新型コロナ対応で企業間の「人材ポーカー」が始まる。ポストコロナを見据えた、人材・組織への課題とは【セミナーレポート】

PERSOL KELLY CONSULTING

マレーシアオフィス ジャパン・デスク責任者 木下毅

長期戦で「リアルが消滅していく」
制度、組織改編の好機
感染終息でも人材の補充は当面なし。先行きに慎重な企業の声

新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延が世界経済を揺さぶっている。企業活動に大きな打撃になるのは避けられないが、一方で、なかなか変われないと言われ続けてきた日本企業が大変革を遂げるきっかけになる可能性もある。パーソルグループが2020年4月15日に開いたWEBセミナーでは、PERSOLKELLY Consultingのマレーシアオフィスでジャパン・デスクの責任者を務める木下毅氏(以下、木下氏)が「今後、人材ポーカーとも言える大幅な人材の入れ替えが始まる」との見方を示した。

この日のセミナーは「COVID-19感染拡大による人員計画へのインパクト調査とポストCOVID-19を見据えヒト・組織が求められること」と題して開催され、アジア企業に対して行った新型コロナ蔓延に関するアンケートの結果を発表。それを受けてアジア各国・地域の駐在社員からの報告(後述)が行われたのち、木下氏がプレゼンを行った。

※文末に当日の動画や資料へのリンクがあります

長期戦で「リアルが消滅していく」

木下氏は新型コロナとの闘いが「1年以上続くマラソンと同じ長期戦」という見方を紹介し、今後は企業の「有り様」、つまり存在価値が問われるとした。緊急事態宣言に伴う外出自粛要請によって、企業が一気にテレワーク化へと進んでいる。だが、これは新型コロナ問題が起きたから始まった問題ではなく、すでにDX(デジタル・トランスフォーメーション)などの大きな時代の流れが始まっていたところに新型コロナが発生、その動きを一気に加速させている。これまで障害だった「場所」や「移動」が障害でなくなり、一気にデジタル化が進むきっかけになっているという。

「もしかするとリアルが消滅していく」と木下氏。ゼロにはならないとしてデジタルの世界に大きく移っている流れは、たとえ新型コロナの蔓延が終息したとしても変わらない、と述べている。

その上で、新型コロナの蔓延が続く中での活動、いわば「ウィズ・コロナ(With Corona)」の間は、「本質への回帰」が続く。テレワークとなって多くの人たちが「生産性が上がった」と感じているように、仕事の内容や取り組み方を見直し、時間の有効活用が可能になった。自分は何をやらなければいけないかが見え、「自らの役割を見直す好機になっている」と木下氏は分析した。

長期戦で「リアルが消滅していく」※当日の資料より抜粋

そうした時間の効率化が進む中で、会社が従来とほぼ変わらずまわっていることに多くの人が気付いている。従来の仕事の仕方を徹底的に見直す良いきっかけにもなっている。一方で、グローバル化の進展が止まり、揺り戻しが起きる可能性も考えられるが、この点については新型コロナの蔓延の終息後、すなわち「ポスト・コロナ」の段階になってからの課題だと述べた。

制度、組織改編の好機

こうした新型コロナ対策の動きに伴って、人や組織へのインパクトはどうなるのか。

木下氏は「制度、組織改編の好機」だという。特に人材については、企業間での大胆な入れ替え、いわば「人材ポーカー」が起きると語る。企業の改革に耐えられない人はその企業から退出を余儀なくされるが、そうした人材がマーケットに流出してくることで、「今まで確保できなかったような人材が、リーズナブルなプライスで採れる」ようになるとした。

制度、組織改編の好機1※当日の資料より抜粋

一方で、これまで日本企業がとってきた「メンバーシップ型」と言われるような人事システムは急速に衰え、ジョブ型、職務型と呼ばれる人事制度へと急速に移行していく。テレワークを基本とせざるを得ない中で、役割の明確化、いわゆる「ジョブディスクリプション」が圧倒的に重要性を増してくる。これまで日本企業に求められてきた変化が、一気に実現するとの見解を述べた。

となれば、企業文化も大きく変化することになり、プロセス重視の社内調整型のリーダーシップではなく、いわば独裁型の、結果・実行力重視のリーダーシップがカギを握ることになるだろう。それにより求められる人材も大きく変わると考えられる。こういう時だからこそ、「自分の仕事や役割、やりたい事を見つめ直し、原点回帰する良い機会にすべきだ」と木下氏はまとめた。

制度、組織改編の好機2※当日の資料より抜粋

感染終息でも人材の補充は当面なし。先行きに慎重な企業の声

これに先立つ第1部では、APAC10カ国・地域の企業に対するアンケート結果から、新型コロナ蔓延の影響など「実態報告」が行われた。感染拡大に落ち着きが見えつつある北アジアでは「オフィス勤務への回帰」が見られる。一方で、拡大が続く東南アジアでは「在宅勤務へのシフトが見られる」とし、また駐在員の赴任・帰任に関しては「多くの企業において従来の予定を変更していない」との結果が得られた。

業績への影響については、通期売上高の昨年度比減少割合が「50%超」としたところが、中国(357社)では18%、「30〜50%」が55%におよび、「0〜10%」との回答は5%に過ぎなかった。また韓国(31社)では、「50%超」は6%だったものの、「30〜50%」は35%、「10〜30%」は39%と、少なからず業績への影響が出る事が現段階でも想定されている。

感染終息でも人材の補充は当面なし。先行きに慎重な企業の声1※当日の資料より抜粋

人材募集についても、「人件費を含む固定費の削減で利益を確保するリカバリー策が検討されている」という。このため、求人を減らそうとする動きが顕著であると分析している。

感染終息でも人材の補充は当面なし。先行きに慎重な企業の声2※当日の資料より抜粋

さらに、「感染拡大が終息したら人材を補充しますか」という問いには、多くの国・地域の多くの企業が「いいえ」と回答。「先行きの不透明さから感染拡大が終息しても人材の補充に踏み切ることに躊躇する企業が多い模様」だと結論づけた。

感染終息でも人材の補充は当面なし。先行きに慎重な企業の声3※当日の資料より抜粋

【編集後記】

新型コロナウイルスの蔓延による業績悪化を受け、多くの企業が人件費などのコスト削減を進める「withコロナ時代」。その結果、今後市場に人材が溢れ、「人材ポーカー」が起こり得ることが予想される。
しかしこれは、来るDX(デジタル・トランスフォーメーション)を見据えた「人・組織の大改編」への好機だと木下氏は語った。新型コロナウイルスへの対応に追われる状況だからこそ、この先の「ポストコロナ時代」を見据えた前向きな捉え方が必要だと感じた。あらためて企業として又は個人として、これからの働き方を考える良い機会にするべきではないだろうか。

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取材・文/磯山友幸、編集/d’s JOURNAL編集部