会社規模・報酬・福利厚生だけを訴えても、採用が上手くいかない理由

株式会社JIN-G

代表取締役 組織人事戦略コンサルタント 
三城 雄児

プロフィール

この記事をご覧いただいている人事・採用担当者は、“自社の給与や福利厚生”が採用競合と比較して良いとは言えない、これでは採用がうまくいかない気がする…と、悩みをお持ちではないでしょうか。

たしかに、給与や福利厚生が良いと、採用における大きな強みとなります。しかし、採用競合と差別化を図るポイントはそこだけでしょうか。また本当に求めている人材は、給与や福利厚生に惹かれて転職するのでしょうか。

実は、自社にマッチした人材を採用し、強い企業になるためのキーワードは「組織文化」にありました。

※この記事は、dodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています

強い会社を再定義

プロフィール_JING三城氏

「会社を良くしたい」「組織を強化してより会社を成長させたい」という思いを、皆さん共通してお持ちだと思います。しかし、「強い会社」とはどういう会社を指すのでしょうか。さまざまな意見が出てくると考えられますが、一言で表すなら「長く続く会社」ではないでしょうか。生き残るということはそれだけ「強さ」を持っているということです。

ご存知の方もいると思いますが、日本には長寿の企業がたくさんあります。世界で200年以上続く企業のうち、日本企業が占める割合は56%にもなるのです。

そうした会社には、当たり前のことですが、良い人材が集まっています。良い人材がいるからこそ、生き残っていくことができています。では、良い人材を採用するには、どうすればいいのでしょうか?

グローバルな人事領域では「組織文化」に対する意識が高まっている

講演する三城氏_その1

今、グローバルな人事領域が注目していることの一つに「組織文化」があります。組織文化とは、社員の行動の基礎となる考え方というものです。

例えば、実際の職場に目を凝らすと“締め切りを必ず守る”など良い面もあれば、逆に“時間にルーズ”などマイナス面の部分などもあると思います。特に意識しなくても自然とできていること、ついやってしまっていることと考えるとわかりやすいでしょう。

そして、この組織文化を採用に活かそうというのが今回の提案です。採用の差別化を考えた場合、ポイントとなるのは大別するとハード面(会社規模、報酬、教育体制、福利厚生など)と、ソフト面(人の魅力、ブランド、経営理念、組織文化など)が挙げられます。ハード面で差別化を図ろうとすると、どうしても大手企業の独壇場になってしまうでしょう。

会社のハード面とソフト面

そのうえハード面は、なかなか変えることができません。一方、ソフト面には柔軟性があり、その企業ならではの特徴を打ち出せます。規模の大小に関わらず勝負できるところが見つけられるのです。その中でも、グローバルな人事領域が注目している組織文化に着目してほしいと思います。

「組織文化」は、個々の企業が持つ個性

組織文化は、具体的に可視化されたものもあれば、無意識下に置かれ、内部にいる者として当たり前になっているものもあります。着目したいのは、無意識になっているもののほうです。組織文化を理解するために、無意識下になっていることのあぶり出しを行います。米国の心理学者であるエドガー・H・シャインは、組織文化の3つのレベルを氷山に例えて、下記のような図で考えられると提唱しています。

エドガーシャイン

どんな企業にも良い組織文化があります。それを見つけるのが、実は採用の第一歩となり、良い組織文化は強固な採用ブランディングとして使えるのです。

組織文化を採用ブランディングとして活かした例として、専門商社での新卒採用があります。規模や立地、仕事内容だけを考慮すると、学生にとって魅力的とは言えない企業でした。そこで、取材やセッションを重ねて「大きく権限を任せる社風」という企業文化を発見し、採用のコンセプトにしました。
「任せる」というキーワードを、求人広告による募集だけでなく面接などのあらゆる採用活動にも盛り込み、例えば「学生が会社を知る方法」や「面接官」を複数用意して、選択はあなたに「任せる」としたのです。

この結果、想定していたよりはるかに会社とマッチする学生と出会えて、当初1名の採用予定だったものが、5名(男性3名・女性2名)の採用を実現しました。内定辞退はゼロです。

講演する三城氏_その2

なお、理念は組織文化が表層に形となって表れたものです。多くは創業者が作ったもので、ソニーやリッツカールトンのものが著名でしょう。リッツカールトンに関しては「クレド」として落とし込まれていますね。ただし、クレドを持ち込み行動の指針にしても、すぐにリッツカールトンのようになるかと言えば、そんなことはありません。

なぜなら、理念が文化として浸透し、社員にとって当たり前になるのは、一定の時間を有するからです。文化は育まれていくものなのです。

企業の社会的意義(理念)に共感が得られると、定着率が高まる

人材を採用する場合、ハード面(会社規模、報酬、教育体制、福利厚生など)とソフト面(人の魅力、ブランド、理念、組織文化など)で差別化を図る方法があるとお伝えしました。
ハード面の差別化や強調は、特に大手企業が採用競合になった場合に不利になるから避けたほうがいいと説明しましたが、実はこれに加え、ハード面で人材を引き付けると、定着が難しくなるという側面もあるのです。
特に報酬は目的化されやすく、仕事の目的をお金にすると、より年収が高いところに簡単に転職したり、モチベーション管理が難しくなったりします。

一方、組織文化をはじめとするソフト面に惹かれた人材は、定着しやすい・愛着を持ちやすいという特徴があります。会社が何のために事業を行い、どういった文化があるのか。会社は何を目指し、社会にどんな価値を発揮しようとしているのか。そこに共感が得られると、目の前の状況に多少変化があったとしても、目標(理念)のために頑張ろう、となるのです。

実際、採用ブランド力を可視化できるシステム 「BRAND MOTHER RECRUITING(R)」を使った下記の結果で、それが示されています。

組織文化への共感が大きいほど、定着率が高い
※(1)企業ビジョン・価値観、(4)社長・役員の魅力、(5)社員の魅力、(6)人事担当者の魅力、(7)会社の雰囲気などが、高いほど、(11)オススメ度が高いことが分かります。

採用を成功させる打ち出し方

講演する三城氏_その3

採用活動とは企業を成長させる「同志」を見つけることと言えます。だからこそ、企業の社会的意義に共感する人材を採用することが、「強い企業」につながっていくのです。

具体的な採用活動の進め方としては、まずは良い組織文化を見つけ、必要に応じて再構築し、その上で、採用活動の拠り所となるコンセプトを作ります。情報発信の手法はWebや広告媒体、チラシ、ポスターなどがありますが、自社に最もあったコミュニケーションツールを選択します。
大事なのは選考が進むごとに、採用候補者が会社のファンになっていくように設計することです。

順番としてはまずは知ってもらい、次に、理解してもらい、最終的に好きになってもらう。これは、マーケティングで言うブランディングと同じ過程です。つまり、採用活動をする中で、ブランディングも行うのです。

内定後は、新入社員に文化を理解してもらう機会を設けます。入社直後が一番柔軟な状態ですから、この時期が良いでしょう。

具体的には、新入社員が既存の社員から仕事の方法や考え方などを取材し、マニュアルとしてまとめてもらうのはいかがでしょうか。「ウチはこうだよ」と話を聞くだけでは、文化への理解は深まりません。アウトプットをすることで、自分のものとして定着します。マニュアルは実際の仕事にも活かせるメリットもあります。ぜひ参考にしてください。

【まとめ】

長く続く会社が強い会社だと三城氏は定義します。その上で、自社にマッチした人材を採用して強い会社となるために、組織文化(企業の理念やビジョン)の重要性を訴えます。

組織文化に共感した人材は活躍が期待できるのはもちろん、定着率も高くなる傾向にあるとのことです。給与や福利厚生などのハード面は、どうしても大手に強みが集中します。

一方、組織文化などソフト面は、それぞれの企業が持つ固有の特徴や良さを打ち出せます。自社の採用上の強みがどこにあるかわからない、という場合は組織文化を探ってみるのはいかがでしょうか。深く追求することで、本当の独自性、差別化ポイントが見つかるはずです。

※「優秀な人材が集まり活躍し続ける、強い会社の組織文化」をいかにして発掘し、社内の隅々まで浸透させていくかを、それが企業の採用力にどう繋がるかを事例も交えながらご紹介します。