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河原あず(かわはら・あず)
横浜国立大学卒業。富士通株式会社に入社後、ニフティ株式会社に転籍。2008年より渋谷のイベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー」(現在はイッツ・コミュニケーションズ株式会社が運営)のイベント・コーディネーターに就任し、年間200本以上のイベント運営に携わる。2013年〜2016年、シリコンバレーに駐在し、現地企業とコラボしたイベントを多数実施。帰国後は、コミュニティ・アクセラレーターとしてNHKや伊藤園、サントリーや東急をはじめ、さまざまな企業とのコラボイベントをプロデュース。2020年4月に個人事業主として独立、大企業での経験を活かし、イベント運営だけでなく、企業の抱える数多くの課題を独自のアプローチで解決に導いている。藤田祐司(Peatix Japan株式会社 Co-founder / CMO)との共著『ゼロからはじめるビジネスコミュニティ(仮)』がダイヤモンド社より2020年6月に発売予定。
近年、ビジネスの世界では社外コミュニティという言葉がにぎわいを見せています。社外コミュニティとは、新規事業や人材育成、広告戦略など多岐にわたる活動を、社外のさまざまな個人や法人などと協働して、アウトプットを創出するオープンな「場」のことです。
今回、渋谷のイベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー」に2020年3月末まで在籍、現在は独立して活動しているコミュニティ・アクセラレーター・河原あず氏に、社外コミュニケーションの本質やコミュニティ形成の秘訣について伺いました。
さらに今、世界中で感染規模を拡大している「コロナウイルス」。その猛威が、これからのコミュニティにどのような影響を与えるのかについても、率直な意見を語ってくれました。
(※3月19日取材)
河原氏:僕は、新卒で富士通に入社しました。その後、富士通の子会社だったニフティが、ウェブサービスの新規事業を立ち上げる人材を社内公募していて、手を挙げて転籍したんです。
しかし1年後、そのサービスの縮小に伴い異動を命じられました。そして異動先は、希望していなかった法人営業になる可能性が高かった。私は上司のさらに上司へ直談判しに行き、一度イベントで関わった「カルカル」に行きたいと話しました。このときにどうして「カルカル」を選んだかというと、当時の店長だった横山さん(カルカル店長・横山シンスケ氏)という方がすごく面白い人で、「この人と一緒に働いてみたい。この人とならエッジの立ったコンテンツづくりができるんじゃないか」と思っていたからです。
この直談判が聞き入れられ、僕は「カルカル」に配属されることになりました。最初の仕事は、ビールジョッキをひたすら食洗機にかけること。そこから次第に、企画や集客にも携わるようになり、イベントの司会や特別メニューの考案、設営の際の手配、SNSを使ったプロモーション、企業イベント案件などを幅広く経験しました。このときに学んだことが、今の僕の礎です。
河原氏:コミュニティ・アクセラレーターは、個人や組織の中にある可能性を引き出し、コミュニティの力を活かして実現したいことを一緒にかなえる仕事と定義しています。抽象的でわかりづらいですが、具体的には、イベントやワークショップ、研修を通じて、企業や個人が抱える課題を解決に導くことが多いです。
クライアントからは日々、「あるサービスやプロダクト、ブランドのPRをやりたい」「何か世間の注目を集めることをしたいけどネタがない」「やりたいテーマは決まっているけれど、どのように実行に移せばいいかわからない」…さらにはPR領域にとどまらず、新規事業や人材育成、組織づくりに至るまで、さまざまな要望が寄せられます。それらに対して「じゃあ、こういう企画はどうですか?」と具体的な提案をして、実行までサポートしていくのが僕の役目です。
と言っても、もともと会社や世の中に「コミュニティ・アクセラレーター」という名前の役職があったわけではありません。3年間のシリコンバレー滞在で学んだことを踏まえて、カルカルで働いていたときに自分から名乗るようになり、独立した今に至っています。
河原氏:シリコンバレーで起業家と話すときは、まず「What do you do?」すなわち「お前は何者だ?」と聞かれます。この質問に当時の僕は、うまく答えることができませんでした。と言うのも、「ニフティの河原です」と答えても、ニフティを知らない海外の人には伝わりませんし、相手にしてくれません。このとき、僕が答えるべきは「僕はこういう風に世界を変えたい」というビジョンなのだと気付きました。
ビジョンについて深く考えることがなく、自分の本音をあまり外に出す方でもなかった自分にとってそれは、それまでの習慣を覆す衝撃的な出来事でもありました。必要に迫られ自分でもやってみようと思い、現地でテクノロジーコンテンツの責任者を務めていた「J-POP SUMMIT」という2万人が集まるイベントで、実践したんです。当時、日本のカルチャーを発信している現地企業同士は、横のつながりが少なかった。そこに課題を感じた僕らのチームが「彼らをつなげて、一体感を創出する場をつくりたいんだ」と語ってみると、次々と賛同者が集まり、コミュニティは拡大の一途へ。イベント出展から生まれた縁を通じて、さまざまなコラボレーションも自発的に生まれました。
このときの経験が印象深く残っていたため、日本に帰ってきてからも「ニフティの河原」ではなく、「コミュニティ・アクセラレーターをしている河原」を名乗るようになったんです。
河原氏:社外コミュニティが注目されている理由は、二つあると思います。
一つ目の理由は、「市場の変化するスピードが速くなっているから」です。社内におけるリソースだけでは変化の速度に対応できなくなり、社外の人たちと組んでビジネスをするオープン・イノベーションの「場」が求められています。
二つ目の理由は、「企業のピラミッド構造が崩壊しつつあるから」。今の状況だと、社内で成果を出しても昇進したり、給料が上がったりしづらいため、社外でいろいろな人たちと協働してアウトプットを出し、自分の価値を高めていくことが合理的になっている。つまり、垂直的ではなく水平的につながる「場」が求められています。
河原氏:僕は「What do you do?」と聞かれたときに、「株式会社〇〇の河原です」と所属を答えるようなやりとりを「カタガキ・コミュニケーション」と呼んでいます。これに対して僕が注目しているのは「カタリスト・コミュニケーション」です。
「カタリスト・コミュニケーション」には、自分のビジョンを「語る人(カタリスト)」が行動することで、周りの人たちを巻き込む「触媒(カタリスト)」の役割を果たし、次々とアウトプットを生み出していくという意味が込められています。今後は、強い意志を伴った本物のビジョンを語ることが大切になってくるでしょう。
河原氏:ビジョンを支える「ストーリー」の有無が大事なポイントです。
たとえば僕だったら、「シリコンバレーで『ニフティの〇〇です』と言ってもまったく相手にされなかったので、現地の起業家のようにビジョンを語ってみたら、どんどん共感してくれる人々が集まり、一緒にビジネス活動や日々の生活を支え合えるコミュニティが生まれた。この動きを日本にも取り入れるべく、コミュニティ・アクセラレーターとして活動しています」と説明したらどうでしょうか?
河原氏:きれい事を並べるだけでは、人を巻き込むことは難しいでしょう。自身の経験や実績が裏付けになったストーリーに基づいてビジョンを語ることが大切です。
河原氏:はい。社内で「カタリスト・コミュニケーション」を醸成する上で重要なのは、社員一人一人が「自分が何者か?」を考えて言語化する機会をつくること。そして、それを他の社員に共有する機会をつくることです。とても難しいように見えますが、ワークショップでちゃんと順序立ててファシリテーションをすると、みんな活発に語れるようになるし、お互いの会話が止まらなくなって、熱を帯びたものになります。実は、言語化する機会がこれまでなかっただけで、ビジョンのタネはみんな持っているんです。大事なのは、そのタネを丁寧に引き出して、自分の行動の軸にすること。カタリスト・コミュニケーションを基に社員の育成を行えば、「自分で考えて行動できる」人材を社内に増やしていくこともできるでしょう。
河原氏:現在、オフライン・イベントの多くが中止、または延期を余儀なくされていますし、これを機にリモートワークを採用する企業も増えています。しかし、オンライン・コミュニケーションは、とある根本的な問題を抱えているんです。何だと思いますか?
河原氏:寂しさです。これは人間のコミュニケーションの本質を突いています。たとえば、ZoomやSlackのオープン・チャンネルを開いておくことで、孤独感を緩和する方法がありますが、オフライン・コミュニケーションのような心理的安全性を生むことは簡単ではないんです。
そうなると、人は結局、人とのつながりをより求めるようになります。オンラインで接している人と、ますます対面で会いたくなる。それこそ、新型コロナウイルスの流行がいったん収束傾向に入ったら、対面のコミュニケーションが再評価されることになると思います。
ただし、感染症のリスクがゼロになることはないですし、利便性の高いオンライン・コミュニケーションの利用場面はますます増加するでしょう。結果、オフラインとオンラインのコミュニケーションが混在する場づくりが広がると考えています。
河原氏:違う地点にいる集団同士を、オンラインでいかにつなぐことができるかについて考えています。たとえば新型コロナウイルスの流行が収束傾向に入っても、しばらく大勢を集めることは難しくなるかもしれません。しかし、たとえば5人の集まりを20個つなげれば、ほぼ100人のオンライン集団がつくれるわけです。そのような方法で、コロナショック後の社会でもコミュニティを拡張していけるのではないかと。
あるいはZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールを使ってパネルトークすると、場所の制約が取り払われます。遠隔の方や海外の方も登壇できるし、さまざまな場所からのイベント参加が可能になります。オンラインイベントが、違う場所にいる人同士をつなぐきっかけになり得るのです。
そうすると、さまざまなマイクロ・コミュニティが点在する、分散化した社会が見えてきます。カタガキ・コミュニケーションでは「どこに属しているか」が重要でしたから、働く場所も縛られてくる。そうではなくて、「誰とつながるか」が焦点になります。大事なのは、共感できるビジョンを持つ人、つまり同志とつながって一緒に行動すること。同志は世界中にいると考えた途端に、可能性が広がるんです。
河原氏:今回のように、人々や企業が危機的な状況に陥ったときは、それまで惰性で続いていたものが、新しい価値観へとアップグレードする機会にもなります。
コロナショックの今、「自分にとって大切なことは何か?」を見つめ直す機会になればいいですよね。突然のリモートワークに戸惑う家庭も多いかもしれませんが、「お父さんやお母さんの働く姿を子どもたちに見せる、またとない機会」と捉えることもできます。
個人も企業も、今だからこそ学べることはたくさんあると僕は考えています。
大規模イベントの司会や有名企業とのコラボ企画など、きらびやかに活躍している河原氏。一見すると、苦悩や不安とは無縁に思えるかもしれません。しかし取材を通じてわかったのは、幾度にもわたる挫折を実直に一つ一つ乗り越えてきたからこそ、今の成功があるということでした。
コロナショックによって、世界がかつてないほどの大打撃を受けている中、取材中に語ってくれた河原氏の言葉は、危機を乗り越えた後に訪れる新しいコミュニティの希望を想起させてくれるものでした。今、私たちにできること。それは、自分自身を見つめ直すことです。
撮影場所:SHIBUYA QWS
取材・文/師田 賢人、撮影/黒羽 政士、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・dsj編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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