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IT業界で約20年間マーケティングに従事しながらB2C、B2Bともに幅広くビジネスを経験。ECビジネス立ち上げに関わったことを機に、従来のマーケティングにデジタルマーケティングを組み合わせた統合型マーケティングを数々展開。現在、全社のマーケティングの推進を図りながら、重点戦略としてデジタル印刷のマーケティング強化に当たっている。
PC年間国内シェア№1(※)の座を獲得するとともに、産業用3Dプリンティングなど、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援している株式会社日本HP。同社は数年前からモバイルPCなどの活用による働き方の変革を推進してきましたが、コロナ禍において改めてその提案が注目されています。新たな働き方をテーマとしたキャンペーンを数々と仕掛けてきた、同社の経営企画本部マーケティング推進部部長である甲斐博一氏に、日本企業のIT導入の現実や、アフターコロナの労働環境などについて、オンライン会議システムを通じて伺いました。
甲斐氏:日本の多くのオフィスでは今でも島型にデスクを並べるオフィスが一般的ですね。欧米先進国では個のスペースを大切にするオフィスが主流でしたが、いずれもワーキングスペースが固定席という点では同じです。しかし働き方が多様化する中で、全員そろって固定席にいることが果たして生産性向上につながるのかという疑問の声が上がるようになりました。9時から5時まで自分の席で漫然と過ごしているだけではその価値を見出すことが難しくなり、いかに集中して仕事ができる環境を確保するかに視点が移っています。
仕事に集中できる環境というのは個人のライフスタイルや価値観、育った環境によっても違うはず。これはある学者さんから聞いた話ですが、論理的思考に関わる左脳の働きがいいのは午前中で、創造性に関わる右脳の働きがいいのは午後なんだそうです。もしこれが本当だとすると、クリエーターの人によく見られる、遅く会社に来て夜まで仕事をするというスタイルは理にかなっているわけですね。
甲斐氏:日本HPでは、仕事の内容や目的に応じて作業する場所を自由に選べる「ABW(Activity Based Working)」を提唱しています。職種ごとに仕事が違うのは当然ですが、日によっても時間によっても仕事の内容は変わります。それに合わせて訪問先やサテライトオフィス、自宅、カフェなど、どこでもシームレスに働ける環境を整えることで生産性を高めることができるからです。
私自身はコーヒーが好きでカフェが一番集中できるので、マーケティングの企画を考える時などによくカフェで仕事をします。要するにオフィスに合わせて仕事をするのではなく、仕事と自分に合わせてワーキングスペースをコーディネートするということが重要なんですね。
甲斐氏:まず、セキュリティの担保が必要ですが、セキュリティを強化することでユーザビリティが低下してしまってはいけません。企業の情報システムを運用し、外からアクセスさせる場合、ファイアウォールを立てて企業のシステムに入り業務ごとのアプリケーションを利用するのが一般的ですが、ファイヤーウォール(VPN)を前提とすると、そもそもオンプロミスで構築された企業のアプリケーションはかなり前のUIで作られており、これだけアプリが発達した現代においては使い勝手が悪くなることも多いです。また、昨今のセキュリティ攻撃は簡単にVPNを超えてやってきます。そこで、端末側でセキュリティ対策を行う、エンドポイントセキュリティが重要になってくるのです。
残念なことに、サイバー犯罪は世界的なビジネスになっており、どんなにセキュリティを強化しても100%防御するのは難しいという現実もあります。そのためアメリカなどでは防御一辺倒ではなく、PCの感染を迅速に検知し、攻撃を受けた場合自動的にシステムを回復させる手法が標準規格になってきています。日本HPも他社に先駆けて、防御・検知・自動回復機能を軸としたエンドポイントでのセキュリティソリューションの提供に取り組んできており、お客さまからよい評価をいただいています。
甲斐氏:「#1時間勤務」を仕掛けたのは、働き方改革が政策として打ち出されてしばらくしたころでした。政策では労働時間の削減や女性活躍推進、テレワークの普及などに関する指標が示されましたが、果たしてそれぞれの指標をクリアすることが本当に大切なのだろうかという疑問が自分の中で次第に膨らんできたんです。
働く💻ということと、幸せ😁が、もっと近づくように。Francfranc様とHPが考える少しだけ未来の働き方の一つ #1時間勤務 の物語、本日公開です。あなたが考える「働きやすさ」とは、何ですか?#1時間勤務 をつけて、ご意見をお聞かせください。#1時間勤務 pic.twitter.com/1Hq1HnENPc
— 日本HP PC (@HP_PC_JP) October 12, 2017
例えば残業を減らすために、イチローは夜10時になったら素振り練習をやめなきゃいけないかといったら、そうじゃないですよね(笑)。重要なのは本人が満足しているかどうか。ですから「#1時間勤務」では子どもとピクニックを楽しみながら、後輩との大切なミーティングを1時間だけオンラインで行う女性の姿を動画で描きました。欲張りかもしれないけど子育ても仕事も充実させたい。どっちかを犠牲にすることは本意ではない。そしてそんな彼女を子どもも後輩も尊敬している――働き方改革の本当のゴールは、自分も周りも満足感を得て、ハッピーになることだと思っています。
甲斐氏:ええ、在宅勤務の急拡大が代表例ですが、今まで日本の仕事のデジタル化が進んでいなかったことに、コロナ禍という事態をきっかけに改めて気づかされたという形ですね。後述するハンコの例もそうですが、本当はみんな気づいていたのにそれを変えようと動く人が極少数だったということかもしれません。また、在宅勤務に伴って、これまでの満員電車での通勤がいかにストレスの大きいものだったかということを皆さん再認識されたと思うのですが、逆にこれまでそのストレスの解消に本腰を入れて取り組もうとする会社が少なかったというのは、問題だと思いますね。経営側は社員の幸せ度の追求を会社という物理的な箱の中だけで一方的に考えていた。
甲斐氏:無駄な会議がいかに多かったかとか、一カ所に集まる必要はなかったとか。面白いのは、オンライン会議だとみんな遅刻しなくなったことで、3分ぐらい遅れてきただけでも「遅いな」と思われてしまうんです(笑)。
それから、会議でしゃべらない人はいないも同然で、たとえ立場上偉い人がいたとしても一言も発しなければ何の存在価値もないということがわかりました。これからの新しい日常では、このようにコロナ禍の中で学んだこと、進展したことをきちんと整理して、プラスになることに関しては後戻りさせないということが重要だと思いますね。
甲斐氏:同じ先進国といわれる中でもアメリカ、ドイツ、シンガポールなどは労働生産性は高いですが、イタリアやスペインなどは比較的低いほうなので、海外を一括りにすることは危険ですが、その中でも日本の労働生産性は低いですよね。生産性が低いと新規投資ができず、グローバル競争に勝てなくなり、給料も上がらないというジリ貧状態になっていきます。
甲斐氏:収益性の高い新ビジネスを創出できていないことと、DXによる効率化・自動化が進捗していないということ、そして何より企業が成長しないことですね。効率化を阻んでいるのが過去の慣習で、ハンコがいい例です。ハンコを押すことを仕事にしている人がいるから、ハンコがなくせないというのは本末転倒ですし、そういう過去の習慣を自らリスクを背負ってでも壊そうという人がいないのも問題です。
さらに言えば、企業が成長しないが故に生産性が低いままでいるということは、すなわち経営力が低いということです。生産性の高い国々は、資金をうまく捻出してIT投資を行っています。「Digital or Die」とも言われていますが、現在のデジタル革命についていけないと、ジリ貧どころか会社の存亡の危機にもなり得ます。
甲斐氏:データを基に経営やマーケティングの意思決定をする、「データドリブン」の仕組みをまず整備することが重要だと思います。これに関しては大企業より中小企業に分があるかもしれません。中小企業のほうが部署は少なく、事業分野も限られているので、組織横断的なデータの収集・整理がしやすいのに加えて、トップダウンですぐに実行できます。大企業よりも圧倒的に早く、データドリブン経営を実現できるのではないでしょうか。
甲斐氏:私は人事の専門家ではありませんので、経験上感じたことしか言えませんが、人事評価制度の見直しが重要だと感じています。近年、成果主義を取り入れる企業が増えましたが、安直に成果主義を導入するのは問題です。なぜなら成果というのは一人の力だけで得られるものではないし、運もあるし、担当しているマーケットやユーザーの状況にもよるので、それを個人の評価に直結させるのは無理がある気がします。
甲斐氏:プロセスですね。その人が仕事においてどのような取り組みをして、それが数字としては表れなくても会社にどんな貢献をしたのかを可視化する。私は外資系企業にいますが、時間をかけて人を育成することでエンゲージメントを強化し終身雇用を大切にする、昔ながらの日本型経営にもいいところはたくさんあると思っているんです。
しかし、日本の労働人口が減少し、経済成長率が下がっている時代に昔のままのやり方が通用しないのも事実ですので、日本型経営の持ち味を生かした新しい経営スタイルを模索する必要があります。人事評価に関してはいったん成果主義に振って、そのあとプロセスを重視した評価に修正していくのがいいのではないかと思っています。
甲斐氏:本当はそこにデジタルの力を使えればいいのですが、決定的なツールはありません。ツールを使うよりは、日報や面談などを通じて上司とコミュニケーションを取り、自分が何を考え、どんな仕事のやり方をしているのか、また上司が何を求めているのか、相互理解することが大切ですね。ただ、デジタルツールを使ってそれを残しておくことは重要です。
上司と部下がしっかり話し合い、お互い納得の上で目標を設定し、こういうやり方でそれを達成しようと決める。そしてそのやり方でうまくいかなかったら、何が障害になっているのかを調べ、また話し合って修正を加える。コミュニケーションをきちんと取ることが、プロセスの可視化と適正な評価につながるのだと思いますね。その時に、トップダウン型でこれをやってほしい、という上司から依頼するスタイルだけではなく、あなたは何をどうやって達成し、どんなキャリアを築いていきたいのか、という社員側の展望を聞き入れ融合させていく中間管理職の仕事が特に重要だと思います。
甲斐氏:テーマは4つあると思います。具体的には「コロナ禍での学びを最大限に生かす」「ヒエラルキー的な考え方を捨て、プロジェクト型に移行する」「先輩は答えを持っていない、という前提で仕事を進める」「高齢者の定義を変える」です。
最初のテーマについては、先ほども述べましたが、コロナ禍の中で気づいた不合理な働き方をしっかり認識して、そこに後戻りしないということです。生産性の観点から言っても以前の状態がよかったわけではないし、若年層の自殺率などを見ても決して日本が幸せな状態にあるとは言えない。生産性が上がるような新しい働き方を追求し、みんながハッピーになれるような社会構造にしていかなければなりません。
甲斐氏:今回、テレワークというワークスタイルがクローズアップされましたが、今後はさらに新しい働き方が生まれてくるでしょう。一つの会社に正社員として勤める傍ら別の会社の業務を請け負うなど、パラレルワークに従事する人も増えてくる。そうした多様な人材を活用するにはヒエラルキー型の組織では不向きな面がありますし、変化の激しい市場に対応しきれません。
また、技術の進化も速いので、正社員を教育して対応させようとしても、どんどん新しい技術が現れて追い付かなくなってしまう。このネックを解消するには、プロジェクト型組織をメインにして、都度必要な専門家を社外から取り入れていくやり方が最適です。最先端の知見・技術を持った専門家が加わることで、スピードアップが図れますし、イノベーションも起こりやすくなるはずです。
甲斐氏:まさにそれが3番目の「先輩は答えを持っていない」につながる話で、コロナ禍の中で仕事をした経験のある先輩はいないわけですし、最近のSNSの事情もよくわからない人が多いと思います。
逆に若い人たちから学ぶという姿勢が必要でしょうね。先輩が若手に教えられることがあるとすれば、長年の体験から学んだことを抽象化し、その本質を取り出して伝えることです。夜討ち朝駆けの武勇伝を語ることが重要なのではなくて、自分はお客さまのことを真剣に考え抜いた結果、こういう行動をしたんだという信念や姿勢を伝えることが大事なんだと思いますね。
甲斐氏:最近の60代の方たちを見ると、すごく元気で活力旺盛な方も多い。それを「高齢者」と一括りにすることに違和感を覚えるんですよ。また、定年を一律65歳にするのもおかしな話で、スローライフを楽しみたい人もいれば、地域貢献をしたい人、まだまだ現役で働き続けたいという人もいますから。
その多様性をきちんと認識しなければいけないし、その人たちがそれぞれのフィールドで活躍できる場を提供しなければなりません。また、そういう高齢者を含めた多様な人々が自分に適した働き方を選べるように、企業サイドもさまざまな選択肢を用意しておくべきでしょうね。
甲斐氏:デジタル印刷製品のマーケティングを担当するようになって、DXを軸とした印刷会社の変革を支援したいと強く感じるようになりました。その際、ただ単にデジタルテクノロジーを導入するだけでなく、仕事のやり方や商習慣も変えなければなりません。その変革の全てに関わるのが人間です。
つまりはDXによる変革を実現するために、人間の意識と行動を大きく変えていかなければならない――そのお手伝いをさせていただければと思っています。
自粛要請緩和後も在宅勤務を継続する企業が見られる中、甲斐氏も「後戻りせずに働き方改革を進めることが重要」と強調します。その視線の先にあるのは、誰もが自分のライフスタイルや価値観に合わせてハッピーに仕事ができる環境の実現。
単なるデジタルツールの導入や改善指標のクリアではなく、働く人の想いに寄り添って働き方改革の本質を見定め、多様なワーキングスタイルを推奨するその姿勢が印象的でした。今後、企業にとってもさまざまな働き方の選択肢を提供することが、自社の活力を高めるための重要なファクターとなるのではないでしょうか。
取材・文/佐藤直樹、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOURNAL編集部
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