【2020年】完全失業率とは?計算方法は?グラフの推移で読み解く上昇の原因と影響

d’s JOURNAL編集部

労働人口に占める完全失業者の割合を表す、完全失業率。完全失業率はどのように推移し、現在はどの程度の値となっているのでしょうか。完全失業率の変動による企業への影響や、完全失業率と有効求人倍率との関係について、知りたいという方もいるかもしれません。今回は完全失業率の定義や計算式、完全失業率が上昇する原因、企業に与える影響などについて、平成から現在までの完全失業率の推移を踏まえながら解説していきます。

完全失業率とは

完全失業率(失業率)とは、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)に占める完全失業者の割合のこと。国内の雇用情勢を示す重要指標の一つです。最新の完全失業率については、総務省が毎月発表する『労働力調査』で確認できます。

完全失業率の変動は景気動向を示すことから、経済政策を判断するための重要な指標となります。複数ある景気動向指数の中では、実際の景気動向に比べて遅れて変動し、景気の転換点を確認する指数である「遅行指数」として位置付けられています。また、景気の動きに対し、反対の方向に動く「逆サイクル」の一つとも言われています。英語では、「Total unemployment rate 」と表記されているようです。

完全失業率と自然失業率の違い

自然失業率とは、景気の動向やインフレなどに左右されることなく、労働人口において必ず存在する失業者の割合のこと。景気によって変動しないという点で、完全失業率とは異なります。

自然失業率は常に一定の割合で見受けられ、完全に解消することはできないとされているため、完全失業率を低くするためには、自然失業率を抑えることが必要です。

失業の背景は主に3つの要因がある

失業が発生する背景には、主に3つの要因があると言われています。失業の種類を要因別に見ていきましょう。

失業の種類 意味・状態
①需要不足失業(循環的失業) 景気の悪化による労働力需要の減少で生じる
②構造的失業 労使間の供給バランスの崩れによる生じる
③摩擦的失業 転職や就職期間に時間を要するために生じる

①需要不足失業(循環的失業)

「需要不足失業」とは、景気後退に伴い、雇用の受け皿となる労働力需要が減少することによって生じる失業のこと。一般的に、労働力需要は景気の良しあしに比例するとされています。そのため、需要不足失業は景気が良いと減少し、景気が悪くなると上昇します。

②構造的失業

構造的失業とは、企業が求職者に求める「スキル」「性別」「年齢」といった特性と、実際の求職者の特性が異なることにより生じる失業です。企業が求職者に求める条件と、求職者が企業に求める条件がマッチしないと雇用に結び付かないため、構造的失業が発生します。

③摩擦的失業

摩擦的失業とは、労働者が就職や転職など、新たに職探しを行う期間に生じる失業です。求職者は「能力・スキル」「待遇」などの条件の下に求職活動を行いますが、条件に見合った職場を探すためには、一定の時間がかかります。また、採用に至るまでには書類審査や面接などの時間が必要になるため、一定期間、失業状態となります。

なお、摩擦的失業と構造的失業は相互の関連性が高いため、両者をひとくくりにして考える場合もあります。

完全失業率の計算式は<完全失業者>÷<労働力人口>×100

完全失業率は、<完全失業者>÷<労働力人口>×100で求められます。完全失業率を算出する基準となる「労働力人口」と「完全失業者」の定義についてご紹介します。

労働力人口の対象

総務省統計局では労働力調査にあたり、15歳以上の人口を、以下のように「労働力人口」と「非労働力人口」に分けています。

労働力人口の対象

このうち、非労働力人口には「学生」や「専業主婦」「高齢者」が該当します。一方、労働力人口は、15歳以上の人口のうち「就業者」と「完全失業者」を合わせたものです。そして、就業者には「従業者」および「休業者」が含まれます。
(参考:総務省統計局『労働力調査 用語の解説』)

完全失業者の対象

「完全失業者」とは、15歳以上の人口のうち、次の3要件を全て満たす状態の人を指します。

(1)仕事がなく、調査週間中まったく仕事をしていない。(就業者ではない)
(2)仕事があればすぐに就くことができる。
(3)調査期間中、仕事を探す活動や事業を始める準備をしている。(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)

つまり、仕事をする意欲があり仕事を探しているものの、その時点で実際には就業していない人が対象となります。
(参考:総務省統計局『労働力調査 用語の解説』)

日本における完全失業率の推移―数値をグラフで振り返る

日本における完全失業率は、どのように推移しているのでしょうか。

完全失業率の推移:1989~2018年

総務省統計局が毎月実施している『労働力調査』では、月ごとの完全失業率の推移が確認できます。下のグラフは、1989年から2018年の各年度における1、5、9月時点での、年齢階級別の完全失業率を示したものです。

「年齢階級別完全失業率の推移(平成元年~30年)」
「年齢階級別完全失業率の推移(平成元年~30年)」

(参考:総務省統計局『統計トピックスNo.119統計が語る平成のあゆみ|3.経済|デフレの時代から景気回復へ』図12)

完全失業率はバブル崩壊後から上昇傾向となり、2002・2003・2009年に、過去最高の5.5%を記録しています。その後、減少傾向となりましたが、2011年には東日本大震災の影響を受け、一時的に上昇しました。2018年5月には、バブル期と同水準の2.3%まで低下しています。どの年代においても同様の傾向で推移していますが、他の世代に比べ、若年世代の完全失業率は特に高い傾向となっていることが見て取れます。

リーマンショック前後の動向:2006~2012年

完全失業率が特に大きく変動した時期に焦点を当てて、振り返ってみましょう。下のグラフは、総務省労働局の『労働力調査』を基に、2006年から2012年にかけての完全失業率の季節調整値を示したものです。季節調整値とは、定年退職や雇用契約の満了など、その時期に行われる傾向のあるイベントによる影響を差し引いて算出した値のこと。前月からの変化を正確に捉えることを目的とした指標です。

リーマンショック前後の動向:2006~2012年

(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『リーマンショック前後の動向(2006年~2012年)』)

リーマンショックにより、日本経済も大きな影響を受けました。リーマンショック以前の2006年から2008年にかけては、国内の完全失業率には大きな増減がなく、3.5~4.0%の間で推移しています。しかし、リーマンショックが起きた2008年9月を契機として、男女共に完全失業率が急速に上昇し、翌年の2009年には、一時5.5%を記録しました。この5.5%をピークとして、2012年にかけては徐々に低下していることがわかります。ただ、その下降曲線は緩やかで、リーマンショック後からの日本経済の低迷を反映していることがうかがえます。

2019年完全失業率の調査結果

総務省統計局の『労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約』と『労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)9月分結果』を基に、2019年の完全失業率について見ていきましょう。2019年の調査によると、完全失業率の平均値は2018年と同率の2.4%でした。ここからは、性別や年齢などさまざまな視点でご紹介します。

男女別

2019年の完全失業率を男女別のグラフで見ると、男性は2.5%(前年比0.1%低下)、女性は2.2%(前年と同率)、男女のポイント差は0.3%でした。前年までと同様に、男性よりも女性の失業率が低い傾向となっていることがわかります。

2019年の完全失業率を男女別

(参考:『労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約』P14)

年齢別

年齢別の失業率は、以下の表のようになっています。

2019年の男女別完全失業率の平均

(%) 総数 15~64歳 15~24歳 25~34歳 35~44歳 45~54歳 55~64歳 65歳以上
男女計

2.4

2.5

3.8

3.2

2.2

2.0

2.1

1.5

2.5

2.6

3.9

3.5

2.1

2.0

2.4

2.0

2.2

2.3

3.7

2.9

2.1

1.9

1.9

0.8

(参考:総務省統計局『労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約』P14より一部データを抜粋して作成)

15~34歳の若年層では、35歳以上の年齢層より完全失業率が高くなっています。先ほどご紹介したグラフと同様に、若年層の完全失業率が他の年齢層と比べて高い傾向が続いていることがわかります。若年層ほど現状と比べ、より好条件を求めて離職する傾向にあるため、このような状況になっていると考えられます。

地域別

完全失業率の推移を地域別に見ると、「北海道」「南関東」「北陸」「近畿」「沖縄」の5地域では前年よりも低下していることがわかります。また、「東北」「中国」の2地域では前年と同率でした。一方、「北関東」「甲信」「東海」「四国」「九州」の5地域では、前年より上昇しています。

完全失業率推移地域別

(参考:総務省統計局『労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約』P19)

各地域の2019年における完全失業率は、次の通りです。

2019年における各地域の年間平均失業率

地域 北海道 東北 南関東 北関東・甲信 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 沖縄
完全失業率(%)

2.6

2.5

2.3

2.3

1.9

1.9

2.6

2.4

2.3

2.7

2.7

(参考:『労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約』P19を基に作成)

完全失業率が最も低いのは「東海」と「北陸」地域で1.9%、最も高いのは「九州」「沖縄」地域で2.7%でした。各地域間に大きな差は見られず、いずれも1%~2%台となっています。

国別

主要各国と日本における完全失業率を見てみましょう。

2015~2019年における各国の平均完全失業率の推移

(%) 日本 韓国 アメリカ カナダ イギリス ドイツ イタリア フランス
2015

3.4

3.6

5.3

6.9

5.4

4.8

11.9

10.4

2016

3.1

3.7

4.9

7.0

4.9

4.1

11.7

10.0

2017

2.8

3.7

4.4

6.3

4.4

3.8

11.2

9.4

2018

2.4

3.8

3.9

5.8

4.1

3.4

10.6

9.0

2019

2.4

3.8

3.7

5.7

3.8

3.1

10.0

8.4

(参考:総務所統計局『労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)9月分結果』主要国のデータを基に作成)

資料によると、最も高かったのがイタリアで10.0%、次いでフランスが8.4%となっています。これに対し、日本は2.4%と他国に比べて低い水準となっています。また、どの国でも2018年と同じか低下しているため、世界的に見て経済活動が活発化していることがうかがえます。

2020年完全失業率の調査結果(2020年9月時点)

総務省統計局が2020年10月末に発表した『労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)9月分結果』を基に、2020年における日本と各国の完全失業率の状況を見ていきましょう。速報によると、同年9月時点での日本の完全失業率は3.0%で前月と同率でした。

年平均 月次(季節調整値)
2017年 2018年 2019年 2020年6月 2020年7月 2020年8月 2020年9月
完全失業率 2.8% 2.4% 2.4% 2.8% 2.9% 3.0% 3.0%

(参考:総務省統計局『労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)9月分結果』)

季節調整値を見ると、完全失業者数は8カ月連続で増加しており206万人。前月に比べ1万人(0.5%)の増加です。離職理由別では、「勤務先や事業都合による離職」が6万人(10.2%)の増加、「自発的な離職(自己都合)」が3万人(4.2%)の増加となり、「新たに求職」は2万人(3.8%)減少しています。

季節調整値

(参考:総務省統計局『労働力調査 (基本集計) 2020年(令和2年)9月分』P5)

2020年における失業者数の前年同月比と完全失業率の推移

次のグラフは、完全失業者数を前年の同月と比べた場合の増減数と、完全失業率の推移を示したものです。

完全失業率の推移

(参考:総務省統計局『労働力調査 (基本集計) 2020年(令和2年)9月分』P1)

失業者数は2020年1月までは前年の同月よりも減少傾向が続いていましたが、2020年2月以降、前年同月よりも増加に転じていることがわかります。特に4月以降は増加数が急増し、8月には前年比60万人増に迫る勢いとなっています。また、失業者数の増加に合わせるように、完全失業率も上昇傾向です。
(参考:総務省統計局『労働力調査 (基本集計) 2020年(令和2年)9月分』P1)

2020年・男女別完全失業率

男女別に2020年9月時点の完全失業者を見ると、男性は3.2%(前月比+0.2%)、女性は2.7%(前月比-0.2%)でした。2019年から2020年にかけての完全失業率の推移を男女別に見ると、以下のグラフの通りとなります。

男女別完全失業率

(参考:総務省統計局『労働力調査 (基本集計) 2020年(令和2年)9月分』P5)

完全失業率を性別で見ると、男性と女性の完全失業率は同じように推移していますが、男性が女性に比べてどの月も高い傾向にあります。2020年8月から9月にかけては、8月時点ではほぼ同率だった失業率が、男性は前月より増加し、女性は低下しています。

2020年・年齢別失業率

年齢階級に分けて、完全失業率を比較した下の表を見ていきましょう。

年齢別失業率

(参考:総務省統計局『労働力調査 (基本集計) 2020年(令和2年)9月分』P5)

年齢層別では、「15~24歳」が4.3%、「25~34歳」が4.8%と、他の年代よりも高いことがわかります。また、「25~34歳」「55~64歳」「65歳以上」の3階級の完全失業率は、前月よりも増加傾向です。

2020年・国別完全失業率の推移

独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表したデータに基づき、2020年における完全失業率を国別に見てみましょう。

「完全失業率(月次、季節調整済)」

完全失業率(月次、季節調整済)

(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『国際比較統計:完全失業率』)

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した2020年初頭以来、各国の完全失業率は小幅な増減を繰り返しながら、全体的に横ばい、または微増傾向となっています。アメリカでは、3月から4月にかけて急速な上昇が見られ、その後下降に転じましたが、2020年3月以前と比べると3%ほど数値が上昇しています。

なぜ完全失業率が上がるのか?考えられる3つの原因

完全失業率は、さまざまな要因により上昇するとされています。完全失業率が上昇する3つの原因をご紹介します。

①景気の悪化

これまで見てきたように、景気が急速に悪化する局面では、それに伴い完全失業率が上昇する傾向にあります。景気が悪化すると、業務を縮小する企業が多いため、新たに必要となるポスト数が少なくなります。ポストが少ないと、職に就けない求職者が増加するため、完全失業率が増加します。そうした状況が続くことにより、失業の長期化につながると考えられます。

②労働需給ミスマッチの拡大

一般的に、産業構造や職業構造が変化すると労働力の余剰が発生するため、失業や就職難が生じやすいです。一方で、産業や職業によっては、労働力不足となる所もあります。このように、何らかの原因で労働市場にミスマッチが生じると、景気循環とは無関係に失業率が上昇する可能性があると考えられます。日本では2008年のリーマンショック以降、この要因による長期失業者が増加傾向にあると言われています。

③労働力人口の減少

労働力人口は完全失業率を計算する際の母数であるため、労働力人口の減少も、完全失業率が増加する要因の一つです。日本では労働力人口が減少の一途をたどっているため、今後も完全失業率は低下しづらいと予想できます。労働人口の減少による失業率の増加は、景気とは無関係に生じます。

完全失業率が上がると有効求人倍率が下がる?

有効求人倍率とは、企業からの求人数(有効求人数)を公共職業安定所(ハローワーク)に登録している求職者(有効求職者数)で割った値のこと。求職者1人につき、何人の求人があったかを示します。雇用状況から景気を判断するための経済指標として重要なもので、厚生労働省が毎月公表しています。

有効求人倍率の数字は、求人数が求職者数より多いときは1を上回り、求人数が求職者数より少ないときは1を下回ります。

有効求人倍率と完全失業率が、どのような関係にあるのかをご紹介します。

グラフで見る1948~2019年 年平均推移

下のグラフは、総務省の『労働力調査』と厚生労働省の『職業安定業務統計』を基に、独立行政法人労働政策研究・研修機構が作成したものです。完全失業率は「職を探している状態の人」の割合を、有効求人倍率は「求人数に対するポストの数」を表します。

「完全失業率、有効求人倍率 1948~2019年 年平均」

完全失業率、有効求人倍率 1948~2019年 年平均

(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『図1 完全失業率、有効求人倍率|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)』)

棒グラフは完全失業率の推移を、折れ線グラフは有効求人倍率の推移を表しています。2つのグラフの推移を見ると、完全失業率が高くなると有効求人倍率は低くなり、完全失業率が低くなると有効求人倍率が高くなる傾向にあることがわかります。雇用数は景気状況に応じて変化し、景気が悪いときは雇用数を減らす傾向となります。
この結果、失業者数が増えて完全失業率が上昇し、雇用数を減らすために有効求人倍率が低くなるという仕組みです。

ただし、完全失業率は「遅行指数」であるのに対し、有効求人倍率は景気動向におおむね一致して推移する「一致係数」であるため、両者の推移には時間差が生じがちです。

人手不足と完全失業率の関連性

理論上「人手不足の状態」、つまり有効求人倍率が高い局面では、完全失業率は減少すると考えられます。しかし、必ずしもそのような結果にならない場合もあります。現に景気に関係なく、いつも人手が不足している業種・職種が存在しています。求職者は「勤務地」や「給料」「労働時間」「担当業務」などさまざまな観点から応募先を選ぶため、求職者がどのポストに就こうと思うかは条件次第です。このような企業と求職者の間のミスマッチが解消されなければ、人手不足で有効求人倍率が高い状態にあっても、完全失業率がそれほど減少しない可能性があります。

完全失業率がもたらす影響

一般的に、完全失業率が高い状態とは、景気が悪く雇用情勢も悪化した状態です。景気の悪化は犯罪や自殺数の増加に影響するという研究結果もあり、個人や社会全体に対し、多くのマイナス影響を与えていると考えられます。

また、景気悪化による先行きへの不安から個人消費が落ち込むと、企業は商品やサービスの供給を減らさざるを得ないため、業績悪化の一因となります。企業の業績が悪化すると、企業はコストカットを余儀なくされます。企業活動にかかるコストは大きく変動費と固定費に分けられますが、一般的に固定費の方が削減による効果が大きいとされます。固定費の中でも大きな割合を占めるのが人件費です。そこで人件費を減らすために、まず賞与や手当カットなどが行われますが、それでもなお業績の悪化が止まらない場合は、整理解雇などによる人員調整を行わざるを得なくなります。景気が悪いと正規労働者の雇用を減らし、非正規労働者を多く雇用するようになる企業もあるでしょう。

完全失業率が上昇する局面では、このように個々や社会に与える影響と、企業やビジネスに与える影響が連動し合っています。企業としては、完全失業率など景気動向指数を参考の一つとして、将来における経営戦略を練っていくことが重要となるでしょう。

完全失業率はゼロにならない?完全雇用の状態とは

上述した通り、失業はいくつかの要因によって生まれます。イギリスの経済学者J. M. ケインズは、失業を「自発的失業」「摩擦的失業」「非自発的失業」の3つに分類し、需要不足からくる「非自発的失業」がゼロの状態を指して、「完全雇用」と定義しました。つまり完全雇用とは、働く意思のある労働者が全て働いている状態のことを指します。日本では、失業の理由によらず完全失業率を計算しているため、完全失業率がゼロになることはないとされています。

では、完全失業率がどの程度の水準にあると、実質的に完全雇用になっていると判断できるのでしょうか?20世紀イギリスの経済学者ウィリアム・ベヴァリッジは、3%の失業率をもって完全雇用状態としています。一方で総務省は、2019年8月の完全失業率が季節調整値で2.2%となった際、「景気など構造的要因による失業者はほぼゼロとなっている」という見解を示しました。このように、完全雇用の基準となる完全失業率の値については、国によって違いがあると考えられます。日本の場合には、総務省が発表したように、完全失業率が「季節調整値で2.2%」程度の水準であることが一つの目安となるでしょう。

まとめ

完全失業率の変動は、景気動向を表す一つの指標として、経済政策を判断するときの重要な指標です。2000年以降の完全失業率は、景気状況により上昇と下降を繰り返し、2020年以降は増加に転じています。完全失業率の上昇は、企業や社会全体にマイナスの影響を及ぼすと考えられています。ただし、実際の景気に遅れて推移することや、景気が上向く際に一時的な上昇を示す場合があることなどを踏まえると、単純に数値だけで判断することは望ましくありません。完全失業率の推移はあくまで参考として、その他の指標とともに景気の良しあしを判断し、経営戦略を練ることが重要でしょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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