採用業務はアウトソーシングの時代。外部のプロだからできる人材採用とは

株式会社アールナイン

代表取締役社長 長井 亮(ながい りょう)

1975年生まれ。1999年青山学院大学経済学部卒業後、株式会社リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)に入社。株式会社リクルートを経て、2009年に独立し株式会社アールナインを創業。2011年に本社を東京に移して、人材採用支援事業を始める。これまでに2,000社を超える経営者や人事・採用担当者の相談、5,000人を超える就職・転職の相談実績を持つ。また、一般社団法人国際キャリア・コンサルティング協会の代表理事として、キャリアコンサルタントの育成にも取り組む。

外部のプロの方がよい結果を出す
営業こそ求められる経験とスキルが変わる
一律の働き方から「ジョブ型」へ。変化に合わせた人事評価軸の設定が重要

近年、採用面接などを外部に委託する採用業務のアウトソーシング(RPO = Recruitment Process Outsourcing)が広がりを見せています。理由として、外部のプロがかかわることで、人事・採用担当者の私情を排除し、客観的視点から経営陣の方針に沿った人材を的確に採用できることが挙げられます。新型コロナウイルス感染症によって「働き方」が変化し、リモートワークなどが普及していますが、企業が求める人材や、転職候補者が求める企業の条件にはどのような変化があったのでしょうか。人材採用支援会社として数千社を超える企業をサポートしてきた株式会社アールナインの代表取締役社長・長井亮氏(以下、長井氏)にお話を伺いました。

外部のプロの方がよい結果を出す

採用活動を外部に委託する、いわゆる採用のアウトソーシングが広がっていますが、どのような理由があるのでしょうか。

長井氏:採用活動をアウトソーシングする前後では、外部のプロが採用活動を行った方が、内定承諾率も入社後の定着率も高くなるという結果が出ています(自社調べ)。自社の人間がリクルーターとして選考にかかわると、第一印象で人材を選んだり、自身の部下として扱いやすいかどうかといった主観によって無意識に人材を採用したりすることが多く、経営陣の採用方針に沿った人材採用ができていないケースが少なくありません。また、意外に思われるかもしれませんが、人事・採用担当者が自社のことをきちんと理解できておらず、競合他社に対してどのような差別化を図っているかなど、的確に説明できないことも多いのです。その点、外部のプロは経営陣の採用方針に沿って客観的に人材を見定めていきますし、会社のことを的確に説明することができるので、それが内定辞退率の低下といった数字として表れているのではないでしょうか。

アールナインは、採用活動のアウトソーシングを請け負っていますが、どのような体制で運営されているのでしょうか。

長井氏:設立したころは面接代行からスタートしました。やがて会社説明会の運営を任されるようになり、今ではリクルーターの役割を担うケースも増えています。弊社のスタッフは、キャリアコンサルタントの資格を持つ人材を中心に、前職は人事部門の職務経験者など約350名が、企業の採用活動を代行しています。また、弊社のお客さまの7割は、大手企業が占めている状況です。依頼内容はお客さまによってさまざまですが、あくまで「その会社の人事部員として採用活動を行う場合」と、「外部のキャリアコンサルタントであることを明かした上で採用活動を行う場合」の2つに大きくわけることができます。採用候補者からすると、後者の外部キャリアコンサルタントの方が自分に寄り添って対応してくれるのではないかという期待があるようで、外部である立場を明かして採用候補者とかかわる方が、その後の内定辞退率が下がったといった結果が出ています。

外部のプロの方がよい結果を出す

直近の依頼傾向など、以前と比べて変化はありますか?

長井氏:最近では、「エージェントコントロール」といって、人材サービス会社の会社側窓口を任されるケースも増えてきました。もちろん、その会社の人事・採用担当者として対応します。このようなニーズが増えた背景の一つに、人材サービス会社の数が大幅に増えたことが考えられるでしょう。厚生労働省の「職業紹介事業報告」によると、有料民営職業紹介事業所の事業所数は、2013年度の1万7315事業所から増加し、2018年度には前年度比110.6%と大幅に増加して2万2977事業所になっています。かつては20〜30社の人材サービス会社と取引をしていればよかったのですが、企業によっては1,000社もの人材サービス会社との取引となっているところもあり、こうなるともはや人事部の社員だけでは対応できなくなっているのです。

営業こそ求められる経験とスキルが変わる

新型コロナによって、アウトソーシング市場に対する企業ニーズはどのように変化していますか。

長井氏:新型コロナウイルス感染症による影響を受け、企業の多くは採用活動を中止しようとしています。しかし、一度止めてしまうと再開させるまでが非常に大変なので、採用活動を止める必要がないように、またじっくりと人材を選んで採用し続けるようにとアドバイスをすることが多かったです。とは言え、通常であれば5月は「第二新卒」の採用活動が活発になりますが、今年はほとんどの企業が取りやめ、代わりに経験者を採用する動きが活発になりました。それぞれの企業にとって最適な人材を採用できるチャンスだと考え、中途採用を強化した企業が多かったからです。来年の新卒採用に関しては、最適な学生を確保したいという企業側の考えは依然強く、世の中で言われているほど採用活動が止まっている感じはしません。

その新卒採用についてですが、採用面接をフルオンラインに切り替える企業が目立ちます。今後はオンラインにうまく切り替える企業、中でもフルオンラインで採用活動を行う企業と、フルオンライン採用に踏み切れない企業とで、採用結果に差が出てくるでしょう。さらに、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、インターンシップによる採用活動も難しくなったことから、この差はさらに大きくなるかもしれません。

企業側が求める人材は、新型コロナによって変化していますか?

長井氏:まったく変わらないという企業の方が少ないですね。もちろん業種や職種によって変化に差はありますが、全ての業界に共通して、大きく変化しそうな職種が営業職です。新型コロナウイルス感染症によって、これまでの営業のやり方を根本的に変えなければならない状況になってしまいました。従来のようにアポイントを取って直接会いに行き、商談をまとめるといった働き方ができない。その上リモートでの営業や提案に加えて、『Chatwork』や『Slack』などのビジネスチャットツールを使いこなせないと、なかなか成果につながりませんでした。「状況が元に戻れば従来の働き方ができる」と考えている人と、「事態の収束後も変化した働き方は元に戻らないから、新たな営業方法で営業する」という人との間にも、成果に差が出始めています。実際に弊社のお客さまも、自粛期間中の営業をオンラインに切り替えた企業の方が、成果を出していました。

営業こそ求められる経験とスキルが変わる

オンライン化という大きな変化の中で、どのような対応が求められるのでしょうか。

長井氏:営業職に限らず、「お客さまと会って打ち合わせをする」ことが仕事の一環であった職種の場合、一度関係性を築いたお客さまに対しては、リモート会議やビジネスチャットツールなどを使ってきめ細かい対応をする方が成果につながるのではないでしょうか。特に定例のような打ち合わせよりも、たとえ数分でも必要なときにいつでも行えるオンラインでの打ち合わせの方が、お客さまのためになると理解され始めています。こうなると、成果を出すために細かいスキルを求めるようになりますが、今は細かいスキルよりも、「対応力」が求められていると感じています。

今回の新型コロナウイルス感染症によって、人々の価値観は大きく変化しました。今まで一向に進んでいなかった「テレワーク」も一気に導入され始めました。今までにない働き方では、自分を律することが重要です。このような変化が起きたときに、柔軟に対応できるか、できないかで成果に差が出ますから、その変化に即応できる「対応力」が問われます。この対応力は、今までの仕事に対する考え方や姿勢、あるいは経験といったものから築かれるものなので、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、企業がこのような変化に柔軟に対応できる人材を採用条件に加え始めているのは事実です。

一律の働き方から「ジョブ型」へ。変化に合わせた人事評価軸の設定が重要

働き方や、必要とされるスキルに大きな変化が出てきていますが、企業側はどのように人材を集めていけばよいのでしょうか。

長井氏:今まで主流だった時間による管理ではなく、成果や効率を重視する企業が増えるのは間違いありません。人材も、そのような企業に集まるようになるでしょう。コロナ自粛によって強制的にリモートワークが普及したことで、今まではあまり深く考えずにやってきた一律の仕事のやり方では、今後効率的な成果につながらないことを多くの人が気づきました。最たるものは会議(社内会議)なのですが、全員参加する会議は不要ではないか、と経営者や管理職だけではなく一般の社員も感じたのではないでしょうか。これまでの会議では声の大きい、存在感のある人の意見が通りがちでしたが、リモートワークでは影響されません。まずは一律に行ってきた仕事のやり方を見直すことで、いわゆるジョブ型(職務内容を明確に定義し、労働時間ではなく成果で評価する雇用制度)の働き方に一気にシフトしていくのではないでしょうか。仕事を因数分解して、誰が責任を持ってその仕事をこなすのかを明確にし、きちんとした評価軸をつくり上げることが、企業にとって最適な人材を集めるポイントになるでしょう。

ジョブ型の働き方にシフトできた企業に人材が集まってくるということでしょうか。

長井氏:5月に入ってからは新型コロナウイルス感染症の影響で次第に失業者が増え始め、求人に対する応募数は増えてきました。1カ月で十数件の応募数だった企業に、1週間で80件もの応募が寄せられるケースもあります。募集に応募が殺到し始めているように、売り手市場から一転して買い手市場になってきたと言えます。しかし、「リモートワークだとサボっているのではないか?」と会社側が疑心暗鬼になって、監視を強化する傾向にあります。最近の転職理由の中にも「リモートワーク中は上司が社員をいつでも見られるように常にパソコンのカメラをオンにしなければならず、見張られているようでつらい」といった声などが想像以上に多いです。これではとてもジョブ型に対応しているとは言えません。社員にとって、監視はただのストレスでしかないのです。ジョブ型の働き方を構築し、人材への評価軸をきちんと設定できない企業は、買い手市場になったこのチャンスを活かせずに終わってしまうのではないでしょうか。

ジョブ型の働き方にシフトするには、外部からのサポートが有効に思えるのですが、アールナインとしてはなにか施策をお考えでしょうか?

長井氏:まずは、現在350人いるパートナーを、2万人にまで増やすのが目標です。政府が2024年までにキャリアコンサルタントを10万人にするという計画を打ち出していますので、その2割の方々の活躍する機会を創出したいと考えています。パートナーに対しては、企業へ提供するサービスの質を高めて、個人差が出ないように標準化する教育を行っていますが、その一方で個性や専門性を伸ばすことも支援しています。なぜかというと、ジョブ型の働き方になっていくことは、人事の仕事も細分化されていくと考えているからです。そうなると、専門性の高い外部のキャリアコンサルタントのニーズが、今まで以上に必要とされます。今後もジョブ型にシフトする日本企業を、人事の面から支えたいですね。

一律の働き方から「ジョブ型」へ。変化に合わせた人事評価軸の設定が重要

取材後記

「経営陣の採用方針に沿った的確な人材採用を行いたい」という企業のニーズに応え、2,000社を超える人材の採用に携わってきた長井氏は、今回の新型コロナウイルス感染症によって多くの人の価値観が変化したと語ります。企業も社員も、今までとは異なる働き方、異なるスキルを備え活動し始めています。しかし、人事評価までを含めたジョブ型の働き方へシフトできた企業は、まだまだ少ないのが現状です。このジョブ型の働き方へのシフトには、外部のキャリアコンサルタントのサポートが大いに役立つでしょう。

取材・文/磯山友幸、編集/d’s JOURNAL編集部