じゃない層の経営陣3人が考える「子育て中の女性が活躍する会社」【連載:第3回】

株式会社はたらクリエイト

代表取締役 井上 拓磨

プロフィール
株式会社はたらクリエイト

取締役 柚木 真

プロフィール
株式会社はたらクリエイト

取締役 キャリアコンサルタント 高木 奈津子

プロフィール

近年の人口減少に伴って「働き方改革」や「女性の活躍促進」が求められる中、政府は2019年1月15日に「子連れ出勤」を後押しすることを表明しました。こうした状況から、企業は今後さらに職場環境やあり方を問われていくと考えられます。

女性向けのコワーキングスペースが起点となって始まった、長野県上田市にある株式会社はたらクリエイトは事業開始時から託児所を併設し、子連れ出勤を当たり前のものとして取り入れていました。事業を運用していく中で直面した課題と、それに対してどう向き合い乗り越えてきたのか。全3回の連載の最後である今回は、「子育て中の女性 ”じゃない層” 」である立ち上げメンバーの声を紹介します。

※本記事は、株式会社はたらクリエイト 広報 桑村 美奈子氏に寄稿いただいたものです。

がんばって働いてるお母さんがいるからこそ、共感者が増えていく

がんばって働いてるお母さんがいるからこそ、共感者が増えていく

現在の事業「リモートチームサービス(hatakuri)」ができた背景を教えてください。

井上:2012年にコワーキングスペースの運営を始めたのが最初のきっかけです。コワーキングスペースの利用者さんの中には子育て中の女性もいて、「キッチンがあったらいいね」とか「託児所があったらいいんじゃないか」などの意見を雑談程度にしていました。最初はそんなレベルからスタートし、話を重ねていくうちに「こういう要望を実現できれば安心して働ける人が増えるんじゃないか」と思ったんです。それから構想を企画書にまとめていろいろな人に伝えていきました。するとちょっとずつ協力者が現れて、結果的に女性向けのコワーキングスペース「HanaLab.UNNO」開設に至りました。

開設してすぐに今のようなビジネスになったのですか?

井上:いえ、最初の2年間は子育て中の女性のコミュニティを作ることがメインで、できる業務を探しては実行する、の繰り返しでした。この時期は案件を獲得するのも大変でしたが、運用していくこともかなり大変でしたね。この時期のエピソードはいい意味でも悪い意味でも沢山ありますよ(笑)。実績を積み重ねて企業からの信頼を得ていく中で、「地方にいる子育て中の女性の仕事をつくる」というビジョンを共有できるクライアントと出会うことができました。これは私たちにとって大きな転機で、リモートチームサービスが始まったきっかけです。

サービス開始当時の企業からのリアクションはどうでしたか?

柚木:今となっては担当部署と対等に話ができるようになりましたが、当初は営業資料を出すとCSR部門を紹介されることが結構ありました。きっと「ビジネス」ではなく「取り組み」として捉えられたからだと思います。「取り組み」と捉えられてしまうとどうしても「支援」としてのイメージが強くなってしまいます。「支援する人」「支援される人」という構図ができてしまうと対等にビジネスをするところからは遠ざかってしまいますし、「支援される」側になってしまうとスキルも身につかなくってしまいます。

そういう構図ができてしまうと「企業」というよりは「支援団体」のような形になってしまいますね。

慈善事業ではなくビジネス

高木:そうですね。あくまでも私たちがしているのは慈善事業ではなくビジネスなので、クライアントに価値を提供しなくてはいけません。立ち上げ当初は、事業として求められるレベルとスタッフがアウトプットできるレベルにギャップがありました。そのギャップのリカバリーを柚木や井上と一緒に、夜スタッフが帰った後や休日にやっていた時期があって、正直大変でしたね。しかしそれも業務を重ねる中で、全体のスキルや意識レベルが高まっていって…今ではスタッフのみんなに助けてもらうことの方が多いです。お客さんからも「安心して任せられる」、「はたクリさんのおかげで本業に集中できて売上が上がった」というような声もいただけることが増えてきて、組織として出せる価値が高まってきているなと実感しています。

開始当時と比べて企業からのリアクションは変わりましたか?

井上:営業をしていても、以前より反響が良くなったと感じます。特に女性が多い企業や、担当者自身が子育てしながら仕事をしている場合は共感していただけることが多いです。
また、サービスやその背景を理解してもらえるようになったことで、一緒に中長期的な目標を共有できるクライアント企業が多くなったと思います。

高木:確かに事業に共感してくださる企業が増えた実感はありますね。共感してくださる背景には、身近に仕事をがんばっている子育て中の女性の存在があると感じています。そういうロールモデルがいるからこそ、「頑張っている人たちと一緒に仕事がしたい」という風潮が生まれていると思いますし、私たちも事業をする上で励みになっています。また人材獲得が難しくなっていることから、ここ数年で一気に外注の需要が高まっていますよね。一時期は安価で手軽なクラウドソーシングも盛んでしたが、ディレクション工数やセキュリティの観点から「組むのであれば、長期的に信頼できるパートナーと組みたい」という企業も多くなっているように思います。

伝えているのは仕事のやり方ではなく考え方やマインド

伝えているのは仕事のやり方ではなく考え方やマインド

2019年1月15日に政府が「子連れ出勤」を後押しする表明を出しました。一方、すでに会社での「子連れ出勤」を受け入れていますがどう思いますか?

柚木:ネット上ではネガティブな意見も多く出ていますよね。一概に「子連れ出勤」と言っても子どもも業務スペースにいるのか、いないのかで大きく違うと思います。弊社の場合は、託児所を設けているので、子どもは業務スペースにずっといるということはほとんどないです。託児所は業務スペースと別のフロアになるので、それがスタッフのメリハリになっていると思います。電車での子連れ出勤が想定される首都圏と違って、こちらの場合基本は車。その点でも条件は異なります。それに弊社ではフレックスタイムを導入しているので、子どもを急かすことなく出勤できるとスタッフには好評です。

確かにどこの会社も制度や設備が同じ条件ではないので難しいですよね。

高木:そうですね。もともと開設した時から託児所を併設して子連れ出勤を受け入れているので、その点は一般的な企業とは感覚が違うかもしれません。「子育てをしていない層」もいる組織であればなおさら、考慮する点も多いですよね。導入する上でメリット・デメリットは当然あると思いますが、私たち自身、企業を運営していく上でとてもメリットを感じています。例えば、子どもがいることで張り詰めた雰囲気がふっとゆるんだり、子どもがいる前でイライラしたら格好悪いなと思って自分を律することができたり…。子育て中のスタッフからは「人間関係をいい意味でかき回してくれる」という声も聞きます。お昼休みの12時ぴったりに保育士さんが業務フロアに子どもを連れてきてくれるんですが、その時に子どもたちが賑やかにお母さんに駆け寄っていく姿は好きですね。業務が強制終了されるので、「人間アラーム」と呼んでいます(笑)。
人間アラーム

(12時に子どもたちが散歩から帰ってくる様子)
私もあの光景を初めて見たときなんだかとてもうれしい気持ちになりました。元気に駆け寄っていく姿に目を細めてしまいますよね。

井上:スタッフが仕事の顔からお母さんの顔に戻る瞬間ですね。弊社の場合は託児所の保育士も弊社所属なので、業務側と託児側の連携が取れていることが強みではないかと思います。保育士は子どもたちが楽しく通える環境整備はもちろん、スタッフが安心して業務に集中できるようにお昼休みの開始時間を分単位で調整したり、子どもの体調不良や延長などにもフレキシブルに対応したりと、日々配慮してくれていますね。身近でお母さんの働く姿を見ることで、子どもたちのキャリア教育にも繋がっていけばいいなと考えています。

高木さんや柚木さんは子育て経験がない中で子育て中のスタッフの方とやり取りをしていますが、意識していることはありますか?

高木:「子育て中」という特性もひっくるめて、一人の仕事仲間として関わることですかね。説明会や研修の早いタイミングで「(一緒に仕事を楽しみたいのだけど)自分は未婚で ”子育てしながら” 仕事することについては正直よくわからないので、教えてください!」と伝えています。これまで多くの子育て中のスタッフに関わってきた中で、子育ては仕事のマインドとも密接に関わっていると実感しますし、事業運営していく中でスタッフの子育てに興味を持つことも大事だなと思います。やっぱり命を守るという責任感は計り知れませんし、子育てしながら働くってすごいことだ、という純粋な尊敬もありますね。自分は今「子育てしていない立場」だからこそできることがあると思うので、それを考えながら仕事をしています。

なるほど。確かにいきなり当事者と同じ視点や価値観を持つのは難しいと思います。最初からわからないことをオープンにしてしまうことでお互い早い段階で歩み寄りができるかもしれないですね。柚木さんはどうですか?

柚木:実は自分は「子育てしてるから」といって特に接し方は変わらないです。敢えて言うのであれば「子どもの体調って崩れやすいんだな」と思ったくらいですね。最初は意識したりしていたこともあったのですが、今は全くないですね。女性がたくさんいる職場だからか「揉めたりしなんですか?」と聞かれたりすることもありますが、基本的にないですね。もしかしたら自分だけ気付いていないのかもしれないですけど(笑)。とはいえ、時には愚痴を言うことは必要だと思います。ただそれが業務においては「それをどう改善していくのか」ということが問われるので、変えていく経験を一緒に積めればいいなと思っています。

では、経験やバックボーンが異なる人と一緒に働く上で気を付けていることや工夫していることはありますか?

井上:今まで指示された仕事だけをこなしたり、マニュアル通りやったりという仕事をしてきた人も中にはいると思います。その上で仕事を教える際に心がけているのは、仕事の全体像を見せることです。仕事は決して1人でできるものではなく、特にリモートチームサービスではクライアントや社内での連携も重要です。業務のやり方だけではなく、この仕事は何を目的にしていて、自分は全体のどこの部分を担い、どういう状況を目指していくのかといった全体像を伝えて、自分で考えて前に進めるように導いていくことが重要だと思います。
仕事は決して1人でできるものではない

柚木:第2回にも記載していたように「消費者視点」から「提供者視点」への転換ができるかどうかが大事で、担当する企業が何を課題にしていて、今その市場がどうなっているのかを知ることで全体像の把握に繋がります。また、比較的若い年齢層も多いので自分で計画を立てて業務を遂行する経験が少ないスタッフも多いのですが、サポートするとできる人がほとんどです。僕自身は、業務を教えるというより問題解決をサポートしたり、マインドなどを教えていることのほうが多い気がしています。

高木:一時期、個々の想いを受け入れようとしすぎて、疲れてしまったことがありました。その時、自分自身も「この人たちの役に立つこと」で承認欲求を満たしてるだけなんだなと気が付いて。当たり前ですけど、お互いが幸せな状況じゃないと続かないですよね。だから私も自身のスタンスを持って、相手の考えを受け止め、一緒に楽しく働く方法を探っていく。そうやってコミュニケーションを取ることで、壁を作っていた時期よりも、業務がスムーズになるのを実感しました。個人と向き合うのは時間も根気もいりますが、長期的に見ると大事なことだなと思います。

「選択と集中」のその先にあったもの

最後に、はたらクリエイトと同じようにビジネスしながら社会課題にも取り組みたい企業はどうしたらよいと思いますか?

井上:「選択と集中」をすることが大事だと思います。最初に始めたコワーキングスペースの時はビジネスよりも地域課題の解決が先行していたので、手広くやっていたんですね。でも、いくら地域や世の中にとってよいことでもビジネスの核がなければ継続していくことは困難です。特に継続していく上でキャッシュ化していくことが重要ですが、そこが一番難しいんですよね。弊社の場合は分散しすぎたことで前に進みにくくなってしまったので、事業を絞り込み集中した結果が今です。

柚木:正直、「いいことをやっている」だけでは継続が難しいですよね。社会課題の解決とビジネスは分けて考えられることもありますが、社会課題の解決にビジネスをうまく組み合わせることで継続性を担保できると考えています。その組み合わせ方として、組織のコアとなる人材に僕や高木のように子育て未経験の人材を織り交ぜるという方法があります。社会課題解決を目的とした組織は、「当事者(今回の場合は子育て経験者)」が中心人物になりがちです。その情熱や熱量ももちろん大切なのですが、それに偏重せずにビジネスとして冷静な視点を保ち続けられるかがポイントになると思っています。
選択と集中のその先

【まとめ】

全3回に渡って、株式会社はたらクリエイトの事業や仕組み、現在に至るまでの背景を紹介しました。
事業を通して感じたのは、業務の受発注や組織開発など、仕事の関係性構築において、「子育て中の女性」など属性を一括りにして「個」を見ない仕組みや、感情を取り除いた機械的なやり取りは、短期的には生産性が高いように見えますが、長期的にはさまざまな課題につながっているということです。

私たちは今後、仕事において「全体」と「個」の見える化をより意識することで、発注先には長期的に高い生産性を提供し、共に働くスタッフには成長を促し、価値の最大化に取り組んでいきたいと思います。