1年で応募数5倍。DeNA人事に聞いた人材サービス各社をつなぐチームビルディング

株式会社ディー・エヌ・エー

HRビジネスパートナーグループ 
小林 明子

プロフィール

ダイレクト・ソーシングや人材紹介サービスを活用した採用活動の場合、どうやって応募してくれる人材の数を増やし、選考を通じて自社に興味を持ってもらうか、多くの人事・採用担当者が頭を悩ませるポイントです。会社の志望度を高めるために、人材サービスの取引先各社をひとつの「チーム」にまとめ、担当者全員を巻き込みながらPDCAを回し、大きな成果を挙げている人事がいます。

それが今回お話を伺った、株式会社DeNAの小林明子氏。彼女が担っているのは、DeNAグループの一員であり、DeNAブランドのモバイルゲームの運用を手掛ける「株式会社 DeNA Games Tokyo」の採用活動。「着任当初はまったく結果が出ていなかった」と話す小林さんが、いかに課題を解決してきたのか。その道程に迫ってみましょう。

「辞退連続」の中で取り組んだ、課題と業務フローの整理

聞くところによると、小林さんがDeNA Games Tokyo(以下DGT)の採用担当になられてから、採用実績が飛躍的に高まっているそうですね。

小林氏:たしかに応募数やオファー承諾率はかなり高まりましたが、本当に私のインタビューでいいんでしょうか?2016年6月の着任当初は本当に全然決まっていなくて。内定オファーを出しても辞退、辞退の連続でした。「どうしたら決まるんですか! 」って、エージェント(人材紹介会社)さんに詰め寄ったこともあるんですよ。

そんな過去があったのですね。「DeNAグループ」「ゲーム業界の仕事」というイメージとはかけ離れた状況です。

小林氏:DeNA本体と違って、DGTの認知度はまだまだ低いですし、私たちの事業は新規のゲーム開発ではなく、既存タイトルの運営がメイン。ゲーム業界志望の方には、“ゲーム運営”というと「ルーティンワークっぽい」など、当時はネガティブな印象を持たれがちだったんですね。

この状態を刷新して、DGTへの魅力付けを行い、候補者さんの意向を高めなくてはいけません。そこでまず、「何かをやってみよう」の前に、「いらない何かをやめてみよう」から取り組み始めたんですよね。

「やる」ではなく「やめる」ですか? 人材サービス各社とのミーティングを強化する、などではなく?

小林氏:そうです。むしろミーティングや会食って、ただ開催するだけでは何件やっても無駄だと思っていまして。私の着任当初は、人材サービス各社と個別に隔週の定例会議を行っていたのですが、最初にそれをやめました。だって、お互い確実に時間をとられるじゃないですか。その時間を、私は課題の洗い出しに充てたいなと。

余計な工数を生む作業を削減したわけですね。

小林氏:もちろん、迅速に疑問を解消できるフローは崩したくなかったんです。その代わりにメールや電話で何か質問をもらったら1時間以内に返すといった体制を敷きましたが、それでも私の体は十分に空きました。そこで、過去のオファー承諾と辞退された方一人ひとりのデータをすべて洗い直し、前述したようなネガティブなイメージを払しょくできていたか、一人ひとりの状況に応じた意向度が上がるポイントは何かなど、課題と対策をデータ化していったんです。

チームDGTの発足に向けて、人材サービス各社を一堂に結集

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過去の選考結果から改善のヒントを探っていったと。

小林氏:この見直し作業で、DGTの知名度向上や魅力の発信、それに候補者さんの意欲を高めるために取り組むべきことがいくつも見えてきました。それに、当社が内定オファーを出した際に、「絶対入りたい」と思ってもらえる状況を作れていないのは、結局すべてリクルーターである自分に原因があったなと感じたのです。

そして、改めて人材紹介、求人広告、採用チャネルを担当される各社皆さんの協力が不可欠だと痛感しました。それも、各社の枠を超えて、ひとつの採用目標を目指して動いていける「チームDGT」が必要だなと。

チームDGTを構築するために、小林さんはどんなことから取り組まれたのでしょうか?

小林氏:最初に企画したのが、月に一度、人材サービス各社の皆さんに一堂に会していただく説明会です。以前の定例会議のように個別に話すのではなく、「自分たちのライバルであり、DGTの採用を一緒に盛り上げていく他社の人材サービス企業にはどんな人がいるのか?」ということを、各社の担当者さんに知ってほしかったんですよ。

個別型から集合型の会議にすることで、会社の垣根を超えた横のつながりを生んだわけですね。

小林氏:一度に集まればお互いよい情報交換もできると思うんですよね。実際、「ゲーム運営というルーティンワークに捉えられがちな業務に対して、候補者さんに運営の面白さを伝えるには?」といったディスカッションもしてもらいました。もちろん強制ではなく、「競合と付き合いたくない」と思われた方は不参加でOKとしていましたので、参加者には百利あって一害ないよねと思いまして。

普段は競合する人材サービス企業同士も、ここに参加する以上はチームになるわけですね。

小林氏:人材サービス各社さんのつながりを作るために、イベントなどの企画などを行いましたが、中にはライバル企業の担当者同士で仲良くなって、飲みに行くような関係性も生まれているみたいです。そうした連帯感によって、例えば、求人サイトへの出稿も、各社で相談し合ってそれぞれの媒体の特徴を補完し合うようなプランを提案してくれるケースもあり、チームDGTが一丸になったと感じています。

応募数が91名⇒452名に伸長!ヒントはエージェントの声にあり

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そうした説明会では、小林さんからはどのような情報共有を行っているのでしょうか?

小林氏:資料作りは、もう毎月必死です。基本的な推薦数・応募数・内定数の推移、職種別・経路別での数値の比較などが中心ですが、オファー辞退者の理由のまとめや、バッティングした競合他社などのデータも、詳細に収集して共有しています。それに採用予算もすべて包み隠さず伝えていますね。ただ、当初共有していたデータはもっと簡単なものだったんですよ。

KPIや参照するデータ自体が変化しているということですか?

小林氏:毎回、会議の最後に、次はどんなデータが見たいか、アンケートを取っているんですね。そこで「もっと細かくサマリ―してほしい」「面接NGの主な理由をまとめてほしい」などの声があがり、それに応えるようにアップデートしていきました。また、現場の責任者から直接書類選考のポイントや質問会を設けるなどを行い、推薦の参考にしていただくこともあります。

情報をどこまで出していいのか悩む人事・採用担当者も多いかと思いますが、小林さんは人材サービス各社と非常にオープンなコミュニケーションをとってらっしゃるのですね。

小林氏:同じ目標を目指すパートナーですから、オープンにできる情報を隠す必要は感じません。オープンにできる情報を隠しても、お互いに良い結果は生まれません。もちろん社外秘の情報もありますが、パートナーに公開できる情報は隠さず公開することは、企業の採用担当の義務だと思うんですよね。

そうした取り組みは、どのような効果を生んでいますか?

小林氏:推薦やご紹介いただく方、そして応募していただく方の人数が確実に増えてきていますね。一例をあげると、昨年5月の応募数は91名だったのが、今年5月には452名まで増えています。会社の認知度をあげるために、皆さんが一丸となって動いてくれているなというのが、この応募数に表れたと思っています。おかげで、「また応募が来た!」って喜びながら、応募者対応に追われていましたね。

【取材後記】

「定例会議は、基本的に午前中に開催しています。夜は求職者が活発に動きますから、エージェントさんには求職者に向き合っていただきたいので」と話す小林さん。時には人材サービス各社へのお土産用に、「いつもありがとうございます」「今月も期待!」などオリジナルメッセージを添えたお菓子を用意することもあるそうです。

何気ない行動ですが、こうした小さな気配り・心配りこそが、採用支援でお付き合いしている企業を業者から同志に変え、企業の垣根を超えた「チームDGT」の結束を育むベースになっているのかもしれません。次回後編では、採用成功に欠かせない社内の協力体制を強化するポイントを伺います。

(取材・文/太田 将吾、撮影/石原 洋平、編集/齋藤 裕美子)