The only way to Innovation~辺境にいる異才をスカウトし、出島で自由に活躍させよ!

神戸大学大学院 経営学研究科

教授 三品 和広(みしな かずひろ)

専攻分野は経営戦略、経営者論。1984年、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、1989年、米国ハーバード大学文理大学院博士課程修了、Ph.D.(企業経済学・ハーバード大学)。ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授を経て、2004年より現職。著書に『経営戦略の実戦13』、『戦略暴走』『リ・インベンション』『デジタルエコノミーと経営の未来』(山口 重樹氏と共著)など。

インベンションでは、イノベーションは起こせない
フォードとジョブズに学ぶイノベーションの本質
アウトローはどこにいるのか
求められる二正面作戦

20世紀から21世紀へ。世紀の変わり目は、明らかなパラダイムシフトを引き起こしました。いま日本に何より求められるのは、技術だけを追い求めていたモノづくり大国からの脱皮。イノベーションなくして生き残ることは難しいと、覚悟を改めなければなりません。

では、イノベーションを起こせる人材は、どこにいるのでしょうか。従来とは異なる価値観を自社に持ち込む、そんな人材こそがイノベーターだとすると、それを社内に求めるのは論理的に矛盾しています。

イノベーションリーダーは、常に辺境に現れる。これが神戸大学大学院経営学研究科において長年、帰納的戦略論研究に携わってきた三品和広教授の主張です。改めてイノベーションの本質とは何か、どのような人材がイノベーションを起こせるのか。さらには、従来型の企業がイノベーションリーダーを取り込む術について、三品先生にお話を伺いました。

インベンションでは、イノベーションは起こせない

はじめにイノベーションの定義を教えてください。イノベーションというと、画期的な技術革新などの意味合いで使われている印象があるのですが。

ンベンションでは、イノベーションは起こせない

三品氏:イノベーションを技術革新と捉えるのは、日本で横行している間違った解釈です。イノベーションという言葉を初めて使ったヨーゼフ・アロイス・シュンペーター氏によれば、その定義は「既にあるものの新たな組み合わせ」です。何もないところから何かを新たにつくるのは発明、すなわちインベンションです。インベンションではなく、新たにイノベーションという言葉をあえて提唱したシュンペーターの意図を、いま一度考え直してみるべきでしょう。

インベンションとイノベーションは、まったく異なる概念なわけですね。

三品氏:そのとおり。技術革新と区別するために、私は敢えてイノベーションの原義をリ・インベンションと呼んでいます。インベンションはあくまで技術の話であり、イノベーションにおいて技術的に新たな要素はまったく必要ありません。着目すべきは、技術ではなく需要です。潜在的需要があるにもかかわらず、誰も気付かないため満たされないまま放置されている需要が、世の中にはあります。そんなニーズを満たす製品なりサービスなりが提供されれば、誰もが欲しくなる。これがイノベーションの本質です。

モノづくりが重視されてきた日本では、馴染みのない考え方のようです。

三品氏:だからこそ、これからの日本にはイノベーションが必要なのです。少し考えれば予想がつくはずですが、これから先も日本はモノづくりだけで戦っていけるでしょうか。科学技術が発達して経済がグローバル化した今では、どのような素晴らしい材料でも、お金を出しさえすれば手に入ります。モノづくりに必要な機械も同様で、性能の良い機械がいくらでも出回っている。だから、かつて品質に関して世界一うるさいと言われた日本人が、Made in ChinaのiPhoneに対して、誰一人として文句を言わないのではないですか。いつまでもモノづくり、インベンションだけで勝負しようとするなら、日本の先行きは決して明るいとは言えないでしょう。

これからの日本にはイノベーションが欠かせないと。

三品氏:つくるべきはモノではなく、新しい価値観です。新しい枠組みと言ってもいいし、新しいルールともいえる。それらを世の中に提供し、新しい市場を創出しなければならない。ところが20世紀の日本は、モノづくりで世界のトップに君臨してしまったがために、21世紀に入って急速に厳しい状況に陥りつつあるのではないでしょうか。

つくるべきはモノではなく、新しい価値観

フォードとジョブズに学ぶイノベーションの本質

イノベーションを起こすのはどのような人物なのでしょう。

三品氏:間違いなく言えるのが、研究所にこもっているような人物ではないことです。イノベーターにはモノをつくる能力や技術の素養など、まったく必要ありません。一方で絶対条件となるのが、世の中に対する観察眼の鋭さです。まだ誰も気付いていない、満たされていない需要に、誰よりも先に気が付ける人。T型フォードを出したヘンリー・フォード氏などは典型的なイノベーターです。

フォードと言えば、自動車を発明した人物だと思っていました。

三品氏:自動車を技術の観点で捉えるなら、その根幹となるエンジンを発明したのはカール・ベンツ氏です。ベンツがつくりだした内燃機関は、まさに技術革新でありインベンションと呼ぶにふさわしい。けれども、実際に『自動車社会』を創出したのはフォード、だから彼はイノベーターなのです。ヨーロッパでは貴族の馬車の延長線上に、自動車が位置付けられました。これは従来のニーズ、つまり楽に移動する手段を馬から自動車に代替しただけです。けれども、フォードは農家の生活を根底から変える道具として自動車を位置付けました。荷物を運ぶ自動車があれば、農家の人たちの仕事のやり方から生活まですべてが、以前とは根底から異なったものとなる。フォードは、農家の人たちが気付いていなかった潜在ニーズをすくい上げたのです。だからアメリカでT型フォードは爆発的に普及し、アメリカの人々の生活を一変させました。

生活を変えたといえば、スマートフォンもまさにそうですね。

三品氏:フォードと並ぶイノベーターが、スティーブ・ジョブズ氏でしょう。彼はMacintoshコンピュータ、iPod、さらにiPhoneを世に出したことで、人々の暮らしを一変させました。けれども、これらの中に技術面で革新的な製品は一つもありません。Macintoshコンピュータの前にIBM PCがあり、iPodにはウォークマン、iPhoneには携帯電話が既に存在していたのです。

ジョブズのすごさは、何だったのでしょうか。

三品氏:「これおかしい、何か違うよ」と主張し、誰もが当たり前として受け入れている前提を、ゼロベースで捉え直して声を上げたこと。その際に忘れてはならないのが、彼が決して世の中の真ん中にいなかった事実です。ジョブズの父親はシリア人で母親は大学院生だったため、生まれるなり養子に出されてしまった。そうした出自ゆえに彼は悩み続け、インド哲学に傾倒したり、日本の禅にはまったりした結果、既存の枠組みにまったく頓着しない人物に育ったのです。

既成の秩序の中に安住している人物では、イノベーションを起こせない?

三品氏:イノベーションを起こす人とは、今あるルールや秩序そのものをおかしいと考える視点を持ち得る人です。ある意味アウトローが、シュンペーターの言う創造的破壊を起こせる。たとえるなら、18歳の時点で「受験制度っておかしいんじゃないのか。何も考えずに大学に進んで良いのか」ぐらいのことを言い出す人でしょう。

フォードとジョブズに学ぶイノベーションの本質

アウトローはどこにいるのか

良い大学に入り、良い成績を収めてきた、いわゆる優秀な人材がイノベーションを起こすのは難しいのですね。

三品氏:既存の秩序に対して何の疑問も持たずに生きてきた人に、その枠組みの外側から物事を見つめ直せ、と強いるのはほとんど不可能な課題でしょう。モノづくりだけでよかった時代なら、リバースエンジニアリングを徹底して改善・改良を突き詰めるために優秀な人材が必要でした。けれども、そうしたモノづくりとイノベーションには、本質的な違いがあります。

だからこそ従来とは異なる人材、つまり先生のおっしゃるイノベーションリーダーが必要だと。

三品氏:イノベーターは既存秩序の破壊者なのです。親や先生から「いい子だね」と育てられた人は、まずイノベーターにはなれない。アウトローこそがイノベーターになれる。そういう意味では、イノベーションリーダーはマイノリティーのいる辺境から登場すると言ってもよいでしょう。日本にもかつてはイノベーターがいました。父親が米の投機に手を出して全財産を失い、和歌山から大阪に夜逃げをしてきたのが松下幸之助さんで、本田宗一郎さんは浜松の片田舎にいました。孫正義さんにしても佐賀県の鳥栖市出身ではないですか。

就活に打ち込む、いわゆるまじめな学生たちとは、かなり毛色の異なる人材に思えます。

三品氏:そのとおりです。だから危機感を覚えるのです。最近の大学を見ていると、まじめな学生は大学に通いながら地方公務員受験の勉強に力を入れており、そこまでがんばりきれない残りの多数が大企業に流れています。

だとすれば大企業に来るのは、イノベーションを起こせる人材ではないのですか。

三品氏:そもそも大企業を志向する時点で、イノベーティブではないわけです。腕に覚えがあり自信を持っている学生たちは、最初からベンチャーや外資系企業に行ったり、自分で起業したりするケースも増えつつあります。イノベーティブではない人たち、つまりは既存の秩序に対して異議申し立てなどをしない人たちだからこそ、大企業という既存の枠組みの中でうまくやっていける。仮にそんな人たちを集めて、社内ベンチャーをやらせたところでイノベーションを起こせるとは思えません。

アウトローはどこにいるのか

求められる二正面作戦

日本がだめになる一方だというわけではないと思いたいです。

三品氏:もちろん、希望はあります。日本にもイノベーション予備軍、既存の枠組みから外れてしまった人たちはたくさんいます。最近、脚光を浴び始めている氷河期世代がそうでしょうし、フリーターにも期待できます。彼らは世の中の底辺にいて「これはおかしいんじゃないのか」という思いを散々しているはずです。

とは言え、単純にそんな人たちを集めてくればイノベーションが起こるとも思えませんが。

三品氏:当然です。異能人材を見つけたからといって、社内に取り込んでしまっては宝の持ち腐れ、異才を発揮できなくなる。思い出してほしいのが、ラグビーワールドカップで大活躍した日本チームです。オールジャパンといいながら、外国籍の選手が何人いましたか。助っ人として異才を持つ人材を集めて、従来の組織とは考え方がまったく別のチームを立ち上げれば良いのです。その際に大切なのは、助っ人は完全に別枠とし、待遇も別扱いとすること。数年だけの特別契約社員とし、結果を出せなければただちに契約を打ち切るぐらいの緊張感があった方がよい。

受け入れる企業からすれば、既存社員との整合性に問題が起こりそうです。

三品氏:そこはマネジメントを明確に切り分ける必要があります。従来どおり、改善・改良を尽くしてモノづくりに取り組む国産部隊も大切にする一方で、傭兵(ようへい)軍団は自由に活動させる。助っ人たちは出島にいてもらえばよい。

GAFA(※)などがやっているスタートアップの買収のようなものでしょうか。
※GAFAとは、さまざまなプラットフォームから膨大なパーソナルデータを収集しているIT企業を指す。「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字を集めた呼称のこと

三品氏:彼らは、巧みです。スタートアップの技術を買いながら、同時に人材も買い取っている。だからといって、社内に取り込んでしまうのではなく、出島で自由に活動させながら、自分たちに必要な技術だけはしっかり取り込んでいる。買収先を自社文化に一律に染めようとする日本流のM&Aとは、考え方がまったく異なります。

ダイバーシティの重要性が叫ばれているのも、イノベーションを視野に入れているからでしょう。

三品氏:そうだと思います。ただし、日本企業で多様性というときは、単なる女性や外国人の活用などと表層的に考えがちですから注意が必要です。人事あるいは採用担当の方が心すべきは、たとえ外国人だとしても、自社の価値観に共鳴してくる人は、自社にとってのイノベーティブ人材ではないということです。

あくまでも、自社の既存の価値観とは異なる人材、だからこそ採用後も社内に取り込まず、出島を活躍の場とすべきなのですね。

三品氏:今の企業は、正規社員と非正規社員の2制度から成り立っていますが、これに出島部隊という3つ目の制度をつくってはどうでしょうか。出島人材の採用には、既存の人事部が関わらない方がよいでしょう。これまでとはまったく異なる価値観を採用基準に据えるには、採用も外部人材に任せた方がよい。今後は、そうした異能人材を見つけてくる専門のスカウトが必要であり、プロスカウトの育成も日本にとって喫緊の課題だと思います。

求められる二正面作戦

【編集後記】

イノベーションとインベンションは違う。技術革新こそがイノベーションにつながる。自分を含め多くの人が誤解している事実を、改めて考えさせられました。注目すべきは技術ではなく、価値観である。それも生活を一変させるような新たな価値の提供と言われると、改めてジョブズの偉大さを思わずにはいられません。スマホは確かに、私たちの生活を一変させました。いま電車に乗れば、スマホを見ていない人が珍しいほどです。同調圧力が強い日本だからこそ、辺境にいるイノベーター予備軍の発掘が重要。今後の日本にとって喫緊の課題だと感じました。

(取材・文/竹林 篤実、撮影/MIKIKO、編集/竹林 篤実、齋藤 裕美子)