社内コミュニケーションは質と量。岡山と東京を結ぶ、リモートワークへのスタンスとは

株式会社クレオフーガ

代表取締役社長 西尾 周一郎

プロフィール

「リモートワーク(テレワーク)」という言葉は随分浸透してきましたが、実際に導入するにあたってさまざまなハードルがあります。「会社への帰属意識が薄まらないか」「コミュニケーション量が不足しないのか」といった懸念を抱いている企業も多いのではないでしょうか。今回はリモートワークを導入している株式会社クレオフーガ代表の西尾周一郎さんに、お話を伺ってきました。リモートワークに適している人材や、コミュニケーションを円滑にとるために取り組んでいることなどを紹介します。

そもそも、リモートワークと親和性の高い会社だった

そもそも、リモートワークと親和性の高い会社だった

現状の組織体制について教えてください。

西尾氏:弊社は岡山本社と東京支社の2拠点があります。社員数は岡山が5名ほど、東京には15名ほど。岡山は全員エンジニアで、東京は営業や広報などさまざまな職種のメンバーがいます。自分自身が岡山出身で、創業も岡山だったんですが、音楽業界の特性上、やっぱり東京に拠点は必要だろうということで進出しました。私も普段は東京にいます。

ストックミュージックサービス「Audiostock」、音楽コンテストサービス「CREOFUGA」に続き、11月には新サービス「Co-Writing Studio」もリリースされました。「音楽を生み出す人をハッピーにする」というのが御社のビジョンとのことですが、このサービスはどのような位置づけになるんでしょうか?

西尾氏:Audiostock、CREOFUGAを運営していく中で、音楽に携わるいろんな方々とお会いする機会があったんですが、皆さんが共通して困っていたのが、“チームで音楽をつくること”に関してだったんです。もちろん1人で音楽をつくる方も多いですが、たとえばサークルとしてコミックマーケットやM3(音系・メディアミックス同人即売会)といったイベントに出ることもありますし、バンドやアイドルグループなら必然的にチームで動くことになります。LINEやチャットなどコミュニケーションをとる手段はいろいろありますが、結局どれも音楽専用のツールではないので、データのやりとりをするときに煩雑になってしまうことがあるんです。細かいやりとりはLINEでするが、音源データはメールで送る必要がある、とか。そこで、コミュニケーションの部分とファイル共有の部分がセットになって、音楽の世界で使いやすいようなシステムがあれば良いなと思ったんです。chatworkやSlackの音楽版、というイメージですね。

音楽の世界で使いやすいようなシステム

「直接会えなくても、一緒に音楽ができる」という世界観をさらに大きく推進するサービスでもあるように感じます。リモートワークにも通じる部分がありますね。

西尾氏:弊社はインターネットサービスを展開する会社ですし、対面でのお客さま商売でもないので、リモートワークと親和性が高い部分はあると思います。それから、地方にいる才能ある音楽家たちをサポートしたいという思いも事業の根幹にあるので、そもそもの発想として、働く場所にはあまりこだわりません。私自身がカフェなどで仕事をするのが好きなので、「ちょっと考えごとしたいからカフェに行ってくる」と言って出かけることも多いんです。今日もたまたま、お子さんがインフルエンザにかかった女性社員がいて、急遽リモートで働いています。

リモートワークを認めていることで、会社全体に何か良い影響は出ていますか?

西尾氏:社員全員が無理し過ぎないようになった点でしょうか。絶対会社に行かなきゃいけない雰囲気があると、風邪をひきかけていても頑張って出社してしまうこともあると思います。ビジネスは長距離走なので、一時的に無理をしてその場をしのいでも、来週にツケが回ってきて体調を崩したら意味がないんですよね。私もなるべく社員の健康に気は使いたいと思っていますが、全員の体調を把握するのは難しく、自己管理してもらう必要があります。だからこそ自己判断で、休んだり、時短にしたり、リモートにしたり、という要望には柔軟に対応しています。

現在、継続的にリモートワークで勤務されている社員の方はいらっしゃいますか?

西尾氏:岡山のエンジニアで、週1日だけ出社して、あとはリモートという社員がいます。実績やスキルも優秀で、家庭の事情や会社までのアクセスを考慮し、リモート前提で採用しました。

「互いの動きが見えない」不安、どう払拭している?

「互いの動きが見えない」不安、どう払拭している?

リモートワークでは、「メンバーが何をやっているかが見えづらくなるのではないか」という不安を感じる企業も少なくないと思います。岡山と東京、そしてリモートの社員と3拠点がある御社の場合はどのようにして解消されているのでしょうか?

西尾氏:週1回の全社テレビ会議や日報などの定例的な報告に加え、チャットでのコミュニケーションは割とこまめにしている方だと思います。

週1回の全社テレビ会議

※クレオフーガ社提供

リモートの社員に対する、言ってしまえば「サボるんじゃないか」という懸念もわかりますが、そもそもリモートにすることでサボるような人を採用してしまう時点で間違っていると思うので、そこはあまり気にしていません。私自身「性善説の人間」と言われがちなんですが、サボったらサボったで仕方ないというか。ただ「遠方にいて何をしたら良いかわからない」という状態は困るので、コミュニケーションはこまめにとっています。あとはWebサービスをつくる会社なので、プロダクトに関して齟齬や認識のズレが発生しないよう、週に1〜2日は必ず出社してもらっています。この機能は何のために作っているのか、ユーザーが求めているものは何かなどは、常に共通の認識を持っている状態の維持を心がけています。

コミュニケーションを義務化するのも違和感がありますし、かといって何もしないと自然的に減少していきそうで、難しいですよね。

西尾氏:岡山にある弊社の開発部は、常にオンラインで音声をつなげているんです。東京から話しかけたら誰かが反応するイメージですね。作業に集中したいときはオフにすれば良いし、プログラムの組み方がわからないときには「今誰かいる?」「いるよ!」と会話して、すぐに相談できる。もちろん雑談もありますが、それで良いと思っています。これは私が始めたことではなく、メンバーが自発的にやり出したことですね。

社内ラジオを始めたというお話も伺いました。

西尾氏:もともと私が普段いる東京と、岡山の間で情報量に差が生まれてしまっていたんです。そこで普段私が何をやっているのかを共有するために、社内向けのラジオとしてスタートしました。

社内ラジオを開始

※クレオフーガ社提供
社内ラジオではどんな内容を話しているんですか?

西尾氏:会社の方針や業務報告が多いですが、結構自由ですよ。ルールとして「ラジオを聞かないと仕事に支障が出る」という状態にはしないようにしています。重要なことや必要事項は口頭やchatworkでちゃんと共有します。社内ラジオは、その付録のような位置づけですね。決定事項に対して、実はこんな裏話があったとか、こういう背景があったとか。議事録だけだとどうしてもドライな情報になってしまいますが、声ならある程度温度感を伴って伝えることができる。動画ほど手間はかかりませんが、テキストよりは臨場感がある。特に話すことがない日は私の趣味の話なんかをしていますね。うれしいことに社員からも「しゃべりたい」という声が上がっていて、エンジニアや営業担当が話す日もあります。

スタジオの機械

今年4月には、社内にスタジオもオープンされました。外部の方を招いたレコーディングなども行っているそうですが、こちらもコミュニケーションの面で一役買っている部分があるのでしょうか?

西尾氏:社員には音楽が好きなメンバーが多いので、それはあると思います。レコーディングを行う日はみんなで見学したり、社内に音楽制作サークルがあるんですが、その活動の一環で視聴会を開いたりしているんです。あとは演奏家や作曲家、レコーディングエンジニアなどいろいろな方が出入りするので、社内だけでなく社外とのコミュニケーションの場にもなっています。いろんな企業さんでコワーキングスペースやシェアオフィスといった取り組みがあると思いますが、うちのスタジオも共通するところがありますね。オフラインでのコミュニケーションの場になればと思ってつくったので、スタジオを軸に交流が生まれているのは嬉しいです。

組織の問題は、大体がコミュニケーションギャップによるもの

これから働く環境づくりに力を入れていこうとしている企業に向けて、アドバイスをいただけますか?

西尾氏:私たちも手探りの状態なので、他社さんにアドバイスできるほどのことはありませんが…。「組織の問題の大半は、コミュニケーションギャップやコミュニケーション不足によるもの」という話を聞いたことがあります。私もこれには賛同していて、会社というものは異なる意見を持った人が集まって仕事をしているので、しっかりコミュニケーションをすることは大事かなと思います。先ほどの社内ラジオでいうと、1対1ではなく「1対多」で伝えられるところが良いと思っていて。1対1で会話のコミュニケーションを取ろうとすると、1人に1時間かけていたら20人なら20時間かかってしまう。ラジオであれば、これが100人になっても200人になっても、労力は変わりません。もちろんラジオでなくても良いと思います。弊社はたまたま音楽の会社だったので音声編集と相性が良かったんですが、文章を書くことが得意な経営者の方だったら文章でも良いかもしれません。その組織に合ったやり方で、いかにコミュニケーションの質と回数を上げていくかが大切だと思っています。

コミュニケーションの質と回数を上げていくか

リモートワークにしろ社内ラジオにしろ、取り組みを始めること自体が目的になってしまって、本来の目的を見失ったり、制度が形骸化してしまったりすることも、ありがちな落とし穴の1つかと思います。

西尾氏:私たちは、「期間を決めてひとまずやってみる」ということを大切にしています。ラジオもまず1カ月はやってみようと。それで効果があるかないかを考えようという形でスタートしました。やってみたら私も楽しくなっちゃったし、社員の反応も案外良かったので、長く頑張ってみることにしたんです。よっぽどお金がかかるとか人員を投下しなければならないものでなければ、とりあえず期間を決めてやってみる。それで効果が得られなければやめる。意味のないことを惰性的に続けるのは時間がもったいないので、やめる決断も大事ですね。

【取材後記】

時代の最先端を行く事業内容、そして働く環境づくりにおける柔軟な姿勢が話題となり、スタートアップ企業の中でも注目を集めているクレオフーガにお話を伺いました。社員が“今”求めているものはなんなのかをしっかり汲み取り、スピード感を持ってまずは「やってみる」。そして、効果がなければ勇気を持って「やめる」。シンプルなようでいて、組織が大きくなればなるほどなかなかできないたった2つのこと。どんな取り組みであれあまり気負わずに、まずはこの2つだけを意識して、始めてみても良いのかもしれません。

(取材・文/檜垣 優香(プレスラボ)、撮影/黒羽 政士)