当社のサイバーセキュリティ部門は、私が異動してきた2015年時は600人の所帯だったのですが、当時のミッションは、この倍の1200人に増やせというものでした。しかしご想像の通り、サイバーセキュリティってIT業界全体の中では非常にニッチな領域なんですね。だから「中途採用なんて、無理に決まっているよ」と散々言われました(笑)。諦めるわけにもいかないので、とにかく自分でレジュメを見て、部長たちに確認してもらい…という作業を繰り返し行って、だんだん採用活動がうまくいくようになってきました。現在では、新卒・キャリアと両方採用をしており、グループ会社を含めた20部門から「採用を手伝ってほしい」「助けてくれ」とまで言われております。そのため私たちのチームでソーシングをフォローするなど、人事としての範囲が広がっている状態ですね。
野澤氏:私たちfreeeは、『スモールビジネスを、世界の主役に。』をミッションに、会計ソフトから人事労務ソフトなど、さまざまなプロダクトを展開している企業です。私が入社した2014年はまだ社員数が30名程度でしたが、現在は500名規模へと成長してきました。年間100名ぐらい入社していまして、そのうち新卒採用が3割です。当社では昔からずっと「ダイレクトリクルーティング」に本腰を入れ、こだわり続けているんですね。採用チームは約10名。今回新たに、新卒・中途・エンジニア採用それぞれに、1名ずつ専任のリクルーターを配置しました。
「現場巻き込み」において私たちが重要視しているのは、採用目標は全社共通のOKR(※)であること。事業計画を立てる上でヘッドカウントが非常に大事になるわけですが、それらの数値を設定するのが各事業部です。その事業部のOKRの中に、採用人数をコミットしてもらうんですね。私たち人事はというと、彼らをサポートする部隊、つまり、採用というプロジェクトをマネジメントする立場として位置付けています。また全社員を採用に巻き込んでいくために、人事が率先して施策を行っているのですが、本日はそのお話もできればと思っております。
鈴木氏:簡単な自己紹介をさせていただきます。生まれ育ちはカナダで、ちょうど2000年のITバブル時に日本で人材紹介サービス会社に入社しました。約13年間勤務して、2013年に日本オラクルに転職し、ずっと採用を担当しています。オラクルという会社はデータベースカンパニーというイメージが強いかもしれません。日本ではここ2~3年でビジネストランスメーションを行っており、データベースカンパニーからクラウドカンパニーへと変革をしている段階です。採用についてですが、厳しいIT業界ですから即戦力人材、つまり中途採用がメインで、約15~16名で回しています。主にダイレクトリクルーティングを行っており、人材紹介は極力使っていない状況です。
当社でも、各事業部門が採用の権限を持っておりまして、部門のビジネスプランに合わせてヘッドカウントが決まっていきます。私たち人事は各部門とパートナーシップを持ち、採用のストラテジーを考えながら、サポートすることがミッションです。最近ではグローバル・エンプロイー・リファラルプログラム、簡単に言えば社員紹介を強化しており、約4割がこの紹介制度から採用に至っております。タレントマネジメントクラウド(Taleo)を用いて、部門長が採用進捗を確認できるなどと、「部門も常に採用に関わっている状態」を作り上げてきました。今後も社員紹介を活性化していくためにも、私たち人事がマーケターとなり、エンプロイング・ブランディングの向上を目指して日々汗をかいているところです。
唐澤氏:お三方ありがとうございました。本日のテーマは、採用の中でも【現場をどのように巻き込んでいくのか】という大きなテーマになっていますので、大手企業・外資系企業・ベンチャー企業といろいろな観点の方にお集まりいただきました。私も簡単に自己紹介させていただければと思うのですが、今回モデレーターを担当します唐澤と申します。株式会社メルカリで、People & Cultureと呼んでいる、人事・労務・総務…といった人や組織にかかわる機能全般を担っております。前職では事業サイドにもおりましたので、その辺の観点も交えながら進めていければ幸いです。よろしくお願いいたします。
峯岸氏:そんなにきれいなものじゃありません(笑)。中途採用を強化しようとして、人材紹介サービス会社にまず言われたのが、「市場にいないですよ」でしたからね。ですから、「人材紹介には頼れない、じゃあ、自分で探すか」と思って、ダイレクト・ソーシングに取り組んだのが最初でした。自分でデータベースを検索してみると、案外いるな、と。なんかそれっぽい人がいるなと手当たり次第に声を掛けてみるのですが、実はあまり現場のニーズとマッチしていなかったりしまして。一時期、連戦連敗でしたね。ただ、ずっとやり続けていくうちに、部門長あるいは、幹部のストライクゾーンが見えてくるわけです。このあたりだったら通過するかも!とだんだんわかってきて、そこからやっと軌道に乗った感じでした。
峯岸氏:もともとNECに人事職で入社しました。人事を15年ほど経験したのち、急に企画部門にいくことになった。実際、企画に来ても人事業務が好きで。だから自分でやっちゃおうというか。人事部門は別にありつつも、事業の中に入り込んでいる自分が人事をやる。人事も現場もお互いの業務や考えがわかるようになった方がいいなと思っています。
野澤氏:そうですね。人材紹介はあまり使っていません。もちろん推薦があれば確認します。ただ先ほどもお話ししたとおり、ダイレクト・ソーシングの割合が高いですね。人事・採用担当者が必死にやるというよりも、たとえば「今、営業を採用しなければならない」となると、営業チームのメンバーが集まって「今日、▲▲通スカウトメールを打とう」というゴールを決めて運用するようにしています。
野澤氏:足りないところを埋めるという感じです。僕らみたいなスタートアップって「人」で決まるんですよね。セールスにおいても圧倒的に人の数が必要になってくるわけです。事業計画を達成するためには「人」が必要という意識が、全員に根付いている。つまり、自分たちの仲間は自分たちで採用しなくちゃという意識になるんです。特にマネジャーが事業責任を持っているので、役職者自らが現場にインストールしている状態ですね。
あえて事業側がやっている理由は、「自分たちの目で見る」ということでしょうか。自分たちで候補者の方のレジュメを見ることが重要だと思っています。「この人はどのような話ができるかな」「どんな話をすればいいんだろうか」など、相手を想像することって大事ですよね。そうすれば自然と愛情が出てくる。自分たちの会社をしっかり売り込むことだってできますし、相手の希望も考慮することだってできますよね。
鈴木氏:オラクルも2008年以前は、ほとんど人材紹介を使っていました。やはりグローバルの戦略と言いますか、人材紹介ってコストが非常にかかるじゃないですか。人材紹介に頼りすぎだとグローバルから指摘があったんですね。日本のエージェンシーモデルを変えていこうという採用戦略になりました。私がオラクルに採用された理由の1つは、アグレッシブなヘッドハンティングスタイルの採用プロセスを自分たちでやっていこう、少人数でドライブをかけていこうと、変革を求められたからではないかなと。日本人って変化が苦手な傾向にあると思いますが、やらないといけないし、いざやってみると「意外と(自分たちで)できるじゃん」と実感できたのではないでしょうか。年間これだけの採用をしていて、紹介フィーを払っていたらものすごい額になりますよね。
鈴木氏:その通りです。リクルーターの前職は私のような人材サービス会社出身の者や、IT企業の人事経験者など、ITネットワークが強かったりします。ネットワーキングで採用しているというのも大きいですね。私たちの部門はヘッドハントの役割も大きくて、候補者選定からクロージングまで任されています。
野澤氏:そうですね、入れています。各事業が人員計画を出してきます。それをOKRに乗せるだけなので、自然な流れですよね。中期的に事業戦略が決まり、それに必要な人員もボトムアップで上がってくるので、本人たちもコミットせざるを得ないわけです。
野澤氏:先ほども言ったとおり、全員採用とは言えそれだけでは到達できない部分はあります。候補者と面接官の間にしっかり入ることが重要なんですよね。これはfreeeの特徴かもしれませんが、リクルーターはある意味、候補者の応援者にならなきゃいけない。彼らから情報を聞き出しながら、私たちが次の面接官に申し送りをしていく。そのときに候補者のスキルや強み、志向などをきちんと伝えるんです。逆に次の面接官はどういうことを聞きたいと思っているのか、候補者に伝えることもあります。つまりリクルーターというのは、候補者に寄り添うことが価値なのではないかなと考えています。
野澤氏:実際あります。質というよりも、早期離職率が一気に上がったことがありまして。それは大量採用を行った時期でした。そこで、採用プロセスまでさかのぼり、徹底的に調査して、何か傾向がないか見ていったのです。すると、まさに「面接官の意見が割れた」ことが大きな要因だった。「採用したい」「採用したくない」と意見が割れた際、もう一度面接して決めていたり。あとは、「迷ったけど採用しようかな」と現場から上がってきたときでしょうか。これが2回続いていたりすると。
野澤氏:事業部メンバーはそれができない。数がほしいから、「採用しよう」になってしまうんです。人事として「迷ったら採用するのはやめよう」と事業部長に訴え続けましたね。事業部長をストッパーの役割にしました。
峯岸氏:ちょうど私が異動したとき、まさにサイバーセキュリティ部門のビジネスモデルを変える時期だったんです。既存メンバーだとなかなかモデルを変えられないということで、中途採用は至上命題でした。できる人を採用してくることが必須だったので、それを達成するために各部門を回りましたね。部長20名ぐらい回って、話して、候補者のレジュメを見せて、「この人じゃない」と言われて、「じゃあこの人は?」と別の人を見せて…という、千本ノックをやっていったんです。自分一人で。
峯岸氏:おっしゃる通りですね。実際レジュメを見せても反応が悪いときも多かった。ただ、いろいろ回っていくうちに自分なりに見えてくるんです。自分で一次面接を行っていたので「こういう改革をされてきたのはいいな」「こういう人はNECにはいない」という視点で見ていると、次第に「この人ならいけるのでは?」というポイントがわかってくる。既存社員からすると「こんな人をNECで採用するの?」となりますが、そのときには「僕が事前に確認していますから、間違いありません」と言えるわけです。野澤さんが話されていた応援団じゃないですけど、だいぶハンズオンで入り込んでやっていましたね。最初の半年ぐらいは全然OKが出なくて、ひたすら部長と壁打ちしていました。
峯岸氏:それが、最初にもお話しした通り「市場にはいないだろう」と言われていたので、逆に「候補者がそれだけいるんだったら(会ってみたいから)連れてきてよ」と、割とウエルカムだったんですよ。それでどんどんぶつけてみて回り出してからは「この人を連れて行けば間違いないだろう」と、僕だけではなくチームが判別できるようになってきた。それで一気に600名増やしていった感じです。半分以上は社内のSEや他領域の技術者をシフトし育成しましたが、残りは新卒採用と中途採用です。
峯岸氏:まず中途採用をやろうという文化がありませんでしたし、周りからも「ダイレクト・ソーシングって何ですか?」と平気で言われましたからね。やる人もいないしやることを評価する人もいなかった。「やってもうまくいかないよ」と言われたこともありましたね。しかし、ひたすら事業部門の中にいる自分が動いていると、周りも人事部門も気になってくるわけです。「峯岸が何か面白そうなことしているぞ」と。一回動いてしまうとガラッと流れが変わるのを感じました。
鈴木氏:そうですね。HRBPもいるのですが、正直申し上げると私たちも部門と一緒にやっていくHRBP的な動き方を求められています。ビジネスプランニングから、ヘッドカウントの計画、採用手法の検討まで、部門リーダーたちと一緒になってどういう戦略でやっていこうかとディスカッションを重ねていくわけです。
鈴木氏:やはり数字を達成するために、「人が必要」という意識は現場に醸成されているのと思っています。もちろん、実際の現場のリクルーティングの動きは採用チームがサポートしていますし、お互いにパートナーシップを組みながらそれぞれが責任を持って動かしているという感じです。重要なポイントとしては「お互いがきちんと役割分担を持つ」ことでしょうか。採用状況は常に変わっていきますし、日々欲しい人材も変化しています。「一気に50人採用して組織を作ろう」「ニッチな技術の人をピンポイントで欲しい」など要望が変わる中で、部門の意向を酌んで「採用チームはこのように動きます。だから部門のみんなはこのように対応してくださいね」と主導することも重要ですね。
決して「採用人数」だけにコミットするわけではなく、部門と事業戦略や人材要件からきちんと会話して、部門の描くストーリーを認識するわけです。「どうしてこういう人が欲しいのか、この部門に人を入れるべきなのか」を確認し、その上で、どのようにアトラクト(attract)していくのかを考えることができる。現場が考えているストーリーを候補者にきちんと伝えていくことは非常に大事になってくるわけですから。
鈴木氏:社内でダイレクト・ソーシングをやっていますと、「自社にこの方が入社して、どのように活躍していただけるのか」「本当に活躍できるキャリアは何か」など、自然にイメージしますよね。社内の採用チームって、社員になる方に対してこれからの人生をこれからどのように影響するのか、結構考えているのだと思います。もちろん、会社にとってのバリューは何かという側面も考えないといけないわけですが。だからといって、人材紹介がなくなるというわけではありませんが、今後ますます自社のダイレクト型採用は増えていくのではないかと思いますね。
峯岸氏:私は、リクルーターでもあり、HRBPでもあり、経営・事業企画でもある…そういうキャリアですが、全部共通して言えるのは、対象となる事業や技術、それに紐づくポジションとか、そこに属している人とか、そういう事業や組織に対する強い関心が非常に重要だと考えています。そこがブレなければ、ご自身がいざ新しいキャリアに行ったとしてもいろいろ飛び越えられるのではないでしょうか。採用だけとかHRBPだけとかではなく仕事に枠を設けず、ぜひいろいろチャレンジしてほしいです。
野澤氏:私はリクルーターの地位を上げたい。もっと営業のMVPのようにスター選手が出てきていいと思っています。その上で必要なことなんですが、私自身はずっと営業だったこともあり常に「数字」を見るようにしています。具体的には、展開率やコストなど徹底的に見るようにしています。リクルーターは人だけを見て寄り添うことも重要ですが、数字に強いことも求められていくのではないでしょうか。
鈴木氏:リクルーティングというのは、部門と一緒になって成功を掴めると思っています。採用は簡単というわけではないのですが、やりやすさ、スムーズに対応できるかが大事です。現在労働人口は少なくなっていますし、他社との取り合いにもなっていますよね。ですから、自身のリクルーティングチームはどのようなミッションで、どのように意識を高めていくのか。そしてどのように部門に協力してもらうのか-。そういう部分を整理し、考え、発信していかねばならないと思います。
本セミナーを聞いて、企業規模や置かれている状況、募集ポジションによって異なる部分はあるものの、「目標をセットして部門と一緒に走る」「事業に近いところで組織課題を解決する」など、根本的な考え方はどの企業も共通であると感じました。
ますます採用活動環境が厳しくなっていく中で、「母集団形成」だけをミッションに置くだけでは厳しくなってきました。人事・採用担当者は「自社に入社したらどのように活躍できるのか、そして、組織が大きくなることでどのように事業に貢献することができるのか」を常に頭に置きながら、採用活動をディレクションしていくことが求められていくのではないでしょうか。
ぜひ、今回のセミナーレポートを参考にしながら、ご自身の採用戦略や採用活動を振り返ってみてください。
(文・編集/齋藤 裕美子、写真/西村 法正)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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