人事管理とは?労務管理との違いや具体的な取り組みを解説

d’s JOURNAL編集部

社内の人的資源を十分に活用し、組織全体のパフォーマンスを高めるためには「人事管理」の取り組みが重要なテーマとなります。人事管理は人材活用に関するさまざまな要素を管理することを指しており、強い組織をつくるためには欠かせない概念です。

この記事では人事管理の意味や労務管理との違い、具体的な実施方法などをまとめて解説します。

人事管理とは


「人事管理」とは、従業員が最大限の成果を挙げられるような仕組みやルールを構築することを指します。ここでは、人事管理の目的や、類似した用語である「労務管理」との違いについて見ていきましょう。

人事管理の目的

人事管理の目的は、組織が掲げた目標達成するために社内の人材を存分に活かし、最大限の成果を挙げることにあります。より具体的に言えば、組織全体の生産性を向上させるために働き方や処遇条件、職場環境などを整備し、効果的な仕組みを構築することが挙げられるでしょう。

例えば、従業員のモチベーションを保つために給与や福利厚生の条件を改善したり、人材育成によって能力を開発したりすることが人事管理にあたります。適切な人事管理が行われている組織は、従業員にとって仕事がしやすく、前向きな意欲を保ちやすい環境となります。

また、一人ひとりのパフォーマンスが向上していくため、組織全体としての生産性も自然と高まっていくのが特徴です。

労務管理との違い

人事管理と類似した用語に「労務管理」があります。労務管理は労働条件や労働環境、福利厚生といった分野に関する項目を管理することを指し、どちらかといえば法律や就業規則のようなルール面を扱うのが特徴です。

また、これらの整備は従業員が不満を抱くことを防ぐ目的としているため、労務管理はマイナス要因を解消することに重きを置いた考え方とも捉えられます。それに対して、人事管理は評価や育成といった分野も含む幅広い考え方です。

そのため、人事管理の一部に労務管理があるというのが適切な捉え方といえます。労務管理については、以下の記事でも詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『【すぐに役立つ】労務管理とは?これだけは知っておきたい業務内容と効率化の手法を解説 』)

人事管理が注目される理由

現代のビジネス環境において、人事管理の重要性はますます高まっています。その理由として挙げられるのが、労働人口の減少による人手不足と、働き方の変化による人材の流動化です。

近年ではキャリアや転職に対する価値観が変化しており、必ずしも一つの企業で働き続けることが一般的ではなくなりました。優秀な人材ほど新たな機会を求めて転職を志すケースも増えており、企業が人材をつなぎとめるには、労働環境の改善が重要な課題となっています。

こうしたなかで、人事管理を重要な経営課題の一つとして扱う企業が増えているのが現状です。

人事管理の主な業務


これまで見てきたように、人事管理は人事に関する幅広い項目を扱います。ここではそのなかから労務管理を除く「採用」「育成」「配置」「評価」「モチベーション管理」について、具体的な業務内容を見ていきましょう。

採用に関する業務

採用活動は、人事管理におけるスタート地点ともいえる重要な業務です。具体的な業務としては、過去の応募者や従業員データの管理・分析と有効な採用戦略の策定が挙げられます。

採用に関するデータを分析し、自社にとって有益な採用ターゲットを絞り込み、効果的に優秀な人材を確保することが目的です。採用業務の流れやポイントについては、以下の記事で詳しく紹介されているので参考にしてみてください。

(参考:『採用業務とは?基本的な流れから効率化するためのポイントまで解説 』)

人材育成に関わる業務

人事管理における人材育成では、自社の従業員それぞれの能力を引き出し、効果的に向上させていくことを目的とします。そのためには、一人ひとりの個性や担当業務に応じて育成プランをカスタマイズし、適切なアプローチを行うことが大切です。

必要に応じて内部・外部の研修を実施したり、OJTによって新たな能力を開発したり、自己啓発を促したりすることも人事管理に含まれる重要な業務です。

人材配置に関する業務

人材配置は、従業員の能力を引き出すうえで重要なテーマです。従業員のデータを活用し、個人の能力に応じて適材適所に人材配置を行うことで、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。

ただし、従業員自身のモチベーション低下を避けるために、人事異動は本人の意向を細かく確認したうえで行うことが重要となります。そのため、キャリアに関する細やかなヒアリングなども、人事管理の大切な業務の一つといえるでしょう。

人事評価に関する業務

人事管理においては、適切な人事評価も重要な鍵を握ります。従業員の実績や勤務状況、貢献度、スキルを客観的に評価できる仕組みを整えることで、組織の戦力を適切に管理できるようになるのです。

また、的確な人事評価制度は従業員のモチベーションを引き出し、自主的な成長を促します。貢献の度合いがきちんと評価されることで、仕事に対する意欲が高まったり、積極的に資格取得を目指したりといったよい影響が期待できるでしょう。

人事評価においては、公正性を保つためにも「基準の明確化」を行うとともに、360度評価などの手法にも目を向けてみるのがポイントです。

従業員のモチベーション管理

モチベーション管理は、人事管理の成功を左右する重要な取り組みです。まずはモチベーションに関するデータを収集・分析し、よい心理状態で仕事に臨めるような環境整備を進める必要があります。

また、1on1によるキャリア面談などを行い、従業員の意見を細かく吸い上げることも大切です。業務を進めるうえで問題になっているポイントなどがあれば、適宜処理を行い、前向きなモチベーションを保てるように調整しましょう。

従業員のモチベーションを上げる方法については、以下の記事でも詳しく紹介されているので参考にしてみてください。

(参考:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法 』)

人事管理における課題


人事管理においては、やみくもに施策を打ち出すのではなく、解決すべき課題を明確にしながら計画を立てることが大切です。ここでは、人事管理における主な課題について見ていきましょう。

雇用形態の変化

現代のビジネス環境は、働き方改革の推進などにより雇用形態が大きく変化しているのが特徴です。そのため、絶えず変化する市場環境の変化をつかみ、ニーズの多様化などに合わせて組織を変えていくことが重要な課題となります。

例えば、育児や介護との両立を目指す従業員に活躍してもらうためには、「時短勤務の導入」や「テレワークの実現」といった環境整備に力を入れることも大切です。働き方に柔軟性を持たせることで、多様な人材を活躍させられる土台が築かれ、他社をリードできる優位性が確立されるのです。

人事評価の見直し

従業員の個性やスキルを発揮してもらうためには、人事評価の方法も抜本的に見直してみることが大切だといえます。例えば、年功序列の終身雇用制度から、成果主義の導入へとシフトチェンジする可能性を探ってみるのも一つの方法です。

能力給や業績給・年俸制などは成果と報酬が明確に紐づけられるため、特に若手の優秀な人材のモチベーションを引き出すのに大きな効果を発揮します。また、高い専門性を持つ人材を集めるには、専門職制度や裁量労働制などを取り入れてみるのもよいでしょう。

業務の効率化

組織力を向上させるにはきめ細やかな人事管理が求められますが、従業員数が多くなるほど実質的な管理負担は大きくなってしまいます。そのため、管理業務を遂行するうえでは、どのようにリソースを確保するかも重要な課題となります。

丁寧な人事管理を行うためには、全体の業務フローを見直し、デジタル化の推進などによって効率化を図ることが大切です。

人事管理を効率化するための取り組み


人事管理を遂行するうえでは、実務における効率化が重要な課題となります。ここでは、効率化を進めるためにどのようなアプローチを行うべきなのか、3つの観点から見ていきましょう。

自社の現状を把握する

人事管理に関する課題を解消するには、自社を取り巻く現状の把握が必要不可欠です。現場の従業員や責任者と意見交換を行い、どのような問題が生じているのかを細かく調べることで、はじめて効果的な施策が打ち出せます。

また、必要に応じて過去の人事データを振り返り、客観的な数値から自社の状態を分析することも大切です。例えば、ほかと比べて明らかに残業時間が長い部門やチームがあれば、社内全体の変革を進める前に、速やかにピンポイントで手を打つ必要があります。

反対に、望ましい業務成績が上がっている部門があれば、成功につながっている要素を分析して施策の立案に活かすこともできるでしょう。

人事管理システムの導入を検討する

人事管理を効率化するためには、人事管理システムを導入するのも有効な方法です。システムを活用すれば、膨大な従業員のデータを一元管理でき、さまざまな情報を用いた多角的な分析なども可能となります。

また、人事に関する取り組みの効果がデータとして可視化されるため、スピーディな情報共有とPDCAサイクルの効率化が実現されます。

コミュニケーションの活性化を図る

人事管理を正しく行うには、従業員一人ひとりとの細やかな連携が欠かせません。1on1ミーティングやメンター制度の導入などにより、コミュニケーションの活性化を図ることも大切な取り組みとなります。

従業員同士のつながりを強化するためには、「フリーアドレス制」や「リフレッシュスペース」の導入、「社内イベントの開催」なども有効な方法です。従業員同士が自発的にコミュニケーションを図るようになれば、組織としての団結力が磨かれるとともに、組織内の問題も可視化されやすくなります。

その結果、人事管理で着手すべきポイントが明確になり、より効率的に有効な施策を打ち出せるようになるでしょう。

まとめ

企業にとって、人事管理は社内の人材を大切にし、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための重要な取り組みです。人事管理が徹底されている組織では、従業員がのびのびと個性や実力を発揮し、全体として高いパフォーマンスを発揮できるようになります。

人事管理では基本的な労務管理だけでなく、育成・評価制度の見直しやモチベーション管理などの広範な分野を対象とします。業務を効率的に進めるためにも、デジタル化やシステムの導入なども検討し、無理なく取り組める仕組みを構築しましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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