エンジニアのハイクラス人材を続々と獲得。元ヘッドハンターの人事が実践する採用法
今回お話を伺った株式会社アピリオのテイラーめぐみさんは、元々アメリカで長年ヘッドハンターとして活躍されてきた経歴をお持ちです。世界を相手にビジネスを展開する企業がひしめくアメリカでは、人材獲得競争も熾烈で、いち早くSNS等も取り入れたダイレクト・ソーシングが活発に行われていると言います。帰国後も外資系企業の採用担当者として、ダイレクト・ソーシングを軸とした採用活動に取り組み、現在はグローバルファームでハイレベルなエンジニア人材の採用に高い成果を挙げられているテイラーさんに、従来の採用手法ではリーチできないような「質の高い人材」を採用する秘訣を聞いてみました。
もはや採用は、ただ待っている時代じゃない。積極的な「攻め」の姿勢が大切
テイラー氏:簡単に会社の説明からさせていただくと、当社はクラウドテクノロジーに特化したコンサルティングファーム「Appirio Inc.」の日本法人です。グループ全体としては、アメリカのインディアナ州に本拠を置き、アメリカ、ヨーロッパ、アジア・中東など全世界にクライアントを有するグローバルファームとなります。実は、日本法人は近年急激に拡大するクラウド市場に対して2016年1月より『日本をRebootする!』という宣言のもと会社をつくりかえるほどの改革に乗り出しておりまして。その流れの中で、これまでリクルーティングは外部に(RPO)委託してたのですが、専任を置いたほうがいいだろうということで、ある日「ウチでやらないか」とオファーをいただいたというわけです。
現在のミッションは、第二創業期とも言える日本法人が、次のステージへとステップアップするための組織作りといったところでしょうか。もちろん、そこにおいては、リクルーティング業務が非常に重要な位置を占めています。
テイラー氏:正直、皆さん実感されている通り、昨今は待っているだけの採用活動で成果を挙げるのは難しい時代になったと感じています。人事・採用担当とはいえ積極的に外に出て、「攻め」の採用活動をしていかなければなりません。実際に私が取り組んでいるのは、ひとつにイベントが挙げられます。自社のエンジニアによる勉強会もあれば、外部から講師を招いたセミナーを開催することもあります。
でも、同じぐらい力を入れていることがありまして、自社イベントのほか、こちらから他社のイベントやカンファレンスにどんどん参加するようにもしています。自ら足を運び、エンジニアの方たちと会話し、個別に名刺を交換して、当社のことについて知ってもらう。まさに草の根活動なのですが、こうしたイベントには業界のキーマンや感度の高いエンジニアの方が参加されているケースが多く、いますぐの成果に結びつかなくても長い目で見てプラスの影響が大きいんですよね。そして、私自身もエンジニアの方がどんなことを知りたいのか、どういう風に考え・思っているのか、何に興味があるのか、アピリオのことを知っているのか…など候補者のことを知ることができるんです。相手が何を望んでいるのか、レジュメだけでは判断できない本質を知ることも重要だと思っています。
テイラー氏:Webサーチを独自に行い、興味を持った方にダイレクトにメッセージを送ることもあります。その際も、いきなり「あなたを採用したい!」というよりは、「一度お会いしてみませんか?」といったカジュアルな面談のお誘いが中心ですね。ここまでくると、まさにヘッドハンターと動き方は一緒かもしれません。ただ、あまり露骨にやりすぎると、会社のブランドイメージに傷がつくリスクもあるので、このあたりはノウハウが必要です。当社の代表は「少しぐらいアグレッシブでもいいぞ」と言ってくれているのですけどね(笑)。そういう意味では、経営者もリクルーティングの難しさと重要性を理解してくれているというのは非常に心強いことだと感謝しています。やはり、経営者も採用の重要性にコミットしている事が重要です。
それから、ブログや求人広告といった情報発信も取り入れています。ブログについては、コツコツと記事を上げていく本当に地道な活動です。そうは言っても、情報は発信しなければ全くのゼロですから、ユニークな制度だったり、イベントだったり、社内行事だったり、会社のいろいろな側面を情報発信していくことは、意義のあることだと思います。
テイラー氏:最初に「待ち」ではなく「攻め」の採用とお話したので不思議に思われたかもしれませんね。確かに当社はダイレクト・ソーシングを中心に据えているとはいえ、それだけに固執しているわけでもありません。現在は特定の手段ひとつに頼るというよりも、あらゆる採用チャネルを駆使して採用のポートフォリオを描き、適切な予算投下をしていく時代になったと感じています。当社は、米国においてクラウドコンサルティングの領域や、Salesforce.comのパートナーとしてはトップブランドなのですが、日本におけるブランド認知度はまだこれからです。ブランディングを通じて、エンジニアはもちろんですがより多くの優秀なコンサルタント、ディベロッパー、プロジェクトマネージャー、戦略コンサルタントの方たちに認知してもらうことが、採用を加速させる上で非常に重要かつとても有効な手段だと捉えています。
「共感」を重視した採用が、優秀な人材を惹きつけ、強い組織をつくる
テイラー氏:私個人の経験から言わせていただけば、コンサルティングやシステム開発経験のない人事担当者が技術的なアピールを語ること自体に限界があると思っています。なかには「元コンサルタント」の人事担当者もいらっしゃるかもしれませんが、長く現役から離れているとしたら、おそらく一定のやりにくさを感じられているのではないでしょうか。というのも、コンサルタントの方が聞きたい話って、やはり「現場の話」だからなんですよね。現場の最前線を語るには、現役のコンサルタントに勝る人なんていません。転職する側としても、事実ベースの「リアル」を聞いて、ご自身のキャリアにプラスかどうかを判断したいのだと思います。
なので、面談には出来る限り社内のコンサルタントを巻き込むことが重要となってきます。では、現役の社員だったら誰でもいいかというと、そういうわけじゃなくて、可能であれば「どんな質問にも答えられる人」がベストでしょう。となってくると、自然と部下を持ってメンターのような立場を経験したマネジメント層になってしまいます。当然、社内の「スター人材」である彼らは忙しい。それでも協力を仰がなければ意味がないとすら考えています。
テイラー氏:相手にもせっかく時間を取っていただくわけですから、面談を通して何かひとつでも得るものがあって欲しいという想いがあります。何も価値を感じてもらえないならお互いが時間のムダになってしまいますよね。こちらからお声がけさせていただいているということもありますので、基本的に面談でお会いする方は「お客様」と思って対応しています。
とはいえ、面談の際、社内のコンサルタントに「必ずこういう話をしてほしい」「ウチの会社のアピールポイントはここだ」というような要求は全くしていません。面談の内容は、本人に全面的にお任せしています。理由は、「共感」の部分を大切にしているからです。もちろん、基本的なインタビューに関するトレーニングは実施します。
考えてもみてください。売り込まれたり、必死にアピールされたり、強引に「採用しにいく」みたいな姿勢が見え隠れしている会社に転職したくなるかと言うと、ちょっと疑問じゃないでしょうか。むしろ引いてしまうと思います。だから、面談では、一個人として真摯に真っ直ぐ相手に向き合う。ある意味、本音で語り合ってもらう。こちらも「素」の部分を見ていただいて、お互いに将来の仕事仲間として「共感できるか」を判断してもらっています。ですから、時には面談相手が描くキャリアプランに対して、「それではだめだ」と厳しい意見をする人もいます。でもそれは本当に相手のことを思ってるわけで、熱くなってしまうのは当然のこと。もちろん、私はひたすらフォローに徹しますが、現場のコンサルタントには「飾らない、ありのまま」を伝えてもらいたいと。
テイラー氏:採用において、スキルは確かに重要な条件です。ただ、会社組織という点においては、最終的に「カルチュラル・フィット(企業文化との相性)」といった側面も見過ごせません。変に売り込んだり、無理やり入社させようとしたり、面談という入口の段階で、そのフィーリング(相性とか適性)の部分をコントロールしてしまうことのほうがリスクだと考えているのです。どんなに優秀な方でも、当社の企業文化(Customer, Team, and Fun)に合わないのであれば、それは入社していただいてもお互いにハッピーになれないだろうな、と考えます。そのようなスタンスですから、当社へ「現在の会社や他の会社では、ロールモデルが見つからなかった」という理由で入社していただく方も多いです。
選り好みしていては、なかなか採用は決まりません。でも基準を落とすつもりもありません。当社は第二創業期ともいえる重要なステージで、いまご入社いただく方々は将来の幹部候補生だけに、闇雲にポテンシャル層へ広げる段階ではないと考えています。もちろん人事として達成しなければならない目標(採用数)はあります。しかし、会社の将来を考えると揺るぐべきではないですし、理解してもらうまで経営者や現場と何度も意見を重ねますね。「自分はこうしたい」という意思こそが、今の人事に必要なのではと思ってます。
【取材後記】
パーソル総合研究所と中央大学が2018年10月23日に発表した共同研究の成果『労働市場の未来推計2030』に非常に興味深いデータが載っています。今後、日本の人材不足は加速度的に深刻化し、2030年には644万人が不足。その数は2017年の121万人から5倍という驚くべき推計でした。エンジニアのような高度な専門性を持った人材をはじめ、優秀な人材の獲得は、これからますます競争が激化していくことは間違いないでしょう。そんな時代の潮流にあって、「待っているだけではダメ。攻めの採用を」というテイラーさんの言葉は、アドバイスというよりも警告のようにすら聞こえます。『採用活動』と言うと、「選別する力」「見抜く力」ばかりが注目されがちですが、これからの時代の人事には「売り込む力」「人を惹きつける力」といった新しいスキルの必要性も増していくのかもしれません。
(取材・文/菊地 瑞広、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)