地域と共生するファミリーレストラン「さわやか」にはなぜ人が集まるのか。人財こそ資本と考える、その人事戦略と組織づくりを徹底解剖

2023.03.28
さわやか株式会社

取締役
渡辺 浩一(わたなべ こういち)

大手外食チェーンやベンチャーの飲食企業を経験し2019年さわやか株式会社入社。2021年執行役員 CHO 兼 コーポレートサポート本部長、2023年取締役就任。

コロナ禍をきっかけに組織改革を加速
働き方と組織変革で見えてきたこと
地域に愛される会社づくりの秘訣(ひけつ)

静岡県内を中心にチェーン展開する「炭焼きレストラン さわやか」を運営する、さわやか株式会社(本社:静岡県袋井市、代表取締役:富田 玲)。コロナ禍の影響で落ち込んだ業績をさまざまな工夫で乗り越え、今また業績好調へと転じている会社です。

特に注力したのが、人事戦略として遂行した社内体制の再構築と採用活動。「離職率を下げて、社員の定着を安定させること」をテーマに取り組んだという同社の取締役 渡辺浩一氏。一体どのような施策を講じて「さわやか」の社内環境を整えていったのでしょうか。

直下には、パーソルキャリアが展開するオンボーディングサービス「HR Spanner」を活用した同社の取り組み事例が資料としてダウンロードいただけます。「さわやか」の詳細な取り組みをお知りになりたい方はぜひご活用ください。

コロナ禍をきっかけに組織改革を加速

――コロナ禍に突入してから現在までの「さわやか」について教えてください。

渡辺浩一氏(以下、渡辺氏):げんこつハンバーグをメインメニューとしている「炭焼きレストラン さわやか」を展開する当社は、皆さんの温かいご声援・ご支援を背に、2019年までは増収増益を達成し続けることができました。

ですがそれをピークにして、ご存じの通り社会は新型コロナウイルスの感染流行に伴い2020年4月に第一回緊急事態宣言が発令されることとなりました。当社は5月に全店休業を余儀なくされ、創業以来初の減収減益に転じました。

しかしながら2021年は、会社や店舗の努力の甲斐もあり、少しずつ業績が回復。そして2022年の現在ではほぼ2019年のピーク時の水準にまで回復させることができました。

――店舗の業績回復までの道のりにはどのような施策を講じましたか?

渡辺氏:先に結論を申しますと、店舗運営に関しては特別な施策を展開したことはありませんでした。ただし、コロナ禍でお客さまが来店できない状況下で、今一度「私たちの価値はどこにあるのか」「私たちはお客さまに対してどのような価値を提供できるのか」を考える時期となったのは言うまでもありません。

当時、世の中で増えていったECやテイクアウトに関しては一切発想にありませんでした。実店舗こそが私たちの価値だと捉えていましたので、あえてそこに踏み込むことはしなかったのです。

休業中には、店舗の清掃や修繕に力を入れるだけではなく、こういう時だからこそ普段支えてくださっている地域の方に何かできないかと考えました。そこで、当社ではハンバーグ製造の過程で、次亜塩素酸水(*1)も工場で製造しています。

感染流行が爆発したタイミングで、静岡県内のアルコールが不足したことがあったのですが、その際は自治体や病院などアルコールが不足しているところへ、当社の次亜塩素酸水を無料で提供するという活動を行いました。

(*1) 新型コロナウイルス感染拡大当時、全国で品薄が続くアルコール消毒剤や次亜塩素酸ナトリウムなどの代替品として、次亜塩素酸水が使用されていた

――会社の組織運営や体制に変化はありましたか?

渡辺氏:コロナ禍を機として、社内の業務効率化や働き方の変革を目指して一気呵成(かせい)に進めていきました。というのも、当社は店舗(営業店)で働く従業員(人財)が主となる業態です。言い方は悪いのですが、「場当たり的人海戦術」の風潮があり、それが人の成長を妨げ、定着率の伸び悩みにも少なからず影響していました。

お恥ずかしい話なのですが、当時の管理職や幹部層の中には人事課題に対して問題意識を持たない人が少なからずいましたので、時代が変わったことを認識しない前時代的な働き方の横行も、生産性や効率化を阻む要因となっていました。コロナ禍でリモートワークなどニューノーマルな働き方が定着する中で、こうした影響下を「見えない味方」にすることで一気に変革を進めていったという感じです。

――具体的にどのような変革を行っていったのでしょうか。

渡辺氏:基本的には「ムリ・ムラ・ムダ」を解消するための制度変更や各種DXツールの導入です。一例ですが、これまで会議の場ではPCを開くことはご法度、資料は紙に印刷して持ち込むならOKなど、アナログな文化がありましたが、ノートパソコンの配備・携帯などを許可してペーパーレス化など、物理的にも意識的にも時間や場所的な制約をなくすことを心掛けました。

また、ワークフローを刷新して、例えば、書類の確認や申請をするためだけに本社へ来ることが無いようにしました。さらに、ハンコレスになるよう決済システムなどを刷新して、例えば、店舗から本社へ店長会議のためだけに移動する店長の時間を削減するなど、さまざまな効率化を推進していきました。

――働き方を改革することにポイントを置いている印象を受けます。

渡辺氏:仰る通りです。営業店のスタッフをお客さまに向き合うことだけに集中してもらいたい。そのための「労働負担をどう軽くするか」がテーマです。

会社を変えていくためにはまず経営層や幹部層、管理職から意識変革をしていく必要があります。そこで、上記のポジションに就く人たちでいわゆる労務リテラシーを向上する目的の勉強会を定期的に行うようにしました。

特に課題となったのは、店長(管理職)クラスの実労働時間。管理職クラスの勤怠打刻を正確に入力するよう徹底しました。まずは本社が会社の労務の実態を正確に把握しておきたいという狙いからです。

調べてみると、店舗の勤務時間はかなりずさんだったことがわかりました。例えば、店長が休みの日に来ている、残業時間や有給の管理があいまい、などです。これは私たち外食産業に携わるものとして悪い習慣であると捉えています。これらの要因を分析して原因を解明することに、課題脱却の糸口があるとみています。

人財こそが私たちの資本であるはずなのに…、これでは離職防止や定着率向上を目指す前に私たちが提供したい価値をお客さまに提供できなくなる――。そう考えての人事戦略としての行動でした。


働き方と組織変革で見えてきたこと

――パーソルキャリアが提供する「HR Spanner」を導入して社内の実態把握もされたと伺っています。

渡辺氏:「HR Spanner」は、入社後の状態把握により、適切なタイミングでフォローができるオンボーディングサービスということで、正しい事実を把握して、社内の制度や環境変革には最適なツールだと思い導入しました。社員に対してアンケートを実施することもできるのですが、こうしたアンケート結果などをデータとして蓄積して、会社の方針の一つに組み込みたいという思いがありました。これにより離職防止や定着率向上、あるいは採用活動にも活かしていきたいと考えています。

――アンケートなどで社内や現場を把握していく中で見えてきたものがありますか?

渡辺氏:大方の予測はつけており、それが当たった形となりましたが、やはり多くは「社員のキャリアに対する将来への不安」でした。いわゆる「未来が見えない」というものです。

先ほども申した通り、当社の資本は人財であり、事業のメインは営業店が主役です。「さわやか」の全ての社員に課せられるミッションは「日々お客さまに向き合うこと」ですが、ふとすると営業店舗ではそれが「毎日のルーティンワーク」と化すことがあります。

このお客さまに向き合うということは大変やりがいのある反面、同僚を見ても上司を見てもほぼ同様の業務内容になるため、「同じ仕事をしている」と受け止められることがあります。

要はこの「同じ仕事」を生涯続けていくのか、と思い始めるとモチベーション低下につながるのです。それを裏付けるように本社勤務をしている社員に将来のキャリアに不安を感じる人は多くはありません。自分のキャリアの行く末に不満や不安を感じ、「どこに向かえば自分の成長があるのか」と考え始めます。それが離職の要因につながっていくのだと考えています。

もちろん当社には店長に昇格するための明確な要件が定められており、既定の項目をクリアしていれば昇格の条件は満たされます。しかし、その先が不透明である部分や狭き門になることもあるので、これから解決していくべき課題と認識しています。

――離職防止や定着の向上に向けて何か対策や考えていることはありますか?

渡辺氏:当社もクリティカルな対策を模索中ではありますが、一例として構想しているのは、職種を広げることです。例えば、工場の生産管理や品質管理部門などの強化、あるいは外注部門を内製化して、それに伴う関連職種の増設です。

ですが、既存の事業形態では営業店舗より利益を出す部門や職種の創設は現状難しいと思いますので、多様な人財が遺憾なくその個性を発揮できるような人事施策や体制を喫緊で構築していかなければならない。目下のところさまざまな施策を検討中です。

地域に愛される会社づくりの秘訣(ひけつ)

――「さわやか」にはお客さまだけでなく採用面においても人が集まってくると聞いています。

渡辺氏:「炭焼きレストラン さわやか」のコンセプトは、「モノを売るのではなく物語を売っている」です。創業以来当社とその店舗が静岡県内のお客さまを中心に支持されているのは、このひとえに変わらないコンセプトであり、お客さまだけでなくそこで働く社員やパートナーの方にも元気になれる場所として機能しているからだと思います。

もちろん「さわやか」の店舗が支持される要因として、「炭焼き商品」「牛肉100%のハンバーグ」「高い品質管理」などさまざまなアプローチポイントがありますが、やはり「静岡県のファミリーレストランであること」に尽きると思います。

昨今はSNSなどの普及で「口コミ」との相性も良かったというような背景もあり、ハンバーグがジュージューと焼けるシズル感なども伝わるなど「みんなでつくり上げたブランド」として県民の誇りにしていただいている側面もあります。

地域とのコミュニケーションを欠かさなければ、お客さまはもちろん、そこに集まってくれる仲間にも愛される会社になっていくのではないでしょうか。

――今後、人事戦略として「さわやか」が成し遂げたいビジョンや目標はありますか。

渡辺氏:人が集まり、人が育ち、人が支える、唯一無二の会社にしていきたいという想いがあります。お客さま、従業員、取引先さま、地域社会、地球環境、そして未来の6要素が全て良くなるよう「六方良し」の会社です。

また外食企業として一番の本質である、「レストランのあるべき姿」を追求していきます。VUCA(*2)と呼ばれる先行きの見えない時代ではありますが、そのための変化であればいかようにも変わるつもりです。そこで多様な人財が活躍できる組織にしていくことは必須事項だと認識しています。

現在は、女性活躍推進のため、ライフスタイルにとらわれずに「出来高に見合った雇用契約」制度などを急ピッチで整備中です。時間や場所に関わりなく、自分のスタイルに合った働き方で当社に貢献できるシステムと制度を構築中です。それぞれの労働力を尊重しつつ共に成長していける環境を目指していけたらと考えています。

一方で、障がい者雇用についても注力しています。当社では障がい者雇用枠拡大の一環で「さわやかファーム」をはじめました。水耕栽培で野菜作りをする事業所ですが、「野菜を通じて心を届ける」というテーマで、障がい者の方達が丹精込めて作った野菜を、その野菜の説明とおすすめの食べ方を綴った手紙と一緒に全従業員に届けています。

受け取った従業員は食べた感想をさわやかファームのメンバーに寄せるというリレーションを築いています。

(*2)VUCA…「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(あいまい性)」の頭文字を並べたワード

【取材後記】

静岡県で展開しているファミリーレストラン「炭焼きレストラン さわやか」を運営するさわやか株式会社。創業以来、長年にわたり県民や地域の方々に愛される理由の一端が今回のインタビューから垣間見えた気がしました。ともすると営利だけを追い求めてしまう現代の風潮の中で、「愛されるレストランとは」「長く支持される会社とは」を追求する同社。今後の動向にも期待したい会社の一つです。

取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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