たった1人で年間32名採用創出、知名度ゼロの会社が採用で県下業界随一の会社になるまで

正和工業株式会社

埼玉本社 総合管理部
大澤 美寿

プロフィール

埼玉県春日部市に立地する正和工業株式会社(代表取締役:横田生樹)。創立は1963年(昭和38年)4月、今年で59年目を迎える老舗の総合建設会社である。

実はこの会社、採用難と言われる建設業界において、毎月2~3人ペースで内定者を創出し続ける、いまもっとも人が集まる建設会社なのだ。しかも、その採用施策を切り盛りするのは、たった1人の人事・採用担当、総合管理部 大澤美寿氏(以下、大澤氏)である。

彼女はいかにして求職者が応募したくなる会社をつくり上げたのか。今回はその取り組みについて迫っていこう。現在、中小規模の会社、あるいはベンチャー、スタートアップで人事を任されている方、人事業務をたった一人で担っている方には必見の内容である。

創業約60年の老舗建設会社、早期からDXに取り組む

まずは同社の沿革から説明しよう。正和工業は、1963年、埼玉県春日部市に水道工事を手掛ける会社として創業した。創業当初は水道事業をメインとしつつも、徐々に建築、設備、電気、土木、省エネと事業の領域を広げていき、現在では建設事業のほぼ全般を展開する企業に成長している。

また、公共事業をはじめとして、民間企業の事務所、工場、倉庫、ビルおよびマンションなどの部分改修から、大規模リニューアル工事、省エネ改修工事、保守メンテナンス、そして一般住宅のリフォーム工事までを担い、地元春日部市に根差した、まさに地域密着型企業としてシェアを拡げている。

さらに、かなり早い段階期から、現場のDX(Digital Transformation)に取り組んでおり、社内資料や勤怠システムのデジタル化をはじめ、施工管理アプリといったデジタルツールを現場にも導入。さらにワークフローも一貫してデジタル管理に置き換えるなど、パフォーマンス向上や効率化にも積極的だった。

特に、注文書など顧客折衝や決済に必要な書類は、なかなかデジタル化が進まないことも建設業界ではよくあること。しかし同社はこうした決済システムにもDXのメスを入れ、徹底した効率化、働き方改革などを行ってきた。これは2019年4月1日から順次施行された働き方改革関連法より早く取り組んでいたことだという。

こうしたDXの取り組みなどもあり、2020年初頭から日本社会や経済に甚大な影響を与えた、いわゆるコロナ禍においても、大きく売り上げや体制を損なうことなく、堅調に事業運営を続けてこれた。

こうした取り組みについて、人事面から積極的にサポート、さらには採用業務も一身で担っている、同社の総合管理部 大澤美寿氏(以下、大澤氏)に聞いた。

「確かに当社は早くからDXに取り組み、それがコロナ禍においても有用に働いたことは確かです。ですが、私たちの社長が率先して会社の改革を推進してくれて、良い意味のトップダウン形式で進められたこと、さらに社員の『もっとこうしたら便利じゃないの?』の声を反映できたことが、DXを全社上げて前向きに取り組めたと思います」(大澤氏)

さて、そんな先進的な取り組みを業界の中で先んじて取り組んでいる同社であるが、採用面でも大きな成果を上げている。次項では正和工業の採用手法について紐解いていこう。

たった1人の採用担当、認知度が低くて応募者が集まりにくい…でも覆せる

「転職希望者にとって自社の知名度が低く応募が集まりにくい」
「人事・採用担当1人で活動しなければならなくて手が回らない」――。

このような課題を持つ人事・採用担当者は、決して少なくないだろう。

正和工業は前述の通り、担当1人で年間採用32名を達成した。取材時点で換算すると、20年8月から21年8月までの1年間でこれだけの入社者を獲得したことになる。

その内訳は、施工管理18名、積算1名、営業10名、事務3名という数値だ。現在も採用活動は続いており、毎月数十名の応募の中から大体2~3名の内定者(入社者)が出るペースだという。

参考までに同社の会社規模を紹介しておこう。2021年現在の資本金は7,260万、従業員数は約110名だ。募集の背景も事業拡大による会社の成長に合わせた純粋な増員である。

全国の人事・採用担当者の中には、知名度が低いゆえに母集団が集まりにくい、採用職種が多い、担当1人では手が回らないといった課題を抱え、採用活動に悩まれている方も多いだろう。実は同社も、前述の課題を抱えた1つの企業に過ぎなかった。

では、どうやって採用成功をやってのけたのだろう。

「特別なことはしていません…というと、きっとその秘訣を隠しているんだろうとか勘繰られてしまいますが(笑)、本当に工夫らしい工夫はしていません。それこそ、私が1人で主担当を任されたころには、何から手を付けて良いかわからない状態でした。ただ…、採用がうまくいくコツがあるとすると、それは社内外に協力体制、いわゆる自分のチームを築いて、周りを巻き込んでいくことなのだと思います」(大澤氏)

採用業務は人に頼ること、周りを巻き込むことが必要

「私1人が頑張るのではなく、社内外の人たちに実情を素直に話して巻き込み、協力してもらいながら業務を行うことに成功のカギがある――。偉そうに言っていますが、これは後になって気づいたことです。

その当時、特に意識したのが、まずは正和工業に社内外問わず、さまざまな人に興味・関心を持ってもらうことです。転職希望者だけでなく、一般の埼玉県春日市民の皆様など全員に当社を知ってもらうことが大事だと思いました。いわゆる採用ブランディングにおける認知向上策ですね。

特に採用に関わる人たちには正和工業を好きになってもらい、正和工業のために頑張ってみようという気持ちになってもらおうと思いました。

例えば、エージェントを含めた人材サービス会社の人たちはもちろん、当社に営業などで訪問してくれた方なども積極的に会ってお話ししました。もちろん採用候補者の方には、いずれは転職をしようと考えている、いわゆる転職潜在層の方々も含めて、月間で50~60名に会っていったでしょうか。

何せこちらには採用のノウハウも自社を認知させる手段もない。であれば関わるすべての人たちに、まずは正和工業を知ってもらう。そしてそれがプロフェッショナルの方なら素直に頼ろうと、巻き込んでいこうと考えたわけです。特に人材サービスの担当の方は自然と頑張ってくれました」(大澤氏)

人材サービスに頼って実施した施策はこうだ。求人広告による全体発信、人材紹介によるピンポイントのアプローチ、そして転職フェアなどの就職イベント出展による転職希望者へのダイレクトアプローチ。

また、月2回程度で担当者と現状のすり合わせを行い情報共有。転職マーケットと照らし合わせながら的確な人材要件を設定するなど、上述の通り、採用に関わる人物はすべて仲間に引き込みながら細かな発見や疑問点なども積極的に相談したという。

「内定後のミスマッチ、つまり入社した社員のケアなど、誤解や認識違いがミスマッチにつながらないよう現場を回って社員の声をなるべく拾おうと思いました。もちろん経営層にも。

配属先の様子や、候補者にアプローチできる会社の環境、アプローチ不足になっている会社のポイントなど、採用だけでなく現状で課題になっている会社の悪い点なども洗い出すことができて、有意義な活動ができました。それをすべて採用活動のブラッシュアップに活かしました」(大澤氏)

とにかく採用や人事に関係する人たちを片っ端から仲間に引き込んでいったというアグレッシブさは感心せざるを得ない。そうして徐々に自社の認知度を上げていったことが応募増につながっていったのだ。17年に人事・採用担当になり、活動を始めてから2年ほど経ったころから、その成果は如実に表れていったという。

インナー・アウターブランディング両輪で認知度を高めていく

正和工業への応募者の増加は、人材サービスの展開する各チャネルを活用して徐々にその認知度を上げていった賜物だと言える。集まった候補者は、どんなことを求めて同社への入社を希望、あるいは入社の決め手としたのだろうか。

「私がヒアリングしたところ、『会社の将来性がハッキリしていた』『目指すビジョンに共感した』『社員に対する社長の考えが素晴らしかった』、あとは『総合建設会社ならではのメリットが生かせそう』などがありました。

当社は給与面で大きなアドバンテージを出せる会社ではないので、現場や私が課題に感じて変えていった会社の社風や環境、そして目指すビジョンについて共感してくれて応募した方が多数いらっしゃったのは嬉しかったですね」(大澤氏)

こうした会社の風土や環境、目指すべきビジョンなどは、採用ブランディングの一環としてさまざまなチャネルを活用して発信してきたという。顕著な例では、自社のホームページや採用ページ、そしてメールマガジンなど

特に、会社のビジョンを理解して発信するためには、ビジョンや経営についてもっともよく知る経営者を採用活動に巻き込むのは不可欠だという。社長である横田生樹氏と多くのコミュニケーションをとることで、次にどんな事業展開を考えていて、それに伴いどんな人物像が必要となるかなどが見えてくる。

大澤氏自身が事業背景や経営者のビジョンを理解できるので、より自社に合った採用活動がしやすくなったらしい。

またインナーブランディングとして、社史を作ることや、MISSION・VISION・VALUEの見直しなどを行い、かつアウターブランディングとして、外部編集プロダクションやライターに依頼して同社のコラムを書いてもらうなど、積極的なメディア展開も図った。

こうした活動が成果に現れ、県内でも随一の知名度を誇る建設会社としての地位を確固たるものにしたのだ。

これだけの実績を周囲の協力も得ながらたった1人で実現した大澤氏。その原動力はどこから来ているのか。

「私自身、入社当時はやる気があるのかないのか分からない、ふわふわした社員だったと思います。それがある日、前任者が退職した関係で、引き継ぎもなく、あらゆる仕事を私1人で行わなければならない状況に追い込まれてしまったのです(笑)。

そこで逃げることもできたのでしょう。でも『このさまざまな課題を全部ひっくり返してみたい』と思ったんです。もともと私は会社を変えたいと思うようなタイプではなく、誰かをサポートすることに喜びを感じるタイプでした。

ですから会社や社員さんたちのためになるならと、みなさんの環境をより良いものにしようとのめり込んでいきました。それが私のモチベーションになったのだと思います。

人事や採用をたった1人で担当している方は全国でも少なくないかと思います。ですが、自分から声を掛ければきっと協力を惜しまない人は現れます。まずは気負わず周りを巻き込んでほしい。きっと何かが拓けてきます」(大澤氏)

このように大澤氏は力強く、たった1人で人事・採用を切り盛りする担当者たちにエールを送ってくれた。

取材後記

大澤氏が所属する正和工業は、リノベーション界のナンバー1を目指して2021年の後半も引き続きシェア拡大を目指している。目下のところ、埼玉県下でのリーディンカンパニーを走っていく構えだ。そんな同社は、創業地である春⽇部を代表するキャラクター「クレヨンしんちゃん」(臼井儀人、1990年8月-)を、8月よりPRパートナーに迎えた。しんちゃんをはじめ、おなじみのカスカベ防衛隊の⾯々などが、春⽇部駅周辺や新聞広告やTVCMに正和⼯業のヘルメットをかぶって登場するというもの。同社は、建築リノベーションをPRして、建設業界の明日を変革していく。


>>>>>同社HPより

取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊

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