Yahoo! JAPANから学ぶ、採用を進化させる基準のつくり方
ポータルサイト『Yahoo! JAPAN』で国内の検索サービス領域を席巻し、今日では「広告」「eコマース」「決済金融」の3分野を軸に100を超えるサービスを運営するなど、一口では言い表せないほどに広範なビジネスを展開しているヤフー株式会社。
抜群の知名度とブランド力を誇る企業の人材採用は、どのように進めているのでしょうか。ともすれば、有名企業には人が集まりやすい、そんな構図が成り立つがゆえに、そもそも課題などあるのか?と疑ってしまう人事・採用担当者の方もいらっしゃることと思います。しかし、同社は、企業ブランドに頼ることなく、実に地道にコツコツとPDCAを回しながら、さまざまな採用施策を実行していました。
その具体的な内容について、コーポレート統括本部 人財採用部長の金谷(かなだに)氏にお話しいただきました。
変えることがない、普遍の採用軸を作らなければならない
ヤフーはかつて、超厳選採用や大量採用を行なったことがあれば、筆記試験をやったりやらなかったり、ということもあります。その他にも海外の就活イベントに参加したり、一味違った人財探しのために外資系就活セミナーに参加したりと、その時々の市況や社内体制に応じて、採用戦略を変えて実行してきました。
そんな採用活動の変遷の中で、入社後活躍している人は選考において何が違うんだろうか、というテーマが浮上したのです。当然ながら、活躍している人財が増えれば組織は必然的に強くなります。そこで入社後に活躍している人財について明らかにし、体系化しようということになりました。そうすることにより、私たちが良いと思う人に入社したいと思ってもらえるようにするには、どんなことを選考時に訴求する必要があるかも分かるようになります。
その考えのもとで選考内容を見直したのですが、当初、面接における選考基準や入社後の評価データがないに等しく、連続性のある選考基準を練りだすことができない状況でした。そこで、まずは普遍の採用軸を作らなければ、という結論に落ち着きました。
まずはひたすら選考時および入社後の評価をデータ化した
仕事ができる人というのは、「あの人、良いよね」と社内で評判が立つものです。そのため、私はまず社内のマネージャクラスの社員に、中途で入社したあの社員の様子はどうですかと、ヒアリングを開始しました。その他にも、社内で表彰されたことがあるか、外部でセミナーなどの登壇をしたことがあるのかなど、さまざまな角度から採用した人の印象や評価を収集したのです。
しかし、ヤフーはそもそもビッグデータカンパニーを掲げる企業です。データで人財を評価できる仕組みを作る必要がある。そう考えました。そこで、なるべく同条件で採用した人のデータをもとに評価測定ができるよう、新卒入社者に対象を絞ることにしたんです。そして約200名の選考時評価と入社後評価について調査したのですが…。ここでわかったことは、数値化されたデータが絶対的に少ないことでした。
選考時および入社後の評価シートはたくさんあっても、紙どまりでデータ化がされていなかったんですね。それなりのボリュームがなければ分析したくてもできない。そのため紙に書かれた評価内容を全てデータ化しました。つまりエクセルに入力していったんです。その結果を、Yahoo! JAPAN研究所に託して定量的に分析できるようにしてもらうことで、合否をジャッジするための選考基準に加えて、内定者の定量的な評価基準も持てるようになりました。
また、できる限りいろんな角度からデータを集めるべきだと考え、面接時にやりとりしている発言は極力記録するようにしています。ヤフーの面接は、採用候補者と話しながら、面接担当者がタタタッとPCのキーボードを叩いています。採用候補者には驚かれる(少々感じも悪いかも…)場合もありますが、データ収集は随時行っています。
変わらぬ採用軸を機能させるには、選考の精度を高めることも必要
採用した人財の選考時の評価と入社後の評価を比較してはじめて、当時の選考過程や内容が適切だったのかどうかがわかります。そして選考の精度を左右するのは、面接を担当する人事サイドの能力にかかっていると言っても過言ではありません。
現在、ポテンシャル採用・キャリア採用ともに絶対不変の6項目の選考基準を設けており、各面接担当者はこの基準に沿って面接を進めています。採用候補者個々の選考結果は、六角形のグラフで表せるのですが、グラフ内には採用候補者の平均値、1次面接に合格した採用候補者の平均値、内定者の1次面接時の平均値を併記しており、ある程度効率的に合否を判定できるようにしています。
半年に1回程度、選考時のデータをチェックしているのですが、面接担当者によって最終選考の通過率に差があることがわかりました。分類してみると…
<1>
1次面接で多くの採用候補者に対して高評価をつけていても、役員などが担当する最終選考の通過率は3割程度しかなかった面接担当者
<2>
1次面接で慎重に選考したのか、高評価をつけた採用候補者が少ないにも関わらず、役員などが担当する最終選考の通過率が低い面接担当者
<3>
1次面接で高評価をつけた採用候補者が、役員などが担当する最終選考の通過率で8割以上を実現する面接担当者
もちろん<3>の面接担当者が理想ですよね。
この<3>に該当する面接担当者の基準に合わせていくことで、選考精度の全体最適化を図るようにしています。
なお、こうした取り組みは一過性的なものでは意味がありませんから、面接があった翌朝にはレビューを行ない、合否判定が妥当だったのか、面接内容は適切だったのか各面接担当者と振り返るようにしています。
待ちではなく、こちらから仕掛ける採用へ
最後に採用の母集団形成についてお話しします。現在、各種求人メディアも使ってはいますが、リファラル採用(社員紹介)やダイレクト・ソーシングといった、いわゆる狩猟型の採用手法へシフトしつつあります。つまり、ヤフーに転職したい人を待つのではなく、こちらからアプローチしヤフーに転職したいと思わせるようにする、ということです。
何をやっているのかというと、人材紹介会社のエージェントの活用と並行して、現役社員にエンジニアを紹介してもらう取り組み(リファラル)を強化しています。社員紹介セミナーと称したプレゼンを定期的に行っているのですが、毎回ありがたいことに20名程度は参加してくれます。
いざ、リファラル紹介となると戸惑う社員もいますが、
「紹介したいが、仕事内容とマッチするか相談に乗ってほしい」
といった問い合わせを社員たちから度々もらっており、それに対してしっかりフォローしています。
また、ダイレクト型のツールを利用したり、自社に興味を持ってもらえる仕掛けとしてのオウンドメディア運営やMeet Upイベントを開催したり、ウェブ広告を出稿したりと積極的にヤフーに興味を持ってもらえる仕掛けを数多く行っています。そういった取り組みに比例して、やればやっただけ自社にマッチする人財と出会えている手応えを感じています。
まとめ
絶大な知名度とブランド力を誇るヤフーですが、同社の今日の採用手法は地道な取り組みを積み重ねた結果カタチを成したといえるでしょう。自社にマッチする人材かどうかを判定するには、選考時の評価と入社後の評価を比較する必要がある。至極当然の理屈かもしれません。
しかし、その過程を効率的かつ正確に行なうために評価を定量的に分析できるようにし、選考基準の固定化、面接内容を出来る限り記録、そして面接実施の翌朝には必ず振り返りを行なうなど、徹底したPDCAサイクルを確立していることがわかります。
採用とは、明確な選考基準がなければ、時に属人的になりがちであり、ノウハウが蓄積できないリスクがあります。
また、面接担当者が複数存在するならば、各人がバラバラな判断をしないよう選考基準の方向性を常に修正していく必要もあるでしょう。企業規模や認知度に関わらず、自社にマッチした人材と出会うためには、相応の努力と創意工夫が必要であることが伝わったのではないかと思います。まずはご自身の組織における選考基準は適切なのか、振り返ることから始めてみることをお勧めします。