【NewsPicksの大川氏が解説】社内のITエンジニアと同じ方向を見る方法

株式会社ニューズピックス

ITエンジニア兼採用担当 大川 知

プロフィール

“ITエンジニアの採用は難しい…”

昨今の転職市場の中で、ITエンジニアを求めている企業は増え続けており、採用競争が激化しています。実際に’16年12月時点で、職種全体の転職求人倍率は2.93なのに対して、ITエンジニアの転職求人倍率は9.23です(※1)。

(※1)引用元は、dodaが調査している転職求人倍率レポートです。職種カテゴリーの中でITエンジニアは技術系(IT・通信)に該当します。

その上、ITエンジニアを求めている企業の中では、人事が第一線で活躍するITエンジニアの意向を把握しきれていない問題も発生しています。こういった問題が、ITエンジニアの採用をさらに難しくしているようです。

そこで今回、現役のITエンジニアでありながら、採用担当者を兼務するNewsPicksの大川 知氏に、「採用業務にITエンジニア達を巻き込みながら、採用を成功に導く秘訣」を教えていただきました。

※この記事は、doda ダイレクトが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています。

採用候補者の母集団形成は本当に大事でしょうか

ITエンジニアを採用する上で、まず陥りがちな問題。それは採用候補者の母集団をとにかく増やそうと考えてしまうことです。求人への応募が増えれば、それだけ良い人材からの応募も増えるという確率論的な考えや、人事部で設けているKPIの側面から必要だというのが、この問題を生む原因かもしれません。

しかし、母集団形成が採用成功に結びつくのかと言われると、私は疑問に感じます。せっかくお互いに選考過程に時間を使っても、お互いの基準に満たないためにお断りすることになるケースがたくさんでてくるからです。転職希望者と企業のどちらにとっても、これは不幸なのではないでしょうか。理想論かもしれませんが、採用したい人材に直接アプローチし、百発百中の採用をした方がずっと良いと考えられます。

何でもいいから採用候補者の数をとにかく集めて、その中から選ぶ採用ではなく、採用したい人材を直接募るという思考に切り替えると、また違った採用課題が見えてくるはずです。

解説する写真_newspicsの大川氏

求めているITエンジニアのタイプを整理してみましょう

一口にITエンジニアと言っても、「システムエンジニア」「アプリケーションエンジニア」「インフラエンジニア」…等々、様々なポジションが存在します。ITエンジニアを取り巻く状況を考えてみてください。Webの黎明期である’90年代から昨今まで、技術はどんどん複雑化しており、Webを支える要素技術の全容を把握して、かつそれぞれを深く知っている人は、ほとんどいないと言っても過言ではありません。

そのため、自社でどのような技術を持ったITエンジニアが欲しいのかを、まずは明確にする必要があります。
このスキルの部分については、人事は採用ポジションのITエンジニア達と話し合って、具体的に

“Ruby on Railsそのものを深く理解し使いこなす開発スキルが必要か?表面的な理解にとどまっていて良いか?”
“データベースの知識はどの程度を求めているのか?どれほど巨大なデータを扱うのか?”
“クラウドサービスの特徴を存分に活用したインフラ構築が必要か?とりいそぎサービスを運用できれば良いのか?”

といったように、要件を詳細に落とし込んでいく必要があります。

ITエンジニアのタイプを分類して、どの人が欲しいか整理するのも1つの手です。例えば、知識の幅と深さを対立軸に整理し、広くて浅い知識を持っている人か、狭くて深い知識を持っている人か、どちらが必要か考えます。また、技術スキルの高さと非ITエンジニアとのコミュニケーション力を対立軸に整理するのも良いと思います。どのように整理しても構いませんが、求めているタイプがどっちつかずでは誰も採用できません。

「幅広い技術が必要だが、他部署とのやりとりは少ないから、対人コミュニケーション力は重要視しない」とか、「データベースの可用性がビジネスのキーファクターになるから、データベース以外のことは知らなくても良いが、データベースに関して一級の知識技術を持った人材を採用したい」とか、求める人材へのイメージが湧くほど、クリアな採用要件に落とし込むことが大切です。

ITエンジニアが持つ、技術スキルとコミュニケーション力のマトリクス図

ITエンジンニアのタイプマトリクス図
※技術スキルとコミュニケーション力に着目してITエンジニアのタイプを整理する例
※この表は、エンジニアを理解するための4つの分類とその比率(http://coichcareer.hatenablog.com/entry/2016/12/20/182411)を基に作成しています

広く深い技術力があり、コミュニケーション力も高いハイクラスな人材が欲しい、と考えていても、条件を満たす人材は転職市場の中で少ないのが実際ではないでしょうか。そういった人材をどうしても採用したい場合、給与水準は極めて高く、採用まで時間が掛かり、採用の難易度が高いため多くの人的リソースを割く必要があります。人、金、時間のすべてのコストが高くつくことを理解し、そこに是が非でも投資する必要性があるならばそうすべきですが、経験上そのような人材が常に欲しいケースは稀です。

もっぱら組織から上がってくる採用に対する要望は、「今まさに人が足りていないからITエンジニアを採用したい」というおおざっぱなものです。そのため、よりクリアな採用要件を決めるために、当該ポジションには何を最も優先するか、という選択が大切になってきます。

採用したいITエンジニアの「要件定義」をしてください

前の項目でも触れましたが、人事は採用ポジションの責任者であるITエンジニアに求める「要件定義」をする必要があります。そのために要件を明文化していただければと思います。

ただし、「技術力が高い人」と書いても、何も言えてないのと同じです。

“Java, Swift, MySQL, Linux等の技術を、どこまでどれくらい知っている人がなぜ必要なのか?”
“マネジメント能力が必要なら、メンバーをマネジメントするのか、プロダクトをマネジメントするのか?メンバーマネジメントだとしたら、どういう組織で何人くらいのメンバーの管理を行っている人材を求めているのか?”

といったように、なるべくブレイクダウンして具体的に書き出してください。

そうする過程で、要件を満たしている人材が明確化していきます。それに伴って例えばスカウトメールを送信する場合に、採用候補者に対して訴求すべき部分もクリアになっていきます。
“なぜ当社に来てほしくて、どのような仕事をしてほしいか”といったことをストーリー立てて伝えることができるのです。

解説する写真その2_newspics

全社員一丸となって、ITエンジニアを採用できる体制を作りましょう

ITエンジニアの採用で重要なのが、人事が現場のITエンジニア達を採用に巻き込むこと。求める人材への要件定義を明確にする上でも、この取り組みが何より大事です。

人事が現場のITエンジニアと意識・意見が合っていないと、書類選考や面接の段階で、推薦した採用候補者が落とされてしまう。そして「求めている人と違います」とフィードバックを貰い、一向に採用が上手くいかないという事態に陥ります。

また採用を進めている過程で、ビジネスの状況が変化し、どんどん人材に求める要件が変わっていくこともあります。人事だけでこのような状況に対処することはとても難しいです。

これらの問題を防ぐためにも、現場のITエンジニアを巻き込みながら、採用を進める必要があるのです。

本来は、社内の全部署が全ポジションの採用に携わるのが理想です。と言っても、ただでさえ通常業務で忙しい状況で、こういった体制を構築するのは大変難しい。では、どうするべきか?一例として、私が所属しているユーザベースグループの採用方法をご紹介させていただきます。

ユーザーベースの体制図

当グループの場合、人事・採用に専任で携わるメンバーはわずかしかいません。採用に意欲を持ち、兼務するだけの力を持ったメンバーが有志で集まり、人事を兼務しています。具体的には、人材に求める要件定義は、その採用担当をしているメンバーと現場のリーダー陣が行います。リーダー陣が面接を担当することが多いため、ここで意識合わせをすることが大切です。というのも、全員で意識を統一することで、ブレなく同じ方向を見ながら採用活動ができるからです。

一般的に、採用におけるフローは書類選考をして、面接を複数回して、といった順になると思います。しかし当社は、最終的な決定を役員がする以外、決まりを作っていません。そのため採用担当の判断で、面談で良いと思った時点でその後の過程を飛ばして、役員面談へと進めることもできます。こういった柔軟な取り組みができるのが、現場メンバーに採用を主体的に行ってもらう良さだと思います。

さらに、現場メンバーが参加するメリットとして、自社事業のミッションを自分の言葉で語れるようになることが挙げられます。簡単なことのように思えるかもしれませんが、社外の人に事業を語るのは難しいものです。うまく語れないということは、自分が携わっている事業を曖昧なままで行っていることの裏返しとも言えます。

面接に来ていただいた採用候補者と話をすることで、自分の中でも事業の立ち位置や目的が明確化され、結果として日々の業務もうまくいく。「仕事の質を上げるために採用を行う」という考えが、当社には根付いています。

まとめ

どういう人材が欲しいか、これを明文化することがITエンジニア採用の大きなポイントと言えるでしょう。大川氏の言葉を借りるなら「要件定義」をすることです。ただし、採用ポジションのITエンジニアの要望を、ただ聞いているだけでは、採用の難易度がいたずらに高くなり、上手くいかない懸念があります。
なぜその技術が必要なのか、もっとも必要な要件は何か、妥協できる点はないのか、と採用候補者の「要件」を現実と照らし合わせながら、セグメントしていくことが求められるでしょう。

そのため現場のITエンジニアに「要件定義」に参加してもらい、ブレが出ないように意識のすり合わせを行うことが重要です。採用に興味のある有志、ひいては全社を巻き込むことは簡単ではないと考えれますが、ユーザベースグループのように「仕事の質を上げるために採用を行う」という考えが根付けば、結果も変わってくるはずです。