「なぜ自社の新卒採用は上手くいかないのか?」佐藤裕が見つけた答えとは
今回、総合人材サービス、パーソルグループのパーソルキャリア(旧インテリジェンス)で新卒採用組織の責任者を務める佐藤 裕氏にインタビューを行いました。佐藤氏は、パーソルキャリアの新卒人気ランキングが圏外という状況のなかで担当者に着任し、苦闘しながら採用ブランディングの構築に力を注ぎ続けている人物です。
新卒採用を担当されている人事だけでなく、中途採用を担当されている人事まで参考にしていただける内容となっております。ぜひ、ご覧ください。
責任者に着任した時、新卒人気企業ランキングは圏外
佐藤:新卒採用担当者に着任した2013年、パーソルキャリアはテンプホールディングスの買収による完全子会社化がスタートし、新卒採用自体も様々な見直しをしていました。その影響もあり、当社の新卒人気企業ランキングは圏外といった状況でした。
4年経った現在は、様々なWebサイトの新卒人気企業ランキングで上位にランクインしています。新卒の採用ブランディングを高めるために私たちが取り組んだことを、お話しさせていただきます。
佐藤:新卒採用組織の責任者に着任した当時、「どうすれば採用ブランディングは高まるのか?」を徹底して考えました。そして答えを出すには、まずはパーソルキャリアの新卒採用の現状を調査することが大切だと気がつきました。
調査の結果、パーソルキャリアの新卒採用は慣例に則って、新卒向け転職サイトが開設されるまでの間に、大学内でのセミナーや会社説明会を頻繁に開催し、学生たちの意向を高めてパーソルキャリアの募集にエントリーしてもらうオーソドックスな手段で進めている状況でした。
しかし、これでは採用競合企業と横並びになり、採用ブランディングは一向に高まらないと思いました。その結果、意欲的な学生たちと出会える機会も減り、採用におけるミスマッチも増えてしまう懸念もあると感じました。そこで従来型の新卒採用の在り方を変えていきたいと考えました。
新卒採用の在り方を変えるには、学生自身のホンネや就職活動に対してどのような姿勢で取り組んでいるのか実際が知りたい。そこで、キャリア教育というテーマに力を入れている関西学院大学の門を叩き、非常勤講師として担当ゼミを受け持たせていただくチャンスを得ました。今年の4月からは、フェロー(特別研究員)として学生たちに講義をしています。
採用ブランディングを構築するには、採用候補者に有益な情報を出すことが大事
佐藤:現在、関西学院大学でゼミを受け持つようになって4年目です。他にも北海道から沖縄まで様々な大学で、スポット的に講義やプログラムを担当しています。また、大学で教えるのと並行して、全国の学生を対象にしたキャリア教育プロジェクト「CAMP」という取り組みも手掛けています。おかげで学生たちのことを身近に感じられて、生の声を聞けるようになりました。
学生たちとやり取りしているうちに気が付いたことがあります。それは新卒採用の在り方を変えるには、まず新卒採用の採用ブランディングを構築するのが有効であること。そして採用ブランディングは、採用したい相手のことを知り、相手にとって有益な情報を提供していくのが大事なことです。
そのことに気が付いてから、実際の新卒採用ではインターン制度をまずは変えました。当社が過去に取り組んでいたインターン制度の内容は、パーソルキャリアという会社を知ってもらうことをメインに押し出していました。しかし、“能力開発の機会”に繋がったり、“就活の意義を知ってもらう内容”に方針転換したのです。学生の立場から考えてみると、その方がずっと有益だと思ったからです。
佐藤:学生に必要なのは、キャリアについて考える機会だと思っています。しかし現状はその機会が少ないので、それに気がついていない学生が多い。
私は、採用活動や大学での講義を通じて、キャリアを考える機会を提供し、学生たちの心に火を点けるようにしています。それが相手の“気づき”のきっかけに繋がり、採用ブランディングの構築にも繋がると思うんです。
「自社をどう思われたいか?」を考えること
佐藤:採用ブランディングを確立するうえで、もうひとつ大切なことは「採用候補者から、自社をどのように思われたいか?」を考え、軸を持つことだと思います。会社の露出を増やすことは広告などの手段を使えば簡単です。
しかし、表面的な見た目に対してではなく「自社をどのように思われたいか?」が明確で無いと、採用ブランディングの戦略は上手くいかないと思います。
最終的に「自社をどのように思われたいか?」といったゴール設定があり、そのために現状を分析し、足りない部分をブラッシュアップする。このブラッシュアップするというのが実際の取り組み内容です。そのように考えています。
もっとも他社の人事と話していて意見を貰うことも多いのですが、会社として「これだ」と言い切れる場合は少ないかもしれません。そういった状況に悩んでいる人事の方たちも本当に多いことでしょう。
しかし、「自社をどのように思われたいか?」を言えないと採用競合との差別化ができないので、採用ブランディングの確立ができないと思うのです。
経営層と事業部の両方から、話を聞くことが重要
佐藤:答えを見つけるには、社内の経営層と事業部、両方の考えを知ることだと思います。まず経営層側についてです。経営会議や戦略会議などで、発せられる役員の思いや言葉はバラバラかもしれません。しかし、根本的な価値観はそうは変わらない。それをまとめていくことが「自社をどのように思われたいか?」を導き出すカギになると思います。
一方、事業部側につていは、経営層が伝えたいことの受け止め方が違っていたりします。そのため、事業部の生の声も併せて聞くことも大事です。
こうやって社内の声を集めていくと、自社の組織文化の理解が深まっていき、どういった部分を大切にしているのかが分かります。その結果、「自社をどのように思われたいか?」が明確になってくると思います。
もっとも、自社内からの意見を集約していく上で覚えておきたいことがあります。
それは、人事自らがポリシーを持つこと。
自分自身を振り返ってみても感じるのですが、まず人事にポリシーがあって、そのうえで周りの意見を取り入れていかないと、結局のところどういった行動や発信をしていくべきなのかブレるからです。
何より、採用候補者にとって最初に接触するのは多くの場合、人事ですよね。その人事が会社を代表する色になるわけです。そのため人事にポリシーが無いと、採用候補者に「自社をどう見られたいか?」だけでなく、魅力も伝わらないのです。
しっかりしたポリシーがあると戦略も変わってくるはず。仮に、人事としての経験が浅くても「自分がどうしたいか」を考え続ければポリシーも出てくると思います。
労働環境の変化や労働人口の縮小により、これからの人事には採用に関わる知見やスキルがますます求められるようになると感じています。私自身も、ポリシーを持って採用領域の仕事に取り組んでいきたいですね。
(文中の所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです)