【弁護士監修】炎上してからでは遅い!採用でSNSを使う際の注意点

四谷コモンズ法律事務所(第二東京弁護士会所属)

渡辺 泰央(わたなべ やすひろ)弁護士
【監修・寄稿】

プロフィール

今は、Webサイト・ホームページだけではなく、オウンドメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを用い、企業も気軽に情報を発信できる時代になりました。FacebookやTwitter、Instagramなど、特に気軽に発信できるSNSにおいては、企業アカウントだけではなく採用アカウントを持っている企業も増えているのではないでしょうか。

しかし、自由に情報を発信でき、自由に情報が取得できる時代になったからこそ、インターネット上でのトラブルが増えてきているのも事実です。たとえ、真実は違っていたとしても、話題になっている情報を信じてしまう人も出てくるでしょう。そのような状況は、企業に深刻なダメージを与えかねません。

もしも、自社の採用アカウントが炎上してしまったら…? ありもしないデマをSNSで拡散されてしまったら…? 採用だけではなく企業ブランドにも悪影響となってしまいます。では、炎上や風評被害をあらかじめ予防する方法や対策はあるのでしょうか。今回はインターネットでの炎上や風評被害を防ぐ方法と事前の対策について、法的な観点も交えながら紹介します。

炎上はなぜおこる? -採用アカウントの炎上対策をする前に-

風評被害や炎上のタネは、ある情報に触れた個人が“不快や不安、怒り”などの感情を持ち、それを誰かに共感してもらおうとインターネットに投稿することで発生します。情報の発信主体者は、誰しもがなり得る可能性があります。
例えば、自社の公式アカウントなどから発信した情報が原因で炎上してしまうことや、自社の従業員が個人的に発信しているブログなどから炎上することもあり得るでしょう。また、顧客やユーザー、取引先などが、「A社はこんな提案をしてきた」「A社の商品はこうだった」と書きこむケースもあるでしょう。ごく稀に、競合先がネガティブキャンペーンを実施している可能性もあります。

いずれにせよ、炎上や風評被害の火種はどこにでも落ちているものであり、初期対応を間違えてしまうことでその影響範囲は高まってしまうのです。

過去に発生した、採用に関する炎上事例の代表例としては以下があります。

  • 採用面接の様子を中継し、インターネットでこれを公開していたケース
  • 災害が発生した地域の求職者へ、配慮が不足した対応をしていたケース
  • 代表が「面接に来るのならば、私のTwitterをチェックするのは常識」と発言したケース
  • Facebookの設定ミスにより、内定者の個人情報が流出してしまったケース

これらが発生してしまう原因は、非常に初歩的なことです。こちら側がなんとも思っていなくても受け手が過敏に反応してしまうことも多々あります。

・相手が嫌がることをしない
・相手の状況を考慮する
・自分の常識を押し付けない
・個人情報の扱いを見直す

常識ではありますがが、少なくともこれらのことを踏まえて対策をルール化しておくことで、情報発信におけるトラブルの発生を防ぐことができるでしょう。

SNSを始めるときに決めておきたいこと

SNSを始めるときに決めておきたいこと
風評被害や炎上そのものを100%なくすことは難しいでしょう。なぜならば全ての情報をコントロールすることは事実上不可能であり、人の感情は千差万別。人によって受け取り方は違うために感じ方・思うところ・結論が違ってくるからです。
ただし、100%ではなくても一定程度防ぐ方法はあります。上記で紹介したような過去のトラブル事例を知り、同様の事故が発生しないように、先回りして対策を行っていくことです。

例えば、「相手が嫌がることをしない」「災害/社会的事件に関すること」「身体・生命に関すること」の場合。
人によって嫌だという感情の閾値は変わってきます。したがって、情報を公開する前に社内の複数人に意見を求めると客観的に判断するルールを決めておくとよいでしょう。自分は良いだろうと思っていても、当事者にはどう映るのかという点が最も大事なポイントです。例えば広報部門があれば、そこに確認をしてもらう…など、第三者的視点からのチェックを必須にすうことで一方的な情報発信を防ぐことができます。
その他、「個人情報や機密情報を投稿しない」ことを徹底すること。ちょっとした設定のミスで容易に外部の人間が内的な事情を知ることができるようなサービスは利用すべきではないでしょう。また、意外と見落としがちなのが、本人の許諾なく画像を掲載してしまうことです。意外と肖像権については、認識が甘いことがあるので注意が必要です。

企業のアカウント以外でも、個人のアカウントで炎上につながるような投稿をしてしまうケースもありえます。従業員がどのように発信するのかを管理をすべきかは、自社でルールを定めることが必要です。他社事例を参考にしたり詳しい弁護士に相談をしたりしてもよいでしょう。

<参考:ソーシャルメディアポリシーを掲載しているWebサイト>
ソーシャルメディアでの発言などについてはルール(ソーシャルメディアポリシー)を定めて運用を行っていくといいでしょう。
コカ・コーラシステム社
シックスアパート社
千葉市

炎上を防ぐポイントは、「素早い対応をする」こと

事前にルールを定めておくことはもちろんですが、火種を見つけてからの初動を早くするという方法があります。何かミスがあった場合、迅速な対応をすることで、情報が拡散されることを防ぐことができる可能性が高まるのです。つまり、いかに火種を早く見つけるかということがポイントとなります。例えば、Googleアラート。社名やブランド名、代表者の名前を登録しておけば、発信されているかどうかを教えてくれる機能です。
また、ツイッターは、その拡散性が高いことから、ぜひ、定期的に注視しておくことをお勧めします。また、有料にはなりますが、様々な企業から監視ツールがでているようですので、リスク対策として、導入を検討してもいいかもしれません。

そして、該当する書き込みやツイートが確認された際は、どのような対応をすべきなのかを予め検討しておくとよいでしょう。この反応ルールについては、明確な規定はありませんが、例として次のようなルールを決めて運用するといいでしょう。

事実関係の正確な確認

火種となる書き込みやツイートを発見したときは、まずその内容と、人々が“不快・怒り”を感じているポイントはどこかということを正確に把握しましょう。そして、それらを把握できるまで何らかのアクションを起こすべきではありません。不適切な初動は炎上への燃料となり、取り返しのつかない事態に発展することもあるためです。

ご意見に対する対応

書き込みやツイートの内容が合理的な“ご意見”であれば、それらは真摯に受け止め、社内のしかるべき部署へ共有するなど、再発防止に努めてください。ただし、過去の情報も確認したうえで、対応の要否については判断するようにしましょう。

自社のミスに起因するクレーム対応

自社のミスがあったという事実が確認でき次第、それに対するお詫び、ご意見へのお礼、今後の方針を伝えてください。問い合わせがあった個々への対応はもちろんですが、企業ホームページなど、正式に経緯・お詫びを記載しておくことをおすすめします。

根拠のない誹謗中傷

書き込みやツイートの内容に多少の誇張や誤解があったとしても、できるだけ丁寧かつ個別に対応すべきです。しかし、嘘に基づく誹謗中傷など、悪質性の高い場合は弁護士や警察などしかるべき機関へ相談しましょう。なお、掲示板サイトなどへの書きこみの場合、対応が遅いと、誰がやったのかを特定できなくなってしまう恐れがあるので、この点、注意が必要です。(90日程度が目安)

採用SNSアカウントが炎上。適切な対応の方法とは

それでも炎上が起きてしまったら
しかし、それでも事態が収束に向かわなかった場合、このときは、できるだけ早目に顧問弁護士へ相談することをお勧めします。実は、炎上事例において、実際に炎上に参加する人はインターネットユーザーのうちの数パーセントしかいないと言われています。早期に犯人特定手続や、削除を進めることで、事態が収束に向かうことが期待できます。

また、対応手段の選択に関しても弁護士に適切なアドバイスを求めることが有用です。場合によっては、削除や犯人特定の手続を行っていること自体が炎上の燃料になることもありますから、弁護士に相談することで、法的手段を含めた炎上対応手段全般のメリット・デメリットを検討し、最適な手段を選択することができます。

【まとめ】

インターネットにはログ(記録)が残るという特徴があります。これはインターネットの便利なところでもあり、怖いところです。ポジティブな情報であれば、良い影響を及ぼしつづけてくれますが、逆の場合は早期の対策が必要です。

繰り返しになりますが、万が一に備え、企業として準備しておくことが非常に大切です。情報発信は企業ブランドにも関わる重要な項目です。普段からインターネット上では、どのような情報を開示し、どのような情報は開示しないのかというイメージ・コミュニケーション戦略を展開する必要があるでしょう。

採用についても同様です。SNSや口コミサイトなど情報が多々ある中で、「面接に行ったけど、なんとなく感じが悪かった」「こんなことを言われた」などと書きこまれてしまうだけで、母集団形成に影響を及ぼしかねません。普段からのルールの整備・社員への教育、そして、トラブルの種が発生した場合の早目のアクションを心掛けることで、トラブルの予防や早期解決ができます。

(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

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