面接で聞いてはいけない質問・会話のNG行為とは?リスク回避のための具体的な対策

弁護士法人みなとパートナーズ(東京弁護士会所属)

佐藤 嘉寅(さとう よしのぶ)弁護士
【監修・寄稿】

プロフィール

面接では応募者から提出された書類だけではわからない人物像の把握やコミュニケーション能力の確認などが行えます。しかし、採用を予定する企業側にとって応募者がどのような人材であるのか気になるあまり、本来聞いてはいけない質問をしてしまう可能性があるため注意が必要です。

面接はあくまで企業と応募者の双方が対等な立場で行うものであるため、節度を持って実施していく必要があります。この記事では面接で聞いてはいけない質問事項の具体例やNG行為を紹介するとともにリスク回避のための対策などを解説します。

面接で聞いてはいけない質問事項

重要な前提として、企業の採用選考は「公正」な基準に沿って「応募者の適性・能力のみで判断する」必要があります。直接的な関連性のない質問は、場合によっては企業の信頼性を大きく損なってしまうリスクもあるので注意が必要です。

ここでは厚生労働省の指針(「公正な採用選考の基本 」)をもとに、面接で聞いてはいけない質問事項を確認していきます。

面接で聞いてはいけない質問

 

本人に責任のない事項に関する質問

企業の面接で以下のような事項についての質問は本人の適性や能力に関連がなく就職差別につながるリスクがあるため注意しなければなりません。

・本籍、出生地に関すること
・家族や世帯構成に関すること
・家族の職業、健康状態、資産に関すること
・住宅状況に関すること
・生活環境に関すること
・家庭環境に関すること

生まれや育ち、環境に関する事項はいずれも応募者の資質には関係がなく、本人に責任がない事柄です。たとえ企業側に特別な意図がなかったとしても、面接時に上記のような質問をしてしまうと選考に影響を及ぼす可能性があると誤解させてしまう恐れがあります。

そのため、あらかじめ質問項目から除外しておく必要があります。

本来自由であるべき事項(思想・信条)に関する質問

本来自由であるべき事項とは思想や信条といった憲法で保障されている内心の自由に関連する項目です。具体的には以下のような事項が挙げられます。

・思想、信条に関すること
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・労働組合への加入状況、活動歴に関すること
・購読している本、メディアなどに関すること
・尊敬する人物に関すること

上記の事項を採用選考や評価の基準に用いると基本的人権の侵害にあたり、就職差別とみなされてしまう重大なリスクがあります。特に尊敬している人物や読んでいる、もしくは触れているメディアなどは質問項目に組み込んでしまいやすい内容でもあるため、意識的に除外しておくほうが無難といえます。

男女雇用機会均等法に触れる質問

男女雇用機会均等法に抵触する質問とは特定のジェンダーロールを前提とした質問を意味します。具体的には「女性はいずれ仕事を辞めて家庭に入る」といった性別による条件の決めつけや、恋愛・交際に関連する価値観の質問などが当てはまります。

・ジェンダーに関すること
・結婚、出産に関すること

結婚や出産はキャリア形成に影響のあるポイントとして考えられがちな面もありますが、性別による役割を前提とした考え方にあたるため面接時の質問としてはNG項目です。また、そもそもセクシャルハラスメントとして映ってしまうリスクもあるため面接時にふさわしい質問ではないといえます。

応募者の健康に関する質問

厚生労働省の資料には採用選考時に配慮すべき事項として、応募者の病歴や健康状態について特に明記されているわけではありません。ただし、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施は配慮すべき事項として記載されています。

職務の適性や能力に関係がない病歴の質問などはプライバシーの侵害にあたるため、採用面接時にすべきではないというのが一般的な考え方です。

面接がスムーズに進まないことで生じるリスク

面接での質問の不手際などによって生じるリスクについても、面接官はあらかじめ把握しておく必要があります。特に気をつけておきたい2つのリスクを以下の項目で解説します。

企業イメージの低下

意図的ではなかったとしても、応募者に対して差別的な発言を行うと企業イメージの悪化につながるため注意が必要です。企業のマイナスな評判が広がり損害を受けるリスクをレピュテーションリスクといい、面接においては避けるべき事項です。

面接の進め方に問題があれば面接終了後に応募者がSNSなどを通じてネガティブな情報を発信する恐れがあります。事実の有無にかかわらず、SNSでは情報が拡散すると企業イメージの低下につながるケースもあるため、不用意な発言には十分に注意しなければなりません。

法律に抵触する恐れがある

面接時の質問はあくまで業務目的を達成する範囲内で収集する必要があり、重大な違反が見られる場合は行政機関から業務改善命令が下されるリスクがあります。行政指導に従わないでいると、職業安定法違反となってしまい6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となることもあるため注意が必要です。

法律違反は企業イメージを低下させるだけでなく、取引先への信用不安につながるケースもあり、場合によっては業務そのものに支障が出る恐れがあります。リスクを負わずに採用活動を進めるためには法律に則った範囲での面接活動が重要です。

聞いてはいけない質問をしてしまったときの対処法

どれほど注意をしていても、多くの応募者と対応しているとうっかり聞いてはいけない質問をしてしまう場合も考えられます。万が一質問してしまった場合は間違いに気づいた段階ですぐに誤りを認め、応募者に謝罪をすることが大切です。

謝罪したうえで誤った質問事項について答える必要がない旨もあわせて伝える必要もあります。誤りを認識しているにもかかわらず、そのまま放置をすると後から大きな問題に発展する恐れがあるため注意が必要です。誠実な対応を行えば無用なリスクを抱える確率を減らせるため、早期での対処が大切であると心がけておきましょう。

面接を効果的に行うためのポイント

面接を行う目的は自社にとってふさわしい人材であるかを見極める点にあるため、効果的に実施していく必要があります。面接を効果的に行うためのポイントを以下の項目で解説します。

面接を効果的に実施する準備

 

あらかじめ質問事項・評価基準を決めておく

面接を効果的に実施するにはあらかじめ質問事項を整理し、内容に問題がないかのチェックが重要です。その場の思いつきで質問をしてしまうとレピュテーションリスクが発生する恐れがあるため、事前準備が何よりも大切だといえます。

また、評価基準についても公平な評価が下せるように精査しておく必要があります。応募者の適性とは関係がない部分で評価をした場合は差別的な評価になる恐れがあるため、社内においてできるだけ多様な意見を拾い上げて公平な評価基準の設定が大切です。

面接担当者の研修や指導も大切

面接は担当者が行う業務であるからといって、そのまま丸投げをしてはなりません。応募者に対して何を聞いてはいけないか、理由も含めて事前に指導を行う必要があります。

面接担当者が複数いる場合は研修会を開くなどして国のガイドラインなどを学ばせる機会を設けてみましょう。応募者の視点で見た場合、面接担当者のあり方そのものが企業イメージにつながるため面接官の教育や指導も大切です。

話しやすい雰囲気を作る

面接時は応募者の緊張をほぐすための配慮が必要です。緊張した雰囲気のままでは応募者は思うように話せず、面接を通じて得られる情報が限定的なものになりかねません。

応募者の立場に配慮した質問を意識し、応募者自身が積極的に話す雰囲気づくりが大切です。いきなり面接を開始するのではなく、アイスブレイクを設けるなど順を追って面接を進行する配慮する必要があります。

採否は応募者の適性や能力だけで判断する

面接を実施した後の採否は応募者の適性や能力だけで判断を下し、その他の部分で判断を下さないことが肝心です。面接においては採用側、応募者側といったそれぞれの立場がありますが、面接を終えれば応募者は自社の商品やサービスを利用する消費者であるかもしれません。

採用・不採用にかかわらず、応募者が企業に対してよいイメージを持ってくれるように意識して判断する必要があります。

面接の質問事項に関するQ&A

面接を効果的に実施するにあたっては、事前にできる限り疑問点を解消する必要がります。面接時の質問事項について特に気になりがちな点を以下の項目で紹介します。

集団面接で気をつけておくことはある?

個別の面接であれ集団面接であれ、面接時の質問事項について気をつけておきたいポイントは共通しています。集団面接の場合は一度に多くの応募者を相手にしなければならないため、個別面接のときよりも注意する必要があります。

特定の応募者にとっては気にならない質問であっても、他の応募者は問題視する恐れがあるため、面接を行う目的とは関係がない質問は控えるほうが無難です。

応募者の犯罪歴に関する質問はNG?

法律の規定によって犯罪歴があると、特定の業務につけない場合を除いては犯罪歴について応募者に質問をしないほうが無難です。特に明確な理由もなく犯罪歴を尋ねてしまうと差別だと受け取られる可能性があります。

場合によってはプライバシーの侵害として損害賠償を請求されるリスクもあるため不用意な質問は避けたほうがよいといえます。

応募者自身がNGな質問をしてきたときは?

可能性としては低いといえますが、応募者のほうが面接官に対して聞いてはいけない質問をするケースがあります。尋ねられた内容に対して感情的にならず、冷静な対応が大切です。

応募者側がうっかりと発言する場合もあるため面接マニュアルに盛り込んでおき、慌ててしまわないための対策を事前に施しておくと冷静に対応できます。

まとめ

面接は企業側と応募者側の双方にとってミスマッチを防ぐ目的で行うものであり、質問事項はあくまで応募者の適性や能力などを見極めるものでなくてはなりません。

不用意に聞いてはいけない質問をしてしまうと企業イメージの悪化だけでなく、場合によっては法的なトラブルにまで発展する恐れがあるため注意が必要です。

面接担当者に対しては事前に指導や研修を行うなどして、思いがけないリスクが発生する事態を未然に防ぐ必要があります。企業側と応募者側がお互いに面接を通じて理解を深めるために、質問事項や評価基準などの精査も意識していきましょう。

【弁護士監修】選考や面接でやっていいこと・ダメなこと

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