【弁護士監修】裁判でも使われる、採用面接時に応募者の嘘を見抜く方法

齋藤法律事務所(第一東京弁護士会所属)

齋藤 祐介(さいとう ゆうすけ)弁護士【監修・寄稿】

プロフィール

採用面接では、応募者の誰しもが「自分を良く見せなきゃ」と思うことは自然なことです。その会社に入社したいという意識が高ければ高いほど、そのその想いは強くなってしまうでしょう。

すると、自分があたかもやったかのように他プロジェクトの話をしたり、売上金額を少し多めに伝えたり…。自覚ありなしに関わらず、過剰にアピールしてしまうこともあるかもしれません。

しかし、採用面接をする側として考えると、大切な自社の仲間の一員として迎え入れることから、嘘偽りなく「ありのままの自分」を伝えてほしいところ。

そこで、今回は面接時の応募者の嘘や過剰なアピールを見抜き、それを防ぐ方法をご紹介したいと思います。

採用面接にも活用できる。弁護士流、嘘を発見する方法

応募者の不自然な過剰アピール・無意識の嘘を見抜く方法として、一般的に言われているのは、“目線やジェスチャーに注目する”ことでしょう。人は想定外のことを言われると目線がキョロキョロと定まらないことが多いもの。質問に対する答えを考えているときの応募者の視線を意識的にチェックしてみましょう。また、人が嘘をついた場合、ばれる恐怖心から、腕組みをしたり、手を強く握っていたりと、不自然に体の一部に触れる傾向があると言われています。その他、動揺をしている様子や困っている様子など、相手の異常な行動があった場合を見落とさないようにするというのが第一ステップです。

次の行動として、態度に違和感を感じた回答を深く掘り下げていきます。例えば、実際は就労期間1年にも関わらず、3年間働いていたという発言した場合、その3年間の内訳を丁寧にヒアリングしていくのです。3年間で関与したプロジェクトの詳細とその成果、自分の役割など、気になった部分についてはどんどん質問していきます。実際に経験をしてきたことであれば、多少の時間はかかっても説明できるはず。しかし、返答できないケースや話に具体性は欠如するケースでは、嘘である可能性があると判断できます。

裁判ケースから学ぶ、嘘を発見する方法

裁判ケースから学ぶ
裁判では「当事者尋問・証人尋問」といって、裁判で争っている内容について、当事者や証人に法廷の場でヒアリングをすることがあります。この場合、弁護士は事前に想定問答集を準備し、これをベースとして実際の尋問に挑みます。そして、その当事者・証人の発言や挙動に応じ、適宜質問事項を追加・修正しながら尋問をします。つまり、○○と言われた場合は▲▲と切り返すなど、その時に欲しい回答を得るために、どのような順番で、どのような内容をヒアリグするのかを、入念に作り込んでおく。そのうえで、当事者・証人の言動に応じて適宜現場で対応するのです。これにより、当事者・証人から聞きたいことを聞き出すことができたり、時にはその話に矛盾や嘘があることをつくことで裁判を有利に進めたりできます。特に、反対尋問と呼ばれる、相手方当事者に対する尋問、相手方の用意した証人に対する尋問においては、より嘘をついているか、信用できない発言をしているかを探り、引き出す必要があります。

面接の場でも、同じことができるのではないかと思います。

①履歴書や職務経歴書を事前に見ながら、どのような人材が欲しいのかを定義する。
②その人材はどのような特長を持っており、そのためにはどのような素養や経験があるべきなのかなど、ペルソナを設定する。
③その素養や経験に当てはまる項目を、質問項目に落とし込む。
④この質問項目に対する想定問答を作り、本音を聞きたい重要な点については、その嘘を見抜く質問(掘り下げて聞くための準備など)を予め用意しておく。

このようにあらかじめ入念な準備をしておき、かつ、回答内容や挙動に応じて、柔軟に質問事項を変更・追加していくことで、聞きたいことを聞き出す面接がしやすくなります。

質問の仕方によって、嘘を発見する方法

質問の仕方で嘘を見抜く
その他にも、質問の仕方によって嘘を見抜くという方法もあります。
弁護士によって当事者尋問・証人尋問の際に用いるテクニックには様々なものがありますが、例えば、私が用いているものの一部として以下があげられます。

①質問するスピードを上げることで考える時間をあまり与えないようにする
②友好的な態度を示すことによってリラックスさせることで本音を引き出しやすくする
③逆に威圧的な態度をとることで矛盾や不自然さを引き出しやすくする
④一見あまり重要でない質問を混ぜることによって供述態度の違いを観察する
⑤淀みなくスラスラと答えているときほど細かい部分について質問をする

面接に臨む応募者の立場に立って考えてみると、特に②、④、⑤のテクニックが、嘘を見抜くには有効ではないかと思います。まず、②については、所謂圧迫面接というのが存在するのはよく知られているため③に対応できるように準備をしている人は多いと思います。また、③に関しては、嘘をついているのか、ストレス耐性に弱いのか正確に見分けることは困難だからです。一方、人間というのは、相手が心を開いていると感じると、自然と自分も心を開き、つい本音を漏らしやすくなるもの。面接という緊張する場で、どんなことを質問されるのか、圧迫面接ではないだろうかと考えている心理状態の中で、面接官が友好的に接してくることで、求職者もリラックスし、つい本音を話しやすくなるのではないかと思います。

次に、④については、求職者も面接に向けて、経歴や自己PRの重要な部分は掘り下げて質問をされても対応できるように、入念な準備をすることでしょう。しかし、比較的重要でない部分については、意外と細かな準備をしていないものです。
たとえば、求職者が、「サークルでリーダーをやっておりました」と回答をしたものの、これが嘘ではないかと感じたとします。その場合、「リーダーとしてどのようにメンバーをまとめましたか」「具体的にどのような活動をしましたか」「その経験が弊社で仕事するにあたってどのように役に立ちますか」などと質問をしても、求職者も当然このような重要な部分に対する質問がされるであろうと予期して準備をしているため、本当かどうか気付くためにはなかなか難しいでしょう。一方、「先輩からどのような引継ぎがありましたか」「サークル以外ではリーダーや代表などの経験はありますか」「サークルの活動場所はどうやって選んでいるんですか」など、比較的重要でない部分について質問をすると、意外と準備をしておらず、本当にリーダーとして活動をしていたのかが見抜けることがあります。

また、⑤については、一般論として人間は考えたり思い出したりしながら話をするときは、何度も言葉に詰まったり言い間違いをしたりするものです。一方、事前に話す内容を用意していた話をする場合には、淀みなくスラスラと話をするものです。もちろん面接の場合には、本当のことを話す場合にも事前に話す内容をしっかり準備しておく求職者も多いので、淀みなくスラスラと話をしているからといって嘘をついている確率が高いとはいえません。しかし、自己紹介、自己PRではなく、個別具体的な質問をした際にも、スラスラと回答が出てくる場合には、少し掘り下げた質問をしてみたり、あえて論点をズラした質問をすることで求職者の反応を観察してみたりなど、一つの目安として役に立つでしょう。

それぞれの求職者の性格や実際の面接における雰囲気、回答内容にもよりますが、上記のテクニックも就職活動の面接においても活用できるのではないでしょうか。

当事者・証人尋問から学ぶ、面接時に嘘を防ぐ方法

証人尋問
嘘を防ぐ方法も証人尋問を例にとって検討してみましょう。証人尋問をするときは、裁判所で宣誓をすることが決まりとなっています。この宣誓では「良心に従い、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないこと」を誓います。また、宣誓をした証人が嘘をついた場合、偽証罪と罪に問われる可能性があることを示唆されます。(法定刑は3か月以上10年以下の懲役)

堅苦しい方法にはなりますが、似たような方法を面接でも取り入れることは可能ではないでしょうか。まず、提出した書類に虚偽がないことを確認し、これから話す内容についても虚偽がないことを宣言してもらうのです。さらに、後から虚偽が発覚した場合には、内定の取り消しや、試用期間を過ぎても雇用しない可能性、契約条件の変更や解雇がありうることを告げ、同意してもらう方法です。

その他にも、疑問がある場合には、前職の人事への確認を行うこと、源泉徴収票や雇用保険被保険者証を確認することなどを口頭で伝える。もしくは、A4の用紙にプリントアウトしておき、ここに署名をしてもらうなどの方法も考えられるでしょう。極端かもしれませんが、事前確認を行い求職者が心理的に嘘を付きにくくすることで、嘘を予防し、万が一、嘘が後から発覚した場合の対処もしやすくなります。

嘘が発覚した場合の、法的対処方法とは

面接時に嘘をつかれてしまった場合、法的な対処はできるのでしょうか。答えとしては、できるケースとできないケースがあり、嘘が軽微なものか、重大なものかで判断が別れてしまいます。具体例をあげると、学歴や職歴、健康面についての嘘などが該当します。雇用する側がそれを知っていたら契約をしなかったであろう事実がある場合、「重要な経歴の詐称」にあたり、解雇や契約条件の変更ができる可能性があります。詳細は「採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応法。解雇は可能?」こちらをご覧ください

まとめ

100%嘘を見抜く方法はありません。ただし、今回、紹介した方法を準備するなど、事前の準備やテクニックによって、本当の姿を知る方法があります。今回は、面接のネガティブな側面にフォーカスをしましたが、採用面接は企業が成長するために絶対に欠かすことのできない「ヒト」を確保する重要なフェーズです。「嘘を見抜かなきゃ」ではなく、お互いリラックスし自然な態度で臨めるように面接官として心がけることが大事でしょう。

(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

【弁護士監修|法律マニュアル】
01. 試用期間の解雇は可能?本採用を見送る場合の注意点とは
02. 入社直後の無断欠勤!連絡が取れなくなった社員の対処法
03.途中で変更可能?求人票に記載した給与額を下げたい場合
04.試用期間中に残業のお願いは可能?残業代の支払いは?
05.炎上してからでは遅い!採用でSNSを使う際の注意点
06.求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目
07.採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応法。解雇は可能?
08.意図せず法律違反に…。面接で聞いてはいけないこと
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