「異業界人材は採れない」を覆す─IT業界外の事業創出人材を1年で“4倍”採用したBIPROGYの採用メソッド

人的資本マネジメント部 人材採用室 室長(取材当時)
樋口隆俊(ひぐち・たかとし)
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異業種出身の転職希望者からの認知向上のため、人材紹介エージェントを「パートナー」と位置づけて企業理解を促進。キャリアアドバイザー向け説明会や座談会でキャリア入社者の声を共有
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人事・採用担当者1人あたり約20ポジションを担当。現場部門と伴走しながら、求人クローズまで共に試行錯誤を重ねる体制
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短期成果にとらわれない長期志向の文化と、チーム重視の風土が、異業種出身人材からの高い共感を獲得
新規事業に挑戦する企業にとって、異業種出身の人材を採用することは、いまや欠かせない取り組みとなっています。一方で、事業や業界に対する認知不足、さらには出身業界とのカルチャーギャップなどを背景に、母集団形成から採用決定に至るまでのプロセスは、決して容易なものではありません。
BIPROGY株式会社(旧社名:日本ユニシス)はDXやAI、グローバルといった成長領域への挑戦を進める中で、異業種出身の事業企画・事業創出人材の採用を強化。求人数が1年間で2倍に増加する中、採用決定数を4倍に伸ばしています。背景には、「システムの先にある顧客の事業理解」を重視した人材要件の再定義と、エージェントとの関係性構築、現場部門と伴走する採用体制、そして転職希望者一人ひとりと丁寧に向き合う選考プロセスがありました。
異業種出身の人材を惹きつける同社の採用戦略には、どのような工夫があるのでしょうか。その具体的な取り組みを聞きました。
「システムの先にある顧客の事業理解」を求めて異業種出身の人材採用を強化
──BIPROGYでは、新たな成長戦略を進める上で異業種出身の「事業企画人材」や「事業創出人材」を積極的に採用していると聞きました。
樋口氏:BIPROGYは、メインフレームと呼ばれる大型コンピュータの販売代理店として創業し、システムインテグレーション事業を長年の主軸としてきた歴史を持つITサービス企業です。2000年代以降はSI事業に加え、顧客の多様なニーズに応える新たなビジネス領域の開拓を進めています。
従来のSIer事業のキャリア採用では、IT業界でのエンジニア経験や営業経験が主な要件でした。
しかし現在の当社はSIer事業の枠を越え、DXやAI、グローバル、地域創生などさまざまなテーマで事業開発を進めています。社内では「企画経験」や「事業創出経験」を持つ人材のニーズが高まっており、実際にそうした要件の採用ポジションが急増しています。

──こうした要件は、従来の採用要件であるIT業界出身者では満たせないのでしょうか?
樋口氏:IT業界にも企画人材は豊富にいますし、社内にも新しい事業を推進していく力を持つ人材が育っています。これまでもBIPROGYは、顧客の情報システム部門と密に連携し、顧客のニーズを丁寧に引き出すことを強みとしてきました。ただ今後は、情報システムの視点にとどまらず、顧客が「どのような事業を実現したいのか」という現場レベルの視点に立ち、顧客と一緒に事業をつくり上げていく関係性を目指しています。そのためには、実際にその現場ではたらいてきた方々の経験や目線を、当社自身が持つことが重要だと考えています。
キャリア採用の方が持つ業界・現場起点の知見と、これまでBIPROGYが培ってきた「声なき声を拾う力」を掛け合わせることで、事業をさらに発展させていく。その理想実現に向けて、私たちが貢献できる業界で、実際に活躍してきた方々に加わってもらうことが最も効果的な方法だと考えています。
エージェントの理解度を高め、本気になってもらうための施策
──異業種出身の人材を採用するにあたり、障壁となっていることがあれば教えてください。
樋口氏:「BIPROGY」という社名の認知度があまり高くないことです。既存事業の強みを活かして成長領域に注力していることも、転職希望者にはあまり認知されていません。
旧日本ユニシスの社名を知っていただいている方は多いのですが、BIPROGYという社名と結びついていないケースが多いのが現状です。日本ユニシスもSIerのイメージが強い社名なので、どう認知を変え、広げていくか、試行錯誤しているところです。
当社のキャリア採用のおよそ80%は人材紹介サービス経由なので、エージェント側の力を借りて認知を広げていく必要があると考えています。
──この課題に対してはどのように取り組んでいるのでしょうか。
樋口氏:エージェントの担当者に対しては、BIPROGYがまさに変革の途上にあり、その先に見据える成長事業の可能性や拡大への想いを丁寧に伝えています。あわせて、注力する具体的な成長領域への理解を深めてもらった上で、「転職希望者をぜひBIPROGYに紹介してほしい」と積極的に働きかけています。
当社への理解が深いコアパートナーのエージェントには、「どのような情報を提供したらいいですか?」とアドバイスを求めることも多いですね。当社にとってエージェントは「業者」ではなく「採用活動のパートナー」。みなさんにBIPROGYへの理解と共感を深め、社員と同じ熱量で採用活動に伴走してもらえるよう努めています。
──エージェントに自社の理解を深めてもらうために、取り組んでいることがあれば聞きたいです。
樋口氏:キャリアアドバイザー(個人営業)とリクルーティングアドバイザー(法人営業)が異なるエージェントに対しては、転職希望者と向き合うキャリアアドバイザーに直接当社のことを知っていただく機会を設けています。
たとえば、キャリアアドバイザー向けの会社説明会や座談会を開催して当社を知ってもらう取り組みもその一つです。座談会では、エージェント経由で入社した社員が登壇し、「BIPROGYを選んだ理由」や「入社後に感じている魅力」、「転職希望者に伝えたいポイント」などを伝えてもらっています。

ボトルネックも踏まえて次の採用活動につなげ、「現場部門に伴走しきる」
──難度の高い採用を進めるためには、社内の体制強化も必要だと思います。社内に向けた働きかけでは、どのような工夫をしているのでしょうか。
樋口氏:当社にはHRBPの専任機能がなく、人事・採用担当者一人ひとりが、約20のポジションを受け持ちながら採用活動を進めています。各ポジションにおいて、現場部門と密に連携し、求人のオープンからクローズまで一貫して伴走するのが私たちのスタイルです。採用が決まらなければ、当然ながらポジションはクローズできません。そのため、想定通りに進んでいない場合には、原因を整理し、打ち手を積極的に検討・実行していくことが求められます。
また、入社後のケアも重視しています。キャリア入社者向けのオンボーディングチームは、サーベイやコンディションチェックを行います。また採用チームはコンディション情報をキャッチし、「この部署でキャリア入社者が活躍するには、現場側にこんな受け入れ体制が必要かもしれない」といった課題を特定しています。
このように、ボトルネックも踏まえて次の採用活動につなげ、現場との連携を採用クローズまで一貫して継続することを大切にしています。
──転職希望者と向き合う選考プロセスでのポイントも教えてください。
樋口氏:人事・採用担当者は、担当ポジションに応募いただいた書類すべてに目を通し、求めるスキル要件や人物像を踏まえて一次スクリーニングを行っています。その上で、人事・採用担当者が「ぜひお会いしたい」と判断した方を現場部門に共有し、現場部門が担当する一次面接にも同席。現場部門と同じ目線で、転職希望者を見極めています。
また、面接の中で転職希望者から「もう少し詳しく話を聞いてみたい」という声があがった場合には、カジュアル面談を設定することもあります。たとえば、「子育てをしながらはたらいている社員に会ってみたい」「同業界出身のキャリア入社者と話したい」といった希望に応じ、選考の場とは切り離した、率直な質疑応答や対話ができる機会を用意しています。納得感を持った上で、最終面接に進むかどうかを判断していただくことを大切にしています。
また、オファー面談は原則すべての転職希望者に行います。オファーレターと雇用条件通知書を交付するだけでなく、改めて人事・採用担当者や現場部門からフィードバックする場を設け、入社後のイメージを具体化できるよう、疑問点の解消と情報提供を行っています。
過度な成果主義ではなく、長期目線で挑める文化が共感を集める
──こうした取り組みの結果、事業企画・事業創出関連の新規求人数は前年比2倍となっているのに対し、採用決定数は4倍に伸びていると聞きました。採用決定数が大幅に増加した要因はどこにあるのでしょうか?
樋口氏:選考の各段階で、丁寧な情報提供と対話の機会を設けてきたことにより、これまで十分に認知されてこなかったBIPROGYへの理解が着実に深まっていると感じています。これが、採用活動における成果につながっている要因の一つだと考えます。
また、現場部門が主体的に選考プロセスに関わることで、BIPROGYが本気で成長事業に取り組んでいることも伝わっています。その結果、「ここで挑戦したい」と前向きな意思を示してくれる転職希望者が一定数存在しています。
成長事業を推進しながらも、協調的な社風が根付いています。当社は社歴が長く、プライム上場企業でもあることから、組織としての安定性と長期的な視点で事業に取り組める基盤があります。過度な成果主義に偏ることなく、チームワークを大切にしながら、余裕を持って新たな挑戦の種をまいていける環境です。
これまでのキャリアで短期成果を求められる環境を経験してきた方や、新規事業への関与機会を模索している方が、「長期目線で挑戦できる環境」として選んでくれていますね。

──転職希望者にとっては、新たな挑戦への期待とともに、腰を据えてはたらける安心感も得られるのですね。
樋口氏:はい。短期的な結果にとらわれず、長期的な視点で取り組みを評価する姿勢を大切にしており、こうした考え方に共感してくれる人は非常に多いと感じています。
こうした考えの背景には、SIerとして培った文化が良い面に作用しているのだと思います。システム開発の世界では、3~5年といった時間をかけて一つのプロジェクトを完成させていくことが多く、短期目線で成果を追う発想がありません。こうした長期的視点で物事に向き合う点が新鮮に映る人も多いようです。
もっとも、こうした強みは面談の場では伝えられるものの、そもそもBIPROGYをあまり知らない方にまで十分に届いているとは言えません。だからこそ今後は、外部への情報発信をさらに強化していく必要があります。当社ならではのカルチャーや強みをさらに言語化・整理し、より多くの方に届けていきたいと考えています。
キャリア入社者の声で気づく「課題」と、変革へのプレッシャー
──DXやAIなどの領域で活躍する人材は採用市場で引く手あまたとなっています。こうした領域出身の転職希望者の傾向について、どのような印象を持っていますか?
樋口氏:「価値創出の方向性」や「はたらき方」に対して、多様性を求める方が多いと感じています。
BIPROGYでは現在、オフィスへの出社やサテライトオフィスの利用、フルリモートに近い形など、多様なはたらき方を選択できるようにしています。成果を出すために、ステークホルダーとのコミュニケーションが機能していれば、はたらき方は多様でいいという考え方です。この点に共鳴してくれる転職希望者も多いですね。
前職までの経験を通じて課題意識が明確になっているからこそ、選考プロセスを通じて「BIPROGYでその課題を解決できるのか」を丁寧に見極めようとしています。はたらき方や処遇について具体的な質問をされることが多く、明確に答えられるよう、環境整備が必要だと思います。
──キャリア入社者から入社後によく挙がる声には、どのようなものがありますか?
樋口氏:成長領域に長期目線で取り組む姿勢への共感をよく耳にします。個人に過度なノルマを背負わせる風土ではなく、チーム力で新規事業に取り組む文化があることを改めて認識し、好感を持ってくれている人も多いです。
一方、ネガティブな面では「新規事業への取り組み方はまだ改善の余地がある」という率直な声もありました。当社はウォーターフォール型のプロジェクトを中心に、指揮・命令系統が明確なマネジメントを得意としています。しかし、新規事業では各個人やチームがアメーバのように柔軟に動かなければいけない面もあります。そうした組織運営の方法やノウハウは、現在も試行錯誤の段階にあることに、キャリア入社者の声で改めて気づかされました。
異業種出身のキャリア入社者を迎え入れていくことは、自社の課題を浮き彫りにし、組織文化の変革に向けたプレッシャーを高めることにもつながります。
そのプレッシャーを前向きに受け止め、本当に変革を進めていけるかどうか──。この大きな課題を乗り越えられれば、今後の採用活動においても、さらなる成果につながっていくと確信しています。

【取材後記】
異業種採用というと、どうしても「スキルのミスマッチ」や「カルチャーフィットの難しさ」に目が向きがちかもしれません。しかしBIPROGYの取り組みは、“違い”を前提に、どう迎え入れるかに本気で向き合っている点が印象的でした。また、キャリア入社者の視点が自社の課題を可視化し、組織変革の起点となっている点も示唆に富んでいます。
企画・編集/酒井百世(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
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