気づかぬうちに一方的な企業説明に…。求職者の心を掴むソーシャルスタイル活用法

d's JOURNAL
編集部

採用を成功させるため、選考を通じて求職者の入社意欲を高めていくことは人事・採用担当者の重要なミッションの一つ。会社概要の説明はもちろん、環境面や条件面、一緒に働く社員の紹介など、さまざまな観点から自社の魅力を伝えていることと思います。ここで注意しなければいけないのが、求職者一人ひとりに合わせたアプローチができているかという点。当然ですが、求職者の性格や考え方はそれぞれですし、企業選びのポイントも異なります。もし面接や面談において、どの求職者にも同じように情報を提供しているとしたら、十分に自社の魅力が伝わっていない可能性も…。そこで今回は求職者と適切なコミュニケーションを取る一つの考え方として、dodaのキャリアアドバイザーも実践しているソーシャルスタイル理論の活用法について紹介します。

「感情表現」と「自己主張」からわかるソーシャルスタイルとは

ソーシャルスタイルとは、1968年にアメリカの産業心理学者であるデビッドメリル氏が提唱したコミュニケーション理論。「感情表現」と「自己主張」それぞれの強弱をもとに、「エクスプレッシブ」「エミアブル」「アナリティカル」「ドライバー」の4つのタイプに分類されます。それぞれのタイプは以下のような特徴です。

ソーシャルスタイルの4分類

同じ情報でもタイプによって知りたいと思う軸は異なります。例えば、面接で入社後のキャリアパスについて話した場合、エクスプレッシブは自らのやりたいことができるのかどうかを気にするでしょうし、キャリアアップのためのサポート体制を気にする人はエミアブルの可能性が高いです。またアナリティカルはキャリアアップするための条件や割合、平均的な期間などのデータや根拠を求め、ドライバーは最短で昇進した事例など、いかに早く自分が成長できるのかに興味を持つ傾向にあります。

ソーシャルスタイルによる分類は、特に自分と異なるタイプの求職者とコミュニケーションを取るときに役立ちます。自分と異なるタイプであることを理解し、提供していく情報はもちろん、コミュニケーションの取り方も相手に合わせて変えていくことで、求職者の心を掴みやすくなるでしょう。

面接でソーシャルスタイルを見極めるには

面接でソーシャルスタイルを見極めるには
ソーシャルスタイルに応じたコミュニケーションを取るためには、相手がどのタイプなのかを把握する必要があります。Web上には診断ツールはたくさんありますが、選考期間中の求職者に診断を受けてもらうのも難しいので、求職者との接点を通じて、どのタイプなのか予測していかなければなりません。では具体的にどういったポイントを見ていけばいいのでしょうか。

先述した通り、ソーシャルスタイルは「感情表現」と「自己主張」によって分類されるため、この2つの強弱を見極めていく必要があります。

「感情表現」の強弱を判断する場合のポイントは“コミュニケーションの取り方”です。面接などでコミュニケーションを取る際に、淡々と話すのか、感情的に話すのか、会話のスピードやトーンや喜怒哀楽がわかりやすいのかなどを意識しておくと、感情表現が豊かかそうでないかの判断ができます。

次に「自己主張」。ここは内面や考え方を知る必要があるので、職務経歴や自己PRに記載してある情報をもとにヒアリングしながら判断していきます。例えば、あるプロジェクトを進めるに当たり、どのように意思決定したのか、他者をどう巻き込んだのかなどを聞いてみると、その求職者の自己主張の強弱がわかるでしょう。例えば、プライベートで人を誘うタイプか人に誘われるタイプかなど、周囲との関わり方を聞くのも一つの手です。

「感情表現」の強弱を知る→コミュニケーションの取り方で判断

「自己主張」の強弱を知る→内面や考え方で判断

ただし、面接での求職者はあくまで“面接用の自分”を演じているということも考えられます。ソーシャルスタイルを見極めるには、その人の本音を引き出さなければなりません。そこで利用できるのが「何か質問ありますか?」というオープンクエスチョン。とはいっても、少し工夫が必要です。ただ単に面接で「何か質問ありますか?」と聞いても、求職者側も「この質問も選考の一環である」という認識があるので、最初は“無難な質問”が出てきます。そのため、いくつか質問をしてもらったタイミングでもう一段心理的ハードルを下げるような一声をかけることがポイント。例えば、「ほかに不安に思っていることはないですか?」「聞きづらいことでもいいので、率直に何でも聞いてください」など、人事・採用担当者側から求職者に歩み寄ると、求職者側もリラックスして本音で話をしてくれることも多くなります。最終的に出てきた質問から、その方のソーシャルスタイルを確認することもできるのです。

求職者を惹きつけるソーシャルスタイル別のコミュニケーション

求職者を惹きつけるソーシャルスタイル別のコミュニケーション
求職者のソーシャルスタイルを見極めることができたら、それぞれのタイプに応じてコミュニケーションの取り方や提供する情報を変えていきましょう。ここでは各タイプ別に企業の魅力を伝えるためのコミュニケーションのポイントを紹介します。ただし、ソーシャルスタイルは必ずしもきれいに4つに分類できるわけではなく、複数の要素を持ち合わせているもの。必要に応じて組み合わせながら、コミュニケーションを取っていきましょう。

エクスプレッシブ:チャレンジ精神旺盛で、感覚を重視する

自分から積極的に話してくれるので、基本的なコミュニケーションスタンスとしては相手に同調しながら、話を聞いてあげるとよいでしょう。多少大げさに反応するなど、喜怒哀楽を共にしてあげると心を掴みやすくなります。楽しい雰囲気を好むので面接や面談でも最初から本題に入るのではなく、世間話をいれるなど、ざっくばらんに話すとよいです。感情で動くことが多く、企業のビジョンや社会的意義を魅力に感じやすいタイプなので、「このビジョンを達成するために、ぜひあなたに協力してほしい」など情熱を伝えることで入社意欲も高まりやすくなるでしょう。またチャレンジ精神が旺盛なため、裁量の大きさや自由度にも魅力を感じます。

エミアブル:協調性を大事にし、周囲とのバランスを取る

不安を感じやすいタイプなので、安心感を醸成することが採用につなげるポイントです。面接において、人事・採用担当者側から積極的に自己開示をしていくことはもちろん、評価している部分を具体的に伝えてあげるといいでしょう。定着率や研修制度など、入社後安心して働けるイメージがつくような情報を提供すると入社意欲も高まります。また近しいタイプの社員と入社前面談を設けるのも安心感を高める一つの方法です。「どうしても入社してほしい」など、強く押してしまうと離れていってしまうので、「転職先選びは重要な意思決定になるので、あなたの納得のいく選択をしてください」など、入社を迫るようなことをせず、少し引いた位置から安心感を与えるコミュニケーションを心がけましょう。

アナリティカル:論理や根拠を重視し、数値を好む

論理や根拠を重視し、自分が納得しないと動かないという意志の固いタイプです。あまり感情が表に出ないため、興味を持たれているかどうかわかりづらいですが、自分にとって有益・興味を持てると感じたら、とことん取り組むという特徴を持っています。そのため、まずは求職者本人が何を気にしているのかを網羅的に確認し、それに応じた情報を提供し続けてあげるとよいでしょう。メリットだけでなくデメリットも共有したり、数値化したデータを提供するなど、比較検討しやすいように情報を提供することもポイントです。急かされることは好みませんので、入社意思を確認する際にもある程度余裕を持った期日設定が必要です。

ドライバー:市場価値の向上に興味を持ち、結果を求める

結果を重視し、無駄なことを嫌います。そのため、相手の知りたいことに対して端的に答えていくとよいです。こちら都合の頻繁な連絡は控えたほうがよいでしょう。成果を出している方も多くこれまでのキャリアに自信を持っているので、プライドを傷つけないようなコミュニケーションを取ることも大切です。また、キャリア形成や市場価値の向上に興味があるため、ポジションの重要性や仕事の難易度を伝えることが入社意欲を高める要素となります。「あなたであれば、最短で昇進できると思います」「このポジションは優秀な人にしか任せられませんので、ぜひあなたにお願いしたいです」といったアプローチがオススメです。

基本的なコミュニケーションのスタンス

エクスプレッシブ エミアブル アナリティカル ドライバー
・世間話から入る
・楽しい雰囲気をつくる
・説明は短く
・本人に花を持たせる
・その人自身を褒める
・人事側から自己開示する
・親身、真摯な態度で接する
・結論を急がず、一緒に考える
・性格を褒める
・プロセスを褒める
・質問の意図を明確にする
・先に結論を出さない
・相手に考える余地を与える
・メリット/デメリットの提示
・考え方を褒める
・前置きは短く
・無駄を省く
・単刀直入にポイントをつく
・背景を確認
・結果を褒める

企業紹介において打ち出すべきポイント

エクスプレッシブ エミアブル アナリティカル ドライバー
・会社や社長のビジョン
・仕事のやりがい
・ポジションの意義・希少さ
・社会貢献性
・社風(挑戦できる、自由)
・社風(和気藹々、風通し)
・定着率
・研修制度
・一般論
・人のためになり喜ばれる
・メリット/デメリット
・売上、営業利益
・業界内における優位性
・業務内容、スケジュール
・必要業務経験の背景
・評価制度、キャリアパス
・昇進/昇給
・あなただからこそ感
・市場価値
・ポジションの重要性、難易度

クロージングにおけるポイント・注意点

エクスプレッシブ エミアブル アナリティカル ドライバー
頻繁に連絡を取り、熱意を伝える あまり押しすぎず、あくまで本人の意思にゆだねる 判断に時間がかかるが、入社意思を急かさない こちら都合の頻繁な連絡は避ける

【まとめ】

人事・採用担当者は合同説明会などで企業の説明をする機会も多く、ある程度自分の中に企業の魅力を伝えるテンプレートができ上がってしまっているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。売り手市場と言われて久しい状況の中、採用の成功率を高めるためにも、求職者がどのような人物なのか、どんな情報を求めているかを察し、コミュニケーションをとっていくことはとても重要なことです。
ソーシャルスタイルを見極めるといっても、すぐにできるものではないかもしれません。求職者と対面する際に、毎回こうした想定をしていくことで徐々に能力が身についていくものなので、日々の業務の中で少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。

(文・編集/岩田 巧)

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