メスライオンに学ぶ、2週間でできる最強の採用体制のつくり方
2016年5月に行われた、株式会社ネットマーケティングの人事採用責任者、宇田川奈津紀氏によるセミナーの内容をレポート。入社した直後の2週間で、社内に働きかけながら行なったことを紹介しながら、経営層・現場を巻き込んだ採用体制づくりのポイントを解説します。
なぜ「戦闘態勢」をつくるのか
本日は皆さん、メスライオンと呼ばれる私からスカウトの「文面」を盗みに来られたのではないかと思います。しかし、ダイレクト・ソーシングは一日にして成らず、なのです。ダイレクト・ソーシングを成功させるのに重要なのは、スカウトメールそのものだけではありません。
まず自分自身が会社の魅力を理解し、その上で、戦闘体制をつくることが重要です。現場のニーズをヒアリングし、スクリーニング権限を獲得GETする。これは私が入社して真っ先に取り組んだことです。
戦闘態勢は2週間で作れます。戦闘態勢ができていないと、大変な思いをしてつくったスカウトメールに返信が来て、面接をしたとしても、絶対に失敗します。なぜかと言うと、人事が現場の求める人材を全く理解できていないと、現場から「人事は分かってくれない」と思われてしまう。人事を嫌いになってしまうのですね。
そうなると、なぜ自分たちの責任範囲を超えて協力しなくてはいけないのかと、反感を持ってしまいます。そうすると、面接で候補者と現場の社員が会った時に、求職者が人事と現場の温度差を感じて不信感を抱いてしまいます。そして辞退につながってしまうのです。
ダイレクト・ソーシングを成功させる戦闘態勢とは
まずは会社の魅力を理解する
戦闘体制をつくる時にまずやったこと、それは会社を知ることです。企業理念や経営者の思い、将来ビジョン、競合との違いを求職者にファーストアクションで伝えられるのは人事です。そこでまずは、経営者と事業責任者に話をしに行き、質問攻めにして企業の理解に努めました。
皆さん、求職者の気持ちになってみてください。魅力を感じない会社に入社するでしょうか?人事が求職者に対して自社の魅力を伝えられるかどうかが、スカウトメールを作成する時に、そして最初に求職者と会った時に、興味・関心を持ってもらえるかどうかにかかってきます。
現場の協力体制をつくる
その次に大事なのは、現場の協力体制をつくることです。そのために有効なのは、人事の「採用したい」という思い・熱量を現場のキーマンに伝えること。なぜこれをする必要があるのかというと、人事が「私はこの会社を大きくしたい、あなたの事業部の売り上げを上げていきたい。だから採用したい」という思いを、熱量をもって本気で訴えると、現場はびっくりして、「人事がそこまで言うなら」と協力してくれます。だから、人事が誰よりも熱量を上げて、現場の気持ちを動かしてください。
そのために、現場のキーマンをグリップすることがポイントです。どうすれば、キーマンの心をつかむことができるでしょうか。まず、ヒアリングは必ず膝と膝を突き合わせて行いましょう。これがメールやチャットでのやり取りだったり、現場に求人票を書いてもらうようなやり方だったりすると、人事の熱量が伝わらないのです。
膝を突き合わせてヒアリングすることで信頼関係が構築できるのですね。だから、現場で求人が発生したら、人事はすぐに「ヒアリングの時間を割いてください、一刻を争いますので!」という勢いで現場からのヒアリングの場を設定することです。
欲しい人材像をヒアリングする時のポイント
私がヒアリング時に注力するのは、「ピンポイントの人材像」を聞き出すことです。有効なのは、「今いる社員で言うと誰なのか」という聞き方です。そうしないと、「地頭がいい人」「転職回数が1回までの人」のような条件を挙げられてしまいますが、本質的ではないので、その条件で探しても落とされる可能性がでてきてしまいます。
欲しい人材を具体的に知るために、チームメンバーで言うなら誰かをヒアリングしてください。そうすれば、その人の経歴、志向、スキルを詳細に把握できます。ここをしっかり理解することができれば、信頼が得られ、スクリーニング権限を得ることができます。
ヒアリング時に絶対に言ってはいけないNGワード
とはいえ、現場は最高の人材を欲しがりますし、転職マーケットを知らないので、いろいろと無理難題を要求されることもあると思います。そこで、適切な採用要件を固めるためには、交渉をする必要があります。
その際に、絶対に言ってはいけないNG ワードがあります。それは「そんな人いませんよ」の一言。「せっかく協力しているのに…」とモチベーションが下がってしまいます。また「給料低いから無理」もNGワードです。現場の人が「自分たちは市場価値が低いのか…」とテンションが下がってしまいます。
それで、採用できないだけだったらまだいいです。一番恐ろしいのは、現場のモチベーションが下がり、売上が下がり、離職が続き、採用ができずの負のスパイラルに陥ることです。会社の事業成長に貢献するはずの人事が、逆に悪影響を与えてしまう可能性すらあります。
現場との信頼関係が、採用を成功させるカギだということを肝に銘じて、現場のモチベーションを高めることに努めましょう。
スカウト~内定まで、熱量を落とさない一貫性
私は2015年7月にネットマーケティングに入社しましたが、最初の2週間でこの「戦闘態勢」をつくりました。
2日目:社長にヒアリング。採用に関する温度感のすり合わせ
3日目:全事業部の把握。全求人の読み込みと競合の求人情報の調査
4日目:事業部と求人内容のすり合わせ
5日目:原稿のブラッシュアップ、現場に文面を確認
6日目:データベースから候補者を抽出。スカウトメール配信
7日目:面接スタート
8日目:事業部と面接後のすり合わせ
最初の1週間でここまでのことを行っています。社長や各事業部へのヒアリングを通じて、自社の魅力、働く喜び、やりがい、競合との違いをより具体的に把握し、理解を深めていきました。
ここでのポイントは、面接後に事業部へ状況をフィードバックすることで、さらに信頼関係を深めることができるということです。スカウトメールを送った後に、送ったスカウト文面や、それに対して求人票のページビューがどのくらいで、どんな人からエントリーがあったかを逐次報告して、訴求の方向性が間違いないかどうかを確認しながら、さらにスカウトを打っていく。
そうすると、人事の本気度が現場に伝わりますし、いつまで人が足りない状況で持ちこたえればよいかが分かるので、現場のモチベーションも維持できます。ダイレクト・ソーシングでは、人事の採用に対する熱量が成否を左右します。でも、人事だけで成し遂げられるわけではありません。求職者は、現場の仕事や、そこで働いている人たちの話を聞きたいと思っていますから。そのため、現場の協力体制を構築することが重要になってくるわけです。
面接をする前に組織としてスタンスをつくらなければ、スカウトを打って候補者と会うことになっても、その後の選考プロセスが上手くいきません。まずは会社全体を「ディレクション」することが、人事の重要な役割となるのです。