「失敗の原因は、採用の固定概念」―デジタルベンチャーが、王道の採用手法を取るワケ

株式会社ADDIX

執行役員/HRユニット 兼 事業推進室
加藤 右嗣

プロフィール

わずか70名程度の社員数ながら、ANAホールディングスや集英社といった大手クライアントの、新規デジタルビジネス構築や実行支援を手掛ける会社があります。それが、東京・表参道にオフィスを構える株式会社ADDIX(アディックス)です。

「デジタルマーケティングの領域を超えて、ビジネスをデザインする企業体へ」シフトしている同社にとって、エンジニアをはじめとした優秀な人材の獲得は必要不可欠。そこで約3年前、現執行役員の加藤右嗣さんのジョインを機に、抜本的に採用活動を見直し、自社にフィットする採用手法を模索しました。加藤さん曰く、「一番の課題は、採用に関する“固定概念”を覆すこと」。彼らはどのようなつまずきを経験し、どのような発見と成果を得たのでしょうか?同社営業担当であるパーソルキャリア株式会社 青山と共に詳しいお話を伺いました。

事業成長に影響しかねない、「採用」の重要課題

事業成長に影響しかねない、「採用」の重要課題

加藤さんは2016年にADDIXに入社されたと伺っています。

加藤氏:そうです。もともと人材業界で人材紹介を手掛けていました。最初の頃は営業として、IT系のメガベンチャーなどを担当していまして。自分たちの会社も成長の手応えを感じていたものの、顧客企業のけた違いの成長ぶりをずっと横目で見ていて、「せっかくこの時代に生まれたんだから、IT業界に一度は挑戦してみたい」と思っていたんです。

ただ、その前にまずは今の環境で実績を残したい。そこで営業部長に昇格し、会社もマザーズ、東証一部上場と成長することができた。その時に、「もうそろそろ次のチャレンジをしてもいいだろう」と、入社したのがADDIXでしたね。

加藤さんがジョインされた時点で、採用面で大きな課題などがあったのでしょうか?

加藤氏:いえ、実は、「既存事業・組織など、会社の課題を改善していく」という社内コンサルに近いミッションで入社しました。ただ、入社後2週間ほどをかけて全社員面談などを行い、自社課題を徹底して洗い出した結果、人事領域の課題が顕著で、自身も貢献できるなと。特に、採用に対する考え方ですね。採用に関する感覚が今のマーケットとだいぶ乖離しているなと感じました。このままだと厳しくなると考え、改善に向けてHRユニットを新設してもらいました。

HR出身者だからこそハマる、「固定概念」の罠とは?

HR出身者だからこそハマる、「固定概念」の罠とは?

採用に関する意識の乖離とは、どのようなものだったのでしょう?

加藤氏:最近はだいぶ変わりましたが、入社当時は「求人を出せば採用できるもの」という固定概念を持ったマネージャー層もいましたね。今はもう、“候補者にいかに選ばれるか”という時代なのに、会社側が人材を選ぶだけという考えがまだまだ残っていて、採用費に関する考え方も旧態然としたところがありました。そこで各部門から採用ニーズが上がってくるたびに、その都度責任者とコミュニケーションを重ねて意識変革に取り組んでいきました。

社内の固定概念を変えることが、採用成功への第一歩だったわけですね。

加藤氏:実は私自身も採用活動し始めた当初は、固定概念にとらわれ過ぎて失敗だらけでしたけどね(苦笑)。

加藤さんも固定概念に縛られていた?

加藤氏:私のような人材紹介などのHR領域出身者の場合、経験者ゆえに固定概念がある程度できあがってしまっているんですよね。例えば、エンジニアやマネジメント層以上といった採用難易度が高いポジションは紹介会社やダイレクト・ソーシングで採用をしよう、とか。若手営業職などは求人広告(求人媒体)で決まり、とか。
ただ、実際には人材紹介会社にエンジニア募集をかけても、何カ月待っても候補者の情報が上がってこず、リードタイムばかりかかるなど、まったく結果が出ませんでした。今考えると、“自社の特徴”と“私の認識”と“転職マーケット”、その3つがフィットしていなかったんです。

「採用活動の常識」が、逆に足かせになってしまったわけですね。

加藤氏:そこからひたすら試行錯誤していくと、質の高いエンジニアが求人媒体で複数採用できたり、営業募集が転職フェアで大成功したり。徐々に、募集ポジションごとに適切なルートが見出せるようになり、複数の採用手法を組み合わせた戦略が現時点でのADDIXの最適解だと分かってきて、採用効果が目に見えて変わっていきましたね。

ADDIXさんのようにデジタル領域の最先端を行く企業ですと、最新の採用手法なども積極的に取り入れていったのですか?

加藤氏:確かに会社としては新しいことをどんどんやっていますが、採用手法に関しては「王道」に徹しています。当社の場合、世の中的にも転職マーケットにおいても、まだネームバリューが無いんですね。それを逆手に取って、採用マーケットで「知られていないけれど、面白いことをやっているレアな会社」という打ち出し方に徹しています。現時点では求人広告・スカウト・人材紹介サービス・転職フェア・リファーラルといった王道の採用手法で、王道の顕在層にリーチすればいいのだと。社員から見ると、つまらないことやっているなと思われるかもしれませんが、それでも今はわざわざ変化球を投げるタイミングじゃないんです。まだ認知がないからこそ、王道の手法でしっかり情報発信すれば顕在層にアプローチできると考えました。新たな手法に取り組んいでる企業って、王道もやり尽くしていると思うのですが、普通の会社ってそこまでできているかと言われればそうではない。まだまだ王道の手法でやれることはあるんですよ。実際、dodaでエンジニア募集の求人広告を出稿し、GAFA出身のエンジニアを採用できています。

求人媒体で引く手あまたの優秀層のエンジニアを採用というのは、すごい成果ですね。

加藤氏:逆に少し困ったのがとある部門の営業職でした。求人広告を出稿すると応募はたくさんいただけるのですが、書類選考に通った方と面接でお会いすると、人柄の面で「ちょっとうちとはタイプが違うな」というケースが続きまして……。困っていたところ、パーソルキャリアの営業担当の青山さんから「直に候補者と会える転職フェアはどうですか」と打診をいただいたんです。

実はその青山さん(ADDIX社 営業担当)が今日のインタビューにも同席しているのですが、青山さんはなぜ転職フェアを提案されたのでしょう?

青山:加藤さんとお話をしたところ、こちらの部門の営業に関しては比較的経験の浅い方もOKという要件だったんですね。そこで、転職フェアであれば、これまで会えていなかった層に会えるのでは?と考えました。それに、フェアであれば募集職種も複数出せるので、うまく活用していただければ採用単価も抑えられます。

提案内容

加藤氏:そういった提案を受けて、その部門の営業については一度、レジュメ重視を止めて人柄第一の採用に挑戦してみようと考えたわけです。さらに、部門のメンバーにも当然フェアのブースに同席してもらい、メンバーが候補者の方と直接話す仕組みをつくりました。

青山:私はADDIXさんを担当して1年ほどになるのですが、採用決定した方のヒアリングなどを逐一行っていたんですね。そうするうちに、どんな方が社風に合うのか分かるようになってきまして。部外者の私でも感じられるのだから、現場の営業の方が候補者に会えばピンと来るものがあるんじゃないかと思っていたので、そこは私からもぜひ!とプッシュさせていただきました。

高い決定率を誇れるのは、「採用決定」にコミットする担当者と一緒に歩んでいるから

「採用決定」にコミットする担当者と一緒に歩んでいるから

転職フェアの成果はいかがでしたか?

加藤氏:当社と非常にマッチする方を採用することができました。彼はすでに入社して、現場にもスムーズに馴染んでくれているので、この手法は正解だったなと。また、現場サイドが「採用がいかに難しいか」を体感したおかげで、採用への協力姿勢にも変化が出てきています。それ以降、「こういう人材を採用したい」「求人票書いてみました!」など周りが採用に対して積極的になったのを実感しています。

あと、もう1点。実は営業だけでなく、思いがけずPythonエンジニアも転職フェアをきっかけに採用できたんです。幸運なケースかもしれませんが、まさに出会えなかった人と出会えた形で、これも私の中の固定概念を覆してくれる経験でしたね。

様々な手法を組み合わせて採用活動を行う場合、青山さんのような人材会社の担当者のサポートも重要になるかと思いますが、その点はいかがですか?

加藤氏:私は求人広告や人材紹介など人材系サービスを問わず、広く浅くよりも「信頼できる担当者とガッチリ」というタイプですね。だから、青山さんは、数少ない1人です。

この人は信頼できるな、と感じるポイントなどはありますか?

加藤氏:まず当たり前のことですが、社会人として、報告・相談をしっかりしてくれることが第一のスクリーニングポイント。たとえデータベース上に候補者がいなくても、候補者に応募を断られたとしても、「ダメだったから連絡しない」ではなく、その事実だけでもきちんと教えてほしい。そうすれば、改善プランも立てられますからね。求職者に対して自社がどのように見られているか、なぜ選ばれないかを客観的な視点で共有してもらうことは重要だと思っています。それが人材サービス会社としての真価の問われるところだと思います。
2つめは、目先の受注とか応募数ではなく、「採用決定」に軸足が置かれていること。私たちは応募数が担保できても決定できなかったら意味がありません。もちろんKPI指標を達成していくことは大事ですが、そこではなく「採用するために、どういう部分が足らないのか、何をすればいいのか」を一緒になって考えてくれる人に協力していただきたいです。青山さんは特にそこにコミットしてくれるので、相談しがいがあるなと。

青山:私自身、いろいろなお客様とやり取りする中で、やはり決定を出すのが信頼関係に直結すると思っています。媒体の場合は、特に結果でしかお返しできないので、採用決定のために何が出来るかをひたすら考えています。冗談ではなく、考えすぎて夢に出てくるくらいです。加藤さん、こう見えて最初は怖いイメージだったので(笑)。

加藤氏:いやいや、私のスタンスは変わってないでしょう?(笑)。

青山:いえいえ、かなり優しくなりました(笑)。

こうしたことが言い合えるのも、信頼の証なのでしょうね(笑)。では最後に、採用活動における今後の展望や計画などがあれば、ぜひお聞かせください。

加藤氏:当然ですが、現状リーチできている採用ターゲットは顕在層ばかりなんですね。潜在層の方はまだまだだと思っていますので、現在取り組んでいる王道の採用手法と並行して、中長期的な採用ブランディングによって認知向上を図っていきたいと思っています。

少しずつでも、「こんな面白いことをやっている会社です、こんな取り組みをやっています」と情報発信していくことで、潜在層の方々の頭の片隅に残り、ADDIXが転職先の選択肢のひとつになっていきたいですね。

真価の問われるところ

【取材後記】

自社の現状と、人事の採用手法に関する認識と、マーケット。ADDIXはこの3つがマッチした結果、採用決定数が2倍以上に伸長し、決定まで2~3カ月を要していたリードタイムも、最短2週間程度に短縮されたといいます。固定概念や新しい・古いといった視点に縛られず、自社にとっての最適解を模索し、それをフル活用する。今、採用担当者にはそうした柔軟な発想と姿勢が求められているのではないでしょうか。

(取材・文/太田 将吾、撮影/西山 法正、編集/齋藤 裕美子)