アマゾンジャパンの採用戦略―中途採用のカギを握るエンプロイヤーブランディングとは

アマゾンジャパン合同会社

人事統括本部 人事部 部長 (タレントアクイジション)
篠塚 寛訓

プロフィール

求人倍率は高止まりしており、採用競争は激化。即戦力の人材は取り合いの様相を呈しています。このような状況の中、中途採用を成功に導くためには、何が大事で何が求められているのでしょうか。アマゾンジャパンで採用の責任者を務める篠塚 寛訓氏は、働く場としての魅力を中長期的にアピールする「エンプロイヤーブランディング」、そして採用候補者を直接リクルーティングできる「ダイレクト・ソーシング」の重要性を強調します。今回は篠塚氏に、エンプロイヤーブランディングやダイレクト・ソーシングの具体的な取り組み方や採用業務の効率化などについて、アマゾンジャパンの事例を基にお話しいただきました。

(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を編集・要約した上で構成しています)

グローバルから見るー日本国内の中途採用 日本には専門家が極めて少ないー

グローバルから見る日本国内の中途採用 ―日本には専門家が極めて少ないー

現在私はアマゾンジャパンにおける採用統括責任者として、コーポレート部門の採用業務に従事しています。2015年からはリクルーティングのファンクションを1つにまとめ、現在のレポートラインはグローバルのタレントアクイジションチームとなります。

日本の中途採用は他国と比べると、大きく3つの特徴が挙げられます。①採用単価の高さ ②入社までのリードタイムの長さ ③女性採用の少なさ――です。まず、採用単価についてですが、日本は突出して高いと言ってよいかもしれません。たとえばインドと比べると約10倍もの差がある状態です。詳細はあとに述べたいと思います。

次に、採用ポジションができてから候補者が入社するまでのリードタイムを見てみましょう。海外の平均と比較すると日本では1.4倍程度の時間を要しています。日本文化や法制度も関係しており、退職まで1~1か月半かかることは当たり前。一方、海外では自社の情報保護の観点からも、退職が決まったら「次の日から来なくていい」という例も多く見受けられます。日本のように有給消化の期間を待って入社ということもほとんどなく、採用が決まったらその次の週には新しい職場で働いているのです。

最後に女性採用についてです。日本は他国と比較すると圧倒的に少なく、「努力が足らないのではないか」と指摘されるほどです。これには明確な理由があり、そもそも採用市場において女性が少ないからです。日本は、女性のキャリアについて整備されていない現状で、いまだ管理職の担い手は男性が中心となっている企業も多いのではないでしょうか。これら3点はたびたびグローバルから指摘されており、大きな課題と捉えていますが、リードタイムと女性採用については、自社の取り組みだけでは改善されない面もあるのは事実です。しかし、採用単価については、自社の取り組みを通じて何とかしたいという思いを強く持っています。

そもそもなぜ日本の中途採用の単価が特別高いのでしょうか。紐解いていくと、多くの会社では中途採用の業務が浸透していないことが見えてきます。つまり、中途採用について専門性を持っている人材がおらず、業務を外注していることが要因と言えるでしょう。実は日本では、採用を専門に行っている人事担当はほとんどいません。多くの企業では“人事”は業務の一つとして採用を手がけており、採用を専任で行っているのは全体のわずか数パーセントというデータもあります。しかも、その場合の採用とは新卒を指しており、採用業務の9割近くは新卒採用に割いています。結局、中途採用の専門家はほんの一握りなのです。

一方、企業において、非新卒入社者の比率が右肩上がりで増加傾向にあります。厚労省のデータによれば、1000人以上の企業で新卒採用者の占める割合は1990年で65%。これが2015年には28.6%になっています。つまり中途採用比率が高まっているといえるでしょう。

1000人以上の規模の企業における一般未就業者(新卒大卒入社者)の割合

調査年度 一般未就業者の割合
1990年 65.0%
1995年 61.9%
2000年 47.2%
2005年 37.3%
2010年 33.6%
2015年 28.6%
※出典:厚生労働省『雇用動向調査

近年ではM&Aも増えており、非新卒入社者が必ずしも中途入社者とは限りません。しかし、採用が新卒一括から中途へとシフトしているのは間違いありません。それにも関わらず、社内に中途領域の専門家がいないのですから、外注費がかさむのはある意味当然のこと。過去には当社でも採用の大半の部分を人材紹介・エージェントに任せていました。現在はこの体制を見直し、内製化に努めているところです。

採用の課題を解決するには、エンプロイヤーブランディングとダイレクト・ソーシング

採用の課題を解決するには、エンプロイヤーブランディングとダイレクト・ソーシング

自社で採用を行う際、最も大きい課題は何かと言えば、“候補者集め”に尽きるのではないでしょうか。日本の場合、需要と供給に不均衡があり、極端な売り手市場となっています。不均衡の背景には人口減が注目されがちですが、それ以外に専門スキルを持った人材が不足していることも見逃せない点です。国内の多くの人材はオールラウンド型が中心で、何でもそつなくこなせる反面、特化した能力を持っていない傾向があります。そして、転職を後ろめたく感じている日本人はいまだ多く、転職に積極的ではないことも挙げられるでしょう。こうした事情の中で、私たち人事は、自社のニーズに合った人材に入社してもらうというゴールを達成しなければなりません。応募者集めという最大の課題を解決するために浮かび上がってきたのが、「エンプロイヤーブランディング」と「ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)」だったのです。

「エンプロイヤーブランディング」と「ダイレクト・ソーシング」は2つで1つです。どちらか一方が上手くいっていてもダメで、両方がかみ合うことで、採用成功に導かれるとお考えください。ダイレクト・ソーシングはすでに実践されている企業も多いと思いますが、「エンプロイヤーブランディング」は、あまり耳慣れない言葉かもしれません。株式会社ライクブルー 池田氏によると、エンプロイヤーブランディングとは、“企業が雇用者としての立ち位置から、社員や求職者、顧客、株主等のステークホルダーに対して、『働く場の価値』を明確かつ具体的に提示し、コーポレート・ブランドや商品ブランドと整合性のある、統合的な企業イメージを構築することである”と定義されています(引用元:株式会社ライクブルー『エンプロイヤー・ブランディングについて』より)。

重要なのは、働く場としての価値ということです。主に社外に向けて発信するコーポレートブランディングとは異なります。

エンプロイヤーブランディングの2つの側面

エンプロイヤーブランディングには長期的な戦略と、短期的な手法があります。長期的な戦略は、応募者集めから採用、定着、キャリア開発、退職まで、一連の流れの中で2年3年、場合によっては10年20年かけて形成していくものです。退職後も定期的にフォローしていますが、これは退職者が自社の重要なスポークスパーソン(伝達者)になると考えるからです。対して、短期的な手法とは、応募促進についてのことを指します。手法で大切なのは、ターゲットの設定とチャネル(採用媒体・ツール)の選択、コンテンツの作成をリンクさせながら実践することです。たとえば、「今回の募集においては、このようなターゲットだからこの媒体でこのような訴求を打ち出そう」というつながりを重視します。なお、短期的な手法と長期的な戦略は整合性を持たせる必要があります。目の前の「採用充足」というミッションにコミットしなければならないが故、短期にさまざまなメッセージを送ってしまうと、長期的なブランドが崩れることになってしまう。また、入社後の齟齬をなくすため、たとえマイナスなことでも候補者には正しい情報を伝えなければなりません。必要に応じて、職場環境の改善を実施することも欠かせないでしょう。

ダイレクト・ソーシングはリファラルを重視

当社では、ダイレクト・ソーシングのことを、人材紹介・エージェントを使わずに直接候補者を取り込む手法と定義しています。中でも、当社が注力しているのがリファラル採用です。やはりリファラル採用は応募から採用までの歩留まりが良く、入社に至る可能性も非常に高くなっています。一方で、リファラルで採用に至らなかった場合は、紹介した側もされた側も気まずい思いをしがちです。実は当社でも、そうしたことを懸念する声が多くありました。今後の中途採用戦略を踏まえると、リファラル促進は重要指標ですが、社員に負担をかけられません。そこで、候補者になり得る方に気軽に当社に足を運んでもらえるようなイベントを開催することにしました。あくまでも社員にお願いすることは、“友人・知人をイベントに呼ぶこと”まで。そこから先、応募するか否か、選考に進むのかについては、社員はノータッチ。ご本人に決めてもらうことを徹底しています。イベント後のフォローも私たちリクルーターが責任を持つようにしました。また、当社は候補者の掘り起こしも重点的に行っています。当社は年間を通じ、非常に多くの方を採用していますので、スカウトメールを送った方、面接に来ていただいた方の数は膨大になります。採用に至らなかった方々を「ご縁がなかった」で済ますのではなく、定期的に連絡し、ポジションが空いたら再度お声がけします。手間のかかることですが、過去の応募者のデータを必要に応じ取り出せるよう管理しておかないと、応募者の裾野は広がらないのではないでしょうか。

今後の取り組みを少しお話ししましょう。当社では、海外人材の獲得、人材流動化の促進、AIの活用を見据えています。このうち私が特に重要視しているのは、人材の流動化です。これからますます個人の働き方が大きく変わっていく中で、「なぜ転職がポジティブなのか」「転職でどのようなメリットを得られるか」を伝える活動を強化していきたい。自社に呼び込むというよりは、転職市場全体が盛り上がることを目指しています。

人事・リクルーターとして大切なこと

人事・リクルーターとして大切なこと

最後に、チームのメンバーに問いかけていることを3点ご紹介させていただきます。1つ目は「自分が入社した時のことを思い出す」。どうしても目の前の業務に追われてしまい、疲弊してしまうこともある。そういうときは、なぜアマゾジャパンの選考を受けたのか、どのような面接で何を話したのか、そして、なぜ入社を決意したのか…。こうしたことをすぐに思い出すようにアドバイスしています。その時の気持ちを忘れず採用候補者と向き合っていくことこそ、より良い採用につながると私は信じています。2つ目は「担当領域のマーケットを熟知する」です。人事担当者はついつい業界の中にいる人が言っていたことを鵜呑みにしてしまいがちです。しかし、それは個人の感想かもしれません。そこに引きずられるのではなく、マーケットを正しく知ること。そうしなければ正しいブランディングはできないと考えます。最後3つ目は「入社後の社員の状況を確認する」。入社がその人にとっても、当社にとっても本当に良かったものなのか。入社した社員に定期的に会い、話を聞くことは大切な業務の一つです。万が一問題が生じていたら、検証し次に活かさなければなりません。

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ここまでお話しさせていただきましたが、当社でもまだまだ課題はありますし、やれること・やらなければいけないこともたくさんあります。大事なのは、マーケットを捉え自社や候補者と向き合いながら、中途採用を盛り上げていくこと。これらが私たち人事のミッションだと考えています。是非、皆さんと一緒に切磋琢磨しあえると嬉しいです。

マーケットを捉え自社や候補者と向き合いながら、中途採用を盛り上げていく

【まとめ】

アマゾンジャパンの篠塚氏は、中途採用を成功に導く手法として、「エンプロイヤーブランディング」と「ダイレクト・ソーシング」を重視されていました。2つは独立したものとして扱うのではなく、1つのセットとして見ることが有効と言います。エンプロイヤーブランディングは少々耳慣れないかもしれませんが、働く場としての価値という考え方はこれからの中途採用のスタンダードになっていくるのではないでしょうか。採用難が続く中、これからますます「自社ブランディング」や「社員エンゲージメント」は重要になってくるはずです。せっかくの機会ですので、一度社内で話し合ってみるのはいかがでしょう。

(文/中谷 藤士、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)