博報堂・博報堂DYメディアパートナーズによる「生活者インターフェース市場」時代の人材戦略。採用マーケティングで次世代人材の採用に挑む

博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ

タレントアクイジション局 グループマネージャー
山口 裕史(やまぐち・ゆうじ)

プロフィール
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  • 「生活者インターフェース市場」を見据える
  • 「HAKUHODO DX_UNITED」発足により採用マーケティングを加速化
  • キャリア採用、成功の要は「体験」にあり

生活者発想を活かした圧倒的クリエイティビティを誇る株式会社 博報堂(本社所在地:東京都港区、代表取締役社長:水島正幸)・株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ(本社所在地:東京都港区、代表取締役社長:矢嶋弘毅)。

消費者の購買行動が変わってきたことでビジネス自体も変化した。現在は、広告制作という領域を超えて、「未来を発明する会社へ。」をビジョンに掲げ、大きな転換期を迎えている。

人材戦略もまた大きな変化の最中にあり、新たな横断組織を発足するなど、積極的なキャリア採用をスタートさせている。今回は、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズおよびグループ内の変化や人材戦略、今後の展望について話を聞いた。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 取締役執行役員 喜多 恭子)


博報堂・博報堂DYメディアパートナーズの過去と未来。インタラクティブ社会で「生活者インターフェース市場」を見据える

――まず、博報堂の過去から現在までのビジネスの歩みについてお聞かせください。

山口 裕史氏(以下、山口氏):1895年、博報堂は紙媒体の広告取次事業からスタートしました。やがて時代の流れとともに広告制作業務が増え、ラジオ、テレビ、インターネットといった媒体の進化に伴い、事業を拡張させてきました。

大きなターニングポイントの一つは、「高度経済成長期」です。当社はテレビの流通に伴い、幅広くビジネスに関わり、広告事業を多角化していったのです。

二つ目のターニングポイントは、博報堂、株式会社大広、株式会社読売広告社が2003年に経営統合し、「株式会社 博報堂DYホールディングス」を設立したことです。このとき、3社のメディア部門を統合し、統合メディア事業会社「株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ」も発足しています。

博報堂DYホールディングスは、経営統合やM&Aなどのさまざまな形で拡大して、今では400社以上のグループとなり、およそ2万5,000名以上の社員が在籍するまでに成長しました。

経営、事業から社会課題に至るまで、あらゆる領域をカバーするグループ会社が、クライアントの課題解決につながる統合マーケティング・ソリューションを提供する体制を築いたのです。

――ターニングポイントを経て成長を続けてきた博報堂・博報堂DYメディアパートナーズですが、現在はどのようなステージにいらっしゃるのでしょうか。

山口氏:企業と生活者のつながりが一方通行だったこれまでとは違い、今はインタラクティブ(双方向的)になっています。例えば、テレビCMを作っても、「誰が見たのか分からない」、「どういう人がそのCMを見て、商品購買に至ったのかが不明だ」といった側面がありましたが、今ではそれらの課題をデジタルで補足できるようになりました。これは大きな変化と言えます。

テクノロジーの進化によってあらゆるモノがつながり、生活者のライフスタイルそのものが変わってきています。産業や社会の仕組みの変化が生じ、生活者を取り巻く接点が増えることで、新たな市場も生まれています。

私たちはこれを「生活者インターフェース市場」と呼んでいて、この変化はビジネスチャンスであると考えています。生活者のニーズを把握、施策の最適化、価値提供というサイクルを実践するために、マーケティング領域を拡張し、「フルファネル」(一気通貫で行うマーケティング施策)で行う必要があります。

博報堂では「‟生活者データ・ドリブン”フルファネルマーケティング」と名づけ、「生活者発想」に基づくマーケティングを目指しています。

――マーケティングの実践領域の拡張について、具体的な例を教えてください。

山口氏:多くの企業が「B to C」のEC事業に参入していますが、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズでは、事業そのものを請け負い、商品開発や広告戦略などはもちろん、物流についてもバックアップするケースが増えてきています。

これまで広告会社は、プロモーションなどの「マーケティング・コミュニケーション」の領域を得意としてきましたが、それ以外にも、データを通じて生活者のインサイトを読み解き、戦略と戦術を導くことが今後のテーマです。


博報堂の人材戦略のいま。「採用マーケティング」とは

――続いて、人事領域についてのお話を伺います。経営環境の変化に伴って、採用や人材戦略の変化はありましたか?

山口氏:先述した「‟生活者データ・ドリブン”フルファネルマーケティング」やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するに当たり、2021年に社内の横断戦略組織として、「HAKUHODO DX_UNITED」が発足しました。キャリア採用と社内からの抜擢(ばってき)・登用を並行して行い、この組織に専門人材を集めています。

この3年間でキャリア採用を通じて、マーケティング関連のDX推進を担う専門人材を外部から迎え、チームを増強する取り組みを推進してきました。

また、採用に関しては、「採用マーケティング」を実装して、候補者体験の向上を目指しています。具体的には、採用フェーズごとの課題抽出と打ち手の構築をスピーディーに行うことで現場と候補者を効率的かつ最適にマッチングする仕組みを構築しました。ほかにも採用に関する大量のトランザクションを処理するシステムや体制を整備したことも大きいです。

さらに、入社後のスムーズな定着と活躍支援を企図したオンボード体制の確立や採用活動、キャリア入社者への理解・共感向上などを通じた全社的な採用活動の活発化を2021年度から本格化させました。

そのため採用チームの体制強化現場の巻き込み力強化(マッチング精度を高める)、採用チャネルの網羅・高度化(リファラル制度の導入・ダイレクトリクルーティングなど)に着手してきました。こちらは各話題で後述させていただきます。

――社内の職種変更の事例もあるそうですね。

山口氏:はい。営業チームのシステムに強い人材がマーケティングシステム部門のスタッフとして職種変更をしたり、データ分析に強い人材が、データサイエンティストとしての歩みをスタートしたりしています。マーケティングの変化に応じて組織やスタッフの在り方が変容し、各チームの専門性を高めつつあります。

さらに、新卒採用とジョブ型のキャリア採用を掛け合わせ、総合的なキャリアを積んでいく人材と専門性のある人材をうまくミックスし、融和しながらチームを組成しています。


「キャリア採用」の急速な拡大。「体験」を重視する受け入れ体制の強化

――続いてキャリア採用について、詳しく伺います。さきほど、直近の3年間で専門的なスキルを持った人材を外部から迎えたとおっしゃっていましたが、どのような職種の採用を何人ほど強化されたのでしょうか。

山口氏:以前は年間で数十人程度だったキャリア採用ですが、2021年度からキャリア採用が本格化し、2022年度は350人程度にまで増えています

「HAKUHODO DX_UNITED」の発足に伴って、専門性のある人材、エンジニア、データサイエンティストの採用を強化しました。急激に増やしたのではなく、あらかじめしっかりとした組織を作り、新たな人材を迎えるための責任者を置き、土壌を整えてからキャリア採用を本格化したという流れです。

――キャリア採用を本格化するにあたり、どんな準備をしたのでしょうか。

山口氏:例えば、キャリア採用の人材を現場で受け入れるために、オンボーディング(入社後のプログラム)の施策を変更したり、社内システムの使い方を整備したり、組織の基礎情報を分かりやすく整理したりしました。

当社はプロジェクト単位で動くことが多いので、適切なチームを組成するためには、社内にどういうスタッフがいて、どういう強みがあるのかを基礎情報として知る必要があったのです。

――キャリア採用の社員がスムーズに組織に溶け込むためにどんな取り組みをしていますか。

山口氏:ビジネスは、人が交差するところで生まれます。社内ネットワークを加速させるための取り組みにも重きを置き、ワークショップを実施したり、懇談会を開いたりといった地道なことも大切にしています。

――採用前後のプロセスにおいて注力していることや意識していることはありますか。

山口氏:「体験」ですね。採用候補者の方に会社のことをよく知ってもらい、好きになってもらう。入社から活躍までの一連のプロセスにおいて、「体験」が向上するようチームで取り組んでいます。

その点では、採用とマーケティングには共通点があるのではないかと思います。

――今「体験」というキーワードがありましたが、候補者の体験向上のために行った事例があれば教えてください。

山口氏:ともすると、面接は企業側が候補者の方を「見極める」というような、一方通行のコミュニケーションになってしまうことがあるかもしれません。しかし、両者は対等な関係です。

当社のキャリア採用には、人事担当者だけでなく受け入れの部門も関わりますので、「候補者の方と会社側は対等だ」という社内の意識醸成から始めました。

こちらからは必要な情報を伝え、候補者の方にも等身大でお話をしてもらうために、お互いにきちんと向き合うことに重きを置くようになりました。

――受け入れる部署もキャリア採用に関わるのですね。

山口氏:はい。私たちの採用では、人事と現場とで連携して採用活動を行っています。

内定後のオファー段階では、人事が制度の説明や報酬体系などの条件、会社の魅力を伝えるアトラクト資料を用意して候補者の方に向き合うのですが、入社前面談では、現場社員に自部署の魅力を改めて伝えてもらうように準備をお願いしています。

現場側にも主導権を持ってもらい、採用から入社、入社からその後のオンボードまで、しっかり人事と並走するわけです。

――候補者ときちんと向き合うためには、面接官のトレーニングが必要になるのでしょうか。

山口氏:ある程度の型は必要です。しかし、トレーニングをし過ぎて型にはまり過ぎても、それは候補者の方に伝わってしまいます。最終的なゴール設定と、最低限押さえてほしいことをあらかじめ設定し、対話重視の面接をしています。

当社はそのようなコミュニケーションを得意とする社員が多いので、ある程度アウトラインを伝えておくと、その形に沿って、個々のやり方でうまく対話をしています。ゴール設定をしたことで、相互の「体験」の幅が広くなりました。

――博報堂と博報堂DYメディアパートナーズの採用専門組織として、「タレントアクイジション局」を2022年に新設されていますね。経営サイドも採用活動に積極的な印象を受けます。

山口氏:2021年からキャリア採用を強化していますが、さらに加速させるために2022年には「タレントアクイジション局」を新設し、人事側の採用担当の強化を進めています。

具体的には、マーケティングDXとメディアDXを推進する「HAKUHODO DX_UNITED」の発足、フロントライン強化、バックオフィスの強化など、経営側が取り組む複数のテーマがあります。人事側からは現場も一体型で採用をしていくというメッセージを社内に向けて地道に出し続けて、少しずつ浸透していきました。

キャリア採用担当者は数人しかいませんでしたが、現場の前線から精鋭メンバーを迎え、採用チームの強化を進めました。この動きは、社内的にもインパクトがあったと思います。

――博報堂・博報堂DYメディアパートナーズが転換期にある中で、人事施策も変化しています。逆に変わらないこともあるのでしょうか。

山口氏:当社の場合、仕事内容が定型化されているわけではありません。月並みな表現ではありますが、「人が資産であること」は変わらないことです。

私たち人事の役割は、採用、育成、活躍の道筋を作ることを真ん中に置き、そこに対してアプローチしていくことだと思っています。働く個人や組織の成長によって、多種多様な仕事が生み出されていくサイクルが、この会社にとって重要なことだと位置付けています。


キャリア採用後の「オンボーディング」で重視している、博報堂のカルチャーフィット

――キャリア採用のオンボーディングで注力していることを教えてください。

山口氏:入社後は、まず3日間の導入研修があるのですが、そこで当社のカルチャーやビジネスに関する情報を凝縮して伝え、博報堂という「場」を体験してもらう形へと、研修の内容をアップデートしました。

博報堂では、人材を「粒ぞろいより、粒違い」という言葉で表しており、互いの個性を認め合い、高め合う土壌があります。採用後のオンボードではそれを実感してもらう機会もワークショップの中に取り入れています。キャリア採用で入社した人の困りごとや必要な情報を、上長やトレーナーに共有することもしています。

「博報堂・博報堂DYメディアパートナーズは新卒入社が中心」というイメージがいまだに強いので、キャリア採用で入社した方が「歓迎されている」と感じられるよう、入社セレモニーを行い、社長メッセージなどを伝えています。

さらに、入社後や定着のタイミングなど、折に触れてアンケートを取り、本人や上長からコメントをもらい、「施策として何が必要か」ということにもつなげています。

――各個細やかな取り組みを積み重ねているのですね。入社した社員からは、具体的にどんな声があるのでしょうか。

山口氏:以前の導入研修は座学中心でしたが、横のつながりを作ったり、カルチャーを感じてもらったりするべく、研修内容をブラッシュアップしました。内容を刷新してからは「面白かった」「思っていたより手厚い」という反響が増えました。

特に、私たちのカルチャーは打ち合わせの内容や仕事の進め方一つとっても、特殊に感じられることがあると思います。それを現場着任前に体感していただくために、DNA・カルチャー・歴史を伝える講義や「博報堂のすごい打ち合わせ」(SBクリエイティブ/2017年)という書籍の執筆者が講義をするのですが、大変評判がいいんです。

なるべく入社後のギャップが少なくなるよう、あらゆる方法でカルチャーを感じてもらうように組み立てています。


一人一人が多種多様な個性と強みを発揮する博報堂の今後の展望は?

――引き続きキャリア採用に注力されると思いますが、人材採用において、今後強化していこうと考えていることはありますか。

山口氏:先ほど、採用とマーケティングは類似しているとお話ししましたが、現在どこに課題があって、それに対して必要な施策は何か、という発想で採用活動を行っています。

また、面接官、候補者の方、入社後の社員から寄せられた声や課題点をつぶさに見て、今後の候補者、社員の体験を活かすための取り組みも多角的に行っていきます。

――最後の質問です。人事という立場から博報堂・博報堂DYメディアパートナーズの今後の展望について教えてください。

山口氏:魅力的な人がたくさんいることが、私たちの誇りであり、さまざまな社員が多種多様な個性と強みを発揮しています。それぞれを認め合い、相互に高め合う関係値があります。

その関係値の中で自分を成長させ、相手の成長にも寄与することが、個々のモチベーションにつながっていくと思いますし、その考え方を社員間で共有することが大切だと考えています。

今後も、成長の可能性に満ちあふれた会社にしたいと考えております。社員、採用候補者の方、ステークホルダーの皆さまにもそう感じていただけるよう、人事の施策・制度をさらに練っていきたい――、そのように思います。

――ありがとうございました。

【取材後記】

博報堂・博報堂DYパートナーズは、商品やサービスを買う人のことを「消費者」ではなく、多様化した社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として、さまざまな視点から見つめている。生活者をより深く理解した上で施策につなげていくためには、創造性と専門性を持った人材が必要となる。今回お話を伺ったような人事領域の転換点を経て、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズは今後も変化を加速させていくのだろう。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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