“世界を変える企業”第2位にリスト入りする組織は、「自分で考えて自分で作る」実現設計の人を重用する

株式会社エンビジョンAESCグループ

CTO 兼 副社長
明石 寛之

プロフィール
株式会社エンビジョンAESCジャパン

常務執行役員 経営企画担当
野田 俊治

プロフィール
株式会社エンビジョンAESCジャパン

人事総務部人事課
菅 しほり

プロフィール

追い風となっているEV用リチウムイオンバッテリーを開発・生産するエンビジョンAESCジャパン。自動車だけでなくスマートシティへの展開も期待されるLiB技術を扱い、「自分で考えて自分で作る」という実現設計ができる技術者たちが集まる組織である同社。

その最新状況を踏まえ、カーボンニュートラルを実現したギガファクトリー建設や、世界シェア20%を狙うグローバル展開構想など、その環境醸成と組織デザインについて迫っていきたい。

2021年度、世界を変えた会社2位にランクイン

世界的にEV(電気自動車)向けのLiB(リチウムイオン電池)市場が盛り上がっている。

2021年末、衝撃的なニュースが世界中を駆け抜けた。排ガス抑制などを目的にエンジン車の販売を35年までに事実上禁止し、EVの普及を後押しする規制案を発表していた欧州連合の政策執行機関。トヨタは西欧で2035年に新車全てをZEV(Zero Emission Vehicle)で展開すると大々的に発表し、これに欧州市場シェア上での対決姿勢を見せた。

加えて日産では、欧州におけるカーボンニュートラルの実現に向けて、世界初のゼロ・エミッションを実現できるEV生産ハブ「EV36Zero」を公開している。

現在、年間のEVの総出荷台数は全世界で約300万台。電池の容量に換算すると約150GWh前後になる。このようにEVの急激な需要の高まりとともに、主要カーメーカーほか、サプライヤー各社の動きが活発化している。そして日本でもEVと関連するLiB技術が、その高まりとともに追い風となっているのだ。そう、いまやバッテリーは売り手市場なのである。

今後はEV向けLiBに関して、容量はもちろん安全性や品質面でのクオリティが問われるフェーズとなり、コストや収益性、生産力などのバランスが取れる企業がシェアを固めてくると予測される。同時に市場は寡占状態にはならず、EV向けLiBのニーズは今後も倍々で増えていくだろうと言われている。

そんな中、2010年に世界に先駆けて車載用LiBを世に送り出して以来、11年の歴史において過去一度も事故や不具合を起こさず、着実に市場でのシェアを高めてきた企業がある。それが中国の再生エネルギー大手のエンビジョングループの日本法人、株式会社エンビジョン AESC ジャパン(本社所在地:神奈川県座間市、代表取締役社長 兼 最高経営責任者:松本昌一/以下、エンビジョン)である。

同社のチーフテクノロジーオフィサー(CTO)兼 副社長執行役員である明石寛之氏(以下、明石氏)は、「LiB普及に関しては、安定した品質のほか、バッテリーの高エネルギー化と低抵抗化、そしてコスト低減のさらなる向上が必要だ」と語っている。

ちなみに、米フォーチュン誌が毎年発表している「世界を変える企業リスト(Change the World List)」(※)がある。社会にポジティブな影響を与えている企業をリストアップしたものだ。その第2位に、今回の話の中心となるエンビジョンの名が燦然(さんぜん)と輝いているのも特徴的だ。それだけ世界からの注目度が高い企業なのである。

さて、そんな同社であるが、概要を説明しよう。

前身であるオートモティブエナジーサプライ(AESC)株式会社は、日産自動車とNECのジョイントベンチャー企業であり、2010年より日産のEV「リーフ」やHEV「フーガ」「スカイライン」を中心としたEV向けLiBを開発。日・米・英国で生産供給してきた。

2019年4月に同社は親会社から独立し、中国のエンビジョングループに参画。社名をエンビジョンAESC(アドバンスドエナジーソリューションカンパニー)ジャパンに改めた。

EV向けLiBの国内シェアでは、パナソニックに次ぐ国内第2位に。そこにGSユアサ、出光エナジーソリューションズ(旧社名:リーフエナジー)などが続く。さらに現在の世界市場では、韓国LG化学に次いで、世界5位のシェアとなっている。

同社のグローバル本社は神奈川県の座間市にあり、LiBの研究開発から生産までの一貫体制を確立している。日本のほかに、アメリカはテネシー、イギリスはサンダーランドにギガファクトリーを有し、さらに最新設備を導入した中国の新工場を加えて、年間総生産量は10 GWhを超えた

これまで同社は日産車を中心にLiBを展開してきたが、今後はバスや鉄道、さらにはルノーなどグローバルカーメーカーにも供給していく。将来的に世界シェア20%超えを目指して、LiB業界のトップグループに食い込む規模を構築する。

そのため、現在は茨城に国内2拠点目となるギガファクトリーを500億円の投資により建設中のほか、フランス・ドゥエーにEU域内初のギガファクトリーを構えると発表。またイギリスの立地する既存工場に隣接する形で第2工場も立ち上げる予定だ。さらに中国・江陰(ジャイン)には20GWh、内モンゴルにも数十GWhの生産拠点を建設予定である。

常務執行役員 経営企画担当の野田俊治氏(以下、野田氏)は、このように説明する。

「当社の製品は過去一度も重大な不具合を起こしたことはなく、品質と安全面に関する厚い信頼を全世界から寄せていただいております。今後はEVの普及とともに供給するバッテリーは品薄となっていくでしょう。

そのようなタイミングで私たちが生産力を増強して、世界のニーズに応えていくことは大変意義があります。そうした期待も『世界を変える企業リスト』にランクインさせていただいた背景にあるのだと思います」

高まるEV市場のキーカンパニーになる構えだ。

(※)「世界を変える企業リスト(Change the World List)」…米フォーチュン社による、ビジネス戦略において社会にポジティブなインパクトを及ぼしている企業をリストアップしたもの。社会インパクト、財務的成果、イノベーション、戦略との統合などの視点からCSV企業を選定・評価

LiB技術を中心としたグローバル展開に必要な人事戦略とは

ここからは先ほどの明石氏と野田氏に加え、人事担当 菅しほり氏(以下、菅氏)のコメントを交えながら、市場シェア拡大に向けて編成されている同社の組織環境や体制、人事戦略などについて見ていこう。

●エンビジョンAESCジャパンとはどのような組織なのか

明石氏:常に組織や体制の改善に余念がない会社です。加えてほかのLiB競合メーカーに先駆けて、昨今の環境問題にも真摯(しんし)に向き合い、カーボンニュートラルな世界を実現できる、コアテクノロジーを自社内に有するユニークな会社であると認識しています。

当社で働く従業員一同も、「“電池”で社会を変えていくことができる会社」という誇りを胸に、日々活躍しています。

世界主要各国に開発、生産拠点があるグローバルカンパニーという風土のためか、協調と協業の大切さを個人一人一人が理解している風通しの良い社風と思います。

例えば、世界の拠点同士をつないだオンライン会議も頻繁に行われていますし、リージョン(エリア)特有のローカル情報などもさまざまな角度から入ってきます。ですから意思決定と開発スピードも速いのも特徴です。

また、英語を通じたコミュニケーションもあり、入社後に英会話力がみるみる上達する若手も多くいます。「英語は習うより慣れよ」というのを肌で感じています。

こうした環境を踏まえて、全社的な経営テーマや組織をまたぐ問題を解決できるクロス・ファンクショナル・チームが形成されています。当社の高い生産性と品質を実現できる要因は、こうした組織デザインの恩恵とも言えますね。

野田氏:働く従業員にとっての魅力ももちろんあります。まず一つは、人間性の高い人材が多いこと。コミュニケーション好きの人が多い印象です。話してみると楽しい方がほとんどですね。

もう一つは、従業員個人が裁量権をしっかり持てる点。当社は人事部門が育成に力を入れている会社でもあるので、自律を目的としたキャリア・スキル開発にも積極的です。個人がしっかり活躍できる環境を考えているというわけです。

それは制度設計にも活かされています。例えば、「Happy Life休暇」もその一つ。全ての社員が1年に1回、好きなタイミングで5日間連続の休暇を取れる制度です。

ほかにも会社から記念日に従業員の家族にお花を贈呈するなどの文化があり、従業員とその家族の人生も豊かにしたいと考えている組織でもあります。

●中途入社の人材にも期待していること。求める人物とは

明石氏:ありきたりの表現になりますが、キャリア採用の方に期待していることは「即戦力」です。その道のエキスパート・プロフェショナル人材は大歓迎です。

特に、エキスパート・プロフェッショナル人材について、私たちが理想とする人物像をシンプルに表現させていただくと、「新しいアイデアを提案し、チーム一丸となってモノづくりをすることが好きな人」と「誰も実現していない設計を斬新なアプローチで挑戦できる人」です。つまり実現設計のできる人です。

新しいことにチャレンジするには、リスクに向き合わなければなりません。しかし、リスクから逃げてしまうと、世の中が感動するようなブレークスルーを成し遂げることは困難になります。

また一人でリスクを負うことは大変難しい(笑)ので、当社は新しいアイデアを大切にし、チーム一丸となって「果敢に挑戦する方」を応援する開発スタイルを目指しています。

かつてものづくり立国と呼ばれた日本も、近年ではその地位を脅かされ国際競争力が低下しつつあります。その一因には、開発スピードに問題があると考えています。そこで私たちは、理想に掲げているエンジニア像が活躍する土壌を整えることで、会社はもちろん日本の製造業全体を盛り上げてくれることを願っています。

そのための組織づくりの一環で、こうした人物像を備えている方にますます入社していただきたいのです。

当社は、今後10年で急拡大する新しい市場で、存分に発揮していただけるオポチュニティーをご提供できると確信しています。もちろん、専門外の方でも、「熱意」があればOK。

「世界を変えるポテンシャルのあるLiB技術で自分のキャリアを活かしてみたい」「日本という枠を超えて、グローバルに活躍したい」と考えられている方々にも、私たちは大きく門戸を開いています。

野田氏:新しい事にチャレンジしてみたいという好奇心を持ち続けている人、自分でものづくりを実践したい人、または専門性を深めたい人なども大歓迎ですね。

現状のLiB開発はウォーターフォール体制が基本ではありますが、材料やセル、モジュールなど各ユニット別開発にスクラムマスターを置いてアジャイル形式を採ってもよい。そうした開発において推進力のある人がこれからの製造業のエンジニアには必要とされるはずです。

●2019年に社名変更したことにより会社のカルチャーは変わった?

明石氏:2019年にエンビジョングループへ加わったことを機に、会社カルチャーも少しずつ変わっていきました。

端的に言えば、もともとは日産自動車の子会社を母体としていましたので、主に日産自動車向けの開発がメインでしたが、独立により日産自動車以外のお客様との開発案件が増えたことも関係しています。モビリティーの電動化に関する将来像について、グローバルにより多くのお客様と対話することで、新しい世界観が見えてきました

エンビジョングループは世界主要各国に拠点や工場があるため、国内企業にありがちなエスタブリッシュメントな雰囲気は感じません

従業員やプロジェクトメンバーはさまざまな国籍の方が在籍していますし、互いを思いやる多様性にあふれた環境です。現在の体制は2019年に作られたばかりの若い会社なので、会社の運営や業務手順についても、「より効率的・合理的なもの」へと一緒に議論しながらフレキシブルに改革しています。

特に、研究・開発の組織はフラット化を意図的に進めています。どういうことかと申しますと、社会環境が大きく変化しようとしている状況下において、グローバル競争が激化している状況では、「新しいアイデアによる突破口」が必要不可欠な要素となるからです。

そのためには、研究者・エンジニアが着想した新しいアイデアの実現性検証をスピーディーに行うことが必要です。当社では、いわゆる「大企業にありがちな根回し」などは一切不要。自分のアイデアを提案し、自らがスピーディーに検証できる開発組織が、今の時代にはもっとも適していると考えています。

●人財育成に力を入れていくとか

菅氏:人事業務の多くは人財育成につながるものと考えています。

例えば会社における人事評価というものは、給与や賞与の額を決めるためだけではなく、目標に対して何ができて何ができなかったか、優れた点は何か、改善すべき点は何か、を明確化して従業員にフィードバックし、次の目標につなげていくこと。そのサイクルが人財育成につながると考えております。

また従業員のキャリアを見たときに、手段として異動制度の整備も必要だと考えています。先のクロスファンクショナル、クロスリージョナルの環境がある当社ですから、グローバルで活躍できる人財をグループの連携を持って育成していきたいと考えています。

そのため、海外での業務経験を促進し、キャリアに活かしてもらうために「Global Talent Exchange Program(GTEP)制度」「グローバルタレントマネジメントプログラム」も実施中です。

当社は従業員にどんどんチャレンジしていくことを期待しています。それぞれのバックボーンを持っている方が自由闊達(かったつ)に仕事ができるよう整えていますから、いま就職を考えている人は、追い風のLiB市場に飛び込んできてほしいと願っています。

さらなる発展が見込める市場、そのときエンビジョンはこう動く

今後の同社の動きについても少し触れておこう。

同社の現在の課題は生産力増強であり、そのためのプロジェクトを推進中だ。例えば、工場建設では新たにフランスで9GWh(MAX:40GWh)、イギリスで9GWh(MAX:35GWh)、中国で2.5GWhの生産を目指して展開中である。現在の総生産量は10GWh程度だが、5年後は10倍の100GWhを目指しているという。

野田氏は「2030年にはEVの普及が10倍に達すると言われ、電気容量に換算すると3TWhという驚きの数値になる」と将来の市場を見込んでいる。

ただし、日本の市場はLiBの普及率が0.8%程度なのに対して、例えば欧州諸国の中にはノルウェーなど約9割の普及率を達成する国もある。

「今後もグローバル展開していくことは必然で、ニーズが発生しているエリアにギガファクトリーを所有し、拠点に関しても4つ設けているのは私たちの強みでもあります。ですから世界的普及の貢献が必ずできるでしょう」と明石氏はこう伝えてくれる。この強みをもっと市場シェア拡大に活かしていく方針だ。

さて、EVの領域でも欧州を中心とした世界各国の法規制を追い風に事業の拡大には期待がかかる一方で、世界で量産されたバッテリーの廃棄・リサイクル問題についても波が押し寄せつつあるという。

生産された車載電池が寿命を迎えたとき、廃棄された電池をどうするかという課題である。同社によると今後30年間で破棄される車載電池は約100万トンを超えると見積もられており、処理コストだけでも約8000億円規模が動くと予測される。大きな社会問題だ。

同社はリサイクル技術も併せ持っているため、コストを抑えた運用でこの社会課題にリサイクル事業で取り組んでいく予定だそうだ。リサイクルにはグローバル拠点の充実のほか、その技術をOEMとどう共同開発していくかもポイントだが、この話はもう少し先の戦略になるという。

エンビジョングループ全体で言えば、風力発電を中心としたEMS(Energy Management System)の構築にも注力する。風力発電の領域では同グループはグローバルシェアで4位を獲得(約10GWの販売実績あり)しており、エネルギーを作る、ためる、分配するといったサイクルをグループ内事業ですべて担い、社会インフラを支える電力ソリューションの提供も盤石の態勢を敷いていく。

一例として、AIとIoT技術を組み合わせることで、1年先の任意の地点(1kmx1kmメッシュ条件)での気象状況を86%の確率で予測するシステムも自社開発しており、これらを組み合わせたユニークな再生可能エネルギーのトータルソリューション事業を提案している。

ほかにもLiBと組み合わせて発電率100%を実現する太陽光発電システム中古LiBを応用した大容量ESS用バッテリーの開発など、リサイクル問題やカーボンニュートラル社会に向けての包括的社会課題の解決にも意欲的である。

取材後記

「これまでの出荷実績で重大な不具合ゼロを誇るLiBの技術を社会インフラに適用すれば、スマートシティにも貢献できます」とはインタビュー中の明石氏のコメントだ。LiB技術は単に車載用として用いられるだけでなく、今後のカーボンニュートラルを実現した世界においても重要位置づけを担う。日本発の製造会社として、同社の今後の活躍にも期待したいところだ。

取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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