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新型コロナウイルス感染症のまん延により、大変革を強いられる今日、これから訪れるアフターコロナ時代を生き抜くために、企業は今何をすべきなのでしょうか。PERSOL KELLY Consultingのマレーシアオフィスでジャパン・デスクの責任者を務める木下毅氏(以下、木下氏)は「ヒトでしか差異化ができない時代に突入した。経営者は目指す方向を示し、優秀な人事・採用担当者を採用するべき」と語りました。
今回は、パーソルグループが2020年5月15日に『「DXとWith COVID-19」が導く人と組織の新常識』と題して開催したセミナーより、東アジアにおける新型コロナウイルス感染拡大による影響の実態調査発表と、木下氏のプレゼンテーションをレポートします。
※文末に当日の動画や資料へのリンクがあります。
新型コロナウイルス感染症がまん延する以前から、DX(Digital transformation)化や経済のアジアシフト、社会的変化、都市化、温暖化といった変化は、緩やかに起こっていました。そうした変化が、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに加速度的に早まっていると感じます。現在は米国における失業率の大幅な上昇など、欧米の経済がかなりダメージを受けており、アジアシフトはますます進んでいくことでしょう。すでに飲食、小売、エンターテイメントをはじめとした業界では、DX化が大きなインパクトを与えています。また、医療分野において、日本でもオンラインによる遠隔診療が動き出しましたが、こうした流れは一気に進んでいくと思われます。
しかし、アフターコロナ時代では、加速度的に変化しはじめたDXがどの方向に向かっていくのか予測がつきません。つまり、幾つかのキーワードが出てきてはいるものの、それらがどの方面にどのような形で活用されていくのか、誰もわかっていないのです。ただし、何かしらの変化が加速度的に起きていることだけは間違いありません。
一方、新型コロナウイルス感染拡大以外のメガトレンドである経済のアジアシフトや、温暖化といった複数のトレンドは、同じベクトルとして変化しているため、ある程度先行きが見渡しやすいのではないでしょうか。幾つかの選択肢から選べるようになっていますし、今どの方向に向かっているかなど、予測がつきやすくなっています。
※当日の資料より抜粋
私たちは、今後しばらく新型コロナウイルス感染症の問題と付き合っていかなければなりません。新型コロナウイルス感染症がいつ終息するのか、アフターコロナ時代がいつ始まるのかは誰にもわかりません。しばらく混沌とした世界は続くでしょう。企業はこのような予測がつかない状況で、従来のBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)で十分に対応することは難しいでしょう。これからの新しい世界で生き抜くために、時代に合わせた「新しいBCP」の構築が必要です。
海外法人に比べて、BCPを構築している日本企業の数は少ないと個人的に感じています。しかし既存のBCPを構築していたほとんどの企業が、今回のようなグローバルな規模でだれもが被害者になるような事態を想定したBCPは構築していなかったのではないでしょうか。
これまでは予測可能な範囲、たとえば「9.11」や「3.11」、あるいはリーマンショックといった、限定的な前提に基づいたBCPを構築していました。しかし、このたびの新型コロナウイルスによって、その前提が大きく変わってしまったのです。つまり、これからは「新常態」を想定した、新しいBCPを構築する必要があるのです。
日本企業の決算発表で、2020年度の見込み数値を予想できない企業が多く出ていますが、それだけ先が見通せない世界になっているのです。わかりやすい例は航空業界でしょう。人の移動が激減したことで市場が急変し、これまでの前提が大きく変わってしまったのです。そんな中で企業は新たなビジネス戦略を模索する必要もあるでしょう。時には、新規事業の立ち上げに向けて、人を完全に入れ替えるくらいの勢いで組織を変える必要にも迫られることでしょう。
戦略を新しく変える。それは市場や商品、サービスなのか、それとも顧客なのか。いずれにしても戦略を見直すことによって、実行する組織も編成し直され、必然的に「ヒト」と、そのヒトをサポートする経営インフラとしての人事制度が定まります。
※当日の資料より抜粋
いかなる時代にも対応できるように準備しておくことは大切ですが、最後には「ヒト」でしか差異化できない時代に突入してきています。これからの人材は、「妄想力」や「人と違ったユニークな発想」、「尖り」といったものが求められるのではないでしょうか。今までのようにPDCAを高速で回しても、事業拡大は見込めません。違った発想で、特に「P」の段階、つまり日本企業が好きな「検討」よりも、「D」つまり行動が重要になります。いわば「DDCA」を高速で回すことが必要になるのです。
そのためには、俊敏性が求められます。今までは直線ダッシュ力が必要でしたが、これからは障害物競走、それもどんな障害が出てくるかわからないような競争を、とにかく速く駆け抜けなければいけない時代になるのです。柔軟な考え方とすぐに行動に移せる俊敏性を備えていて、自分たちの事業を立ち上げられる人が求められるのではないでしょうか。もちろん、既存のビジネスを回していく人たちも必要なのですが、ここでの問いは、今社内にいる人たちがこの変化に順応し、役割を担っていけるのか、ということです。
今後は、肩書き的なスキルをいくら磨いても、マーケットでは通用しなくなります。ポータブルスキルと言われている資格や、経験だけでは計り知れない能力を有する人たちをいかに囲い込み、ブラッシュアップしていくかということが、人材育成では求められるのではないでしょうか。そういう人材が社内にいないとなれば、M&Aなどを通じて、外部から新たな人材を獲得しなければいけません。
※当日の資料より抜粋
先が見えない中で、経営者はどのように立ち回るべきでしょうか。社員にどう働いてもらうのか。不透明な時代になるからこそ、リーダーが信じていることを、強い言葉で語り、チームを引っ張って行くことが重要です。経営者というと、KPIや中期目標など数字を語りがちですが、その前に「こういう経営を目指すのだ」と、リーダーがストーリーを語ることが求められています。苦しい時だからこそ、リーダーが方向性を示すことが重要なのです。満点の答えである必要はありません。そうすることで、社員は「そうなんだ」という「はら落ち」をしてくれます。まずはリーダシップを示し、社員の不安を払拭することが必要でしょう。
もうひとつ重要なことが、人事のアップデートです。これからの「新常態」では企業は大きな変革を求められます。変革の推進役として、経営をきちんとサポートできる、優秀な人事・採用担当者が必要になっていきます。ビジネスが成長している企業の特徴のひとつは優秀な人事・採用担当者がいることです。社員一人の関心に応え、仕組みの再整備をしながらモチベーションにつながる施策を行うことが不可欠になっていくでしょう。
※当日の資料より抜粋
(※木下氏のプレゼンに先立ち、東アジアにおける新型コロナウイルスの実態調査の発表が行われました)
パーソルグループが顧客企業を対象に行った中国・香港・台湾・韓国の取引先企業を対象に、4月29日から5月8日まで行った調査(623社からの回答 ただし、韓国については回答数が少ないため参考値)によると、全体的に感染拡大が落ち着き、オフィス勤務への回帰が進んでいます。3月との比較では、中国では在宅勤務が減り、7割以上の企業がオフィス勤務に戻っています。
※当日の資料より抜粋
水際対策が効いている台湾では、3月・5月ともにオフィス勤務が7割を超えています。稼働状況は中国では86%、その他の地域でも7割以上の企業が正常時並みに回復したと回答しています。
※当日の資料より抜粋
業績への影響について、「上期の売上高に対して30%以上の影響がある」と回答した企業は、台湾で36%、中国で48%、香港では57%に達しています。もっとも、3月との比較では、中国では「影響がある」との回答が減少し、「ほとんど影響はない」とした回答が4.8%から15.8%に大きく増加しました。
※当日の資料より抜粋
各社の採用計画については、半分以上の企業で「予定通り」としながらも、3月との比較では、中国や台湾での「採用は減少する」という回答の増加がみられました。
※当日の資料より抜粋
東アジアでは感染拡大が収まりつつあり、通常のオフィス勤務への回帰が見られるようです。しかし、今後も新型コロナウイルスとの「付き合い」は続き、すべてが完全に戻ることはないでしょう。木下氏が語るように、企業の行動パターンも変わり、経営者のあり方や人事の役割も変わっていくのだと感じます。そんな中で、経営者が今まで以上に、事業の方向性をストーリーとして語ることが重要になるという指摘は、多くの経営者に必要なメッセージなのではないでしょうか。
取材・文/石山新平 EJS、編集/d’s JOURNAL編集部
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d's JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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