With/Afterコロナ時代の働き方改革 「これからの組織開発とウェルビーイング経営」【エドガー・シャイン博士による特別セミナーレポート(1/2)】

d’s JOURNAL編集部

セミナー主催、取材・データ提供 協力:
株式会社パーソル総合研究所
マサチューセッツ工科大学 スローン経営大学院 名誉教授 Edgar Henry Schein(エドガー・ヘンリー・シャイン)
武蔵大学 経済学部 経営学科 教授 森永雄太

職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを高める/武蔵大学 森永教授
エドガー・シャイン博士と森永教授によるダイアローグ
「組織社会化」についての今日と過去とにおける違い/エドガー・シャイン博士

パーソル総合研究所が開催する公開研修「楽習塾」に、キャリア理論の創始者であるエドガー・シャイン博士が登壇。約5日間にわたり、米国よりライブセミナーを行いました。本レポートはその前半部です。初日は博士と同じく組織・キャリア論を研究されている武蔵大学の森永雄太教授も登壇。森永教授が提唱する「ウェルビーイング経営」について、昨今のコロナ禍を踏まえ解説いただくと共に、シャイン博士とのダイアローグも行われました。

職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを高める/武蔵大学 森永教授

職場の多様性を高めるには組織への一体感を高める必要がある

コロナ禍によりテレワークなどを活用しながら、在宅勤務をする人が増えました。その結果、限られた職場内だけの知識共有に留まることなく、部門を横断して、さらには会社という枠を超えて多様な人たちと連携しながら働く機会が増えました。

テレワークに関する研究によれば、このような多様な人と連携して働くことは、新製品の開発やイノベーションにつながると考えられています。私も中長期的に日本企業が変化するためには、部門・組織を超えた連携が大事だと考えています。多様性が高まると、創造性も高まるからです。一方で、コンフリクトが発生する懸念があることも分かっています。そこで私たちのチームは、多様性と組織に関していくつかの研究を行いました。

組織への一体感を「低・中・高」と3つに分け、それぞれ多様性の認知と協力意欲に関する意識について調査しました。低タイプでは特に関係性は見られず、中タイプでは多様性が高まると協力意欲が下がる悪い傾向が見られました。しかし高タイプになると、多様性を認知し協力するとの結果が得られました。つまり職場の多様性を高めるには、組織への一体感を高める必要があることが分かったのです。では組織への一体感を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。そこで「インクルーシブ・リーダーシップ」が有効だと私は考えています。


 

「所属性」「独自性」両方の欲求を同時に満たすことが重要

研究によれば、トップではなく直属の上司によるインクルーシブ・リーダーシップが重要だと分かっており、次の3つが条件だと言われています。

1.多様性への肯定的な信念
会社(組織)はもちろんですが、直属のリーダーが多様性を認めます。

2.認知的複雑さ
多様性にはメリットもデメリットもあることを理解します。

3.謙虚さ
自分の意見だけが正しいと思うのではなく、異なる価値観を得ることができるとの視座を持って部下と接します。

具体的なマネジメントとしては、意思決定や評価を公平に行うことが重要であり、メンバーからの視点に置き換えれば、「所属性」と「独自性」両方の欲求を同時に満たされていることが重要だと言われています。

病院の手術が参考になります。麻酔科医であれば、チームリーダーに遠慮することなく麻酔に関した知識を存分に発揮できる場であることが重要です。逆に失敗例としては、日本人が働いている職場に入ってきた外国人が独自の価値観を隠して組織への一体感を高めているケースです。コンフリクトは起きませんが、イノベーションには結びつきません。また所属性の観点から言えば、テレワークのメンバーを除いてオフィスで働くメンバーだけで物事を決めるようなマネジメントも、よくない例と言えます。

私が考える理想のインクルーシブ・リーダーシップは、映画「オーシャンズイレブン」の主人公たちです。ITや俊敏性において自分よりも高い能力を持つメンバーを集めますが、集めたあとは特に自分から指示を出すようなことはなく、各メンバーが能力を最大限引き出すことに注力しているからです。リーダーが指示を出し、そしてメンバーが動く――、いわゆる私たちが想像する従来のリーダー像とは全く異なる姿です。

つまりインクルーシブ・リーダーシップを実現するには、これまでのリーダー像を変える必要があります。しかしどのような施策や行動を行えばよいのか。その点については日本の組織ではまだ明らかにされておらず、これからヒアリングやインタビューなどを通して、さらに研究を進めていく必要があります。そこでシャイン先生の意見も聞きたいと考えています。

エドガー・シャイン博士と森永教授によるダイアローグ

仕事の特性を事前に見極めておくことが重要

シャイン博士:解説されたインクルーシブ・リーダーシップは、私が研究しているハンブル・リーダーシップと似ているが点があると感じました。気になったのは、インクルーシブ・リーダーシップはイノベーションではなく、日常的なルーティン業務にも力を発揮するのか、ということです。

松永教授:ルーティン業務にもある程度有効だと言えます。ただ私は特にテレワークにおいて、新しい仕事、イノベーション的な仕事でインクルーシブ・リーダーシップが必要だと考えています。

シャイン博士:問題によってはよりお互いのことを知ることができる、フェイス・トゥ・フェイスでのリアルな場は必要だと考えていますか?

松永教授:おっしゃるとおりです。テレワーク、リアル両方を並行して進めることが大切です。

シャイン博士:仕事の特性によってもテレワークの向き不向きがあります。そのため事前にその仕事がテレワークに向いているかどうか、見極めておくことが重要です。また先ほど組織への一体感と多様性についての解説がありましたが、組織ではなくプロジェクトチームや携わっている製品に対する一体感もあると思います。実際、アップルではその手の話をよく聞きました。この点に関してはいかがでしょう。

松永教授:我々の調査でも議論された内容でしたが、今回は企業という観点で調査しました。日本企業に勤める一般的なビジネスパーソンは長く会社に所属し、その間にさまざまな部署をローテーションするのが一般的だからです。

シニアに対するマネジメントをどうするか

シャイン博士:多様性の問題は国籍や仕事の種類ではなく、年齢に依るものが大きいと私は思っています。組織への一体感は高いけれども、保有する知識が古いためにパフォーマンが低い従業員。逆に、最新のスキルを兼ね備えたパフォーマンスの高い若いメンバーです。この2タイプのマネジメントに関する見解はいかがでしょう。

松永教授:日本企業も問題意識は持っており、これまでは業務の中でシニアメンバーがスキルを高めるような取り組みを行ってきました。しかし昨今では限界を感じるようになり、職場の外で学ぶ機会や副業などを推奨しています。しかしその一歩を踏み出せていないのが日本の現状です。そこでシャイン先生に聞きたいのですが、シニアが学ぶことの重要性についてどのように考えていらっしゃいますか。

シャイン博士:残念ですが、ラーニングモデルは業界や組織によって異なるため、これだ、という答えはありません。ただ言えることは、シニアになっても新しいことを学び、幅の広い知識を身につけたゼネラリストになることを、企業は推奨していくことが求められるでしょう


「組織社会化」についての今日と過去とにおける違い/エドガー・シャイン博士

それぞれの文化を理解する必要がある

50年前の社会と比べると、テクノロジーは大きく変わりました。変わったのは内容だけではありません。変化速度も大きく変わり、今日では日々のレベルで新しいテクノロジーが登場しています。

たとえば「Slack」です。今日ではアメリカのハイテク企業のほとんどで使われているツールですが、Slackを使うことで過去では部門ごとで個別になっていた情報や知識が、部門を超えて共有できるようになりました。その結果、仕事のスコープ(範囲)の幅が広がりましたし、違う部門の業務内容を理解したり、場合によっては貢献することが簡単に行えるようになりました。

Slackのようなツールが普及したのは、テレワークのコミュニケーションがセキュアに行えるようになった、これもテクノロジーの要因のひとつといえます。Slackのようなツールが仕事の効率化を高めることは間違いありません。しかし問題もあります。若い人たちはすぐに使いこなすことができますが、シニア世代にはむずかしく、トレーニングし直す必要があるからです。そのため中にはSlackを理由に、別の部署への異動や退職が発生する可能性があります。

テクノロジーの変化は、製品やサービスといった仕事のスタイルを変えるだけでなく、教育、社会、エクスペリエンス(体験)にも変化をもたらせています

今回の新型コロナウイルスのようなパンデミックや地球温暖化といった驚異による変化もあります。いい例が医療です。医療業界では、これまでは国や企業などそれぞれのグループが個別に仕事をしていました。しかしこのような驚異により、複数のグループが一緒に動き、コラボレーションして有事に対応するように変わりました。その結果、別の組織のメンバー同士が互いに協力し、コラボレーションする学びにつながったのです。つまり組織の在り方や仕事の方法が変化しているのです。言い方を変えれば、これまではリーダー、マネージャーが部下に指示を出していたスタイルから、みんなで一緒になって意思決定をする。このような組織ならびに仕事の進め方に変わりつつあり、皆が学習している最中なのです。

私の仕事も大きく変わりました。今回のウェビナーはまさにその代表例です。以前であれば、だれかとチームを組んでセミナーを行うことは念頭にありませんでした。しかし実際に行ってみると、お互いのアイデアが刺激し合うことで、コラボレーションが生まれることを体験しました。さらに今回はアメリカからのライブ中継ですから、英語ならではのテクニカル言語を日本語として正しく伝えるために、両方の文化を知り、かつ専門知識も持つメンバーも必要でした。このような結果、マクロカルチャーレベルでの交流が生まれています。

このようなマクロカルチャーレベルでのコミュニケーションが進むと、あることが重要になってきます。それぞれの組織文化を理解する必要性です。特にパンデミックの場合は国を超えてのコミュニケーションとなりますから、他の文化を持つメンバーとどのようにコラボレーションするかを学ぶ必要があります。具体的には、それぞれの文化がどのような機能を果たし、動いているのかを理解する必要性です


 

メタカルチャーまで視野を広げる必要がある

カルチャー、組織文化と一言で言っても、色々なタイプやタスクがあります。カルチャーは必ずどこかのグループに所属していて、分離されているかたちでのカルチャーはありません。そしてすべての組織にはタスクがあります。通常タスクは、組織を興した創始者が決定します。つまり一人ではタスクの遂行がむずかしい、あるいはできないために組織を構築し、メンバーに協力してもらっているのです。

テクニカルカルチャーでは、新製品やサービスといった技術的な戦略を考えるタスクがあります。ソーシャルカルチャーのタスクは、それぞれのメンバーの関係性や役割です。組織にはテクニカル・ソーシャル両方のカルチャーが存在します。組織は通常ひとつの国や環境の中に存在し、これをマクロカルチャーと呼びます。もうひとつ、さまざまなカルチャーの集合を一元的に表現した「メタカルチャー」があります。

メタカルチャーの特徴は、経験を中心として普及していくことです。そのため一様でなく予測も無視もむずかしく、まるでニューロン(神経細胞)が成長していくようなイメージで、感覚的に認知することができるカルチャーとも言えます。

メタカルチャーのもうひとつの特徴は、新しい傾向や価値観がグローバル(地球規模)で同時多発的に広がることです。メタカルチャーは組織境界が曖昧で流動的であるため、どこに所属するかも不明瞭ですが、徐々にグローバルになりつつあり、グローバルネットワークが促進しているとも言えるのです。そのためメタカルチャーは、グローバルカルチャーとも言え換えることができますね。

例えば、BLM(ブラック・ライヴズ・マター※)や今回の新型コロナウイルスへの対策が、まさにメタカルチャーのよき例です。前出のとおり、病院、国境、専門分野を超えたコミュニケーションで、ワクチン開発や治療法を共に行う動きがすでにあるからです。そしてある国が治療法を発見したら、その療法を一国で独占することは考えずに共有するとの考えも、すでに当たり前の感覚になっています。つまり、これまでは競合関係にあった病院や国が協業することで、国際組織のような役割を果たすようになりつつあるということです。

重要なのは、このメタカルチャーが我々の仕事や組織、さらには従業員のライフスタイルや思考レベルにまで影響を与えていることです。視点を変えれば、これから先の未来に何が起こるのか、どのようなインパクトを与えるかを予測することは、メタカルチャーレベルまで視野を広げ、かつ検証する必要があるのです。

テレワークなど、テクノロジーの変化による働き方はまさに一例です。どこでも働くことが可能になったことで、人々の思考も変わり、特に最近の若い人たちは仕事の中に生活があるワークライフバランスではなく、まずは生活が大事で、その中に仕事というライフワークバランス思考に変化する傾向にあります。

このような変化を組織の側から考えると、自分が使いやすいデバイスを使って、自分な好きな場所で、自由な時間に働きたい。つまり従業員は自分のアイデンティを認めてもらった上で働きたい、己を向上させたいとの思考の変化が見られます。これは自我、エゴとも関連すると言えます。この傾向は今後もますます顕著になると考えられており、従業員は己の欲求を満たしてくれる場所ではないと、別の組織に移る。つまり転職する若い世代が増えてきている現状があります。

(※)BLM(ブラック・ライヴズ・マター)…黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴える国際的な運動。アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発し、積極行動主義の運動とも言われる

後半はこちらから。

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取材・文/鈴政武尊・杉山忠義、編集/鈴政武尊