人材獲得競争に打ち勝つための採用ブランディング

株式会社エクスオード

代表 守屋 尚

プロフィール

ブランディングとは認知度を上げることではなく、ターゲットを定めて明確なコンセプトを伝えること。ここでは、株式会社エクスオード 代表の守屋 尚氏にdoda主催のセミナーで講義いただいた内容をレポートします。

【POINT】
● 人材獲得競争が激化する中で、採用マーケットでの存在感を示す
● 伝えたい人だけに伝えるために、「誰に対して」伝えるか採用候補者を決める
● 自社のユニークな強みは何かを突き止め、採用候補者への訴求ポイントを決める

いま、採用ブランディングが求められる理由

少子化で人材獲得競争が激しくなりつつあり、有効求人倍率が高い「売り手市場」が続く状況下では、より採用ブランディングの必要性は増しています。インターネットやSNSが普及し、企業が情報発信しやすい環境になった今、これをチャンスと捉えて積極的に発信していくことが大事です。

一方、情報があふれる中で、転職希望者は一般的な求人情報だけでなく、「そこでどんな働き方ができるのか」「どんな人たちと働くのか」といったリアリティのある情報を求めるようになってきています。そこで企業は「誰に向けて」「何をメッセージとして」発信すべきなのでしょうか。その考え方を紹介していきます。

採用ブランディングとは

「採用ブランディング」と言われると、「知名度」のことだと考える方が多いかもしれませんが、両者はイコールではありません。資金やマンパワーが十分にあれば、マス向けに宣伝・広報をして「知名度」の向上を図ることができるでしょう。
しかしそれができるリソースを持つ企業はほんの一握りです。そうではない企業の戦略として必要となるのが、「採用ブランディング」です。採用ブランディングには3つのステップがあります。

【1】採用候補者(求める人材像)を定義する
【2】想定されるターゲットに訴求できる自社の強みを決める
【3】与えられた採用活動期間、予算の中で、【2】を【1】に届けるよう努める

知名度を高めることが目的ではありませんから、全ての人(マス)に知ってもらう必要はありません。母集団になってほしい採用候補者をセグメントし、その人たち「だけ」に向けて自社独自の強みを伝えるという考え方です。「誰に」「何を」伝えるか、これがポイントです。

では、採用候補者をどのように定義すればいいのでしょうか。そして伝えるべきメッセージはどんなものにすればよいのでしょうか。さまざまな考え方や手法がありますが、ここでいくつかフレームワークを紹介します。

3C分析で、自社のビジネス環境における位置づけと強みを把握

採用候補者を定義する際の基本的な考え方は、「事業と人」の関係を整理することです。「良い人材=事業(会社の収益)を支える人」だとした場合、事業の収益の源泉がどこにあるかを把握する必要があります。

3C分析の図

3C分析は、「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点から成功要因を見つけ出し、自社の戦略に活かすための定番とも言えるフレームワークですが、これを、採用候補者を考える際にも使うことができます。3つのCについて、以下のポイントを洗い出してみましょう。

「採用対象」分析のポイント

  • 収益を支える事業を担うのはどんな人か
  • 採用対象を言語化できているか?
  • どのくらいの人数規模か?
  • どんな情報を得ると応募意思が形成される?
  • 応募・決定の決め手は?

「採用競合」分析のポイント

  • 同業他社か?異業種か?
  • 全国展開の企業か?エリア限定か?
  • 採用職種によって競合は変わるか?
  • 毎年、実際にバッティングしている企業は?

「自社」分析のポイント

  • 収益を生み出しているのはどの事業・どのポジションか?
  • 自社のどのような事実を提供する?
  • 採用候補者に対してどの部分をモチーフにして表現する?
  • 自社にあって採用競合にないものは何?

また、「事業と人」の「事業」が、いつの時代の収益を支える事業なのかという視点も忘れてはいけません。「現在」なのか「将来」なのか、「将来」だとしたらどのくらい先のことなのか、この辺りを混同しないよう整理しましょう。

採用ターゲットを定義するためのフレームワーク

自社の強みを把握できたら、その強みを発揮するためにどんな人が必要なのか、人材要件を定義します。その際には、下図のようなフレームを使うとよいでしょう。

「スキル要件」とは、具体的な実務経験、スキル、資格、学校での専攻などのことで、「タイプ要件」とは、その人の持つ性格や気質などのことです。また、それぞれ絶対になければいけない「MUST項目」と、持っていることが望ましい「WANT項目」を明確にしておく必要があります。MUSTとWANTを兼ね備えた人が理想ですが、必ずしも理想の人物に出合えるとは限りません。どこまで条件を緩和できるのかを定義しておきましょう。

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特にタイプ要件の定義は漠然とした言葉になりがちなので注意が必要です。例えば「元気なタイプ」といった言葉は、人によって解釈が異なるので定義としてふさわしくありません。自社の場合はどんなことができる人を「元気なタイプ」とするのか、明確に伝わる表現に落とし込みましょう。

「共感の接点」から、採用ターゲットに何を伝えるか決める

採用ターゲットが定義できたら、自社の何を訴求するかを決めていきます。グループ・ダイナミクス(集団力学)理論によれば、人が組織に参画する誘因は下図のA~Dのように、大きく4つに分類されます。それをさらに細かく分けると、図の右側の部分のように8つの要素に分類できます。

これらのうち、定義した採用候補者は何に最も共感し、魅力を感じるでしょうか。自社の過去の採用実績などを参考にしながら、採用候補者と自社の間の最も強い「共感の接点」となる項目を、いくつかを選び取りましょう。そしてその中で、競合が持たないオンリーワンのアピールポイントになる1つ(もしくは多くても2つ程度)を、メインで訴求するポイントに据えましょう。

図4

まとめ

採用ブランディングにおいては、「誰に」「何を」伝えるかが重要という説明をしてきましたが、競合と似たようなターゲット設定、訴求内容では差別化ができず、狭いターゲットの奪い合いになってしまいます。

「できるだけ競争を回避する」ことを念頭に置いて、必要に応じて人材紹介会社などに他社の状況を聞きながら、オリジナルの採用コンセプトを作ると、より効果的な採用ブランディングが展開できるはずです。