【弁護士監修】有給休暇は2019年4月に取得義務化へ~買い取りルールや計算方法~

銀座エキチカ法律事務所 東京弁護士会所属

石川雅巳(いしかわ まさみ)弁護士

プロフィール

働き方改革の一環として労働者(従業員)の有給取得が義務化されることになりました。
違反には罰則もあり、有給取得率が低い日本の企業に大きな一石を投じる制度となっています。本記事では、労働者(従業員)の休日のルールである、「年次有給休暇」について説明していきます。この機会に有給制度の基本的な知識を確認しつつ、取得が義務化される有給休暇制度の概要について、しっかり理解しておくようにしましょう。(2019年3月19日更新)

有給休暇の付与日数はどう定められている?

有給休暇は入社年次により付与日数が変わる

有給休暇とは、労働者が給与を得つつ、仕事を休むことができる法律上の制度です。これは、「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨」の制度と説明されています(平成21年5月29日基発0529001号)。つまり、労働者の心身のケア、労働力の回復、給与が得られることで安心して休むことができるということを目標として作られている制度です。

通常の労働者の付与日数

有給休暇は、半年間勤務しており、かつ、8割以上出勤した労働者に10日与えられます。さらに、1年6カ月の勤務した場合、1日増えて11日の休暇、2年6カ月で12日、3年6カ月で2日増えて14日、4年6カ月で16日、5年6カ月で18日、6年6カ月以上で20日と増えていきます(労働基準法39条2項)。
付与日数1

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数(比例付与)

また、一部に誤解がある点ですが、週の所定労働日数が4日以下・週30時間未満のパートタイム労働者または、年216日未満のパートタイム労働者(アルバイト、嘱託なども含む)の有給休暇の日数は上記より少ない日数が別に定められています(39条3項)。このことを、「比例付与」と言います。
有給付与2

<該当者>
1.週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下
2.週の所定労働時間が30時間未満かつ年間の所定労働日数が216日以下(週の日数把握が難しい場合に適用)

年次有給休暇の付与日数の詳細は厚生労働省のホームページにも記載があります。

働き方改革法案成立による有給休暇取得義務化の中身ー罰則は?半日・時間単位は?ー

5日以上の有給休暇取得義務

政府の働き方改革の推進により、有給の取得率向上が掲げられていました。そして、平成31年(2019年)4月1日から、年10日の有給を得ている労働者に対して会社は、5日は有給休暇を取得させることが労働基準法上の義務となります。これは、大企業・中小企業問わず、一斉に施行がスタートします。今までは、労働者が自ら申し出なければ、年休を取得できませんでした。しかし改正後は、使用者が労働者の希望を確認し、希望を踏まえて時季を指定。最低でも年5日は取得させることが必須となるのです(ただし、年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象です)。

付与イメージ

罰則も伴う制度の導入により、有給休暇の消化が良くないとされている、日本の企業風土に大きな一石を投じる制度となることが予測できます。

5日以上有給休暇を与えなかった場合、罰則は?

違反の場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が発生します(労働基準法第119条)。刑事罰を実際に受けるかどうかはともかく、書類送検をされてしまうとハローワークで助成金を受けることができなくなるなど会社経営に大きな不利益が生じてしまいます。

時季指定による、企業の対応

なお、具体的にいつ休みになるのかを特定することを「時季指定」といいます。働き方改革法案により労働基準法39条が改正され(2019年4月から施行)、使用者(会社・企業)は有給休暇のうち5日間については、労働者ごとに時季を定めて与えなければならないとされました(改正後の労働基準法39条7項)。これが有給休暇5日の取得義務化です。
この改正では、必ず有給が取得されるよう工夫がされています。有給休暇のうち5日間を「労働者の権利」ではなく、「会社の義務」とすることで、必ず有給休暇の取得がされるような仕組みとなっているのです。
「労働者の権利」として、有給休暇の取得ができるとなっていた場合、労働者から会社に希望を申告しない限り、時季指定が行われないため、労働者が、職場に遠慮して有給休暇を取ることができないという事態に陥る可能性があります。そこで「会社の義務」として、会社が労働者の希望を聞いた上で、「何月何日に休んでください」と時季指定して有給休暇を取らせなければならないというルール(5日間は、会社が労働者に対して有給休暇の時季指定をしなければならない)と定めることで、5日間の有給休暇の実際の取得が確保されるわけです。

半日単位・時間単位での取得も可能なのか?

有給休暇は原則、「1日単位」で取得することが望ましいです。しかし、午前休や午後休、半休など、「半日(0.5日)単位」や「時間単位」で取得できる企業もあるのではないでしょうか。

まずは、「半日単位」の取得についてですが、就業規則や契約書上で会社が認めていれば問題ありませんし、年5日の取得義務の対象とすることができます。つまり、時季指定にあたって、労働者側から「半日単位での取得」を希望された場合、1回につき0.5日としてのカウントとなります。それと同時に、企業側が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することが可能となります。
一方、「時間単位」においては、2019年4月から義務付けられる「年5日の取得義務化」の対象とはなりませんので注意が必要です。時間単位での有給休暇の取得は、労働者(従業員代表)と企業(使用者)の間で合意が成立し、労使協定が結ばれた場合に限られます。

有給休暇の取得方法・買い取りルール/消化率について

以下では、有給休暇に関する法律上のルールで気になりやすいところを一問一答的にまとめていきます。

①連続取得は可能?

原則として、有給休暇は労働者の請求する時季に与えることとされています。そのため、連続取得も可能ですが、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができるとされています(39条5項)。

②繰り越しは可能?さかのぼっての取得は可能?

①とは逆に、有給休暇を分割して取得する(繰り返して申請する)ことも原則可能です。裁判例の中には未消化の有給休暇の繰越しは認められないとしたものもありますが、通説および解釈例規では、繰越しは認められています(菅野和夫著・労働法第八版314頁)。

③有給休暇に、有効期限(時効)はあるの?

2年間の時効(労働基準法115条)の適用を受けると理解されています(菅野和夫著・労働法第八版314頁)。また、民法改正により、時効期間を原則5年とすることが固まったことにより、有給休暇の時効が5年となり2020年から施行される可能性があります(2018年9月現在)。

④有給休暇の買い取りルールについて

有給休暇は原則として買い取りはできません。有給休暇の買い上げを予約し、予約された日数について有給休暇の取得を認めないという形での買い上げ制度は違法です。労働者の心身のケアなどといった有給休暇制度の趣旨(目的)に沿わないためです。ただ、現実に行われているように退職時など例外的なケースの時には有給休暇の買い取りが可能です。ただし、結果として未消化の有給休暇の日数に応じて手当を支給することは違法ではないと解釈されています(上記菅野労働法314頁)。
よくみかけるケースとしては、退職時に対応しているケースが散見されます。また、退職時以外では、時効となった有給を買い取るケースや、法律よりも多い年給を与えている会社が、法律よりも多い部分を買い取るというケースもありますが、退職のケース以外では現実的にはあまり多くないと思われます。

⑤半休を取得した日の残業代支給について

「有休休暇を時間単位で取得することは可能?」で述べたように有給休暇の分割の最低単位は原則として1労働日ですが、労働者の請求で使用者が任意に与える限り、「半日単位」で有給休暇を与えて差し支えないとされています(上記菅野労働法305頁)。しかしこの場合、半日の有給休暇が残るので別途時季指定できますが、残業代は支給されません。また、使用者は半日単位の有給休暇取得に応ずる義務はありません。半休の場合の残業代は、午前半休で残業をしたケースであるか、午後半休で残業をしたケースであるか、また深夜になったかという取得時期にも関わってきますし、就業規則(または労働契約書)の定め方などで異なってくるため、一律には判断することができません。
一例ですが、例えば、9時~18時が勤務時間の会社において、午前半休で午後14時から出勤をしたところ、23時まで仕事になってしまった場合、19時から22時までは割増をしない残業代をしはらい、かつ、22時から23時までは25%割増で残業代を支払う必要があります。
残業の考え方

⑥有給休暇の取得率・消化率の計算方法

有給休暇の消化率の計算方法は、厚生労働省の資料によると次の通りです。
取得率の計算方法

※1 ①算定期間中の付与日数計には繰越分は含まない
②算定期間中に新規の付与日数が発生しない場合は算定期間初日の直近に付与された日数とする
※2 算定期間が1年間に満たない場合は、算定期間を1年間に換算した数値を使用すること

 

計算例など、詳細はリンク先をご確認ください。

⑦<注意>出勤率が低いと付与されないケースがある

有給休暇付与で重要なのは、「全労働日の8割以上出勤」という要件です。つまり、6カ月以上継続して会社に勤務していても、出勤率が全労働日の8割以上でなければ有給休暇は発生しません。就業から6カ月経過した時点から1年ごとに区分した期間の中で、出勤した日数が8割未満である場合、翌年の同期間(1年間)の有給休暇は取得できません(39条2項但書)。
しかし、この8割の計算方法ですが、労働者が業務上の怪我や病気で休んでいる期間(例:労災期間)や法律上の育児休業、介護休業を取得した期間などは、出勤扱いとして計算します。また、会社の都合で休業した場合(例:一時的な経営不振で休業したような場合)には、会社の休業日数は「全労働日」から差し引かなければなりません。
有給休暇が本当に発生しているかどうか疑問な場合には、タイムカードや会社の休業日等を参考にしつつ、労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士などに相談することがおすすめです。

繁忙期に有休休暇取得の申請をされたら、時季変更権が使える?

事業の正常な運営を妨げる場合には時季変更権が使えます。
“時期変更権”とは、事業の正常な運営を妨げる場合において、使用者が従業員の有給休暇取得の時季を変更できる権利です。“事業の正常な運営を妨げる場合にあたる”と言えるためには、①有給休暇取得日における労働者の労働が事業運営に不可欠であること、②代替要員の確保が困難であることが必要とされます(土田道夫・労働法概説第3版・154頁)。
判断要素としては、事業の規模、休暇請求権者の職場における配置、その他担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、時季を同じくして休暇を請求する者の人数等の要素を考慮します(中山和久他・入門労働法第3版・172頁)。
このように、時季変更権が使えるかどうかを正確に判断するためには、単に繁忙期というだけでなく、さらに様々な事情を検討する必要があります。

社員が退職した場合、有給休暇はどうなる?

その社員が、退職の効力が発生するまでに行使しなかった有給休暇(年休権)は、当然に消滅します(神戸地裁S29.3.29判決・労民5巻6号782号)。
また、買い取りを請求されるようなケースもあるかと思いますが、会社は有給休暇を買い上げる義務はなく、有給休暇を買い上げる制度は原則違法になります。有給休暇制度は社員を休ませるための制度ですから、買い上げることにより休ませないという行為は、労働基準法に違反し許されないからです(未消化の年休権(有給休暇)の全部または一部の放棄を定める契約は労基法39条に違反し許されないとした判決。大阪高裁S58.8.31・労判417号35頁)。
買い取り・買い上げが可能なケースとは、会社が法定付与日数以上の有給休暇を付与しており、その分を買い上げ対象とするケースになりますので、注意が必要です。

有給休暇の取得理由を聞くことは違法?

取得理由を聞くこと、それ自体で直ちに違法になるものではありません。ただし、有給休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるとされ(上記入門労働法・174頁)、労働者は休暇を取る際に利用目的を使用者に申告する義務はありません。事実上回答を強要するようなに聞くことは違法になる可能性があります。
同様に、有給休暇届に利用目的を記載させることにしている場合でも、労働者は利用目的を記載すべき義務はありません。これを記載しない限り付与を認めないというのであれば違法ですが、利用目的によって時季変更権を行使するかどうかの参考にするといったことであれば、記載欄を設けておくことは違法ではありません。

年次有給休暇の管理簿とは?【フォーマット紹介】

管理簿

今回の取得義務化に伴い、企業は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません(システム化可)。その際、「時季(取得した日)」「取得日数」および、「基準日(付与した日)」の3つは記載必須となります。管理簿のサンプル・イメージも紹介しておりますので、是非資料も合わせてご覧ください。

「有給」と「有休」どっちが正しい?

最後に、言葉の問題として「有給」と「有休」のどちらが正しいか、簡単に説明します。結論から言いますと、どちらが正しいということもありません。単純に「年次有給休暇」という言葉をどう略すかという問題です。テレビや新聞などのメディアでも、どちらの表現も利用していますし、それぞれの会社によって、略し方の違いがあるようです。組織においては、その主流な使い方を使えばいいでしょう。なお、労働法の教科書では「年休」と略すことが多いようです。

【まとめ】

今後有給休暇の正しい知識として、もっとも重要となるのは、5日の有給休暇消化の義務化であると思われます。対象となる従業員に有給休暇の指定をしなかった場合は、30万円以下の罰金が課されます。これを回避するためには、会社側が、仕事が回る状況の中で、どのようなロジックで、個別の社員の年休の時期を指定するのか?というルールを作る必要があります。新制度など不安に思う点は、弁護士や社労士などの専門家を活用されるといいでしょう。

 

 
(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

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