「負け組だと認めることから戦略は生まれる」杉浦氏が新たな採用手法を導入する理由

株式会社モザイクワーク

代表取締役 杉浦 二郎

プロフィール

わずか10秒で完了する「日本一短いES」や、応募者に合わせたユニークな選考方法を複数用意する「カフェテリア採用」。人材業界だけでなく、一般のメディアでも多数取り上げられた画期的な採用手法の数々は、人事・採用担当者の皆様に広く知られています。これらの仕掛け人が、元・三幸製菓人事責任者で、現・株式会社モザイクワーク代表の杉浦二郎氏です。

杉浦氏が新たな採用手法を積極的に導入してきた理由とは?そして、採用担当者が取り組むべきこととは?じっくりお話しいただいた内容を、前編・後編の2部構成でご紹介します。
前編のキーワードは「負け組」と「社内インタビュー」です。

「採用の負け組」こそ、新しい手法を模索すべき

プロフィール画像_杉浦氏

杉浦さんは前職時代に、「日本一短いES」をはじめとした画期的な採用手法をいくつも展開されてらっしゃいますが、そもそも新たな手法を模索されたきっかけは何だったのでしょうか?

杉浦氏:実を言うと、人事になった当初はそんなこと考えもしませんでした。新卒採用は必要十分な人材が確保できていたし、母集団も数百名単位あって「こんなものだろう」という感覚があったのです。
しかし、合同説明会で同業のメーカーさんとご一緒させていただいた際、学生のエントリー数の話になり、「今年は3万名ほどです」と聞いて衝撃を受けました。こんな桁違いの相手と採用競争していたのかと、まざまざと思い知らされたわけです。

他社の状況を知ったことで、自社の現状が明確になったわけですね。

杉浦氏:そうです。現状の人材、採用で満足してはいけないと思いました。セミナーなどでも度々お話しする公式があるのですが、企業の採用というのは、企業規模や知名度と言った「企業基礎力」がベースメントとしてあって、これに人事・採用担当者のパフォーマンスの高さやプロセスの効率化といった「採用プランニング力(人事の力)」の掛け算で“採用力”が決まります。

採用力の公式

「企業基礎力」の差は簡単には埋まりませんから、母数をとにかく集めるといった同じ土俵での戦い方では、残念ながら自分たちは“負け組”だと認識しました。ポジショニングがはっきりした以上、負け組がどうしたら勝てるのか?を考えるしかない。

そこで既存の採用手法以外を検討するようになったと。

杉浦氏:ええ、そもそも私の考えとして、例えば10名採用するのであれば、10名分だけ応募があるという状況が理想だと思うんですね。何万人も集めて、そこからわずかな理想の人を探すというのは、工数という文脈で言えば、あきらかに非効率的です。
それに、製菓会社などはコンシューマ製品を作っているわけですから、1万人以上の不合格者を毎年毎年出していたら、商品やブランドのファンが減ってしまう可能性も高まります。ならばピンポイントにアプローチできる手法にトライした方が間違いなく良い。

しかし、求める人材だけにアプローチするのは非常に難しいのではないでしょうか?

杉浦氏:まずは、「どんな人材が必要なのか」を具体的かつ明確にしなければいけません。
例えば中途採用ならば、スキルマッチの部分が強いと思いますので、どんな「経験・スキル」がある人なのか、その上で、どんな「タイプ」が自社で活躍できるのか、そしてその人は「今どこにいる」のか?そうした採用イメージを具体的に定義できれば、アプローチの仕方も自ずとはっきりしてきます。

採用イメージの図

採用の答えは、「社内」に必ずある

インタビューカット_杉浦氏

採用すべき人材像を明確にするためのコツなどはありますか?

杉浦氏:ひとつ例をあげるとするならば、社内でのインタビューを徹底的に行うことですね。

インタビューですか?

杉浦氏:これをせず人事・採用担当者や上層部だけで考えると、「コミュニケーション力がある」「主体性がある」などのありがちなワードにまとまりがちです。
ただ、それが本当に必要なスキルなのか漠然としていますし、実際に必要だとしても能力を推し量ること自体が難しい。ですから、まず社内を見渡し、活躍できている社員をピックアップしてみてください。
そして、その社員にインタビューを行い、なぜ活躍できているのか、どんなスキルが活きているのか、なぜ辞めずに頑張れているのかを聞き、相関関係を具体的にしていくのです。

欲しい人材モデルは社内にいる、ということですね。

杉浦氏:おっしゃる通りです。よくある採用失敗例として、“社内にいない、こんな人材が欲しい”と、想像でペルソナを形成してしまうパターンがあります。実際問題として“社内にいないタイプ”が入社したとして、その後長年にわたって会社に定着できるでしょうか?会社の風土に同質化したり、肌に合わずドロップアウトしてしまう可能性が高いでしょう。
特に新入社員は、会社と組織にアジャストするまでに1~2年の期間は必要になります。その期間を経てようやく素質が開花するフェーズが訪れるわけですから、大事なのは、「やめない人」をいかに採用するかです。

スキルマッチが重視される中途採用でも、社風や風土にマッチするかどうかは重要になりますか?

杉浦氏:法務や経理、財務などスペシャリストの「個」の力で劇的にスキルが高められる職種で、かつ採用候補者も一匹狼タイプならば、そこまで気にしなくてもいいかもしれません。
ただ、日本企業の業務は、基本的にチームで仕事を進めるケースが大半ですよね。その場合、環境に馴染めるかどうかもやはりデザインする必要があります。ただ、志望動機といいますか、入社前の会社へのロイヤリティはそこまで気にする必要はないのではないか、というのが私の考えです。

それはなぜでしょうか?

杉浦氏:前職時代に社内インタビューを重ねた結果、自社で働き続ける理由として出てくるエピソードは、全て“入社後”のエピソードなんですね。
つまり、入社前のイメージというのはいつか上書きされるわけです。それよりもむしろ、選考の時点では「自分をきちんと評価してもらった」「この能力まで見てもらえた」という採用に対する丁寧さや取り組む姿勢の方が重要です。入社に向けた動機付けの一つにもなりますし、自身の強みやどこに期待されているのかも理解した上で転職してもらえるのですから。

まとめ

「負け組と認める」「採用の答えは社内にある」と語る杉浦氏。前職時代に一貫して取り組んできたのは、自社を徹底的に見つめることでした。そこで見えた自社の課題と活躍できる人材イメージをベースに、既存の手法や前例に捉われず、採用手法を抜本的に見直す。その行動が採用成功を導いたのだと思います。

しかし、これだけ様々な活動をして来られたにも関わらず、「前職時代、当初は多忙な中で人事と総務を兼任していた」と杉浦氏は言います。そしてその経験が採用に活きているとも教えていただきました。その理由は何か?また、新たな手法としてのダイレクト・ソーシングの価値とは?後編では、そうした部分に迫ります。