リカレント教育とは?リスキリングとの違いや導入時のポイントを紹介

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編集部

リカレント教育とは、社会人が必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返していくことです。仕事を休まずに学び直すスタイルもリカレント教育に含まれており、「社会人の学び直し」とも呼ばれています。

この記事では、リカレント教育の基本的な捉え方やリスキリングなどとの違い、効果的に教育を実施するにはどうすればよいかを解説します。

リカレント教育とは?

リカレント教育を効果的に実施するには、まずは基本的な点を押さえておく必要があります。生涯学習やリスキリングなどとの違いに触れながら解説します。

リカレント教育の定義

「リカレント(recurrent)」とは、「繰り返す」「循環する」という意味です。リカレント教育といった場合には、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことを指します。

日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも呼ばれています。

生涯学習との違い

リカレント教育と似た言葉として、生涯学習というものがあります。どちらも「学ぶ」という点では同じですが、大きく異なるのは学ぶための「目的」です。

生涯学習の目的は、豊かな人生を送るために学ぶことです。学校教育や社会人としての教育、文化活動・スポーツ活動・ボランティア活動・趣味など、仕事とは無関係なことや生きがいを感じる内容も学習対象となります。

一方で、リカレント教育は仕事で求められる能力を磨き続け、自己実現につなげることを学習の目的としています。学ぶことで具体的に仕事で活かせる知識やスキルを身につけることが狙いです。

リスキリングとの違い

リスキリングとは、企業の変革に向けて必要な人材をそろえることを指します。企業が掲げる目標の実現に向けて、従業員に必要な知識やスキルを身につけてもらうことに重点を置いているのです。

また、リスキリングではデジタル分野に関する知識やスキルを中心に学びますが、リカレント教育ではデジタル分野も含めて、語学や法律など多岐にわたって学ぶのが特徴です。リカレント教育は個人のキャリアアップ、生涯現役でいるための学習として行われるものだという点を押さえておきましょう。

リカレント教育が注目されている理由

リカレント教育が求められている背景には、日本人の平均寿命が延びた点と急速な技術革新、市場の変化などが挙げられます。従来は学校教育を受けた後、社会に出て働き、ある程度の年齢になったらリタイアをして引退後の生活を送るというのが一般的でした。

しかし、現在では平均寿命が延びたことやデジタル技術の進展、働き方改革などによって、社会に出た後も転職をしたり、定年後も新たな仕事に挑戦したりする方も多くなっています。キャリアアップ、キャリアチェンジをしていくためには学び直しを行う必要があるため、リカレント教育が注目されているといえます。

リカレント教育の内容・対象者・現状

リカレント教育は社会人の学び直しという側面があるため、学べる内容は幅広いのが特徴です。リカレント教育の対象者、現状について解説します。

(参考:文部科学省『リカレント教育 参考資料』)

リカレント教育で学べる内容

リカレント教育で学べる内容は多岐にわたりますが、基本的には現在の仕事と関連した分野を学ぶことが多いといえるでしょう。具体的には、経営学・法律・会計などの「ビジネス系科目」、英語などの「外国語」、MBAなどの「資格取得系科目」、「ITリテラシー」「内部監査」などが挙げられます。

また、観光や農業など「地域に特化した科目」や、介護・福祉といった「社会的需要の高い科目」も該当します。事業内容や従業員の個性などと照らし合わせて、必要な学習内容・計画を組み立てていくことが大切です。

リカレント教育の対象者

リカレント教育の対象者となるのは、学校教育を修めた「社会人」となります。現在働いている方や以前働いた経験がある方も対象として含まれます。

具体的に何歳までといった年齢制限はないため、勤務先や家族の理解が得られるならば、もう一度学びたいと思ったタイミングで学ぶことが可能です。結婚・出産・介護などで離職をし、キャリアにブランクがある方や定年退職者がリカレント教育を受ける例も多くなっています。

リカレント教育の現状

日本におけるリカレント教育の取り組みは、内閣官房の人生100年時代構想推進室が2018年に発表した『リカレント教育参考資料』が参考になります。この資料によれば、高等教育機関への25歳以上の入学者割合は、OECD参加国の平均が16.6%であるのに対し、日本は2.5%とその割合が著しく低いことがわかります。

日本の割合が低い理由として、「仕事が忙しく、学び直しの時間が取れない」「費用がかかり過ぎる」といった点が挙げられており、学び直しに何らかの問題があると感じている社会人の割合が78.4%いることがわかっています。このような背景から、日本のリカレント教育は発展途上といった段階ですが、人生100年時代の到来を見越して、国もリカレント教育の拡充に向けた取り組みを進めているのです。

リカレント教育を導入する4つのポイント


リカレント教育をスムーズに導入するには、いくつかのポイントを押さえておくことが大事です。厚生労働省が公表している「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」によれば、従業員の学び直しを促進するためには、次の4点が重要であるとされています。

1.個々の労働者が自律的・主体的に取り組むことができるよう、
 経営者が学び・学び直しの基本認識を労働者に共有
2.管理職等の現場のリーダーによる、個々の労働者との学び・学び直しの方向性・目標の 「擦り合わせ」や労働者のキャリア形成のサポート。
 併せて、企業による現場のリーダーへの支援・配慮
3.キャリアコンサルタントによる学び直しの継続に向けた労働者に対する
 助言・精神的なサポートや、現場のリーダー支援
4.「労働者相互」の学び合い

引用:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」

ここでは、上記の4つのポイントについて解説します。

従業員との認識を共有する

リカレント教育は従業員の学び直しを目的として行われるものであるため、従業員と認識を共有しておくことが大切です。それぞれの従業員が主体的に取り組めるような環境整備を経営層が積極的に行っていくことが重要だといえます。

企業がどのような姿勢でリカレント教育を促進しているのかを丁寧に説明し、経営目標と学び直しの方向性を擦り合わせていくことが必要です。

管理職への支援

従業員のリカレント教育がどのように進んでいるかは、現場のリーダーである管理職が一番把握している存在であるため、必要なサポートを行っていくことが欠かせません。管理職が従業員のキャリア形成をサポートするだけでなく、企業としても現場リーダーの支援に取り組んでいく必要があるでしょう。

管理職向けの研修のなかに、リカレント教育を促進させるための内容を盛り込んでみるのも一つの方法だといえます。

外部の専門家との連携

リカレント教育は一定の期間、継続して取り組んでいくものであるため、学習計画などをしっかりと立てておく必要があります。しかし、中長期的なキャリア形成のことまで考えてアプローチをするには、社内のリソースだけではうまく対応できないこともあるでしょう。

必要に応じて、キャリアコンサルタントなどの外部の専門家とも連携し、従業員の学び直しに向けたアドバイスを受けたり、学習プランの策定に携わってもらったりすることが大切です。自社にはないノウハウを得ることで、リカレント教育をより充実させたものにできるでしょう。

従業員同士の学び合い

リカレント教育を実りあるものとするには、従業員同士の学び合いを促していくことも必要です。特定の従業員だけに学び直しの機会を設けてしまっては、従業員間で不公平感が出る恐れがあります。

リカレント教育を導入する際は、基本的に全従業員を対象とし、個々のキャリア形成に必要なプランを立てていきましょう。従業員同士が自律的に学びを深めていくことによって、より充実した学び直しの機会となるはずです。

リカレント教育に役立つ支援制度

リカレント教育を円滑に実施するには、支援制度を上手に活用していくことも大切です。どのような支援制度を利用できるのかを解説します。

教育訓練給付金

教育訓練給付金とは、働く方の能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定化と就職の促進を目的として設けられている国の制度です。対象となる講座を修了した場合に、自ら負担した受講費用の20~70%の支給が受けられる仕組みとなっています。

手順としては、ハローワークで受給資格を確認したうえで、厚生労働大臣の指定を受けた講座を受講します。講座を修了したらハローワークを通じて支給申請を行い、給付金を受け取る仕組みです。給付金の対象となる教育訓練は「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類があり、特徴をまとめると次のとおりです。

種類 対象 支給額
専門実践教育訓練 労働者の中長期キャリア形成に関する教育訓練 ・受講費用の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6ヶ月ごとに支給される
・一定の要件を満たすと、さらに受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給される
特定一般教育訓練 労働者の速やかな再就職およびキャリア形成に関する教育訓練 受講費用の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給される
一般教育訓練 雇用の安定・就職の促進に関する訓練 受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給される

キャリアコンサルティング

キャリアコンサルティングの支援制度は、在職中の方を対象としています。今後のキャリア形成などについて、キャリア形成サポートセンターでキャリアコンサルタントに無料相談が行えます。

オンラインによる相談にも対応しており、働きながら学び直しができるきっかけづくりとして役立つでしょう。

(参照:厚生労働省『教育訓練給付制度』)

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金とは、事業主が従業員に対して、業務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。特定訓練コースや一般訓練コースなど9つのコースが設けられており、支給要件や書類の提出方法などはさまざまです。

厚生労働省のサイトに詳しい情報が公開されているので、新たにリカレント教育を実施する際に役立ててみましょう。職業訓練に関する助成金を活用することで、業務を続けてもらいながら、キャリア形成に取り組んでもらう機会を無理なくつくれるはずです。

(参照:厚生労働省『人材開発支援助成金』)

就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業

文部科学省は非正規雇用の方々、失業中の方々を主な対象に「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」を行っています。40の大学、63プログラムが採択されており、デジタルや医療・介護、女性活躍などの分野で学びの機会が設けられているのが特徴です。

募集期間や各プログラムの内容については、各大学もしくは文部科学省のサイトで公開されているので、最新の情報をチェックしてみましょう。受講費用は原則無料(一部テキスト代を除く)となっているので、リカレント教育の一環として取り入れることができます。

リカレント教育の導入事例


リカレント教育を初めて導入する場合、すでに成功している企業の事例を参考にしてみるのも一つの方法です。ここでは、3社の事例を紹介します。

事例①サイボウズ株式会社

グループウェア「サイボウズ Office」などを提供しているサイボウズ株式会社では、ワークスタイルの変革をきっかけとして、離職率を28%から3%前後に低下させることに成功しました。離職率が28%に達した2005年以降に、組織や評価制度を見直し、ワークライフバランスに配慮した制度を設けたり、社内コミュニケーションを活性化させたりする施策を実施しました。

多様な働き方を可能とするために、育児・介護休暇や特別休暇、短時間勤務休暇制度などの利用・取得が可能となっています。2018年4月からは場所と時間で区切られた従来の選択型人事制度を廃止し、新たな人事制度として「働き方宣言制度」の運用を開始しました。

在宅勤務や副業(複業)の許可など、個々の従業員の事情に応じた働き方ができる環境を整えており、リカレント教育に取り組みやすい社風を育んでいるといえるでしょう。

(参考:サイボウズ株式会社『多様な働き方へのチャレンジ』

事例②SCSK株式会社

システムインテグレーターのSCSK株式会社では、経営理念の一つに「人を大切にします。」と掲げています。従業員一人ひとりの個性や価値観を尊重し、互いの力を最大限に活かしていく経営に取り組んでいるのが特徴です。

従業員の自律的な成長を志向し、価値を創出し続けられるプロフェッショナル集団として組織づくりを行うために、評価・キャリア形成・スキルアップなどに関する人事制度を設けています。組織視点と個人視点の両輪でキャリアを形成していく仕組みや専門性認定制度を設けており、リカレント教育に取り組みやすい社風を築いているといえるでしょう。

社内公募によって新たな仕事にチャレンジできる人材公募制度や200種類を超える研修メニューなどを用意しており、会社が積極的にバックアップをすることで学び直しの機会を提供しているのです。

(参考:SCSK株式会社『人事・研修制度』

事例③パーソルキャリア株式会社

人材サービス事業を展開するパーソルキャリア株式会社では、従業員の長期就業や持続的な成長を支援する取り組みとして、「FLASH(フラッシュ)」という人事制度を2016年4月から導入しています。勤続年数などの一定の要件を満たせば利用可能な制度であり、従業員が個々の事情に合わせて働き方を選択できる仕組みを整えているのが特徴です。

留学・通学に関するコースが設けられており、仕事の成果につながる学びを得たいと考えている従業員のための時短・休暇制度として活用できます。最長1年間の時短勤務または最長2年間の休業が可能であり、留学や通学などのスキルアップ期間として活用することが可能です。

FLASHを導入した背景には、従業員の年齢構成が今後変化していくことを見越して、育児や介護などのライフイベントを経験する従業員が増えると想定していたことがありました。従業員がライフステージの変化を迎えても、継続して働き続けられる仕組みを目指し、導入に至ったと説明されています。

(参考:パーソルキャリア株式会社『ライフステージに合わせて働き方を選べる人事制度「FLASH」を導入』

まとめ

リカレント教育は社会人となって働きながら、仕事に必要な知識やスキルを学び直すために行うものです。デジタル技術の進展や平均寿命が延びたことなどを背景として、従来のキャリアプランに囚われないキャリアデザインが求められています。

個々の従業員の特性を考慮しながら、必要なリカレント教育を実施することで、企業と従業員の双方にとってメリットがあるでしょう。国の支援制度なども活用しながら、自社に合った取り組みを進めていくことが大切です。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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