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システム開発・販売業務を経て2010年10月に危機管理クラウドサービスに関するマーケティング職に就く。半年後、東日本大震災でお客さまの利用状況やご要望などを確認し、危機管理ポータルサイト「BCPortal」を構築、そのプロモーションを実施。最近は、数多く発生している災害に対して災害対策本部ではどのように情報収集し経営に報告するのか、ICTではどのような機能が必要なのかを模索し、ヒトとモノの安否を1画面で参照できるダッシュボードを構築。今後プロモーションを実施する役割を担う。
インフォコムグループは、ICTの進化を通じた社会への貢献を企業理念としています。市場や技術の変化を先取りし、社会の役に立つものを提供する。特にリスクマネジメントと情報セキュリティーの分野で強みを発揮しています。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、こうした同社の取り組みについて、担当責任者であるインフォコム株式会社サービスビジネス事業本部、危機管理事業部マーケティングチームの青木昭義氏(以下、青木氏)にお話を伺いました。
青木氏:BCPとは、企業がいかなる状況に陥っても、重要な業務を継続できる対策を施し、生存するための計画書のことです。「いかなる状況」とは、阪神淡路大震災や東日本大震災といった地震などの自然災害や、大規模停電などによるインフラのダウン、大規模なテロ、そして今回の新型コロナウイルスのような感染症の世界的流行といった、社会全体が被害者となる大規模なものから、システム障害や不祥事といった企業単体のものも該当します。日本は災害大国ですから、企業のBCPニーズ、特に社員の安否確認のニーズは昔から高いです。さまざまな緊急事態に直面したときには、まずは社員の安否を確認し、そして安全な状況を確保し、命を守ることが何より大事だと考える企業が多いです。
青木氏:1995年に発生した阪神淡路大震災です。地震が発生したのが早朝だったこともあり、震災直後は大混乱に陥っていました。特に家族の避難先が別々になってしまうと、互いに連絡が取れないので、安否確認ができません。そこで弊社の技術でもって、なんとかできないかと模索しました。
現在は、緊急連絡・安否確認システムの「エマージェンシーコール」という安否確認のサービスになっていますが、当時は弊社が用意した録音システムに電話をかけてもらい、家族だけがわかる暗証番号、たとえば電話番号や生年月日などでいいのですが、それを入れて録音することで、家族の所在や安否が判明するシステムを構築しました。伝言サービスの応用のようなものですね。録音システムの使い方や電話番号を電柱に張りつけて、それを見れば誰でも使用できるようにしました。
このときは、企業が保有している電話回線のうち、休止していた回線をパソコンでつなぐことでサービスを無償で提供していたのですが、この活動が新聞で取り上げられ、その記事を見たある企業から、このサービスを商業化しないかという提案をいただきました。BCPを実行する上で最も重要なことの一つは「従業員の安否確認」です。この提案が契機となって、現在のビジネスに発展しました。
青木氏:東日本大震災のときは、弊社の安否確認システムを活用している企業では、24時間以内に9割以上の社員の安否を確認できました。社員の安否さえ確認できれば、次にどうすべきか、社員に適切な指示を出すことができます。自宅待機させるのか、社員によっては何とか出社してもらうのかなど、社員ごとにきめ細かく指示を出せます。これがBCPの基本です。
2019年に、スクールバスを待っていた私立小学校の児童が、暴漢に襲撃された事件がありました。この件では自分の子どもの安否確認ができなかったために、保護者がパニックに陥って大混乱になってしまいました。学校のようなコミュニティーで何かトラブルがあったときに、コミュニティー内部の学校からコミュニティーの外にいる保護者に向けて、迅速に連絡を取ることができれば保護者は安心します。
東日本大震災のときは携帯電話もつながりにくい状態でした。社員の安否確認ができなければ、社員ごとに指示を出せません。その結果、社員は「とりあえず会社に向かおう」と電車や車で向かったがために、大混乱している街頭に飲み込まれ、どうにもならない事態に陥ってしまいました。災害の際、まずは社員の状況を把握することが大事です。災害大国の日本では、災害時は社員の安否確認ができるように備えておくことが必須なのです。
青木氏:東日本大震災は、最初の地震が発生したのが金曜日の午後3時前という時間帯だったため、外出先にいる社員が多かったという傾向がありました。弊社のシステムなら安否確認はすぐにできたのですが、そこから自宅に帰るのか、それともいったん会社に戻るのか、会社からの指示が届かなかったために、社員が混乱したというケースもありました。そこで現在は、契約している企業には「BCPortal」というポータルサイトを使えるようにしました。機能の一つに掲示板があり、そこには「そのまま帰宅せよ」「いったん会社に戻れ」など、会社が社員へ向けて指示を書き込めるようにしました。社員はそれを確認すれば、自分の取るべき適切な行動がわかります。
青木氏:今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、弊社の提供している危機管理サービスが、在宅勤務を行っている社員のコンディションを把握するなどの目的で利用されていることがわかりました。
新型コロナウイルスの感染拡大予防として、リモートワークによる在宅勤務が推進されましたが、在宅勤務での勤務時間を把握したり、体調がすぐれない人の体調を把握したりするために、緊急連絡・安否確認システムの「エマージェンシーコール」を利用されていました。「エマージェンシーコール」を利用することで、体温・味覚など社員の体調を管理し把握することも可能です。在宅勤務の可否・出勤日・出社時間・出勤率の把握など、本来の目的とは違う目的での使用ですが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という危機的状況下でも、社員の安全を確保しながら、業務を滞りなく行うことに利用されていたわけです。
青木氏:以前より、介護をする社員のための在宅勤務制度があり、今回の新型コロナウイルス拡大によって在宅勤務率が高まりましたが、在宅勤務でも通常業務にそれほど影響がないことが証明されました。しばらく在宅勤務率は高いままになると思われます。また、社員研修のような集合して行う業務は、オンラインの研修などに変わっていくと思います。
青木氏:BCPは「事業継続計画」です。中小企業庁のホームページにある運用指針には、「……中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」と記載されています。
もちろん、方法や手段を取り決めて計画を立てておくことは重要ですが、何といっても大事なのは、社員の命を守ることです。そのために、企業は社員の置かれている状況を的確に把握し、安全を担保するための指示を素早く出すことが重要です。無用な動揺や混乱は、被害を拡大しかねません。また、これと同じことを社員の家庭にも徹底させることです。家族の安否をいち早く把握できる環境をつくり、何かあったときには素早く安否確認をして安心できるようにすること。さらに、子どもの通っている学校などが、緊急時にどんな対応が取れるのか、その環境を把握すべきです。現状を把握した上で、いざというときのシミュレーションをしておく。これを自宅のBCPとしておけば、危機的状況に見舞われたときに、心配をかなり減らすことができます。
青木氏:BCPの対象は人だけではありません。モノも対象になっています。2018年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震では、地震発生後、北海道全域で大規模な停電、いわゆるブラックアウトが起きました。北海道とは言え9月でしたから、冷蔵庫の電源が落ちて大量の食物が被害を受けました。最新のBCP技術では、停電のとき、冷蔵庫内の温度などの状況を瞬時に把握し、管理者に通知できます。冷蔵庫の管理者はすぐに対応すれば、食材の廃棄を減らせたり、有効活用できたりします。BCPの構築が判断材料の迅速な提供にもつながるのです。
大地震や集中豪雨といった自然災害だけでなく、人的な原因で発生する火災やシステム障害、サイバー上のものも含めた企業に対するテロ行為など、企業が直面する緊急事態はたくさんあります。企業はこうした危機的状況に置かれた場合、どう対応するのか。そしてどうやって社員を守るのか。今回の新型コロナウイルスによって、企業には対応の早さや的確さが問われています。社員の命を守ることを第一に考えた上で、重要な業務が継続できる方策を用意する。新型コロナウイルスが終息するまでのウィズコロナの時代に企業活動を行うには、BCP戦略がますます重要になっていくでしょう。
取材・文/柴田雄大、編集/d’s JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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