受身型採用からの脱却。ゼロから戦略を立て直したキヤノンの新たな採用手法

キヤノン株式会社 

人事本部 人事統括センター
グローバル要員管理部 採用課 豊沢保志

プロフィール

人材サービス会社にすべて任せ、後は待っているだけ…で、理想の人材がすべて採用できることは、今やほとんどなくなりました。どの企業も働き手を求めいる時代において、そのようなスピード感では欲しい人材を採用することはできません。現在、求められているのは、自ら人材をリサーチし会いにいくという積極的な姿勢。これに企業規模や知名度は、あまり関係ありません。今回は、キヤノン株式会社 採用担当の豊沢保志さんに、“攻める採用”にシフトした背景やその効用を詳細にお話いただきました。

(本記事はdodaが主催するセミナーのレポート記事です)

キャリア採用の再開時、「人材会社を使わない」ことが決定

キャリア採用の再開時、「人材会社を使わない」ことが決定

まずは当社についてご説明させてください。キヤノンと言えば、カメラやプリンター、複合機を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実際、売上高3兆4015億円(2016年12月現在)のうちの約8割はこれらの事業で占めています。2012年以降売り上げは概ね横ばい、みなさんが思い浮かべる事業は成熟産業ですから、このままでは頭打ちになってしまう可能性もあります。つまり、キヤノンは変革時期に来ていると言えるのです。

では、キャリア採用についてはどうでしょうか。実は2012年以降採用数はほぼ横ばいにありました。2015年の夏に経営的な判断もあり、キャリア採用を一時中断します。ちょうど私が採用担当になって半年経った頃でした。元々お取引していた人材紹介会社からの紹介はすべてストップ。ホームページからキャリア採用の募集要項はすべて消しました。このこともあり、キヤノンは新卒採用がメインでキャリア採用には消極的というイメージも持たれるようになったかもしれません。

先ほど、キヤノンは変革を迫られているとお伝えましたが、80周年を迎えたこともあり、今後はさまざまなことに挑戦していきます。既存事業はもちろん新しい成長エンジンとして、“ネットワークカメラ”“商業印刷”などをキーワードにBtoB分野に注力しはじめました。永続的な成長を目指して新規事業の創出をしていくには、既存社員だけでは到底人員が足りません。新しい技術分野の将来を創っていく経験者を獲得しなければならないのです。そこで2016年、キャリア採用の募集を再開することが決定しました。しかし、そのときに課されたのは、コスト削減のため「人材紹介サービスは原則使わない」ことでした。

“攻めの採用”でピンチをチャンスに変える

2015年当時の採用を振り返ってみると、入社者の4分の3は人材紹介経由。残りは自社ホームページからのエントリー経由でした。
2015年当時の採用施策

言わば、完全に待ちであり任せっきりの採用スタンスだったのです。当社の場合、何を行うにも内製する文化が根付いています。例えば、企業様によっては外部に委託する職種のポジションでも自社の社員として採用します。ですから、必要なポジションに人材を獲得するために、相当な人材紹介料がかかっていました。つまり、採用コストの高騰が問題視されたのです。

人材紹介会社は利用できない。自社ホームページで募集を再開しても世間的にはキャリア採用を行っていることが認知されていない状態です。このままでは思うような採用活動をすることができません。キャリア採用担当として半年分の経験しかない私にとっては大きなピンチでした。一方で見方を変えれば、新しい採用手法を学び現状を変えるチャンスにできる。そう考え、関係部署や今まで取引のあった人材サービス企業に対してヒアリングを重ねました。そうすると、求人サイトや転職イベント、ダイレクト・ソーシング、求人検索エンジン、社員紹介…などさまざまな手法があることが分かってきました。我々としても徐々に「待ちの採用から攻めの採用にチャレンジしてみたい」という方針になっていったんですね。行動しないと何も始まらない、ゼロからやってみようと。

さまざまな採用手法の中、サービス決定のポイントとなったのは、「コスト+サービス力」でした。ここで言うサービス力とは、ニーズに対する提案力とサポート力を指します。コストを抑えることは必須条件のため、攻めの採用経験の乏しい私たちに必要だったのは、キヤノンの求める人材獲得に対するサービスマッチ度と、最適なコストで一緒になって採用成功を目指してくれる協力体制だったんです。このポイントを踏まえて、まずやってみようと見えてきたのが、ダイレクト・ソーシングと転職フェアの有用性でした。

 “攻めの採用”でピンチをチャンスに変える

●施策1:ダイレクト・ソーシングの効用とは

ダイレクト・ソーシングを活用した理由は、自分たちの目と手を使って、欲しい人材に直接アプローチできるという“攻めの採用”ができることと、コストメリットの大きさです。何しろ初めて挑戦する、“攻めの採用”ですから、戸惑いがあったのは事実です。実際、人材の検索をはじめ、1人1人のエントリーシートの読み込み、スカウトメール文面の執筆など、かかる工数は膨大でした。ただし、それらを差し引いても自分たちで会いたい人に会うというのは非常に価値の高いことでした。

こだわっていたのは、すぐに面接を実施するのではなくまず面談を挟むということ。求職者の置かれている状況や求めているものは1人1人違います。また、こちらからのオファーですからキヤノンに対する意欲も醸成されていない状態です。そのため、面談を設けて事業内容や仕事内容を丁寧に説明するなど、個々に合わせた対応を行いました。面談でじっくりと膝を突き合わすことで、相手のニーズや求めていることも分かりお互いの理解も深めることができました。結果としてその後の対応もスムーズになり、実績としてダイレクト・ソーシング経由で4名を採用することができました。

●施策2:転職フェアの効用とは

次に、転職フェアについてです。コストメリットはもちろんですが、こちらも“攻めの採用”ができることが導入の決め手です。ダイレクト・ソーシングとは異なり、転職意欲を持って来場する方に対して直接魅力を提示できます。実際にブースに来ていただければ、レジュメからは分からない人柄や経験・スキルを確認できると同時に、その場で私たちの熱意を伝えることが可能です。
工夫したのは、できるだけスピーディーに面接設定まで行えるようにと事前準備しておいたことでしょうか。現場の責任者の予定と面接室を事前に確保しておいて面接予約表を作成。「この人、キヤノンに合いそうだ、是非来てほしい」という人材には、面接予約表を見ながらすぐに予定をおさえました。そうすることで、求職者からすれば「本気でキヤノンは自分のことを必要としている」と思っていただけたようです。転職フェアからも複数名採用できたことから、とても有効な採用手法だと実感しています。

懐疑的な声もあった“攻めの採用”。どうしたら周囲を巻き込んでいけるのか

懐疑的な声もあった“攻めの採用”。どうしたら周囲を巻き込んでいけるのか

新しいことを始めるにあたり、周りから色々な意見をもらったり、決裁を得るための苦労は当然あります。実際、「ダイレクト・ソーシングで何人採用できるの?」「転職フェアに出たところで、優秀な人材と出会えない」と、懐疑的な声もありました。しかし、「周りが初めてのことに不安を感じるのは当然のことと考え、まずは味方を増やしていけばよいのでは?」と前向きに捉えました。もうやるしかなかった状態でしたから。人材サービス各社に協力してもらってプレゼンテーションを行ったり、皆で転職フェアの見学に行ったりしました。また工数がかかることに関しては、どう活用していくのが良いのか、効果的に活用できる方法はないのかを、チームで議論するようにしました。採用チーム皆で考え取り組むことで、連帯感も生まれたように思えます。人材のリサーチ方法や接し方など、うまくいった事例を共有できたこともよかったです。転職者のデータベースに触れてみたことで、市場の相場感も醸成できました。こうした過程を経て、今まで以上に、一緒に“攻めの採用”に前向きに取り組む、力強い仲間となってくれています。

最後になりましたが、決して人材紹介を使うことが悪と言っているのではありません。今でも採用難易度が高い募集において力を借りています。人材紹介でしか採用できない人も、ダイレクト・ソーシングや転職イベントでしか採用できない人もいます。採用手法それぞれに特性があり、使い分けることが大事なのではないでしょうか。求める人材やコスト、工数の有無などを考慮し、社内や人材サービス企業の協力を仰ぎながら、最適な手法を都度都度で用いるのが一番良いのではないかと考えています。

【まとめ】

ただ言われたことをやるのではなく、スカウトメールを送る際は文面を変更してみたり、転職フェアに参加する前には簡単に説明できる資料を用意したり…と、楽しみながらさまざまにTryされている様子が印象的だった豊沢さん。豊沢さんが繰り返し話されていたのは、「わからないなら迷ったなら、とりあえずやってみる。まずは味方を増やしていけば良いだけ」ということ。「何かあったらいつでも協力するよ」と味方になってくれているとか。新しいことを始める際は、抵抗が起こるのはある意味、当然です。それでも、良い人材を採用したいという思いは、共通して持っているはず。地道に活動を繰り返せば、必ず理解を得られ、仲間となってくれるのではないでしょうか。

セミナー風景
※本セミナーでは、キヤノン株式会社人事本部 人事統括センター グローバル要員管理部 採用課豊沢氏とProFuture株式会社の松岡仁氏、パーソルキャリア株式会社半蔀広史によるパネルディスカッション、来場者からの質疑応答も行われました。