転職7社目。グッドパッチ小山氏が経験を通して実感した、人事“採用力”の大切さ
「11年前は、同じ渋谷のある店舗で牛丼盛ってたんですよね」と笑うのは、UI・UX特化のデザインカンパニーとして国内外で注目を集める株式会社グッドパッチの小山清和氏。前職のIT企業では、知名度なし・予算なし・応募なしという状況から、年間10名のエンジニア採用が可能な体制を構築するなど、人事・採用のスペシャリストです。
もっとも、その経歴は本人自身が「人よりだいぶ遠回りなキャリア」と話す通り、現在までに6度の転職を経験するなど、決して順風満帆とは言えない模様。しかし紆余曲折を経たからこそ得られた“採用力”が、今の小山氏をつくり上げていました。
今の自分は、この3年間で出来上がった
小山氏:いいえ、全く想像していませんでした。最初に入社した大手牛丼チェーンでのリクルーター経験がありましたから、「将来人事はやっているだろうな」と想像していましたが、IT業界のしかもデザインカンパニーにいるとは考えていませんでしたね。正直、今の自分が出来上がったのもここ3年くらいだと思っています。
小山氏:でも、転職活動をする度にたくさんの“不採用”を貰ってきました。たまたま大手企業に在籍していたという理由で、「ベンチャーに向いていない」「あなたは安定志向だ」と面接で言われたり、異業界出身ということで「ITエンジニア採用はあなたには無理です」と決めつけられたり。ずっと自分では“そんなことはない”と思っていましたが、つい数年前までは常にそういう評価でした。
小山氏:たしかに「自分は凄い実績を出せている!」と、今から考えると勘違いして、調子に乗っていた部分もあります(苦笑)。ただ、前職のIT企業で、「実績が出せていたのは、企業規模と知名度、採用予算が潤沢にあったから」と気づかされました。決して自分の力じゃなかった。
小山氏:そうです。ITエンジニア採用がミッションだったのですが、「ITエンジニアは先端技術に興味を持つ」「市場はこうだから、給与ベースはこれくらい出さないと」といった経験則が私の中にありました。ただ、前職の会社は社員数十名の規模で、一般的な知名度はもちろん、予算はほとんどない。もちろん出来る手法は限られ、戦える武器が何もない。入社当初は「これじゃ無理だよ」って、思っていました。実際、応募も2カ月間ゼロ。
小山氏:当然、そんな状況なので私の評価も大きく下がり、待遇面も大きく変わりました。家族もいるので、そうなると変わらざるを得ないじゃないですか。そこで、現状を見つめなおしてみたのです。そうしたら分かったんですよね。どうやら採用できないのは、会社や市場のせいじゃなく、自分のせいだと。
会社の採用力ではなく、自身の採用力が重要
小山氏:そもそも、私はITエンジニアのことをよく分かっていないじゃないかと気づきました。そこでFacebookやマッチングサービスを活用して、毎日社外のITエンジニアの方に色々な話を聞いてみることにしたんです。採用に関係なく、ITエンジニアがどんなことに興味があり、どんな会社で働きたいと思っているのかを教えてもらいました。
その結果、分かったのが技術力や給与だけで職場を選ぶわけではないこと。それに、ITエンジニアの方ってコミュニケーションを取りづらいと感じていたんですが、それもどうやら思い込みでした。
なぜなら、お話してみると「技術の話が通じないから、人事と話しても意味がない」と感じている方が大半でした。自分も当時は「フレームワークって何ですか?」というレベルだったので、だから面接でITエンジニアと上手くコミュニケーションが図れないのだなと合点がいきました。もっとも、そこで「基礎知識や技術トレンドを理解できれば、ひとつ武器ができる」と思いました。
小山氏:それに、ITエンジニアの会社選びの目線が分かったことも大きかったですね。それまでは、自社のことも悪いところばかり探してしまって、根本的な魅力に目を向けていませんでした。でも、会社に詳しくなると、他にはない、人の良さ・雰囲気の良さ・働きやすさが見えてきた。“会社のせい”にしているとできない言い訳ばかりになるのですが、すべて“自分のせい”と考えると、ポジティブに施策がどんどん出てくるようになりました。
小山氏:たとえば、ITエンジニア向けのイベントを開催したいと思ったら、社内のITエンジニアにお願いせず、自分で企画・運営すればいい。そんな風に考えが変わりました。知名度がないなら、何かひとつ成果をつくって転職系のメディアからの取材を積極的に受けたり、セミナーに登壇したりすればいい。
そうしたセルフブランディングの結果、会社の認知も広がれば採用広報活動に掛かるお金も使わなくていいので、採用単価を下げることもできる。打算的と思われるかもしれませんが、そうやって自分でリスクを取って、採用実績を積んできました。この経験は誰にも負けないと思います。
限界をつくらなければ、解決の糸口は見えてくる
小山氏:はい。入社後はまず「デザイナー」を知るために、たくさんのデザイナーの方との繋がりづくりから始めました。自社が求める職種の方々と関係性を持つのって、知識習得の面で本当に重要です。たとえばITエンジニアの方々と繋がれば繋がるほど、技術関連の最新情報が私のFacebookのフィードに自動的に上がってくるようになる。自分では調べにいかないな、という情報も多いので、これはオススメです。
小山氏:人事の仕事をしていると、「リファラルリクルーティングが流行っているらしい」「ビアアップミーティングをやってみよう」とか、この仕事上のバズワード的な手法に捉われがちになることもあります。しかし、どの会社も特徴・課題・求める職種は違いますよね。自社のどこが面白いのか、どんな環境を提供できるか。本来は、それに合わせた採用施策を考えるべきなんです。そう考えると、他社の成功施策に引っ張られるよりも、まず自社のこと、自社が求める職種のことをとことん見つめた方がいいですよね。
小山氏:ひとつ言えるのは、“限界をつくらないこと”でしょうね。「これはできないから」「原因は会社にあるから」と限界をつくった瞬間に、思考が停止します。
たとえば、経営陣との間に壁を感じていて「求める人材の要件定義が不明瞭だな」と思ったとします。そのときは、毎日少しでも社長などと話す機会を設けるべきです。役職も立場も関係なく、そこは経営陣に寄り添わないと。認識がズレていればどんなにいい人材でも採用できないわけですから。
小山氏:私自身、これまでの転職活動で本当にたくさんの不採用を貰ってきて、苦労した時期もありました。でも、その壁を乗り越えて、経験を活かしながら仕事を楽しめているのは、限界を作らない姿勢をずっと続けていたからだと思います。
人って本人さえ限界を作らず諦めていなければ、状況を変えられます。私より優秀な方はたくさんいると思うので、限界を作らず、そして続けてさえいれば、私以上の結果が出るかと思っています。
取材後記
2.流行に流されず、自社と自社の求める人材を見つめる。
3.社内外のコミュニケーションを重ね、知識を深める。
「たくさんの否定や挫折を経験した。だからこそ得たモノがある」と語ってくれた小山氏。現在の役職名は人事ではなく、コミュニティプランナー。「自社のファンをつくることが、採用活動のひとつの目的」と捉え、グッドパッチを中心としたコミュニティづくりに励んでいるそうです。
限界を設けず業務に取り組み続ければ、自身の活躍の範囲だって拡大できる。今回のインタビューから、独自の採用ノウハウだけでなく、そんな人事のキャリアの可能性が感じられました。