【すぐに役立つ】労務管理とは?これだけは知っておきたい業務内容と効率化の手法を解説

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

従業員の「労働条件」や「労働環境」などを管理する業務の総称である「労務管理」。労務管理は、従業員にとって働きやすい職場環境を整えるために、不可欠な業務です。労務管理には、具体的にどのような業務が含まれ、どのように効率化していくことができるのでしょうか。今回は、労務管理の概要や業務内容、効率化の方法などをご紹介します。業務内容のチェックリストもダウンロード可能ですので、ご活用ください。

労務管理とは?

労務管理とは、従業員の「労働条件」や「労働環境」「福利厚生」などを管理する業務のこと。英語では、「labor management」と表記します。労務管理の具体的な業務には、勤怠管理や給与計算、入退社に伴う社会保険の手続きなどがあります。労務管理の目的は「従業員一人一人が安心して働くことのできる職場」をつくることと言えます。企業規模の大小を問わず、全ての企業に労務管理は不可欠なものです。

労務管理の歴史

高度経済成長期の日本における労務管理には、正社員を定年まで雇用し続ける「終身雇用」、年齢や勤続年数に応じて役職や賃金を上げる「年功序列」、労働者の連帯組織である「労働組合」が存在するという3つの特徴がありました。終身雇用を前提としていたため、「新卒で入社してから定年退職するまで、安心して働ける環境を提供する」ことが重視されていたのです。

しかしバブル崩壊後、リストラや早期退職が行われるようになって雇用は流動化し、転職が当たり前の時代となりました。併せて、これまでの年功序列を廃止し、仕事での成果に基づいて従業員の処遇を決定する「成果主義」を導入する企業が増加。「従業員の成果に見合った給与を支払っているか」「従業員の労働時間が適切に管理されているか」などの新しい視点で、労務管理を考えることが必要になりました。今、日本の労務管理は転換期を迎えていると言えるでしょう。
(参考:『終身雇用は崩壊?実は約半数の企業が終身雇用。その是非と次の時代への打ち手とは』『年功序列とは?1分でサクッとわかる、制度の仕組みとメリット・デメリット』『成果主義の導入で失敗しないためのポイント5つ~メリット・デメリットから解説~』)

労務管理の重要性

企業には、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つの経営資源があると言われていますが、そのうちの1つである「ヒト」を管理するのが労務管理の役割です。たとえ優れた経営者がいたり、企業理念・経営理念が魅力的だったりしても、従業員の仕事へのモチベーションが低ければ企業の長期的な発展にはつながらないでしょう。そして、労働条件や労働環境は仕事へのモチベーションに深く関わっているのです。

労務管理に関係する法律、労働法とは

労務管理を行う際には、いわゆる「労働法」について知っておく必要があります。労働法とは、労働問題に関するさまざまな法律の総称で、「労働法」という法律があるわけではありません。具体的には、以下のような法律が労働法に当たるとされています。

「労働法」に含まれる法律の例

●労働基準法
●労働組合法
●労働契約法
●最低賃金法
●男女雇用機会均等法
●育児・介護休業法
●労働安全衛生法
●労働施策総合推進法

(参考:厚生労働省『やさしい労務管理の手引き』『知って役立つ労働法』)

これらの法律には、それぞれ違反した場合の罰則が設けられています。労務管理を行う際には、法律違反にならないように注意しましょう。

労務管理とコンプライアンス

労務管理とコンプライアンスには、密接な関係があります。コンプライアンスとは、企業活動における「法令順守」のこと。コンプライアンスは、法令違反・不祥事などのリスクを回避する「リスクマネジメント」や「企業価値の向上」といった観点から重要視されています。労務管理は、「労働基準法」や「男女雇用機会均等法」などの「労働法」と関係性の深い業務であるため、労務管理を適切に行うことがコンプライアンスの強化につながるとされています。
(参考:『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説』)

労務管理の担当者と衛生管理者、管理監督者、管理職の違いは?

「労務管理の担当者」と「衛生管理者」「管理監督者」「管理職」は、どのように違うのでしょうか。それぞれの役割/定義や特徴を、下の表にまとめました。

役割/定義 特徴
労務管理の担当者 労務管理を担当する従業員 ●設置は義務づけられていないが、企業の規模を問わず不可欠な役割
●労務管理の担当者が衛生管理者を兼ねる企業もある
●労務管理の担当者のうち、「部長」「部門長」などの役職に就いている従業員は、管理監督者または管理職に該当するケースがある
衛生管理者 安全衛生業務のうち、衛生に関わる技術的事項の管理を行う従業員 ●常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して選任が義務づけられている
●衛生管理者が労務管理の担当者を兼ねる企業もある。
管理監督者 労働時間の決定やその他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある従業員 ●管理監督者と認められるためには、厚生労働省が規定する4つの条件全てを満たす必要がある。
●「労働時間」や「休憩」「休日」といった労働基準法の制限を受けない。
管理職 社内で部下を管理する立場にいる従業員の総称 ●どの従業員を管理職とするかは企業によって異なる
●管理職の一部のみが管理監督者に該当する

「労務管理の担当者」と、職場の衛生管理を担う「衛生管理者」との一番の違いは、「設置義務の有無」です。しかし、従業員の生命・身体を危険から保護するように配慮する義務である「安全配慮義務」という観点では、労務管理の担当者も衛生管理者も重要な役割を担っています。そのため、企業によっては労務管理の担当者が衛生管理者を兼務しているケースもあります。

「管理監督者」や「管理職」は、「労務管理の担当者」のように、特定の部署・部門に限った役職ではありません。「労務部の部長」や「労務管理部門の部門長」といった役職に就いている労務管理の担当者は、管理監督者または管理職に該当することもあります。
(参考:『【社労士監修・2020最新版】管理監督者について企業が注意すべき9つの決まり』『【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説』)

労務管理と人事管理、経理、総務の違いは?どこの部署が担当する?

「労務管理」と混同されがちなのが、「人事管理」や「経理」「総務」です。それぞれの業務や、どの部署が担当するのかなどを、下の表にまとめました。

主な業務 担当する部署
労務管理 従業員全体に関わる「労働条件」や「労働環境」などの管理業務 ●労務管理部門
●労務部 など
人事管理 「採用」や「人材育成」「人事評価」など、従業員一人一人に関わる業務 ●人事管理部門
●人事部 など
経理 「出納業務」や「記帳業務」「給与計算」など、お金の流れの管理業務 ●経理部門
●経理部 など
総務 「受付業務」や「文書・備品管理」「福利厚生」「内部監査」など、企業全体に関わる広範な業務 ●総務部門
●総務部 など

労務管理とその他の業務には、上の表のような違いがあります。ただ、いずれも関連性の高い業務であるため、企業によっては、労務管理やその他の業務を1つの部署(人事労務部、総務部など)で担っている所もあるようです。

労務管理の具体的な基本業務は?

労務管理の具体的な業務内容は、「入退社手続き」から「職場のハラスメント対策」まで、多岐にわたります。正確かつ確実に労務管理が行えるように、チェックリストを活用するとよいでしょう。チェックリストは、こちらからダウンロードできます。

また、厚生労働省のHPには『やさしい労務管理の手引き』という資料が掲載されているので、併せて確認するとよいでしょう。
(参考:厚生労働省『やさしい労務管理の手引き』)

労働契約の締結やそれに伴う手続き

従業員を新規で雇用したり、契約社員の契約を更新したりする際に必要となるのが、労働契約の締結です。労務管理の担当者は、「労働契約の締結」や「労働条件の通知」などの役割を担っています。労働契約を結ぶ際には、従業員に労働条件を説明しましょう。労働契約の締結と併せて、従業員の労働条件を記載した「労働条件通知書」の交付が義務づけられています。労働条件通知書の記載内容は、企業と従業員の間で雇用契約の内容について合意がなされたことを証明する「雇用契約書」とほぼ同じです。そのため、2つの書類を兼用し、「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で、従業員に交付することもできます。
(参考:『【記入例・雛型付】労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方をサクッと解説』『【弁護士監修・雛型付】雇用契約書を簡単作成!各項目の書き方と困ったときの対処法』)

就業規則の整備

労務管理の担当者は、就業規則や社内規定の作成・変更なども担います。就業規則とは、企業と従業員との約束事を明文化した、職場におけるルールブックのこと。常時使用する労働者が10名以上いる場合、就業規則の作成および作成した就業規則の労働基準監督署への届け出が義務づけられています。作成した就業規則は、見やすい場所への掲示や備え付けなどにより、従業員に周知しましょう。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

社会保険・雇用保険の手続き

健康保険や厚生年金保険といった「社会保険」や、「雇用保険」の手続きを行うことも、労務管理の重要な役割の一つです。入退社時や休職時、異動時などに各種手続きを行う必要があります。それぞれ、どのような対応が必要となるかを、簡単に下の表でまとめました。

手続きを行うタイミング 必要な手続き
入社時 ●社会保険の資格取得届け出と加入手続き
●雇用保険の資格取得届け出と加入手続き
●健康保険証や雇用保険被保険者証の従業員への受け渡し など
退社時 ●社会保険の資格喪失手続き
●雇用保険の資格喪失手続き
●健康保険組合への健康保険証の返却
●退職者への離職票の交付 など
休職時 ●休職に伴う社会保険や雇用保険の保険料手続き
●「育児休業給付金」や「介護休業給付金」「傷病手当金」などの請求
異動時 ●社会保険や雇用保険の住所変更手続き
●給与が大幅に減少する場合、「標準報酬月額」の随時改定手続き など

また、手続きを行う際に従業員から収集する「マイナンバー」を適切に管理することも、労務管理の重要な業務です。
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』)

勤怠管理

「何時から何時まで勤務していたか」「休憩や年次有給休暇を適切に取得していたか」など、従業員の勤怠を管理することも、労務管理の重要な役割です。始業時間・終業時間、休憩時間、年次有給休暇などを記録し、時間外労働の有無や年次有給休暇の取得状況などを適切に把握しましょう。
勤怠管理の際は、「働き方改革」の一環として2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」を理解しておくことが重要です。「長時間労働の是正」や「多様な働き方への対応」などを目的とした「働き方改革関連法」の施行により、労働基準法や労働安全衛生法が改正。「時間外労働の上限規制」や「年次有給休暇の時季指定」などが新たに決まりました。
(参考:『【弁護士監修】働き方改革関連法案施行でいつ何が変わる?企業が注意すべきことを解説』)
(参考:厚生労働省『働き方改革特設サイト』)

残業・休日出勤の取り扱い

従業員に残業や休日出勤といった時間外労働に従事してもらう場合には、「36協定」の締結が必要です。従来の36協定では、時間外労働の上限の基準は定められていたものの、違反しても罰則はありませんでした。「働き方改革関連法」の施行により、「原則として月45時間・年360時間」という時間外労働の上限規制が法的に導入され、特別の事情がなければこの時間を超過することは認められなくなりました。また、特別な事情があり「特別条項付き36協定」を締結した場合の上限は、「年720時間」、月45時間を超えることができる回数は年に6回までとなっています。違法とならないように、「36協定を締結しているか」「時間外労働の上限規制を守れているか」などを確認しましょう。
(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』『【弁護士監修】残業時間の上限は月45時間-36協定や働き方改革法案の変更点を解説』)

年次有給休暇の管理

日本企業における年次有給休暇(以下、有休)の取得率は、長年低い状況が続いてきました。そうした中で、「働き方改革関連法」の施行により「年5日以上の有給休暇取得」が義務化されました。有休を年10日以上付与している従業員には、年5日以上の有休を取得してもらうことが企業の義務となりました。併せて、有休の「取得日」や「取得日数」などを従業員ごとに記録した「年次有給休暇管理簿」の作成および3年間の保存も義務づけられています。「誰がいつ有給を取得したのか」「有給の取得日数が年5日未満の従業員はいないか」などを正確に把握しましょう。
(参考:『有給取得率の計算方法と、国別・業種別平均取得率は?』『【弁護士監修】有給休暇は2019年4月に取得義務化へ~買い取りルールや計算方法~』)

給与計算

従業員を雇用する全ての企業で必要な「給与計算」も、労務管理業務の一つです。従業員の勤怠をしっかりと把握した上で、「残業手当をはじめとする各種手当の金額」や「欠勤控除する金額」などを確定しましょう。給与を支払う際には、社会保険料や雇用保険料などの控除額を正しく計算することも求められます。給与額に誤りがあると、従業員とのトラブルに発展する可能性があるため、間違いのないように細心の注意を払いましょう。
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』『欠勤控除とは?人事が知っておくべき基本知識~算出に含む手当一覧付~』)

法定三帳簿の整理

法定三帳簿の整理も、労務管理業務の一つです。法定三帳簿とは、労働基準法により、企業に整備・管理・保管が義務づけられている帳簿のこと。具体的には、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つが該当します。

帳簿の種類 どのような帳簿か 記載する内容
労働者名簿 人事・労務に必要な従業員情報を集約した帳簿 ●氏名
●住所
●生年月日 など
賃金台帳 従業員に対する給与の支払い状況を記載した書類 ●賃金計算期間
●労働日数・労働時間数
●基本給・手当 など
出勤簿 従業員の労働時間を把握するための帳簿 ●出勤日と労働日数
●出勤・退勤時刻
●日別の労働時間数など

適切に書類を整備していなければ労働基準法違反となり、罰則が科される可能性があるため注意しましょう。
(参考:『【テンプレート付】労働者名簿の書き方はこれでOK!効率の良い作成方法をご紹介』)

安全衛生・健康管理

「職場の安全衛生管理」や「従業員の健康管理」も、労務管理の重要な役割です。安全衛生・健康管理については、労働安全衛生法で規定されています。「衛生管理者を始めとするスタッフの選任」や「従業員への安全衛生教育の実施」「健康診断やストレスチェックの実施」など、必要な措置を講じましょう。
(参考:『【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説』)

職場のハラスメント対策

「従業員にとって働きやすい労働環境」を実現するために、職場でのハラスメント対策を行うことも、安全衛生・健康管理の一環とされています。職場で起こりやすいハラスメントとしては、役職や上下関係といった人間関係の優位性を背景とした「パワーハラスメント(パワハラ)」や、産休・育休取得に関連した「マタニティハラスメント(マタハラ)」「パタニティハラスメント(パタハラ)」などがあります。職場におけるハラスメントが深刻な社会問題になっていることを受けて、2020年6月に「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が施行。これにより、職場におけるパワハラ防止対策が2020年6月から大企業に対して義務づけられました。

中小事業主(中小企業)については、努力義務期間が2022年3月31日まで設定されているため、2022年4月1日からが義務化の対象となります。職場でのハラスメント対策として、「社内方針の明確化と周知・啓発」や「相談に適切に対応するための体制づくり」「パワハラが発生した場合の迅速・適切な対応」などを行いましょう。
(参考:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』『パタハラとは?事例から見る実態と、企業における予防対応方法』『労働施策総合推進法の改正でパワハラ防止が義務化に。企業が取るべき4つの対応』)

この他、「労災発生時の対応」や「労務トラブルへの対応」なども、労務管理の業務とされています。

労務管理にはどんなスキルが必要?労務管理士の資格は必須?

労務管理を行う際には、どのようなスキルが求められるのでしょうか。労務管理に必要なスキルや、労務管理に関する資格である「労務管理士」などについてご紹介します。

労務管理に必要なスキル

労務管理を行う上で、まず必要なのが、労働基準法や労働安全衛生法といった労働法規に関する知識です。法改正による影響を受けやすい業務のため、最新の法改正の内容を知ろうとする情報収集力や、変化に対応していく柔軟性も求められます。また「労働条件」や「労働環境」は、従業員のモチベーションや企業の業績にも影響を与えるものです。そのため、経営者に近い視点で課題の全体像を把握する俯瞰力や、課題を分析して課題解決を図る問題解決力も必要となるでしょう。また、経営陣や従業員と関わる機会が多いため、コミュニケーション能力や提案力も求められます。

労務管理士の資格はどんな資格?社会保険労務士との違いは?

労務管理士とは、労働者の「採用」から「退職」までの一連の労務管理を行う能力があることを認定する民間資格です。労働法規や労務管理に関する「専門的知識の習得」や「専門的職務能力の向上」を目的としています。労務管理士資格は、一般社団法人日本人材育成協会で取得できます。
「労務管理士」と混同されがちなのが、「社会保険労務士」です。労務管理士と社会保険労務士の違いを、下の表にまとめました。

労務管理士 社会保険労務士
民間資格/国家資格 民間資格 国家資格
資格取得の難易度 容易に資格取得できる 資格取得は非常に困難
受験資格 20歳以上 のみ受験可能 「学歴」「実務経験」「試験合格」「過去受験」のいずれかの受験資格に該当する者のみ受験可能
受験方法 ①:資格者研修(労務管理講座・基本過程)を修了
②:1級労務管理士の受験資格付与
③:1級労務管理士の受験/各分野別研修過程の受講
年に1回行われる資格試験を受験
試験合格後の流れ ①:資格者研修(労務管理講座・基本過程)を修了
②:1級労務管理士の受験資格付与
③:1級労務管理士の受験/各分野別研修過程の受講
①:「2年以上の実務経験」または「事務指定講習修了」
②:社会保険労務士名簿に登録
③:都道府県社会保険労務士会に入会
業として行える業務内容 社会保険労務士の「第三号業務」に該当する業務
(「第一号業務」および「第二号業務」を業として行った場合、社会保険労務士法違反となる)
●「第一号業務」(健康保険や労災保険、雇用保険などの加入・脱退手続きに関する書類作成・提出代行業務)
●「第二号業務」(賃金台帳や労働者名簿、労使協定などの書類利用)
●「第三号業務」(企業内教育、人材配置、資金調達などのコンサルティング業務)
資格の活かし方 社内でのキャリアアップ 独立開業

労務管理士と社会保険労務士とでは、「資格取得の難易度」や「業務として行える内容」などが異なります。「資格をどのように活かしたいのか」「試験勉強にどれだけ時間を費やすことができるのか」といった観点から、自身に合った資格を選ぶとよいでしょう。

労務管理に資格は必須ではないが、業務の幅は広がる

「労務管理士」や「社会保険労務士」といった資格がなくても、社内で労務管理の業務を行うことは可能です。しかし、資格試験を勉強することにより、労務管理に関する専門知識が身に付けば、「これまで担当していなかった業務を任せてもらえる」「部下や後輩社員に業務を教えられる」など、業務の幅が広がるでしょう。専門性をより高めたり、業務の幅を広げたりするのであれば、資格取得を目指すことをおすすめします。

こういうときの労務管理はどうすればよい?

近年、人々の働き方は多様化しています。「テレワーク」や「在宅勤務」「ワーケーション」などの場合には、どのように労務管理をすればよいのでしょうか。労務管理のポイントを、ケース別にご紹介します。

テレワーク・在宅勤務の場合

情報通信技術(ICT)を活用し、事業所以外の場所で働く「テレワーク」や、テレワークの一つとして自宅で働く「在宅勤務」の場合には、従業員の様子を直接見ることができません。そのため、まず社内ルールを明確にする必要があります。「就業規則を変更する」もしくは「新たに在宅勤務規定を策定する」といった対応を講じましょう。「交通費や諸手当の支給をどうするか」「光熱費や通信費を企業が負担するか」なども併せて検討します。給与を正しく支給できるように、「出退勤メール」や「Web勤怠管理システム」を制度化して、正確な労働時間を把握しましょう。テレワーク環境における労務管理のポイントについては、厚生労働省のHPでも確認できます。
(参考:『「テレワーク」とは。働き方改革に向けて知っておきたいメリット・デメリットや実態』『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』)
(参考:厚生労働省『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』)

ワーケーションの場合

ワーケーションとは、「ワーク(work)」と「バケーション(vacation)」を組み合わせた造語で、休暇中の旅先で仕事をする働き方のこと。ワーケーションは広い意味ではテレワークの一種であるため、労務管理のポイントは、テレワーク・在宅勤務の場合と基本的に同じです。加えて、ワーケーションの場合には、「有給の管理」や「従業員の健康管理」に特に注意する必要があります。
ワーケーションであっても、有給休暇の取得中に仕事をしてもらうことはできません。「旅先で働く日(ワーケーションをする日)」と「仕事をしないで休む日(有休を取得する日)」を明確に分けて、確実に有休を取得してもらいましょう。また旅先でのけがや病気は、「業務上の災害(労災)」なのか、あるいは「業務とは関係ないもの(私傷病)」なのかという判断が難しいとされています。「業務上の行動」と「業務外の行動」を明確に区別できるように、ワーケーションに関する社内規定を策定しましょう。

副業・兼業の場合

「働き方改革」や「コロナ禍」の影響もあり、本業以外の仕事にも就く「副業・兼業」が注目されています。厚生労働省は2020年9月『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を改定しました。このガイドラインでは、副業・兼業を認める際には、「就業規則の整備」や「副業・兼業の内容の確認」といったステップを踏むことが重要だとしています。特に注意が必要なのが、労働時間の管理です。兼業・副業をしている場合、自社と副業・兼業先での労働時間を通算して、労働時間を管理するのが原則となっています。しかし2020年に改定されたガイドラインでは、労働時間管理を簡便にするため、「管理モデル」という新しい方法が導入されました。管理モデルを使った場合、一定の範囲内で、自社と副業・兼業先が事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定することが可能です。すなわち、管理モデルであれば、副業・兼業している従業員に、それぞれの企業が設定した労働時間の範囲内で働いてもらえます。労働時間の管理を容易にするため、管理モデルの利用を検討するとよいでしょう。
(参考:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』/『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』)

運送業の場合

トラック運転手をはじめとする運送業は、業務の特性上、他の業種よりも労働時間が長いという特徴があります。労働条件を改善するため、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」が策定されました。この告示では、「拘束時間・休息時間の定義」や「拘束時間の限度=休息時間の確保」「運転時間の限度」などが示されています。「改善基準告示の内容を順守できているか」という観点で労務管理を行いましょう。厚生労働省が発表した『荷主と運送事業者のためのトラック運転者の労働時間削減に向けた改善ハンドブック』を参考に、長時間労働を是正する方法を考えるのも、労務管理の重要な役割です。
(参考:厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』『荷主と運送事業者のためのトラック運転者の労働時間削減に向けた改善ハンドブック』)

労務管理の現状の問題

労務管理の現状の問題を4つの観点からご紹介します。

多様化する働き方への対応

「働き方改革」が進んでいる近年、「在宅勤務」や「ワーケーション」「副業・兼業」など、人々の働き方が多様化しています。これまでと同じように労務管理を行っていては、これらの働き方の変化に対応できません。多様化する働き方に対応するため、「就業規則の見直し」や「新たな社内規定の策定」などに取り組むことが重要です。

コンプライアンス(法令順守)

時代の変化に対応する形で、労働基準法をはじめとする「労働法」が改正されます。法令違反とならないように、法改正に関する情報を定期的に確認するとよいでしょう。そうすることで、コンプライアンス(法令順守)につながります。

情報管理の徹底

労務管理では、従業員の「氏名」「住所」「連絡先」といった個人情報を扱います。以前は、紙ベースでの管理が主流でしたが、最近ではデータで管理する企業も増えてきました。情報が外部に漏れてしまわないように「アクセス制限を設ける」「セキュリティの高いソフトウェアを導入する」など、情報管理を徹底する必要があります。

業務改善の必要性

企業の生産性を高めるためには、労務管理をはじめとする「バックオフィス」「間接部門」の業務を効率化させる必要があるとされています。毎日同じように作業を行うのではなく、「どうしたら労務管理業務を効率化できるか」を常に考えていくことが重要です。
(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?』『業務効率化を検討したい!企業がすぐに取り組めるアイデア18選【チェックリスト付】』)

労務管理を効率化させたい!まず何からすればいい?

働き方改革や企業での生産性向上を目的として、厚生労働省は「働き方改革推進支援助成金」をはじめとするさまざまな助成金を設けています。労務管理を効率化させ、ひいては生産性を向上させるためには、まずどのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。具体的な4つの方法をご紹介します。
(参考:『業務効率化を検討したい!企業がすぐに取り組めるアイデア18選【チェックリスト付】』)

労務管理を効率化させたい!まず何からすればいい?

紙書類のペーパーレス化

情報の管理を、紙の書類からデータ管理に移行するペーパーレス化は、労務管理のみならず業務全般の効率化において有効な手法です。ペーパーレス化に取り組むことで、労務管理で扱う膨大な情報の更新・管理が容易になります。セキュリティ対策を行った上で、ペーパーレス化を進めましょう。

クラウドシステム/ソフトの活用による、勤怠管理・給与計算の効率化

従業員数が増えたり、働き方が多様化したりすると、表計算ソフトで勤怠管理・給与計算をするのが困難になるでしょう。「表計算ソフトでの管理」から「労務管理システム/ソフトでの管理」へ移行することにより、従業員の勤怠管理や給与計算を効率的に行えるようになります。カスタマイズ性は低いものの、価格が比較的安い「パッケージシステム」や、価格は比較的高いものの、カスタマイズ可能な「オーダーメイドシステム」があるため、自社に合ったものを選びましょう。

アウトソーシングや業務委託の活用

労務管理は、法律の知識が必要な専門性の高い業務である半面、企業に直接的な利益をもたらさない「間接部門」の業務でもあります。そうした業務は、「アウトソーシング」や「業務委託」といった外部の力を借りることで、業務効率化を図ることが可能です。外部の力を活用することで、コア業務に注力できる時間が増え、業務効率化や生産性向上につながるでしょう。
(参考:『【すぐわかる】業務委託契約はどんな時に結ぶ?請負との違いや契約書の作成方法を解説』)

業務フローの定期的な見直し

業務フローを定期的に見直すことも、労務管理業務の効率化に有効な方法の一つです。業務を一から洗い出すことで、「業務に無駄が生じていないか」「別の部署や外部の企業に代わりにやってもらえそうな業務がないか」などを把握できるでしょう。

労務管理を学ぶときにおすすめの本

労務管理を一から学びたいときにおすすめの入門書を、2冊ご紹介します。

『はじめての人のための 世界一やさしい 労務管理がよくわかる本』片桐めぐみ 著(ソーテック社)

難しい法律用語をなるべく避けながら、労務管理や総務人事の仕事を紹介する1冊。架空の会社で、新たに労務管理を担当することになった女性を主人公に、イラストとストーリーで労務管理の仕事を幅広く学べます。労務管理を初めて担当する方におすすめの本です。

『労務管理のツボとコツがゼッタイにわかる本[第2版]』寺林顕 著/米澤章吾 監修(秀和システム)

「労務管理を担当する際に知っておきたい法律・判例」や「労働時間の管理方法」といった労務管理のポイントを解説した本。「入社・退職時の対応」や「労働時間の管理」「賃金計算」などの場面で、労務管理の担当者が迷いがちなことについてわかりやすく解説しています。労務管理を初めて担当する方はもちろん、法改正による影響を知りたい実務担当者にもおすすめの1冊です。

まとめ

従業員の「労働条件」や「労働環境」などを管理する「労務管理」は、どの企業にも不可欠な業務とされています。多岐にわたる業務を適切に行ったり、テレワークや副業・兼業といった新しい働き方に対応したりするためには、法律を正しく理解することが何より重要です。併せて、「クラウドシステム/ソフト」や「アウトソーシング」の活用などにより、労務管理の業務効率化を図り、企業の生産性向上につなげてみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

【Excel版】労務管理チェックリスト

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