時短勤務制度が、優秀な人材を集める。ブロックチェーン企業の人と組織が急成長する秘訣

日本暗号資産市場株式会社

代表取締役社長 岡部典孝(おかべ・のりたか)

2001年、一橋大学経済学部在学中にリアルアンリアルを起業。広告配信の最適化システム、ソーシャルゲームを中心に高レスポンスの大規模トラフィックサービスのサーバーサイド開発などを手掛ける。その後はエンジニアとして技術を追求し、2017年にリアルワールドゲームスを共同創業。2019年には、ブロックチェーン技術を活用した暗号資産で直接モノを買えるようにしたい、売買できるようにしたいという思いから、日本暗号資産市場を創業し、代表取締役社長を務める。

プロジェクト単位で指揮官を決め、すべての権限を委譲する組織
週に最低20時間勤務―“時短正社員制度”の導入で応募増
失敗を責めない配慮や褒め合う文化で、個人と組織の成長を促進
これからは、スピードに有利な自律分散の組織が台頭する時代に

2019年に設立された日本暗号資産市場株式会社は、暗号資産の流通促進を目指し、2020年に古物商、古物市場主の許可を取得。4月には、商品を送るだけでオークションに出品してもらえるオンラインかんたん買取サービス「オクリマ」の事前登録を開始し、8月には日本円・BTC(ビットコイン)・ETH(イーサリアム)で購入可能な前払式支払手段ERC20トークン「ICHIBA」を発行するなど積極的に展開しています。そのスピードを実現しているのが、同社が採用する制度と3つのバリューです。これらについて、代表取締役社長である岡部典孝氏にオンライン会議システムを通じてお話を伺いました。

プロジェクト単位で指揮官を決め、すべての権限を委譲する組織

日本暗号資産市場の事業内容について教えてください。

岡部氏:弊社は、暗号資産(仮想通貨とも呼ばれる)とモノの取引を行う古物商と、古物市場主を行っている会社です。また、日本円のステーブルコイン、代替安定通貨を発行するフィンテック企業の側面もあります。ミッションは、モノの流通促進と暗号資産の流動性を向上させることによって、多くの社会問題の解決を目指すことです。

暗号資産(仮想通貨)はストックオプション同様のインセンティブを、社員にも外部の協力者にも広く無料で配ることができます。さらに参加の条件によって、インセンティブに変化をつけるような設計も可能です。これにより暗号資産の発行体は、少ない資本で資金を集めたり、外部から協力いただいたりすることで社会課題を解決します。その結果、投資家や参加者を中心とした社会全体に、より多くの価値を提供できるのです。

現在どのようなサービスを提供されているのでしょうか?

岡部氏:弊社では、「暗号資産を使って、モノを取引する市場(いちば)」を提供したいと考え、それに関連したサービスを開発、提供しています。2020年4月、新型コロナウイルスの影響により自粛中の人々に対して、オンラインかんたん買取サービス「オクリマ」の事前登録を開始しています。このサービスは、自宅にある商品を送っていただくだけで、弊社がオークションの出品代行をして現金化するもので、当時16歳のエンジニアが開発しました。

日本暗号資産市場・岡部氏:ミッションは、モノの流通促進と暗号資産の流動性を向上させることによって、多くの社会問題の解決を目指すことです。

また8月には、日本円と、暗号資産BTC、ETHで購入可能な前払式支払手段ERC20トークン「ICHIBA(ICB)」を1,000万円分発行しました。ICBは1ICB=1円で取引でき、ICB販売サイトにてAmazonをはじめとしたECサイトを利用した物の購入や金券の購入、あるいはオフィス移転時に必要なイスや机といった古物(リサイクル品)の購入に利用できます。古物市場に参加する古物商が現金を持ち運ぶリスクの低減をし、事業者のキャッシュレス活動を推進しているのです。

従業員数や組織構造について教えてください。

岡部氏:従業員は約30名です。このうち正社員は私を除いて3名で、内定者が1名おります。それ以外は全てアルバイトやインターンで、時期により人数が変化します。学生のスタッフもいますので夏休みの時期は多くなりますね。また、組織としてはICS(インシデント・コマンド・システム)を採用しています。これは危機管理のためにアメリカの軍や消防、警察などで採用されている組織体系で、現場指揮官に高い権限を与えるというものです。

現場指揮官は、文字通りに現場を指揮する機能と、実行する機能、計画情報やプランニング、後方支援といった調達系、さらに財務や総務の機能も持ちます。その現場指揮官がプロジェクトやタスク単位で指揮していく構造となっており、あらかじめ全ての権限を委譲していることも特徴的ですね。会社全体に対しては、私と原沢という社員が交代で指揮しています。

つまり指揮官となる方が、ほとんどの権限を持っていると。

岡部氏:先の緊急事態宣言のときはフルリモートにしていたので、ある意味自分で自分を指揮するという状況でした。とは言え、得手不得手はありますので、最初にプロジェクトやタスク全体を可視化して、各現場指揮官が担当を宣言していました。コロナ禍の緊急事態宣言の最中においても、基本的には、このようなICSによる自律分散型の組織を維持しています。

ちなみにこのICS組織を知ったのは、「Ingress」というスマホ向け位置情報ゲームがきっかけです。ゲームは、青と緑のいずれかのチームに分かれて陣地取りをするもので、そのゲーム仲間である大学教授からICS組織について聞き、ゲームの作戦に活用しました。誰かが命令して動く中央集権型組織よりも、各自が指揮官として動く自律分散型組織の方が、ゲームでの戦いにおいて圧倒的に強かったという経験から、会社組織にも応用したのです。

週に最低20時間勤務―“時短正社員制度”の導入で応募増

社員には「オクリマ」を発案した16歳のエンジニアや、現職の区議会議員などユニークな経歴の方がいらっしゃいますが、どのように採用しているのでしょう。

岡部氏:大々的に募集をかけているわけでなく、TwitterやYouTube経由で採用することが多いですね。私は暗号資産古物商協会という業界団体を運営していて、そこの仲間と情報発信をしています。先進的な話題も多いので、そこで興味を持っていただいてつながるケースが多いです。それで会社に遊びに来たりして、そこから採用に至ることも。エントリーや会社訪問のハードルはとても低いと思います。

16歳のエンジニアは小野という女性で、最初に弊社の社員となったメンバーです。彼女が「今16歳なんですけど、エンジニアとして働けます」といった趣旨のツイートをしたことがバズりまして、知り合いから紹介を受けて一度会い、インターン経由で入社しました。新宿区議会議員の伊藤という男性も、もともと知り合いなのですが、人材募集についてツイートしたら連絡が来たという流れです。

日本暗号資産市場のメンバー

小野を採用したときが、採用の大きな転機になりました。当時は16歳でしたから採用するかどうか悩んだのですが、まずはインターンとして週4日で働きたいということでしたので、ひとまずインターンとして採用し、正社員になる時点で「時短正社員制度」を導入しました

簡単に言えば、週に20時間から39時間までの間で、自分が何時間働くかを選ぶというものです。この制度を導入したことで、フルタイムでは働けない優秀な方々も、応募してくれるようになりました。

失敗を責めない配慮や褒め合う文化で、個人と組織の成長を促進

人事制度などでの独自の取り組みがあれば教えてください。

岡部氏:「自律分散」「急成長」「即行動」というバリューを掲げていて、自律分散的に動ける人が活躍しやすい仕組みにしています。スタートアップが成長する上で、組織にひずみが生じて成長が止まってしまう「20人の壁」と呼ばれるものがありますが、ICS組織はひとりでも数千人でも組織的に動けるという特性があります。これを意図的に最初から導入している点は、人事制度ともからんでユニークなところだと思います。

「急成長」というバリューについてはいかがですか?

岡部氏:組織のメンバーが、特に成長するゾーンがあると考えています。それは心理的安全性が高く、かつ失敗してもいいという状態で任せることです。若い従業員が多いので、自分の判断で仕事をすること自体がチャレンジになります。ストレスが悪い方向にかかってしまうと、成長しなくなって離職などにつながりかねないので、あくまでも心理的安全性が高い状態で、少し高いくらいの難易度にすることは意識しています。それで本人が急成長すれば、結果的に会社の業績も上がるはず。実際に、早い人では数日で見違えるように変わりますし、3カ月も経つと別人のように成長します。それは見ていて楽しいですね。

もうひとつのバリュー「即行動」も他と関連していて、普通はいろいろ考えて、決めてから行動しようとしますが、それでは挑戦する要素が減ってしまいます。特にスタートアップでは、何が正解なのかは実行してみないとわからないことが多いので、失敗してもいいから実行してみる。うまくいかないときは早く軌道修正する。これを周知しています。3つが全て重なっているわけですね。

失敗しても責めない、というお話がありましたが、ほかにも取り組んでいることはありますか?

岡部氏:アルバイトスタッフからの提案で「褒め合う文化」を醸成するようにしました。それが根付いてきて、今では「ありがとう」の感覚で「頑張ったね」と褒め合うことが自然になっています。誰かが褒められるとSlackに通知される仕組みも動いています。ほかにも、Slackの機能を使って「秘書ボット」や「出勤予定ボット」など、便利な仕組みがたくさん走っています。Slackを上手に活用すると、組織やコミュニケーションが活性化するんですよね。

日本暗号資産市場のメンバー

全国各地にスタッフがいるなど、リモートワークを活用されているようですね。コロナ対応の影響はあったのでしょうか?

岡部氏:東京都において古物商は自粛要請の対象業種でしたので、コロナ対応の事業への影響はありました。働き方の面では、ほぼフルリモートに。古物商として商品を扱うため出社する人員は最低限いるものの、あまり影響がなかったと言いますか、最初からそういう組織にしていたので大きな問題はなかったというのが実態に近いです。

とは言え、リモートは確かに大変な部分はあります。直接会うことは、一番情報量が多く、やはり文字だけでのやりとりでは相当な情報が失われますから。Zoomなどのツールを使ってミーティングはしますが、限界は感じています。

ICS組織として、現状報告書という形で1週間に1回、最新情報を全部ドキュメントにしています。それを見ていればある程度のキャッチアップはできるのですが、1週間以内のアップデートに関してはSlackにしか情報がありません。すべての人がすべてのタスクに対してフルタイムで関わっているわけではないので、情報格差が生まれることに配慮したコミュニケーションが必要です。

これからは、スピードに有利な自律分散の組織が台頭する時代に

貴社の今後の展望をお聞かせください。

岡部氏:弊社はさまざまな省庁に声をかけて、新しいビジネスの提案をしています。それが通ったものから順次サービス化していく体制ですので、これから日本では初めてで、世界でもまれなビジネスが出てくるでしょう。楽しみにしていただきたいと思います。

日本暗号資産市場 岡部氏:これからは、スピードに有利な自律分散の組織が台頭する時代に

暗号資産を扱う業界はお互いに協働体制を取っているのが面白いところで、小さい業界であるがゆえに一緒に課題を解決しようとしています。ライバルというよりは仲間の感覚ですね。そういう意味では、ブロックチェーンという新しい技術を使うことによって、他社と情報を共有できるようにしたり、協業しやすくしたり、価値をシェアしやすくしたりするなど、新しい業態になっていると感じています。

これからの社会における、組織と働く人についてのお考えをお教えください。 

岡部氏:新しい働き方という面では、こなしたタスクの成果に応じて報酬がもらえる流れになってきていると思います。ここにブロックチェーンやスマートコントラクトの技術を使えば、成果を自動的に測って自動で報酬を与えることも可能になります。そうすると管理者がいらなくなるでしょう。

今までは大きな会社に属して、その会社は大きなピラミッド型の組織で、何をやるかが降りてきました。しかしそれでは、稟議を通して承認を得るだけで時間がかかってしまうので、スピードでは不利になります。そのため自律分散型の組織が、これからはどんどん成長してくるだろうと思っています。自分たちで自律的に動いた成果に基づいて自動的に収益がもらえる。そういう組織が増えていくのではないでしょうか

働く人の意識も当然変わるでしょう。会社に所属して会社のためにという文化だったのが、その仕事をどう効率的にこなすか、あるいはお客さまと向き合うような仕事だったらお客さまをどう満足させるか、そこに集中していくようなシフトが起きる気がしています。

現状、当社の時短正社員制度はうまくいっています。この制度を使えば正社員でも自由な働き方ができて、互いの満足度も上がるし、多様性も認められます。今までも、若くして時給5千円もらえるような有能な人は社会にいたと思います。そういう人たちが、弊社のようなスタートアップで時短正社員として働けるようになれば、働きながら個人的なプロジェクトを進めることもできる。それがうまくいけば起業したりと、そういう発展的なコミュニティーになっていくといいと思います。

取材後記

現場指揮官にほぼ全ての権限を委譲していることが特徴のICS組織は、アメリカの軍や消防などで採用されています。リアルな場所を訪ねて陣取り合戦を行う位置ゲーム「Ingress」では、時折世界をまたにかけた作戦が展開されており、それがICS組織のベストプラクティスのひとつとなっているようです。

ICS組織は日本の会社組織としてはユニークな試みですが、これに適した人材を集めるという点で岡部氏は、自らYouTubeやTwitterをうまく活用されています。新たな組織づくりへの挑戦や、ブロックチェーン技術・活用事例、省庁への新しいビジネスの枠組みの提案といった情報を発信し、自己実現をしながら社会を変えたいという動機を持つ、優秀な人材獲得に役立てています。自律分散型組織という挑戦を、うまく会社のバリューに活かしていることが感じられるお話でした。

取材・文/吉澤亨史、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOURNAL 編集部