日産自動車 元人事による、自社の採用に変革を起こす方法 ~採用をリデザインする~

株式会社 経営人事パートナーズ

CEO 組織人事監査協会認定パーソネルアナリスト 人事戦略デザイナー® 山極 毅

プロフィール

「自社の採用を変えたい」と感じていても、何を変え、どう取り組むかわからないという方は多いのではないでしょうか。その疑問を解消いただくため、元日産自動車の人事で、現在人事コンサルタントとして活躍している山極 毅氏による採用に“変革”を起こすための方法論を紹介します。

※この記事は、dodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています

採用を変革するために、最初にすべきこと

プロフィール画像_山極氏

自社に最適な人材を採用するために、これまでの採用を変革したい場合、いくつか取り組みたいことがあります。最初に考えたいのが応募数です。採用活動の入口とも言える採用候補者からの応募数は、多いほど良いと考えている方が多いのではないでしょうか。

しかし、私の考えでは「応募数は少ないほど良い」と思っています。というのも「少数精鋭を集う厳選採用」を行うことで採用費用を抑えられる上に、結果的に自社に最適な人材を採用できると考えるからです。

“少数精鋭”を集うという部分で勘違いいただきたくないのが、“精鋭”を少数集めるといった考えでは無いこと。“少数”を採用すると精鋭化する、といった考え方です。これは、様々なデータからも立証されています。

募集の間口を広げ、たくさんの候補者を募るのは一見良さそうにも思えます。しかし、仮にたくさんの応募を集めても、そのほとんどを不採用にしていたら、不採用者を決めるために採用費用を使っているとも言えるのではないでしょうか。

ちなみに募集の間口を狭める方法は、応募資格にTOEIC®のスコアが〇〇〇点以上の方という記載をして、本当に採用したい人材に求めるスキルを提示する等、様々な手段があります。

そもそも「自社が本当に採用したいのは、どんな人か?」といった質問に、明確に答えられる会社は少ないと思います。前職では、求める人材像を明確にするために、経営幹部に意見を聞きながらイメージを固めていったくらいです。このように、必要とあれば社内で議論を尽くし、採用基準を見直すことで、必要な人材像を定義していただければと思います。

また、何をもって「採用が変革できた」と言えるかについてです。

例えば…

  • 目標の採用人数を確保できた
  • 内定辞退率が前年よりも下がった
  • 早めに採用活動が終わった
  • 就職人気企業ランキングが上がった

など、様々な指標を使うことができると思います。

もっとも、私も人事として採用活動を主導していたので感じていたのですが、上記の例えは数字で計れる指標である一方で、どれか1つだけ数字が良くなっても「採用が変革できた」とは、言えないと思います。人事・採用担当者として実感も得づらいですよね。

そこで定性的ではありますが、指標にしてほしいものがあります。それは配属先の事業部から「今度入ってきた新人、良いね」と評価を得ることです。こうした声が聞こえてきて、初めて採用が変わったと言えるはずです。

通常、ビジネスの最前線から人事部に寄せられる声は、厳しい内容が多いです。そのような状況であっても、上記のような声が寄せられ始めるということは、何かが変わり始めた予兆と言えます。人事・採用担当者は、配属先の事業部からの声を集め、定点観測するようにしていただきたいと思います。

採用人数は人事主導で決めること

セミナーで登壇する山極氏

「採用が変革できた」、つまり良い採用ができるようになったかどうかを定性的に計るのは、配属先の事業部からの声です。一方で、「何人採用できたか?」、についても、重要な指標になるでしょう。というのは、いくら自社に最適な人材を採用できたからといって、事業を成長させるために必要な人数に到達していなければ、良い採用ができたとはならないからです。

採用人数の決定にあたっては、 “事業部”または“人事部”のいずれかが主導して決めるはずです。私の経験上、 “事業部”と“人事部”では、採用したい人数の考え方に以下のような差があります。

  • “事業部”は、潤沢に人員を確保できる要員計画に基づいて採用人数を算出する
  • “人事部”は、固定費として許容できる人員計画の範囲で採用人数を算出する

このような解釈の差により、“事業部”と“人事部”との間で意見の齟齬が発生しがちです。“事業部”は、“離職予想人員”を考慮に入れていないケースもあります。会社を辞める人がいることを前提に、採用計画を立てなければならないのは残念なことですが、現実は正しく認識する必要があります。

また、 “事業部”から“人事部”に対する要望として、以下のような事例を経験したことはありませんか?

『忙しいところ、すまないが、3ヵ月以内に新規事業立ち上げのために、〇〇の領域で経験値の高い人材を10名採用してほしい。これは社長命令なので、よろしく頼む』

このようなケースで、あなたが管理している部門の人件費予算は、あと2人分しかない。予算は守るように、本社からきつく言われている。また、中途採用業務の経験のある部下もいない。

こういった事態を避けるためにも私は、採用人数は“人事部”が主導して決めるのが適切だと考えており、実際にそうしていました。

ただし、“事業部”からの声に耳を傾けなくていいということではありません。むしろ“事業部”の声はしっかりと聞く必要があります。“事業部”の意見や状況を十分に理解した上で、最終的には“人事部”側で決めることが、採用活動に対する社内の理解を得られて、協力してもらえる体制も作れるため、良い採用活動に結びつくと思っています。

ここにも「少数精鋭を集う厳選採用」の考えを適用し、一人ひとりの成長や報酬の向上を図りたいとの考えもあります。特に若手が成長し、年収が上がる仕組みを構築することが大切です。そうしないと採用市場のなかで競合に勝つことはできません。意欲がある人材が、長期にわたって活躍してくれる会社にすることもできないでしょう。

人件費予算、育成、ビジネスパートナー人事としての役割、評価制度、報酬制度まで含めて検討することは、人事・採用担当者の業務範囲外と考えられる方もいるかもしれませんが、ここまで手がけなければ、これからの採用競争に勝利することはできません。このような地道な努力が、求める人材を採用する上で、大切なことだと思うのです。

採用と育成は連動してこそ上手くいく

セミナーで登壇する山極氏_その2

採用活動における定性的な評価や、採用人数の在り方を定めた上で、さらに検討したいのは、「採用と育成」を連動させることです。

「採用と育成」の業務を連動させるには、採用の段階で配属後の成長を見越しておくことが大事です。可能であれば、配属先の部門長にも採用に深く関わってもらう方がより良いでしょう。採用した人をしっかりと育ててもらう意識を持ってもらうのです。

それが上手くいかないと、せっかく採用しても早期退職してしまうリスクも高いです。人が辞めることに伴う費用のインパクトについては、十分に把握してほしいところです。

例えば、ダイレクト・ソーシングなど新しいことをしようとすると、必ず費用が発生します。その際、より良い人材を採用し高い定着率を維持するための施策であることを伝え、同時に社員が一人離職するたびにこれだけの費用がかかっていると明示することができれば、提案の説得力が増します。

自社に最適な人材といっても、採用して終わりではないのです。採用後に人材を育成していく意識を、全社一丸となって持つことが「採用を変革」し、好循環を生むための不可欠な取り組みです。

変革を起こすには、原理原則に立ち返ることが大事

セミナーに登壇する山極氏

採用を変革するには、画期的な手法やテクノロジーを発明したり導入することだけでは、成立しないと考えています。原理原則が大切です。私は、自動車エンジンのエンジニア出身なので、モノづくりを例に説明したいと思います。

モノを作る場合は、まず理論があってテクノロジーがあります。テクノロジーだけではモノは作れないのです。これと同じように、採用にも原理原則に当たる理論があり、その上で手法やテクノロジーがあると考えています。

採用の理論は心理学、つまり人の気持ちです。当たり前のことですが、この点を無視して採用には取り組めません。

採用活動が、どれだけ変革できたかを測定するには、最終的には数値を見るしかありません。ただし、応募数や採用人数だけを見るのではなく、繰り返しになりますが配属先での評価を指標に取り入れてみてください。

そして、自社が採用したい人材像を明確にすること、これがすべての活動の原点です。この点をはっきりさせないで採用活動をするということは、目的地を決めずに旅に出るようなものです。

山極氏と寺澤氏
※セミナー当日は、株式会社 経営人事パートナーズの山極 毅氏とProFuture株式会社の寺澤康介氏によるパネルディスカッションも行われ、大盛況のうちに幕を閉じました。

【まとめ】

変革とは表面的な変化を誘発することではありません。山極氏が指摘するように、根本を見つめ直さないことには結局、何も変わらないのです。根本的な変化を起こすために、まずは応募数をとにかく増やさなければならない、という強迫観念にも似た考えを改めることが大事だと紹介されました。

その前提として、採用候補者への理解が必要不可欠なのもセミナー中にあった通りです。変化を起こすのには時間がかかります。ただ、何も変わっていないように見えて、その裏側で着実な変化が起こっていることは少なくありません。変革が起こるその日まで、継続して取り組みを行っていただければと思います。